【主人公】戦場起動【喋らない】   作:アルファるふぁ/保利滝良

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【炎海】

 

空母からジェット戦闘機が次々発進していく 航空パイロットは優秀だ そう簡単に落ちることはない そう信じたい

「敵艦隊捕捉、艦隊右後方!」

「魚雷、対艦ミサイル多数接近!こちらも捕捉されています!」

オペレーター達の報告に、ブラウン艦長は冷静であった 帽子を被りたった一言

「迎撃!」

そしてその場の船員は的確な動きを見せる

「了解です、対空システム起動完了!」

「了解!魚雷ポッド解放します!」

「順次発射!残りの弾は気にしないで良い!」

ネプテューヌスの機構が素早く動く 艦の上の機銃がミサイルの方を向き、船体下のハッチが開いた

そして、それぞれからそれぞれの弾が打ち出される 機銃の火線がミサイルの頭を叩き潰して破壊した ネプテューヌスの魚雷はネプテューヌスを狙って放たれた魚雷にぶつかり、爆発して双方ともに消えた

「ここまで攻撃が来てるってことは、右翼は壊滅ってこと・・・?」

シェリーが恐ろしげに呟いた

「奇襲だからってそんなのあり得るのかよ!?敵が来たって連絡も受けてないのに!」

「どんな手を使ったかはわからないが、こっちの位置を良く知った上での攻撃だろう 艦隊が混乱するくらい効果的な攻撃をな 普通なら敵艦隊の動きを予測してピンポイントで攻撃を仕掛けるなんて無理だ」

戦慄する部下二人 慌ただしく動き回るクルー達に一瞥をくれてから、サクラが重々しく言った

「内通・・・もしくは内応があれば、そう難しいことではないがな」

「それって、ロシアの時と同じ・・・?」

エリックはロシア戦線にあった張りぼて要塞を思い出した あれは、内部に潜り込んだスパイか何かが爆破工作をしたために機能を喪った

「この現代の戦争で、スパイなんてものが易々と行動できるはずはない 内部からの手回しがない限りはな・・・ 今回のこれも、誰かしらが敵に艦隊の航路情報をリークしたんだろう」

そう言いつつも、話している本人が最も悔しそうにしていた バレンタイン准将が教えてくれた、戦争参加国による出来レースという驚くべき情報が、信憑性を増したことになる

彼女の言葉通りなら、ドラグ分隊の仲間達を初めとした数多の命がすべて茶番に消えたことになる それを知ってから、祖国への疑念は、尽きることがない

「興味深い話だが、まずはこの状況をどうにかしなければならん 死んでからでは出来レースも何も無いぞ!」

「・・・了解です」

ブラウン艦長の一言が、思考の渦に入りかけていたサクラの意識を現実に引き揚げる

HAMMASを降りてからというもの、この癖が良く出るようになった 疑問に思ったことは、すぐに頭の中で整理しなくては気が済まない

その癖が幸いして、この巨大すぎる陰謀に立ち向かう努力ができる 彼女の沈思黙考は、戦場においては役立たないかもしれないが、場面によってはいい方向に繋がるときがある

だが、今は考え事をしている場合ではない 現在ここは海水すら燃え上がる戦場となっているのだ 生きるために、戦わねばならない

ミサイルか魚雷か、何かが爆発した衝撃がネプテューヌスを軽く揺らす 飛び交う声の中には、被弾の報告はなかった

「んっ?なんだ」

管制官の一人が、艦外カメラの様子を見て目を丸くした

少し向こうの空母に、水上から飛び出した何かの物体が乗り上げる 空母と比べると小さいが、それでも空母に乗っていたヘリコプターよりも大きい

「黙視で確認、敵戦力が空母ガウェーインに取り付いています レーダーにもソナーにも写っていません!」

「護衛の巡洋艦はどうした」

「攻撃機にやられています!腕が付いているように見えますが・・・」

深く考えなくても、あれらは米軍の新兵器に違いなかった 振り返って行った報告にブラウンも頷く 艦長の方でも、モニターで確認できたようだ

陸戦兵力のためにその場で固まっていたドラグ小隊を見る 全員が、すぐにでも戦闘を始められるように、身構えていた

「サクラ大尉、ドラグ小隊を出撃させてくれ 敵が友軍に取り付いた 艦砲射撃や航空機では味方ごとやりかねん HAMMASなら・・・」

一も二もなく、サクラは即答した

「了解です ドラグ小隊出撃!」

「了解、行ってきます!」

「了解です!」

サクラ大尉の言葉に従い、ドラグ小隊の三人が駆け足で艦橋を出ていく 足取りは軽く、HAMMAS格納庫の場所がわからないということはなさそうだ

「艦長、オペレーター席を一つお借りしてもよろしいですか」

「右端のを使いたまえ、陸戦部隊用のものだ」

「ありがとうございます」

ラークロスタが言われた通りの席へ着き、ヘッドセットやインカムを慣れた手付きで装備する 爆発の光に照らされて、その顔はより一層凛々しく見えた

鈍い音が艦に響く ネプテューヌス両脇の空母ユニットが開いた音だ HAMMASを複数機詰め込み、発進させることができる

現れたドラグ小隊の機体には、脚にホバークラフトを大きくしたものを取り付けられていた 海上移動用の試作装備である HAMMASは海戦戦力ではないが、この装備が一般化すれば、その汎用性は更に磨きがかかるだろう

「ドラグ8、出撃許可」

「了解 エリック、ドラグ8、スターライト行きます!」

増加装甲を着た一機が飛び出した 背中に装備した大型ガトリングや、左腕のパイルバンカーが目を引く

「ドラグ7、出撃許可」

「了解です シェリー、ドラグ7、スターライト・・・出撃します!」

頭部のスコープユニットが目立つ一機が飛び出した 銃身が長いスナイパーライフルを両手で携行し、腰に一丁予備のライフルを提げている

「ドラグ6・・・出撃許可!」

そして、最後の一機が姿を現す 格納庫の暗い影から、潮風と共に陽が照り付ける

ヒロイックなフォルムは、スターライトと比べて異質に見えた 赤い上半身、ライトグリーンの下半身、ブルーの腕部と、カラーリングの派手さもスターライトとは異なる

右手にマシンガン、左手にスナイパーライフル 異なる二つの武器を持ち上げながら、一機のHAMMASが空へ舞う 猛々しくも美しい一機の人型機動兵器が、大空へ跳んだ

ドラグ小隊は進む 海を裂き、新たな戦場へ

 

 

 

 

 

空母というのは、航空母艦の略で、主に戦闘機や爆撃機を海上輸送するために運用される そのため航空機の滑走路として使われるので、甲板が平らで広い 何かが乗っかるのに適した形だ

だが、空から来る飛行機に乗っかられたものはあっても、海から来た何者かに乗っかられた空母はこの世でガウェーインが初めてだろう

戦闘機のためのスペースを占領する不届き者は、二つ筒が付いた卵の形をしていた サイズは縦十メートル前後 付属の筒には前後に穴が開いている

ガウェーインの乗員は、余裕があればあの筒が海中移動用のスクリューユニットだと気付くことができた さらに、スクリューの反対側の穴は魚雷ポッドであることもわかっただろう

だが、そんな余裕は彼らには無かった

卵は内側から幾つかの線を走らせた 一部が開く

手、足、頭 開いた所から、奇妙な部品が生えてくる 否、内蔵されていたそれらを、出していく

歪なフォルムのそれは、HAMMASだった 海から出てきた卵が、HAMMASになったのだ

この機体はソナーやレーダーを無力化する特性を備えている 恐らく、海中から音もなく忍び寄り、飛び出した後HAMMAS形態で蹂躙するという運用方をするのだろう

実際、変型した敵新型機は腕部の機関砲を乱射して空母を攻撃した 無数の弾は艦橋に風穴を開け、へし折った

空母を守るはずの護衛の巡洋艦も、似たような状態であった 上空を腕の生えた航空機が複数旋回している

その腕に握られたマシンガンが、炎を吹き上げる巡洋艦に風穴を刻み続けた あの航空機も、有事には頭と足をどこかから出して地上に降りるのだろう

こんな機体を開発する連中がまともなはずもない あれらは恐らく、クロノスインダストリの機体だ

「間に合わなかったか・・・なんて状況だ」

「何・・・あれ あんなのがHAMMASって言うの?」

エリックは、クロノスインダストリのHAMMASを使う陣営がクロノスインダストリの戦艦を使う陣営と戦っていることに戦慄を覚えた

シェリーは、敵の新型HAMMASの特異な特性に嫌悪感を露にする

二人の困惑をよそに、敵は次の標的を探す

「ッ! させるかよ!」

スターライトの背部ユニットが大きく動いた ガトリングが起動し、水陸両用HAMMASへ向けられる

次の瞬間、モーター駆動により回転する銃身から、次々と巨大な弾丸が吐き出された 雷が何度も何度も落ちたかのような大音響が、海上に波紋をいくつも刻む

水陸両用HAMMASは避ける間もなく、全身に弾痕を残して大西洋へ滑り落ちた

仲間の水飛沫を眺める前に、別の一機もドラグ8により穴だらけとなる 火花やスパークや破片を撒き散らして、ガウェーインの上からまた敵機が減る

エリックは確かに腕を上げていた 敵に確実に射撃を叩き込んでいた

スラスターが火を吐く スターライトが勢いよく飛ぶ

敵HAMMASの機関砲が唸りを上げる ばらばらと飛び込んで来る弾

エリックはロシアの戦いで成長した 空中で機体を捻り、弾を楽々と避ける

「シェリーッ!」

「わかってる・・・っ!」

このままでは接近できない そう言おうとする暇もなく、ドラグ7はライフルの引き金を引いた

どこを撃つべきか悩んでいたシェリーは、敵の腕部を断つことにした 特徴的形状から、敵の急所は判別できない だが武器は腕に積んでいるようだ

武器がないなら脅威ではない

エリックと同じように、シェリーもその技術を高めていた ロシア戦線は、彼女の潜在能力を引き上げた

一発撃つ 凄まじい勢いの弾丸が、敵HAMMASの腕部を正確に貫いた 断裂する機械の手 千切られた敵の腕部は空中の甲板で躍った

武器を無くして怖じ気付いたか、敵が後退る エリックは敵の懐へ急接近し、スターライトの左腕を突き出させた

超高圧ガスとリニア機構の合わせ技で打ち出された杭は、敵機の装甲をあっさりと突き破り内部機器を粉砕した

パイルバンカーを引き抜き、一歩退く そしてドラグ8は、おまけとばかりにショットガンを撃ち込んだ

コクピットや主動力が杭を逃れたとしても、至近距離から追撃を受けたら無事では済まない 僅かに機能を残していた水陸両用HAMMASは、その動きを完全に止めた

味方空母の上から敵を一掃し、ドラグ7は周囲を見渡した 空中には、対艦用の攻撃機がいくつも飛んでいる

腕の付いたものもある 外見はアンバランスなのだが、物理法則を嘲笑うようにその新型HAMMASは空中を飛び回っている その姿に、シェリーは気分を悪くした

HAMMASは地上戦力だ 空を飛んだり海を潜ったりなんてナンセンスなのだ 彼女の常識は敵への攻撃意思となってトリガーに込められた

「墜ちろーっ!」

スナイパーライフルのスコープの向こうで、敵の羽根が吹き飛ばされる ドラグ7がもう一度弾を撃つと、推進力を吐き出すエンジンノズルに大穴が空いた

「やった・・・きゃあっ!」

撃破を確認して喜ぶシェリーを、別の一機が襲った

機首先端のバルカンを乱射して、スターライトに突撃してくる

レーダーは示した 反対方向からはジェット攻撃機が迫る 搭載されている大型ミサイルを食らえば、シェリーのスターライトなど粉々になるに違いない

だが彼女にはどうしようもなかった 正面からの乱射を交わすのに精一杯で、ミサイルを避ける余裕はなかった

「シェリー!」

声の焦りようからわかる エリックも攻撃を受けてピンチだ シェリーを助けることもできない

攻撃機が迫る ミサイルがもうすぐ放たれる 飛行HAMMASは攻撃の手を緩めず、回避すら覚束ない

シェリーは青ざめた

その時、ジェット攻撃機のジェットエンジンが黒煙と炎を吐き出す 理由は単純だ 噴射口経弾を食らった

飛ぶ力を失う 大型ミサイルを抱えたまま、敵は海面に叩き付けられた

海の藻屑の向こうに、ヒロイックなシルエットがあった

「隊長!」

ドラグ6機が右手に持つマシンガンが撃たれた

シェリーを蜂の巣にしてやろうとバルカンを撃ちまくっていた敵HAMMASは、ドラグ6のマシンガンにより蜂の巣になって墜落した

海面に飛び込み、もう浮かばない

次にドラグ6は、左手のスナイパーライフルを向けた ドラグ7と同じようにドラグ8をいたぶる敵を、一射ずつで仕留める

一発 敵攻撃機のコクピットキャノピーを突き破る

二発 飛行HAMMASは飛ぶための翼を失って海へと真っ逆さま

三発 ついでにガウェーインにまた近付いていた卵を叩き割る

敵が次々と倒されていく

「す、すげえ・・・流石新型 いや、旧式なのか、あれは?」

目を見張るエリックを余所に、ドラグ6のHAMMASは全身から小型スラスターを出した 最後に大型スラスターを背中から引き出し、全ての推進機構に焔を焚いた

ドラグ6が乗っているのはハイパーアリシオン 大陸争乱にて傭兵の機体として運用されたものだ その性能は、現代でも十二分に通用するほど高い

この機体の渾名は、騎士 大空へ舞う、騎士

その動きは優雅かつ鋭く、その機動は素早い

敵機からのミサイルをスライドするように回避し、反撃のマシンガンをすれ違い様に叩き込む 穴だらけになった敵は、煙を吹いて海面へと消えた

飛び散る海水すら置き去りにして、ドラグ6はガウェーインに降り立った 左腕を真っ直ぐ伸ばし、スナイパーライフルを海に撃ち込んだ

敵HAMMASの破片が浮かんできた 海上から狙い撃ちされるとは思ってもみなかったか、敵のパイロットはドラグ6の攻撃をかわせなかったようだ

周辺に敵がいないことを確認し、アリシオンは両手を垂らす 敵の姿は消え、少しだけの静寂が訪れた

その静寂もすぐに破られる

「ドラグ小隊全機、すぐにその位置から離れろ」

「ラークロスタ大尉、どうしたんですか?」

上官の通信に、シェリーが尋ねた

「ネプテューヌスが砲撃を開始する その方角に砲撃が行われる 巻き込まれるぞ」

「・・・了解!ネプテューヌスの射線から離れます」

「ドラグ6、急いで!」

スターライトが水上移動で下がる アリシオンも、スラスターで離れていった

 

 

 

 

ネプテューヌス艦内、砲手を任された船員が声を張り上げる

「チャージ確認 照準確認 第二主砲、準備完了!」

そしてブラウンが吠えた

「てーッ!」

ネプテューヌスの三つのブロックのうち、真ん中の部分にある砲の一つが向きを変えた 砲塔が熱を帯びて、周囲の空気が熱せられる

第二主砲から、光が迸った

放たれたのはビーム 強大な熱量を持った光線であった 煌めく一条の流れが通った所は、海水が蒸発して霧を作る

「第一主砲、てーッ!」

光線が作り出した水蒸気を、巨大な砲弾が一瞬にして切り裂く 文字通り霧散した白い壁を通り抜け、音速を越えたスピードで砲撃が飛んでいく

光線が、ネプテューヌスから遥か遠くに存在した敵イージス艦を切断した 高温のビームを照射されたら、どんな金属も溶けてしまう 真っ二つになった船は、ゆったりと沈んでいった

次に到達したのは第一主砲の弾だった ビームが通った道を滑空し、イージス艦の残骸を飛び越えて、敵艦に飛び込んだ

通常の戦艦のそれより遥かに口径の大きいネプテューヌスの砲 その威力は憐れな駆逐艦によって証明される ネプテューヌスよりも小さな艦体に叩き込まれた砲弾が炸裂し、ネプテューヌスは二隻目を仕留めた

「初弾、次弾共に直撃 敵艦二隻の撃破に成功しました」

沈む二隻の敵艦を望遠モニターで確認するや否や、レーベナン伍長は落ち着いた口調で報告する

「すごい、なんて威力だ・・・」

同じ映像を別のオペレート席で見ていたサクラは思わず呟いた

だが、それをブラウン艦長はやんわりと否定する

「驚くのはまだ早いぞ、ラークロスタ大尉 伍長、第三主砲のチャージはどうか?」

「完了しました、いつでも撃てます」

その答えにブラウンはほくそ笑んだ モニターに表示される敵艦を睨む

巨大な板が浮かんでいる 空母の甲板である

今も味方の飛行機を落とし続けているステルス戦闘機はあそこから出たと思われる

ガウェーインより二回りも大きく、まるで小島のようだった 恐らくアメリカでも数隻とない艦だろう あんなものを、憎き米国の力の象徴を潰せると思うと、自然と口許が緩んだ

声を上げた 腹からの大声を

「第三主砲、目標敵巨大空母!使用弾種、炸裂プラズマ弾頭!」

「了解、目標敵空母 第三主砲、炸裂プラズマ弾頭で発射準備!」

レーベナン伍長の宣言と共に、砲手がパネルを操作する

すると、ネプテューヌスの三つの主砲のうち、上から三番目の砲が変形する 一本の筒のような形をした長い棒は、三つに別れて開いた

三本の棒は逆三角形に並び、先端の向きを変えた 照準を米軍空母へ合わせると同時に、第三主砲に電流がまとわり付く 溜めに溜め込まれた電磁力と余剰注入された電力は、外部から目に見える形となって顕現する

具体的には、紫電が三本の棒の回りでうねった

ネプテューヌスが甲板に被った海水は全て蒸発し、白い塩の膜となって消える 外部に放出された余分なエネルギーは、周りで待機していたドラグ小隊を内部機器の異常という形で襲った

「なんだ、なんだぁ!?」

「きゃあぁっ!」

モニターやメーターがチカチカ点滅し、シェリーとエリックはパニックを起こした だが、ドラグ6のHAMMASに異常は発生しない

ハイパーアリシオンは静かに待機していた ネプテューヌスが第三主砲を敵に向けるのをじっと見ている

「もっと離れろ、絶対に巻き込まれるな!」

サクラの叱咤 ドラグ7とドラグ8はその一声に我に返る

「「り、了解!」」

ブースターで滑るように移動する二機 それをモニターで確認してから、サクラは呟いた

「これは一体・・・」

「この戦艦ネプテューヌスの主砲は三種類ある 一つは通常の三十センチ滑腔砲 もう一つはビームキャノン そして最後の一つ・・・」

たじろぐサクラを見下ろして、ブラウンは不敵に笑った 台詞を言うにつれて声に張りが現れ、身ぶり手振りを加える 彼は興奮している

そうしてる間にも、第三主砲から漏れ出す電流は大きくなっていく 可視化された電気の力が三本の棒を見えなくした

同時に、コンピュータを操作していた砲手が、手元の黄色いボタンを、押した

「発射ッ!!」

第三主砲から光球が飛んでいった まるで弾かれたように

「第三主砲は、戦略レールガンだ」

一体どれ程の人間が第三主砲が放った一発を認識できたろうか 光球は凄まじいスピードで飛び、寸分違わず目標へ着弾した

米軍大型空母は、まずその側面に敵の弾を食い込ませる いくつもの壁やブロックを貫通し、中央部を少し通り過ぎたところでレールガンの弾は止まる

だが、その弾は特殊な機能を持っていた

炸裂

空母の中に入り込んだ弾が、周囲に光の威力を叩き付ける 加熱したプラズマの爆発が範囲内の全てを焼き尽くし、滅ぼす

外部から見れば、巨大空母が光に包まれて消えたように見えただろう だがそれは違う レールガンの威力と、特殊弾の威力によって、空母は粉砕された

基地が浮いているような風体の敵艦が一瞬で消えたのを目の当たりにした者は、一様に固まった 派手な戦闘の中で一際目立つ光の大洪水は、その場の兵士全員の目に写り、そして一瞬の停滞を生んだ

それからは早かった アメリカ海軍は船首をユーロユニオンへ向けたまま高速で逃げ去る 空を飛んでいた戦闘機や攻撃機は敵からそっぽを向いて味方の方へ飛んでいった

ユーロユニオンはそれを追わなかった

「凄い・・・」

その言葉しか出ない ネプテューヌスは、一発でこの鉄火場を終結させた その性能は称賛されてしかるべきものである だからサクラ・ラークロスタは思っていたことを迷わず口に出した

「なんて強い戦艦なんだ・・・」

そして艦長は、満足そうに頷いて言った

「戦闘を終了する!」

 

 

 

 

 

ネプテューヌス両脇のユニット その内部へスターライトが入り込んだ

ネプテューヌスは両脇に空母として使える大型のユニットを備えている その両脇ユニット内部にはHAMMAS用の格納庫が存在する

バレンタイン准将はそのことに目を付けてこの艦にドラグ小隊を派遣したのだろう 艦長が親戚であるというのもあるのかもしれないが

「ふーっ・・・」

スターライトのコクピットから頭を出したシェリーは、ヘルメットを脱いで息を吐いた

今回の戦闘は色々と疲れた よもや海上で戦うとは思ってもみなかった彼女は、いつもよりも顔に疲労の色が出ていた

愛機を見ると、こちらも芳しくない

ネプテューヌスの第三主砲から出た余剰電力で少し装甲を焼かれてしまったようだ 肩の塗装が焦げている

足に至っては海水によってビショビショだ 海上用ホバーユニットの恩恵で海の上でも戦闘ができるが、あの様子では塩水で錆びるのも早いだろう

「海の上で戦うなんて無茶よねえ」

「よっ、お疲れ」

「あぁ、ありがとうね・・・ん?」

エリックが差し出したペットボトルを受けとると、シェリーはキャップの蓋を掴み、手を止めた

「アンタ、いつからこんな気が利くようになったの?」

「なんだ?いきなり・・・失敬だな」

質問に対しエリックはそう答え、自分の分のジュースに口をつける ボトルの底を天に向け、腰を曲げた

一気飲みを始める同僚を横目に、シェリーは呟いた

「・・・成長してるのね」

「えっ なんだよ、いきなり」

聞き返したエリックを無視して、シェリーもジュースを飲み始めた

 

 

 

 

 

「ご苦労だったな、ドラグ6」

格納庫の一区画 アリシオンの巨大な影の横で、二つの人影が向かい合っていた

一つは黒髪の美麗な女 もう一人はパイロットスーツの男だ

「この戦闘の存在によって、我々の内部に敵と繋がっている者がいるのは確実だろう それはこの戦争が何かしらの方法で裏から操作されていることの証左でもある だが、それはこの先の戦場でさらに裏付けられる」

サクラ大尉は頷いて、言う

「この艦隊の行き先バミューダには、各国のホットラインの記録が集まるそうだ それを確保する」

ホットライン 二つの国の首脳が直接対話するために用意された電話回線のことだ 主に非常時に使われる

二人が戦うこの戦争は、参加国による出来レースであるという ならトップ同士による通話の記録を抑えれば、その説の決定的な証拠となるのではないか

そのためにバレンタイン准将は、大艦隊を派遣した だが、艦隊は露骨な妨害によりダメージを負った

バミューダにはなにかがある

「それまで鋭気を養っておいてくれ 今回はこれで解散だ」

そう言うと、ドラグ6は踵を返してサクラから離れていった

その佇まいには、最早初めて会ったときの新兵らしい弱々しさはない 歴戦の戦士の雰囲気が見えている

片腕を義手にした自分ではもう彼に教えを与えることはできない だが、できれば、彼の助けになってやりたいと思う

「・・・・・成長、したな」

気が付けば、ドラグ6は、サクラの知る弱々しい新兵ではなくなっていた 頼り甲斐のある、強いパイロットとなっていた

ネプテューヌスは、敵味方の沈む海を進んだ

 


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