【主人公】戦場起動【喋らない】   作:アルファるふぁ/保利滝良

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今回は、読者の皆様もドラグ分隊も、ビックリしてもらいます
お楽しみに



【恐怖】

「敵機確認 輸送機5と護衛の戦闘機が8 ただちに迎撃せよ、どうぞ」

「こちら第二格納庫、ファイター部隊カタパルトにて出撃準備完了 スクランブルします どうぞ」

「了解、出撃許可 輸送機を優先して攻撃せよ どうぞ」

「センサー、HMMASの反応を確認 敵輸送機からの投下です」

「HMMAS並びに自走砲部隊、出撃準備」

「こちらドラグ分隊 2~5出撃準備完了 どうぞ」

「こちらHQ ドラグ分隊、基地からミサイルで攻撃後ただちに出撃 敵HMMASに接近、撃破せよ どうぞ」

「了解 ドラグ分隊、出撃する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「各員、聞いたか?」

ドラグ3がモニターとレーダーのデータを流し見しつつ他の部隊員の答えを待った

「聞きました、ミサイルなんか撃ったらこの基地ぶっ倒れますよ」

「ここで出し惜しみしてたらぶっ倒れる前にぶっ殺される 撃っとかないといけない」 

ドラグ4の軽口に、ドラグ3が真面目に返した 棘のあるその言い方に、ニヤついていたドラグ4の顔が引き締まる

「レーダーに反応、前方だ」

ドラグ3は、今度はすぐ隣のドラグ2に話しかけた

「どうだ、見えるか?」

「いいや、影もない 随分遠くに降りたようだ 地対空ミサイルを怖がってるんだろう」

「見付けたとしても撃つより先に報告を頼むぜ コトによっちゃHQに報告して尻尾巻いて逃げる必要があるからな」

それを聞くと、ドラグ5は苦笑混じりに言った

「逃げ場所なんて・・・あん?」

が、その軽口は途中で止まってしまう

見れば、眼前に広がる森から、無数の鳥の群れが空へ飛び立っているのが確認できた

自然ドキュメンタリーなら喜ぶべき場面だが、今現在では考えうる限り最悪の事態の予兆だ

「不味くね?」

「近付いてるなぁ・・・散開するぞ ドラグ2、敵は見えたか?」

ドラグ3のその台詞は愚問に近い 出撃してから今まで、ドラグ2はスターライトのスコープから片時も目を離していない

一瞬でも早く敵を見付け、スナイパーライフルを撃つ それが彼に与えられた仕事なのだから

なのでドラグ2が一番早く敵機を発見するのは必然だった

「・・・あれは・・・!」

しかしドラグ2は目を見開いた

スコープ越しに見えた敵機 そこには、信じられない光景があった

全部で五機 全て同一機だ 全身が黒い 背中には大型のブースターが二つ、羽根のように装備されていた

なんということだろうか、あれは、そうあれはまさか

あまりの驚愕に一瞬体を硬直させた瞬間、ドラグ2は敵部隊の一機が武装をこちらに向けていたのに気付いた

(そんな距離から撃ってくるのか!?)

「報告!敵部隊は全て・・・」

言い終わらない内に、敵機は引き金を引いた

 

 

 

 

 

 

瞬きをしたら、ドラグ2の機体の上半身が消えて無くなっていた

もぎ取られた、と言う表現の方が正しいかもしれない

腰から上は存在せず、両足が微動だにせず立ち尽くしていた

ドラグ2は優秀なスナイパーだった 敵機がスコープに入り、武器の射程内に入ったなら、十分の一秒のラグもなく引き金を引くパイロットだった

そんなドラグ2が、引き金を引かぬままやられてしまった

「・・・ッ!?全機散開、急げッ!!」

ドラグ3は反射的に叫んだ 同時に、自分の乗っているスターライトのブースターを限界近くまで吹かした

その場からドラグ2を除いたドラグ分隊の全機が離れた 三機のHMMASのブースターから放たれた火が、巻き上げられた木の葉と土を焼く

「何だぁ、ドラグ2が殺られちまった!」

「喋るな死ぬぞ!」

ほんの少し前までスターライトがいた地点に、容赦なく砲弾が飛び込んでくる あれがドラグ2の命を奪ったのだろう 着弾点の抉れ具合から予想するに、並のHMMASなど一撃だろう

三人の背中に冷や汗が滴る

「ドラグ4ォォォォォッ!マシンガンをバラ撒けェェェェェッ!!!」

「しゃ、射程外です!」

「ヤツ等の動きを止めねえと、皆お陀仏なんだよォッ!!」

ドラグ4の機体が、両手に持ったサブマシンガンを前方に乱射する 全く狙いをつけられていないその弾は、森の木々を滅茶苦茶に薙ぎ払う

ブースターによって巻き上げられる枯葉の中に、弾丸に粉砕された木屑が混じる

やがて、それらを跳ね返して、黒い装甲がドラグ分隊に姿を現す

「バカな・・・」

ロックオンしたミサイルを全て撃つ 高速飛翔体は、ドラグ5を驚かせたその機体に当たらなかった

避けられてしまった

 

「タナトスの部隊だと・・・」

 

ミサイルを避けた機体とは別の方向から、バズーカから撃たれたと思われる弾がドラグ5を襲う

コクピットに叩き込まれた一撃に、スターライトは沈む

結局、ドラグ5の機体がその片手に握っていたバズーカは、使われなかった

「クソ!ふざけやがって!何だありゃあ!ふざけてんのか!畜生!畜生!!」

こちらは残り、自らを含めて二機 ドラグ3は大声で毒づく

しかし敵は待ってはくれない 操縦悍を動かす努力をしなければ、死ぬ 下手すれば、そんな努力をしても死ぬ

信じられなかった 夢のようだった これが夢なら極上の悪夢だ

夢であって欲しい

全機がタナトスで構成された部隊が目の前で、自らに襲い掛かってくる

心臓が、早鐘を打つ

恐ろしい、とてもとても、とても恐ろしい光景だった

 

 

 

 

タナトス

人型機動兵器を知っているなら、まず知らない者はいない それ程までに有名な機体だ

黒いボディに赤い頭部、羽根のように装備されている二基の大型ブースター それが特徴だ

大陸争乱時代にとある傭兵の愛機として戦場に現れ、多大すぎる戦果と戦禍を挙げたとされる

この人型機動兵器は、世界中の軍から『最強の性能を持つHMMAS』であると認められている 最早おぞましいまでのその潜在力は、様々な国に畏怖すら抱かせているのだ

そう、恐れられるほど性能が高い

人型機動兵器の部隊を殲滅するのは序の口 敵が多数いる基地を壊滅させ、大陸の傭兵が束になってかかってもほぼ全て返り討ち 大規模戦なら単機で戦況を大いに引っ掻き回し、新型機も未確認機も十把一絡げに叩き潰す

オーストラリアに『死神』として強く強くその存在を焼き付けたこの機体は、パイロット共々伝説として語られてきた

 

その機体が、敵として、それも複数、目の前に立っている

襲い掛かってくる

「うわアアアアアァァァァァ!!」

推進材など気にしてる暇はない

ドラグ3はショットガンを何回も撃つ 当たった様子はないが、撃たないよりは遥かに増しだ

近付かれたら、死あるのみ 矢鱈滅鱈でも、敵の動きを制限しなければ、その時は撃墜の時だ

タナトス部隊は全部で五機

右手にガトリングガンを、左手にバズーカを装備した機体

砲身がかなり長いキャノン砲を持った機体

バズーカを持った機体

ガトリングガンを持った機体

ショットガンを両手に装備した機体

それぞれ武装が違った

それは些末なものだ、とドラグ3は思った タナトスには変わりないのだから 

どんな武器を持っていても、スターライトなんかでは覆すことはできない性能に変わりないのだから

「弾が、弾があああ!」

ドラグ4の悲鳴が、通信機から吐き出された

「し・・・」

「ジェイキンス!」

「死神が来る・・・!」

ショットガンとガトリングガンとバズーカが順番に撃たれた ドラグ4のスターライトに、それらが全て突き刺さる

攻撃の負荷に耐えきれず、暴走したエンジンが機体ごと爆散し、辺りを焔に包んだ

その焔に、ドラグ3のスターライトも巻き込まれる

「ガアアアッ!」

バランスを崩したドラグ3の愛機 その片足に、砲身が飛び込む

乱暴な音がした 名機スターライトの片足は膝から消え、それにともないHMMASは転ぶ

地を抉る機体 土が飛び散る

ドラグ3はコクピットのモニターを見た 転倒した衝撃で頭を打ち、額を切ってしまったのか視界が血に染まる

だが、そんなことよりも、重要なことがあった 目の前にあった

二つの銃口を突き付けてくる、一機の人型機動兵器

タナトスが『死神』と呼ばれる理由を、ドラグ3は最期に垣間見た気がした

「う、うわアアアアアァァァァァ!!!!」

スターライトの上半身が、丸々吹き飛んだ

コクピットがどうなったか、語るまでもなかった

 

 

 

 




こんにちは
前作を読んだ方なら、この絶望感は感じられたでしょうか
いい例えが見付からなくて困りますね

次回こそ、竜ちゃんが出ます
それではまた次回

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