【主人公】戦場起動【喋らない】   作:アルファるふぁ/保利滝良

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きょ、協力者に・・・誰か協力者になってください・・・
軍隊対軍隊なんて知識の無い私には難しすぎる・・・



【交戦】

 

ホワイトボードにペン先が走る インクで描かれた軌跡は文字となって意味を持たされた

楔作戦 そう書かれた字の下には、重要度を表す二本線があった 

ボードには緑色の曲がりくねった線がある その中に、大小様々な丸が点在している

そう、この緑色の線の内部はブルターニュ半島 フランスの領内にある丘の多い地域だ

「ここにいるアメリカ軍部隊を叩く」

ドラグ1ことサクラはそう言った その一言に対し、ドラグ2が手を上げる 意見があるようだ

「丘の上にある敵拠点には敵HMMASが30以上確認されています、これをどう攻略するのですか?」

現在ドラグ分隊が共に行動しているフランス第七陸上機械化師団には、人型機動兵器は10ほどしかいない ドラグを含めても16である

この差は大きい 突き詰められた現代の戦争において数はとても大きな意味を持つ

約二倍の数の敵機が相手には、とてもではないが不利である

「我々が囮になり、敵を誘き出す 我々とは真逆の方からフランス現地軍が空中から降りてきて・・・攻め落とす訳だ」

ボード上に線をたくさん走らせながら、ドラグ分隊とフランス現地軍の動きを表現する 大きい丸は北から、小さい丸は南東から

それぞれフランス第七機械化中隊とドラグ分隊のことを指していた それに囲まれている磁石は、十中八九件のアメリカの拠点なのだろう

「チャフとECMとフレアと諸々を盛大にぶちまけて敵の目を叩き潰し一気に接近、二手に別れて攻撃開始だ」

その言葉と同時に、サクラは磁石を摘まんでホワイトボードから外した

今度はドラグ3が手を上げる

「二手に別れるってんなら、どんな編成にするんで?」

「ドラグ4とドラグ5は私と共に来い もう一方はドラグ2が指揮を執れ」

「了解しました」

簡潔に答えた ドラグ2の眼鏡が照明を反射する

「以上だ、なにか質問は」

誰も声をあげない 質問がない証拠である

サクラはスポンジでホワイトボードを撫でる 線はみるみるうちに消えた

「ドラグ6はここに残れ 他は解散!」

テントから四人が立ち去る 足早に去った他の隊員を無言で見送ると、ドラグ1はドラグ6に座るよう促した

他の四人が立ち去った後、一人指示を待つドラグ6 物静かなものだが、まだ新兵であるのだ 彼にとっては初めての対HMMAS 戦となる

「心配はするな、落ち着いてやれば死にはしない・・・はずだ」

パイロットスーツ姿のドラグ6に、ラークロスタは言う 少々歯切れが悪いのは、確約できないのを彼女自信知っているからだ

戦場では落ち着いてやっても死ぬときはある

臆病なくらいが、生き残ることが多い しかしそんな弱気なことを言えば士気に関わる

上官としても、一人の人間としても、彼女はやや未熟なのだ

「スターライトを信じろ それが一番、鉛玉を食らわずに済む方法だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「チャフ到達五秒前・・・四!」

ドラグ2がシールドを構えた カウントダウンが一つ減る

ドラグ6もシールドを前に突き出した

戦端は既に切られている 敵拠点からの砲撃をシールドで防ぎつつ、前進

チャフがばら撒かれれば砲撃は止むだろうが、チャフがばら撒かれてから動くのでは遅い 敵が電子攻撃に対応してから懐に潜り込んでも数により袋叩きである

だからチャフが機能した状態による攻撃で、一気に潰すしかない

ドラグ分隊が勝利するには、敵の攻撃を掻い潜りながら接近する必要がある

「三・・・ぐっ、クソ!」

ドラグ3のシールドに榴弾が直撃する

スターライトのシールドは左腕のハードポイントに接続する追加装甲だ 衝撃を受け止めきれないときは片手を道連れにしてしまうときがある

そう、シールドは衝撃を殺しきれなかった ドラグ3のスターライトの左手が機能不全を起こし始めている

食らった反動で大きくのけ反るスターライト しかし、踏ん張ったお陰で転倒はしなかった

幸いだったのはミサイル攻撃が少なかったことだろうか 対策はしていないわけではないが、対地ミサイルの雨は流石のHMMASもひとたまりもない

時折飛んでくるものも、精々二発や三発程度 スターライトの機動性なら難なく避けられる

今まさに飛んできた弾頭を左にかわしたドラグ2が、カウントを読み上げた

「二・・・一・・・!」

ドラグ2が言い終わると同時、ミサイル攻撃は完全に止まった

チャフが起動したのだ

ドラグ5が撃ったチャフを詰めた砲が敵拠点に到達したのだ

レーダーに頼って遠距離から余裕綽々に砲撃していた敵は、今、目を一瞬にして潰されたことになる

ドラグ2がカメラアイを点滅させた

「突撃!」

の合図である

三機のスターライトがブースターを全開にした ジェット戦闘機の足下にも及ばぬものの、地上戦力としてはその機動力は圧倒的だ

「エンゲージ!」

ドラグ3が叫んだ しかし無線機がチャフとECMで封殺されている今は、それはただの独り言になる

しかしドラグ3の一言は無駄ではなかった 三機のHMMASの目の前には、あたふたと飛び出してきた三機のHMMAS

敵の機体はライフルを向けようとするが、その前にドラグ2が動いた

敵機の銃口が横に動く その一動作が終わることはなかった

ドラグ2のスナイパーライフルが、胸部に直撃したからである

食らった反動で後ろに倒れた味方機を見て、残りは完全に浮き足立った

ドラグ6が両手のライフルを連射する 直線的で単純な撃ち方など、横に移動すれば避けられる

しかしドラグ3はそれを狙っていた

「食らえってんだ、この!」

ブースターで横に動いた敵の、曲線を描く胸部に、ショットガンが撃ち込まれた 凄まじい音をたてて風穴が穿たれる

残り一機がそれにライフルを向けるが、ECMがロックオンに影響を与えていた マニュアル照準で動き回る敵に武器を当てるなど、不可能に近い

しかし、ドラグ6はそれをやってみせた

敵を撃破した直後で隙のできたドラグ5 それを狙う隙だらけの敵機

ドラグ6はその敵機に、右手のライフルを撃った 腹部に命中

特殊ライフルの弾が、爆発する

閃光 爆ぜる敵機

ライフルを下ろし、ドラグ6機が足を止めた

だがスターライトが突き飛ばされたようにふらつく マシンガンを肩に食らったのだ

マズルフラッシュが連続し、弾丸が飛んでくる

ドラグ6に当たったのはまぐれだったのか、やや離れた位置の敵の攻撃はそれほど正確ではない

左手のシールドで弾を受けつつ、スターライトはブースターを吹かす

Gがパイロットを襲う 足が地面から離れる

接近し、ドラグ6はライフルを撃った

左手のライフルは敵の機体のコクピットを貫通 背中から鉄の粒が飛び出す

そんな状態で生きられるものなど存在しない

尻餅をつくように崩れ落ちた敵

銃創からこぼれ落ちるのは、オイルではなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「く・・・ここまでか・・・?」

サクラ・ラークロスタ少尉はコクピットに開けられた穴から外を覗き見た その左肘から先は、無い

右手でコンソールを操作しようとするが、目当てのコンソールが穴になっているのに気付き、乾いた笑いを上げる

「・・・?」

突然、コクピットの穴が広がった気がした

そしてハッチが開く ドラグ6のヘルメットが顔を覗かせた

「・・・助かったよ」

新人パイロットの肩越しに見えたスターライトの損傷は酷いものだった 二回目の戦闘であそこまでボロボロなのは笑える

自分でもそこまで酷くはなかった

無線機から声が響いてきた

「こちらドラグ2、敵拠点の制圧を確認 ドラグ1、応答を」

「ああ、ご苦労 よくやった」

ドラグ6が慎重にサクラを抱き上げる 左手を失った人間を雑に扱うことはできない

サクラは無線機に応答を続ける

「しかし、負傷してしまってな」

「ドラグ4とドラグ5はどうしましたか?」

「先に行かせた 私を置いていけと言っておいた」

新人が止血を始めた あまりの怪我に脳が処理を断念したのか、痛みは感じない

傷の断面すらボロボロなサクラの片手 ドラグ6は応急手当に手こずった

その様子を横目に、サクラは言った

「新入りは?」

「それが戦闘の混乱で見失ってしまい・・・」

「それなら、私の隣で頑張ってくれている」

「了解です それから一つ」

ようやく痛覚が戻ったのか、じわじわと痛みが甦る

それに顔をしかめながらドラグ1は聞いた

「どうした」

「労ってやってください」

ため息のようなものをしながら、サクラは呟いた

「ああ」

ちらりと、ドラグ6を見る

通信の内容など聞いていないかのごとく、一心不乱に包帯と消毒綿を使用している

「では、通信終了」

「ああ、通信終了」

 


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