【主人公】戦場起動【喋らない】   作:アルファるふぁ/保利滝良

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【布石】

対地ミサイルが両手では数えきれない数で一点へ降る 高層ビルすら一撃で叩き壊す火力がバミューダ基地を襲う

だがそれは徒労に終わった 見えない壁に阻まれ、誘導弾は破壊をもたらすこともなく砕け散った 爆発が起きるが、基地外周から先は傷一つない

不可視の障壁、バリア まるで神の奇跡のような現象であるが、オカルトに限りなく近い科学兵器である

クロノスインダストリが販売する防御用デバイス 莫大なエネルギーを消費し周囲に放射、敵の攻撃を相殺するという理屈で動いている その性能は高く、ビームやレールガンですら突破することができない

しかも、大型のHAMMASになら搭載することもできたという実績も存在する 電力を確保できれば手に入れられる絶対防御というものは、アメリカ軍と事を構えているユーロユニオンにとってはこれ以上ない邪魔であった

だがどんな兵器にも大概弱点は存在する

「基地東側の敵機反応、消失! 今だ、やれッ!ドラグ6!」

細身のHAMMASが高速で駆ける ハイパーアリシオンだった

ビーム兵器を使用できるほどの出力を有するこの機体には、しかし現在強みのビーム兵器はない 代わりに、腰の後ろに妙な機器が取り付けられているだけだ

鉄の柱に無数の枝が付いたそれは、傍目からは奇妙な電柱にも見えただろう ハイパーアリシオンはその電柱らしき物体を右手に担ぐ

コクピットの中でボタンを叩く 画面に表示される警告メッセージ エネルギー残量急速減少

そしてドラグ6は、バミューダ基地に突撃していった

右手の柱をバリアに突き付ける 電流が空気を焼く 周囲がスパークする

柱から放たれるバリアが、バミューダ基地のバリアとぶつかり合う

そう、ハイパーアリシオンが装備しているのはバリアの発生装置である ユーロユニオンはオリュンポス級と同じように、バリア発生装置をクロノスインダストリから買い付けていた

そしてバリアは、バリアとぶつけることで消滅させることができることもわかっていた クロノスインダストリからもたらされた情報では、そんな事例が大陸争乱で存在したらしい

そしてそれは真実であった ハイパーアリシオンの持つバリア発生装置が折れる それは、バリアが消えたことによりドラグ6が勢い余って基地外壁に柱を叩き付けてしまったことによるアクシデントだった

アリシオンの全身からスラスターが顔を覗かせた 一つ一つは小さなサイズのものであったが、全身から次々と生まれるスラスターは、数によってアリシオンを宙へ送った 全身のスラスターが炎を吐き、ドラグ6をバミューダから離脱させる

アリシオンが柱の残骸を投げ捨て、後方に親指を立てた拳を突き出す それを認めた瞬間、ドラグ6は通信機に大声を聞いた

「第三主砲、弾種貫徹弾で撃てぇーッッ!!」

ハイパーアリシオンの足の下を高速の何かが通り過ぎた それはバミューダ基地施設をぐるりと覆う外壁に着弾する ドラグ6はあれを知っている ネプテューヌスのレールガンだ

粉砕、破砕、爆砕 音やら煙やらを巻き上げて、電磁投射された一本の槍は見事城壁を打ち貫く 通り過ぎた場所の周囲をソニックブームで蹂躙すると、レールガンの弾は反対側の壁をも貫いた

煙が晴れると、そこにはHAMMASすら易々と通り抜けられそうな穴があった

ドラグ6はコクピットの中でレーダーを見た 味方がバミューダ基地に新しく作られた入り口に殺到している

操縦悍を強く握る グローブが擦れ合いぎゅっと唸る ヘルメットに、モニターの映像が反射する

ドラグ6は待っていた 上官の命令を

「ドラグ小隊、突入!」

サクラ大尉の声が聞こえた 彼らはこの命令を待っていた

「了解!」

「はい!」

シェリーとエリックがハッキリと返事を返した ハイパーアリシオンはスラスターを吹かし、隊員達のもとへと飛び立つ

「ドラグ6、こっちです!」

アリシオンは味方のスターライトを捉えた レールガンが空けた大穴へとブースター移動で侵入するのが見える

アリシオンは壁の上に立った 向こう側から見える敵基地の様子 米軍HAMMASが武器を手に侵入者を迎え撃っている

あれでは突入しても埒が明かない ドラグ6はすっかり馴染んだ二つの武器を構える

右手の引き金を引いた 音速を超える速度で放たれた銃弾は敵機の肩を捉え、爆散

衝撃で姿勢を崩す敵に、左手の引き金を引いた 装甲をあっさりと食い破り、弾が貫通する

アリシオンの射撃は高い命中率を持つ 元々大陸争乱時代に運用されていた機体だが、仕様としては狙撃が得意な機体であるらしい

ドラグ6はそんな乗機の性能を引き出している

二機、三機と敵の動きを止めていく 射的のような感覚で、ドラグ6は撃破スコアを足していった

ドラグ7やドラグ8も負けてはいない

「おおッ!」

ドラグ8が左腕のパイルバンカーで敵のコクピットを貫く

「ターゲットロック 当たれっ!」

ドラグ7のスナイパーライフルが敵のコクピットを貫く

ドラグ小隊は順調に攻勢を続けている 彼らの心配は無さそうだ

だが実戦は何が起こるかわからない

「新手!?いや、違う・・・!」

「ロシアの時のやつっ!」

目を向けると、ドラグ7とドラグ8が見覚えのある敵と相対している 黒く重厚なボディの一機と、スコープのような頭の一機と

不意打ちとはいえ、ドラグ6が手も足も出なかった相手と、対峙している

オペレーターもそれに気付いた

「あの部隊か、まずい ドラグ6!二人を援護しろ!」

アリシオンが弾かれるように飛んでいく

アリシオンは両手のライフルの引き金を引いた 二種の弾は高速で飛び、目標へ突き進む

横へステップを踏み、ヒュプノスは銃撃を逃れた 反撃のガトリングを尽くかわしながら、ハイパーアリシオンがスターライトの隣へ降り立つ

再び両手撃ち ブースターで後ろへと逃れつつ、ヒュプノスは左腕の武装を放つ 半身ずらして避けたそれはバズーカのものだった

「ドラグ6を、援護しますッ!」

ヒュプノスのそれよりも大きな口径のガトリングが背後から脇をすり抜ける

エリックの射撃だ 当たりはしないが、巨大な弾の嵐はそれだけで脅威となる ヒュプノスはさらに距離をとっていく

「おのれ、またしても・・・駄目か!」

ドラグ6の精密射撃とドラグ8の弾幕に対してジャックマン機は回避に専念するほかない 撃ち返す余裕を見せれば、すぐさま弾を叩き込まれてしまう

ブースターの推進材を消費し続けながら、ヒュプノスは弾を避け続ける

「きゃあっ!」

射撃を続けていたドラグ小隊の耳に悲鳴が響く シェリーの声 ドラグ7に何事かがあったのか

カメラアイを向ける 右腕を失ったスターライトが転がっていた

あれはドラグ7の機体 カウンタースナイプを貰ったか

「シェリー!無事か、シェリィイイイ!!」

ガトリングのトリガーを引き続けながらエリックが叫ぶ 弾幕は敵の接近を許さない しかし、反動制御のためにドラグ8の足は縫い止められている

ヒュプノスは反撃もできずに飛び回るばかりであった ブースターの噴射を引き上げ、攻撃チャンスを捨てて回避に専念している 膠着状態であった

「ドラグ6っ!!」

サクラの声が聞こえる

「ドラグ7をフォローだ!」

ヒュプノスへの射撃をやめ、アリシオンが飛ぶ 焔の軌跡を描きつつ、損傷したスターライトのもとへ

だがしかしそれを狙う銃口が一つ 携行型のキャノン砲があった

弾ける砲弾 砕けるライフル

ハイパーアリシオンの反撃 射撃が来た方へ、無事な左ライフルを向ける

「外した・・・あぁっ!?」

応射の一発はアリスのキュクロープスの頭部を貫通した 弾がカメラアイ他の内蔵機器をずたずたにして、破片を撒き散らす 衝撃がコクピットを襲う

新型とはいえ、キュクロープスに被弾の衝撃を耐え切ることはできない 首無しとなったHAMMASが仰向けに倒れる

「何?しまった!ファースト准尉!」

「ジャックマン隊撤退せよ、バミューダ基地は放棄する 繰り返す、ジャックマン隊はすぐに撤退せよ!急げよ!?」

「今はそれどころではない!」

無線に向かって噛み付くように返すジョン フットペダルを踏み込み、ブースターを限界出力へ導く 一瞬の縦揺れ

スターライトの恐るべき大口径弾幕から逃れ、空を飛ぶヒュプノス 速度こそ原型となったタナトスと比べ遅いが、それでも米国の機体では随一のスピードがあった 山なりの軌道で部下の機体の近くに降りる

頭部を失ったキュクロープスの胸部が開く パイロットスーツを着た小柄な影がヒュプノスの差し出した手に乗った 巨大な人型に抱えられる姿は、マニア向けの人形を彷彿とさせられる が、それを見逃すほどドラグ小隊は無能ではない

ドラグ6がライフルの照準を敵機に合わせた ロックオン、引き金を絞り、トリガーが

「待て」

引かれる寸前、パイロットの耳に聞き慣れない声が届く 外部からの音声をハイパーアリシオンのマイクが拾ったものだ その声は男のものだった

スピーカーから聞こえる自信と威厳の溢れる声

「互いに部下が傷付き、戦闘が続行できない状態だ このまま続けたら双方ともに痛み分けだろう・・・」

話の内容から、声の主は目の前の敵から放たれた音声である

その声は淡々と、だがはっきりとした口調で話を続ける

「部下は大切にしたい そちらも同じではないのか?」

その提案は魅力的だった 敵を倒すチャンスと仲間を助けるチャンス、どちらが稀かはわかっている

ハイパーアリシオンは、武器をゆっくりと降ろした 銃口が下を向く

「ドラグ6・・・」

エリックの不安そうな声 彼のスターライトはシェリーのスターライトを見つめている

相手が約束を破ることを懸念しているのだろう だがエリックの心配は裏切られる

「人道的な理解を感謝する、ユーロユニオンのパイロット」

ヒュプノスが武器を捨てた 地面に落ちるバズーカ コンクリートで埋め立てられたバミューダの地に爆発物のコンテナが寝転がる

それと同時にヒュプノスの背部ブースターユニットが開いた 推力が機体を浮かす そして、飛び去る

ドラグ小隊の視界に写る間、ヒュプノスは真っ直ぐに飛ぶだけであった

「敵機、直進を継続 反転して味方を襲うつもりもないようだ」

オペレーターの声を聞いて、エリックがため息をつく

「そりゃ、よかった・・・それに」

ドラグ8が倒れた味方機へ視線をくれる

損傷を受け、動くことさえままならないHAMMAS しかし幸いにもコクピットの存在する胸部は無事であった 被弾時のシェリーの声も聞こえたなら、彼女は確実に生きていると判断できる

「シェリー、シェリー?無事か?」

「なん、とか、ね・・・」

「ああ、そうか 良かった 本当に良かった・・・」

通信機越しの返事に、エリックは再び胸を撫で下ろす

彼にとって彼女は、本当に大切な仲間だから 訓練生時代、いやそれ以前からずっと苦楽を共にした二人

エリックはシェリーが生きていることを喜んでいる 今頃目頭に熱いものが込み上げているのだろう

「さて、作戦は終了したとの指令があった ドラグ小隊は全機帰投しろ ドラグ7はドラグ8の機体に乗せてもらえ」

サクラ大尉の声も少なからず弾んでいるように思う

自分の部隊から死者が出ることは誰にだって好ましくないものだ 特にドラグ分隊時代は彼女とドラグ6以外全滅してしまっている 死者を出したくない気持ちはひとしおだろう

「了解しました ドラグ8帰投します」

「わ、わかりました」

ガトリングを背負ったスターライトがヨタヨタと走り出す 急いでいるようで、中のシェリーを揺らさないように注意しているのだろうか

ハイパーアリシオンも移動を始める エネルギー残量は僅かだ 早く帰らないと身動きがとれなくなる

ふと、あちこちが残骸になったバミューダ基地を見上げる

このバミューダ基地には各国首脳が秘密裏に行っているホットライン会議の回線が存在する ここを制圧し、回線の履歴を洗い出し、この戦争の真実を暴けば、世界は終戦に向かっていくハズだ

だが敵はやけにあっさりと退いた この作戦の主導者たるバレンタイン准将の手回しで海戦はほとんどせずに上陸できたものの、見られては不味い情報が詰まっている場所を見捨てるのが早すぎるのではないか

「ドラグ6、どうした?」

オペレーターの声

ハイパーアリシオンはスラスターを開いた 噴射口の炎がHAMMASに速さを与える

ドラグ6は進路をネプテューヌスに向けて飛ぶ そしてもう一度振り返った

爆弾が設置されてあるような形跡はなさそうだ が、しかし、米軍がこれであっさりと引き下がるのだろうか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

味方の空母へ一直線 黒い鉄の塊が飛行する 本体よりも黒い影を、埋め立て跡のコンクリートに残しながら

「・・・部下の命、か なるほどな・・・」

「・・・? 隊長、どうかしましたか?」

コクピットの中での独り言をアリス・ファーストはしっかりと聞いたようだ 不思議そうに見つめてくる同乗者にジョンは苦笑いしながら言う

「いや、相手にも大切な仲間たちがいるんだなと思ってな・・・戦争だから、割りきらなきゃいけないのはわかるんだがどうも・・・」

敵も人間である以上、そこには自分達となんら変わりの無い生きざまがある 仲間がいて、家族がいて、愛する何かがあって 彼らも守るために戦っている

ジョンの部下は尽く、あのドラゴンのマークのHAMMASにやられてしまった 彼らの無念を晴らすべく自分は今まで戦ってきた

だが、敵も自分と同じだと知ってしまった 恨みに変わりはない しかし、そこに陰りが入ってくる

祖国の戦争も、何やらきな臭くなってきた

果たして、このままで自分は、意味のある戦いができるのだろうか

ジョン・ジャックマンは兵士たりえるのか

「隊長・・・」

「・・・! あ、あぁすまん 考え事をな」

心配そうに顔を覗き込むアリスに生返事を返す 狭いコクピットの中で二人乗りしてさえ余裕があるほど、彼女の体は華奢で小柄だ だが今までどの部下よりも、アリスはジョンを強くフォローしてくれる

この部下を救うことができた まずは、それに喜ぶことにしたい

「アリス」

「どうしましたか、隊長」

「俺は奴を、竜のエンブレムを倒す 部下の仇だとか、祖国を脅かす敵だとか、理由は山ほどあるが、俺は奴と戦い勝ちたい」

ジョンは宣言した 決意とも、興奮ともとれる声音に、強い語調の台詞だった

操縦悍を握り込み、モニターの向こうを睨み付ける 前から後ろへ飛んでいく景色に、あのエンブレムを幻視する

あれを倒したい 勝ちたい

「この戦争で俺は奴と何度も戦い、決着は付けられることなくうやむやになってきた だけどだ、それでもあのパイロットはまた俺の前に姿を現す 次は今度こそ決着を付けたい それが、この戦争で俺が成すべきことなのかもしれない」

「隊長・・・」

「自惚れが気持ち悪いか?だったらすまない、許してくれ」

ガラにもなく熱くなった これではまるで、自分とあのパイロットが運命によって戦い合うことを強いられているような話になってしまう アリスを困惑させてしまったかと、ジョンは焦った

だが彼女の返答は違うものであった

「わ、私も、隊長のお力になります」

「アリス・・・」

その瞳に、光があった

「隊長と共に、共に勝ちましょう 決着を付けましょう!私のお力で良ければ、あのパイロットと戦うための助力になります!隊長、私にお手伝いをさせてくださいっ!」

彼女は本気だ 気迫がそう思わせる いつもの落ち着いた雰囲気から一転、真剣そのものな顔は、ジョンの心を昂らせる

何より、心から自分を支えてくれると言ってくれたのが嬉しかった

「ありがとう・・・」

頬がほころぶ 口を突いて出たのは、感謝の言葉だった

「いえ、私は・・・!?」

ふとアリスが、画面の一つに目を落とした その位置にあるのは指令受信用の端末だったような気がする

ではそれに写ってあるのは何らかの指令だ だが、どうしてアリスはあそこまで驚愕したのだろう

「隊長・・・」

アリスが端末を差し出してくる それを受け取り、ジョンは目を通した そして、彼も驚くことになる

「・・・なんて無茶なことを」

 

 

 

 

 

 

 

「・・・あ、エリック ドラグ6はどこ?」

「ドラグ6はバミューダ基地の方へ行ったよ 人手不足とかなんとかで」

ネプテューヌスの格納庫で、シェリーはエリックに声をかける

格納庫にはシェリーの分のスターライトはなく、代わりにアリシオンが立っていた サクラの采配で、これからドラグ6は新しい装備のスターライトに乗る

シェリーはドラグ6の乗っていたハイパーアリシオンを引き継ぐ アリシオンは元々は狙撃用だという シェリーなら扱えると、サクラは言っていた

「そう・・・なら仕方ないわね お礼を言いたかったんだけど」

脇のベンチに座り一人ごちる エリックもその隣に座り、ぼんやりと壁を眺めた

「敵も人間、生活も文化も正義もある、よね 当たり前だけど」

「シェリー?どうしたんだ」

そっと不穏に呟いた彼女に、エリックが反応する

「私、大事なこと忘れてたみたい 戦争ばっかりやってて、熱に浮かされて・・・」

紙パックにストローを刺し込む エリックは黙ってそれを見ている

照明の下で作業員が走り回るのを見て、シェリーはため息をついた

「相手のことなんかちっとも、考えずに・・・」

エリックはシェリーが何を言っているのか察した

彼女はバレンタイン准将がこの戦争の真実を話した時に、祖国に仇なす行為を否定していた そのことでエリックと激しい口論を交わしたことはお互いの記憶に新しい

「訓練所にいたとき教官が言ってたろ」

エリックは唇を舐めて言った

「バトルロイヤルの訓練で最後まで生き抜いた訓練生がいた 奴は不利な状況を覆して勝利した 何故だかわかるか・・・って」

記憶が正しければエリックとシェリーの教官は同じ人間で、その教官はそんな台詞を言っていた、気がする エリックは教官よりバトルロイヤルに勝った先輩のことが気になったので、その話だけはよく覚えていた

一緒にシェリーがいたならば、同じ話を聞いていたと思うが

「うん 柔軟に考えろ、頭を固めて考えるな だっけ」

シェリーも、その教官のことはよく覚えていた ドラグ小隊への入隊も、彼の伝手だったはず

その教官の指導のお陰で今の自分がある

「その意味、よくわかってなかったかもね・・・」

「そ、そんなことない!」

「・・・エリック?」

声を荒げたエリックは、シェリーの両肩を掴んで言った

しっかり、彼女の瞳を見詰めながら

「お前が一緒にいたおかげで、俺はこうして生きていられた・・・お前と一緒に一生懸命考え抜いて生きてきた!この、この戦争で!」

「エリック・・・」

「これからもっと考えて、一生懸命考え抜いて生きていくんだ!頭を固くしてでも、死なないように・・・っ」

と、唐突にシェリーの体が小刻みに動き始める 震えている そうわかった途端に、エリックは慌てた

手荒な扱いをしてしまったのか

「ご、ごめん!」

「ううん、違うの」

素早く手をどかそうとするエリックに、シェリーは濡れた瞳で囁いた

「今、生きてるんだなって、私・・・」

先ほどの戦闘での、被弾 もしかしたらあそこで自分の命は終わっていたのかもしれない だが、仲間の努力と敵の心情が、こうして自分を生かしている

一歩間違えば、命はなかった 今さらそれを心の中で理解したからか、シェリーは恐怖に身を震わせていた

小動物のような仕草 いつも強気な彼女の弱々しい一面

そんなものを、エリックは求めていない 彼と共にあったのは、自信に満ちたシェリー・フォードなのだ

「生きているよ 俺達はまだ生きてるから」

「エリック・・・」

「俺達以外の人が、もっと死んじゃいけない。手を貸してくれ、シェリー」

濡れた瞳を見詰めて、エリックは絞り出すように言った シェリーの目から一粒の雫が落ちる

下唇を噛んで、シェリーはそれ以上涙が落ちるのを耐えた 重い決断に、乱れた感情は好ましくないから

「わかった 止めるのね、この戦争を」

「そうだ 止めるんだ、この戦争を」

瞬きの後には、シェリーの目はいつもどおりの強気な物へと戻っていた 互いに頷き合い、二人は体を離す ぶつけた気持ちとは裏腹に、潮風のせいか体は冷えている

戦争を止める 言葉にするのもおこがましいくらい、難しいことだと思う

だが二人の関わるこの戦争は、時代の流れが生んだどうしようもない結果ではない 国家間によって起こされた質の悪い出来レースだ

止める術は必ずある 二人はそう信じる

戦争は止められると

 

 

 

 

 

 

 

サイレンが鳴り響いた

「敵航空機多数、バミューダに接近 繰り返す、敵航空機多数、バミューダに接近!」

サクラが、エリックが、シェリーが、ブラウンが、その緊急放送に耳を傾ける

「大型爆撃機の部隊です!バミューダを、焼き尽くせる分の!」

そして、ドラグ6は、スターライトのブースターを起動した





まーた長くなってしまって

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