【主人公】戦場起動【喋らない】   作:アルファるふぁ/保利滝良

18 / 19

竜ちゃんって前作の死神君より影が薄いと感じられる方もいるかもしれませんが
チームプレーを意識した結果、竜ちゃん以外も活躍させないといけなくて・・・

シェリーとエリックの方が好きという人もいるかもしれませんね



【真実】

 

「損害報告!」

「ハッ!本艦への直接の損傷はナシ、先の会戦で出撃した艦載戦闘機も全機無事であります!」

「搭載しているHAMMASもすべて無事です!」

「よし、味方艦隊のダメージは?」

「五隻が大破、二隻が小破 被害は陣形左方の艦が主です」

「この数の被害なら、バミューダへの侵攻には然程障害にはなりません」

「・・・よし」

そう言って、ブラウンは苦笑いを浮かべた 彼の所属する艦隊の損害は軽微であり、作戦を進めることができるということを、神に感謝する

彼の乗る軍艦ネプテューヌスはかなりの高性能艦だが、たった一隻で戦うなんて無謀はできない 多くの味方との連携があって初めて、戦争というものは行える

「異常な箇所があったらすぐに伝えろ 艦載の機体への補給は滞りなく行え エメリーは私に着いてこい 以上!」

そう言ってその場を締め、ブラウンはブリッジルームを後にした 高度にシステム化された戦艦では平時に艦長のやる仕事は少ない

定例の艦内会議は終わった ならば後はどうするか

殺風景な廊下を通り、機関室のドアを横切り、艦内エレベーターで最下層に降りる 彼の足は、格納庫の方へ向かっていた

格納庫の手前には、パイロット達のための部屋がある ディール・ブラウン・バレンタイン艦長は、HAMMASを駆って戦うドラグ小隊の部屋の前で歩みを止めた

軍帽を脱いで揉む ブラウンは幼少の頃から帽子をぐしゃぐしゃにする癖があった 大人になった今になっても、緊張するときはよく帽子を弄ってしまう

無理もないだろう 最新鋭の艦を任された男でも、これからの案件は身に余るものであるのだ

隣の秘書エメリーはにこやかに立っている 艦長の心を知ってか知らずか 恐らく知った上であえてこの様子を見守っているのだろう

「ブラウンだ、入るぞ」

ノブを捻ってドアを明け、部屋に入るとすぐ閉める 内部の一室には、一つの長机と四人の男女が待っていた

ドラグ小隊の面々だ

黒いストレートヘアが目立つ指揮官サクラ・ラークロスタ大尉がこちらを見詰めてくる その手には、ノートパソコンか抱えられていた

「艦長・・・」

「この前は奇襲を仕掛けられてうやむやになってしまった ゆっくりと話す機会があればと思っていたんだ ・・・叔母と話す機会を」

置いてあったパイプ椅子に腰を下ろし、腕を組む

「了解しました、繋ぎます」

ラークロスタ大尉がパソコンを開く 起動待機の画面が数秒表示された後、画面一杯にあどけない顔が写った

この場のほぼ全員がその顔を知っている エリス・スカーレット・バレンタイン准将 ドラグ小隊の指令責任者であり、またユーロユニオンの中でもかなり謎の多い将校だ

そしてアンダーネームの示す通り、ブラウン艦長の親戚でもある

「久し振りねディール」

「公私混同はやめましょう、バレンタイン准将 我々は我々の行動と信念を決定付けるため、貴女の知っていることを知りたい」

幼女のような外見の叔母がかけてきた親しげな声を否定して、ブラウンは言った その言葉にドラグ小隊の面々は顔を見合わせて、じっとパソコンを凝視した

同部隊のエース、ドラグ6もまた、画面の向こうを注視していた

ブラウンは後ろを振り返った 秘書は相変わらずにこやかにしている

そしてドラグ6と目が合った 彼はただ静かに頷いた たったそれだけのことだったが、ブラウンは少しだけ勇気を得たように思った

そして、その勇気で、一言を紡いだ

「・・・今この世界で何が起こっているのです?」

その問いに、バレンタインは口角を吊り上げた

「その聞き方は百点よ、ブラウン大佐 ラークロスタ大尉はどうかしら?」

「私、ですか?」

「そうよ、貴女の聞きたいことは?戦場を渡り歩いたことで得た疑問は?私は全てに答えられるわけではないけど、貴女の持っているであろう質問に答えられるかもしれないわ」

唐突な上司の言葉に、サクラは面食らった 正直自分に話が振られるとは思っていなかった

確かに彼女には、この戦争の中で生まれた疑問がある だがいきなりそれを言えと言われても、頭がパニックになってしまう

「えと、その、私は、あ・・・この、この、戦争はえっと・・・」

何を聞くか決めかねるうちに、呂律は回らなくなり、しどろもどろに言葉が出てきてしまう 無様な姿

だが、それは唐突に止まった

「・・・ドラグ6?」

パイロットスーツの部下は、彼女の手を優しく握った

突然のことで呆然とした そう、突然のことだった なので、サクラの思考はリセットされ

突拍子もないことが起きて頭がすっきりする リセットされた思考は、驚くほど巡りがよかった

言葉が組上がっていく

「・・・この戦争は、なんのために起きたのですか」

たった一つの短い質問であったが、バレンタインは大層喜んだようだった まるで理解者を得たような、そんな雰囲気を醸し出す

「いい聞き方ね いいわ、答えてあげる この戦争のすべてを」

状況に着いていけていないエリックとシェリーが固唾を飲む ブラウン艦長は画面の向こうを強く睨んだ サクラが、ドラグ6の手を強く握った

「そしてこの戦争の意味を」

 

 

 

 

 

 

この戦争の始まりは、ユーロユニオンのうちの一刻をロシアかアメリカのどちらかが攻撃したために起こった報復戦争ということになっている 最近の調査によって、結局双方が手を組んでユーロユニオンを叩こうとしている、という流れになった

無論ユーロユニオンとしてもこれを見逃すはずはなく、新兵器HAMMASを投入して戦争を始める

ここまでが表向きのあらすじである

実際にはこの戦争は、ユーロユニオン、アメリカ、ロシアの三勢力による茶番であり、出来レースであることが判明した 何のためにそんなことをするのか 茶番の戦争を起こす理由とはなにか

それはオーストラリアにある

新兵器HAMMASの技術や戦術のアドバンテージを持ち、大陸争乱から僅か十数年で国として自立した新国家

三勢力はオーストラリアを邪魔な存在として見た 新興国家とは大概にして世界の注目を浴びるが、オーストラリアはその中でも突出している 中東辺りの貧乏な国とは比べ物にならない程のアドバンテージを持っている

HAMMASの技術を求める国 オーストラリアの軍事力を恐れる国 これから先自分達を脅かす勢いだと叩こうとする国 オーストラリアの資源を独占したい国 様々な国の思惑によって、オーストラリアは排除されようとしている

では実際に叩くにはどうするか オーストラリア自体は非常に大人しく、無闇に他国に噛み付くような真似はしない であるので下手にこちらから何らかの攻撃をすれば、他国から追及を受け、不利な立場に立たされる

大義名分が無ければ国を殴ることはできないのだ だから三勢力は大義名分を作ることにした

様々な工作と様々な茶番を用いて、自国民にすら詳細を悟らせずに

『戦争の黒幕』を作り出し、それを囲んで叩いてしまう、という魂胆である

手順はこうだ

ユーロユニオンの船を『オーストラリアが頑張ればどうとでもできる位置』で沈める 

下手人はアメリカ軍所属の新型HAMMASにやらせる 新型のHAMMASはオーストラリアの得意分野である 適当な偽装をすれば、実はオーストラリア機がやった、という状況を生み大衆に信じ込ませられた

ロシアは直接この件には関わっていない だが三勢力は、後々『ユーロユニオンの船を破壊したアメリカの新型HAMMASのパイロットはロシアのスパイであり、そのロシアのスパイはオーストラリアからの刺客であった』というニュースを流す予定であるという 現時点では『アメリカの新型のパイロットはロシアスパイの可能性がある』ということだけが判明している

これにより『アメリカ・ロシア・ユーロユニオンが血で血を洗う泥沼の戦争を起こしたが、その黒幕はオーストラリアだった』というシチュエーションを作った

あとはこの『オーストラリアが黒幕だ』というニュースを世界に知らしめ、オーストラリアを囲むだけなのである

 

 

 

 

 

 

 

「そうか、なにやらやる気がない作戦がとられていると思ったら、お互いに茶番での被害を抑えるため・・・」

「戦争の決着が着かないのも納得だ あえてグダグダにするようにお上の連中が仕向けているのだからな」

バレンタイン准将の長ったらしい話を聞き、サクラとブラウンは納得したように頷いた 二人とも胸中に抱いていた疑問に答えを得たようで、比較的落ち着いていた

だがそうではない者もいた

「ちょ、ちょっと待ってください!」

「エリック・・・」

若い男性パイロットが顔を青くしながら話を遮る 彼は二人ほど落ち着いていられないようであった

「この戦争が終わってもまた戦争が始まるってことでしょう!?しかも、国家の私利私欲のために、何も悪くない他国を極悪人に仕立て上げてまで?!」

無理もない 彼はただの若きパイロットだ

こんな非道なことに憤りを隠せないのも、仕方ない

だがそうは思わない者もいる

「何を言ってるのエリック!」

同じくドラグ小隊のパイロット、シェリーであった

彼女は怒りに顔を紅潮させ、エリックに右手人差し指を突き付けた

「貴方ねぇ!国が、祖国が決めたことなのよ!?オーストラリアを倒して、より良い状況になるための!それを・・・」

「でも!俺は他の国を踏み潰してまでそんなことをして、正しいのかと言っているんだ!」

「正しいも何も私達が私達の国の決めたことに意見して何になるの?祖国のために戦うと決めた人間なのにその祖国に逆らうなんてどうかしてるわよ!アナタは故郷を裏切るの!?裏切れるの?!」

二人は顔を突き合わせ、お互いの主張を否定している 自分の信じる物が正しいと言い合い、論争は平行線の様相を呈していた

「二人とも、やめないか」

だが、サクラは一言それを止めた

「サクラ大尉・・・」

「す、すいません」

「二人の言うことはもっともだ バレンタイン准将、私達にこの・・・戦争の真実を伝えて、私達になにを求めているんです?」

サクラはモニターの向こうにいる上司を見て、質問した

准将は口を引き結び、サクラの目を見た サクラも、バレンタインの瞳をじっと見つめた

互いの視線が交差し、一時の沈黙が流れる そしてバレンタインは一言こう言った

「それは貴女達に任せるわ」

「なんと」

「埋め立てられたバミューダ諸島の基地にはね、埋め立てと同時に各国で同時に繋げられるホットラインの回線が設置されたの その回線の履歴を洗えば、この真実の証拠を得られるし、そのまま世界に広めることもできる」

驚く周囲をあえて無視するように、バレンタイン准将は捲し立てた

視線は一切逸らさぬまま その長台詞の内容に圧倒されたサクラは、思わず目を見開く それを見た視線の向こうの女は、僅かに目力を緩めた

「貴女達は、そこまででいい それ以上のことは求めないわ 各国間ホットラインの履歴さえ回収したら、あとは自由 そのまま別の戦場へ行ってもいいし、今回の事を忘れて日常へ帰るもいい ただ・・・」

いくつかの選択肢を提示して、バレンタインは口ごもった その態度から、今から言う台詞に対して、並々ならぬ躊躇があるとわかる

まるで、本当にこの一言を言っても良いのかと悩むような バレンタインの様子は、そう見えた

「・・・ただ、貴方達が望むなら、臨むのなら、この陰謀を打ち倒してほしい」

その言葉には、彼女の一念が込められていた

全てをこの場の者に伝えた理由 それがこの一言に込められていた

「准将・・・」

サクラにはわかった

バレンタインは、この真実に立ち向かいたいと思っている そして、その力として、ドラグ小隊やネプテューヌスの協力を欲している

「これ以上の戦争を、起こさないようにしてほしい それが私の願い」

バレンタイン准将の瞳に、強い決意の光が見えた

 

 

 

 

 

 

 

 

狭いコクピットの中 自分の目の前のメインモニターの様子を見つめる

右腕の武器の残弾 左腕の武器の残弾 推進材の残量 その他、各種機体の状況

そして、外の景色

戦場にひっきり無しに弾が飛んできて、爆発を起こす ちらほらと味方機の背後が見えた

「こちらドラグ8、先行します!」

若い男の声

「ドラグ7、攻撃を開始します!」

その次に、若い女の声が聞こえた

メインモニターの映像に、二機のHAMMASが飛び込んできた それぞれ肩に、7と8のマークがある 二人とも、戦いの渦中に飛び込むことに恐怖を感じている様子はなかった

「ドラグ6、二人を援護しろ!」

若い女の声 オペレーターのサクラ大尉だ

指示に従う

パイロットシートに深く腰を落とし、操縦悍を動かす 足下のペダルを踏むと、微振動と共に景色がゆっくり後ろへ流れていく

メインモニターに、こちらを向いている敵のHAMMASを見付けた

操縦悍を強く握り締め、狙いをつけた

左手のライフルが火を吹いた 敵機の腹部へ着弾した弾は、あっという間にその敵の背中から飛び出していった

倒れた敵から視線を離し、別の敵をロックオン ドラグ8を狙っていた敵へ、右手のライフルを撃ち込む 頭部への着弾と同時に、敵の頭が弾け飛んだ

ブースターを起動する 機体のあらゆる部位から噴射口が現れて、推進材を燃やして炎を吐いた

ハイパーアリシオンの速度が上がり、ドラグ6は敵へと突撃する

バミューダ基地の、中心を目指して

 




気が付いたらスッゴい長くなってる・・・

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。