【主人公】戦場起動【喋らない】   作:アルファるふぁ/保利滝良

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この作品、書くのすごい時間かかる(´・ω・`)



第参章 海を越えて戦い続けよ
【暗躍】


 

大西洋

ヨーロッパとアメリカ大陸を隔てる世界の三大洋の一つである 太平洋に比べると規模はそこそこだが、それでも面積は途方もなく大きい

そんな海を航行する船団がある ユーロユニオンの進軍艦隊だ

ロシアから叩き出されたユーロユニオンは、イギリス付近の海に艦隊を結集し、アメリカ大陸への攻撃を始めた この戦争はロシアへの侵攻や自国の防衛などで陸上戦力が幅を効かせていたが、今回は戦艦や空母などの水上戦力が活躍するのだ ロシアからの撤退という大敗北をダシに、海軍が陸軍の手柄を譲られる形になる

地球最大の生物クジラが愛玩動物にしか見えなくなるサイズの船がズラリと並ぶ 船首を同じ方向へ向けて突き進む艦隊 波を砕いて潮風を浴び、戦への海路を突き進む

その艦隊の中にあって、最も安全といえる真ん中に配置されている巨大艦が一つ 他の戦闘艦とは全く共通点を見出だせないデザインは、その艦の異質さを物語っていた

戦艦の両サイドに、本体より一回り小さいユニットが一つずつ存在していた 二つのブロックに挟まれた戦艦といった風情 上から見ると、サンドイッチの断面のようである

艦本体には、真ん中にブリッジ、その前の方に三種類別々の形をした砲が三つ並ぶ 両サイドのユニットは対空機銃や対空ミサイル砲台がいくつかあるものの、上部は大きなスペースをとっていた

その不思議な戦闘艦のブリッジで、四人の軍人が見物をしていた

「大きさもなかなかですが、艦の形状も独創的ですね・・・」

「あぁ、あの三種の主砲も面白い代物のようだ 他の戦闘艦とは、まるで別物だな 既存のどれにも当てはまらない」

サクラ・ラークロスタ大尉とシェリー・フォード少尉が、興味深そうに艦の様子を見ていた

「発想が飛び抜けてる 流石、クロノスインダストリですね・・・ロマンはありますが、性能はカタログスペック通りなんでしょうか?」

「さあな 時と場合によってはデータは何の役にも立たない、この艦があそこまでの性能を出せるかどうか・・・」

エリック・クランケット少尉も、子供のように目を輝かせながらブリッジの外を見ている 彼の質問には、サクラ大尉は曖昧な言葉を返した

三人の後ろで、完全装備のパイロットスーツ姿も突っ立っていた 隊一番の操縦技術を持つ、ドラグ6だ やがて彼も、他の仲間に誘われて戦闘艦の見物に加わる

そんな彼らの後ろへ、近付く者がいた

「オリュンポス級ネプーテュヌス」

初老と思わしき男性は、現在乗っている船の名前を大きめの声で言った

「これの名前だ 気に入ってもらえたかな?」

帽子を取って微笑む男性に、騒いでいた四人は敬礼の姿勢をとった 両足を揃え、背筋を伸ばす 一番先頭に、責任者のサクラが立った

その流れるような動きを青色の眼に捉えて、初老の男は頷いた

「私がこの艦の艦長をやらせてもらっているディール・ブラウン・バレンタイン大佐だ よろしく頼むよ、ドラグ小隊の諸君」

 

 

 

 

 

 

「大西洋艦隊への派遣?」

サクラの一言に、バレンタイン准将は軽く頷いた

「ロシア戦線からの帰還早々悪いけど、アメリカへの攻撃に参加してもらうわ 質問や、何か聞きたいこととかはないかしら?」

「・・・本題の前に少し」

「本題?」

「はい、その前にいくつか・・・」

サクラは顎に手を当てて、少しだけ考えた 果たして、ロシアにおいて辿り着いた疑問は、この女上司に伝えるべきだろうか

もしも気付いてはいけない類の疑問ならば、消されかねない 軍とはそういうものだ

なので、自分への背中押しの意味も込めて、色々と話してからにする

「私は問題ありませんが、ドラグ小隊の隊員の休息を希望します それとドラグ6の機体がありません、補充をお願いいたします 最後に、どの船に乗せられるのかをお聞かせください」

「あー、そうね、追って通達するつもりだったけど、わかった 休息については許可できないわ、理由は後述 ドラグ6の機体については・・・そうね、ヴァーミリオン社から自腹で買い取った特殊機体と、ついでに予備機としてスターライトを一機用立てておくわ 貴方達が乗るのは、クロノスインダストリが建造した新型艦ね」

「は・・・? 今、なんと?」

黒髪が揺れた きめ細やかな肌に冷や汗が滲む

色々と突っ込みどころのある答えが反ってきた 聞き流すと絶対に不味い

この女上司は、簡単な質疑応答でどれだけこちらを怖がらせるつもりか

「理由付きの休暇キャンセル、個人持ちの特殊機体、敵国企業の最新艦?」

直接問い質すことができて本当に良かったと考えた一方、次々と現れる不安要素に心臓が嫌な拍動をした

ドラグ小隊に変なものが転がり込み過ぎではないか それらの処理を一任された身にもなってほしい

というか何が何やら、軍人肌のサクラにはもう訳がわからなくなってきていた

「特殊機体のデータよ」

無造作に突き出されたタブレット端末の画面に目を走らせる そこには驚くべき情報が満載であった

また疑問が浮かぶ

「大陸争乱時代の機体?現代で通用するのですか?」

「例のタナトスと渡り合えるレベルよ ハッキリ言ってスターライトとは雲泥の差ね まあクセの強さとか様々な面で使いにくいでしょうけど、そこは現場にお任せするしかないわね」

ハッキリと言ってみせたバレンタインの眼を見て、サクラはタブレットの画面をスクロールさせた 確かに、スペックはユーロユニオンのHAMMASスターライトよりも高い 腕の良いパイロットに任せる分なら、戦力は上がるだろう

准将はさっき、ポケットマネーでこの機体を用意したと言った そんなものを軍の作戦に編入するのはおかしいが、バレンタインの手腕ならできなくもないだろう 問題は軍の予算ではなくバレンタインが代金を支払ったことにあって、その点がこの機体に異常さを感じさせた

一応納得して、次の議題へ移る

「次に、クロノスインダストリの新型艦というのは・・・」

「あぁ、クロノスインダストリね あそこアメリカから独立したから」

「はぁ・・・彼らならやりかねないですね」

生返事を返すが、この件については特に大きな驚きはない あそこはそれくらいしてのけそうたからだ 大方顧客がアメリカしかいないのが気に食わなかったのだろう

「独立した結果、色んな所へ兵器を売り始めたと?」

「そう、そこで我々ユーロユニオンは、クロノスインダストリに兵器を売ってもらうことにした その取引第一号が、オリュンポス級・・・貴方達の乗る船というわけ」

「大丈夫なんですか、その艦?」

率直な疑問 変な戦艦に乗せられては堪らないのでとりあえず聞く

「ええ、全てのテストや試験運用では問題点はまったく無かったそうよ」

「そうですか・・・」

一抹の不安は拭えないが、ジタバタしても仕様がない 変態企業のモノ作りを信頼するしかない

まだ突っつきたいところはあるにはあるが、サクラはそろそろ最後の議題へ移ることにした

「それから、隊の休息の件ですが・・・」

上司に恐怖しながら、おずおずと言い出す 色々なことで驚かされて、すっかり肝が冷えてしまった 完全に態度の腰が引けている

が、そんな様子のサクラに、バレンタインは神妙な面持ちで目線を合わせた

少女のような体躯にまったくもって似合わぬ目力 まるで、今からとんでもない秘密を暴露する直前のような雰囲気 ただならぬ様子に、ラークロスタ大尉は固唾を飲んだ

「それについてなんだけど、一つ貴女に聞きたいことがあるの」

一言一言ゆっくりと紡ぎ出された言葉 声量自体はむしろ小さい方なのに、不思議と内容は耳を通してしっかりと理解できる

言い聞かせる母親か、教えを生徒に馴染ませる教師のような、そんな感じを覚える

いつもとは違う、バレンタインの表情 その顔相のまま、彼女は質問を続けた

「この戦争、どう思う?」

その質問こそが、サクラ・ラークロスタが抱えていた最大の疑問であった

「はい これ以上なくおかしいと思います」

ロシアにてこの戦争のことをある程度考察した時、不自然なことが散見された 作戦や展開がお粗末であるのを通り越して、わざとやっているとしか思えない雑さだったのだ

何かしらの意思が介入し、この戦争の流れがコントロールされている可能性がある

サクラはそれを、包み隠さず伝えた

「貴方達には、それについて調査するのも兼ねて、独立部隊としてもっと戦場にいてもらうわ ある理由から、このタイミングを逃すとマズイの 先行艦隊への合流で、この戦争の黒幕を暴いてちょうだい」

女上司は幾度か頷いた 渋々納得したような感じだった

端から見れば陰謀論の振り回しだが、状況証拠が揃っている以上、可能性はゼロではない

結局、ドラグ小隊は、ロシア撤退の疲れを癒す暇もないままオリュンポス級へと流された

 

 

 

 

 

 

 

というのが一部始終だ

ドラグ小隊が向かうのはアメリカ領のバミューダ諸島 米軍は戦争に向けて埋め立てを行い、ここに軍事拠点を設置した

ここから出撃した軍が、先の楔作戦などで活躍したのである

だが、今度はそのバミューダに、ユーロユニオンの大艦隊が迫っているのだ

ネプーテュヌスの艦橋 サクラ大尉とドラグ小隊各員、そしてブラウン艦長と別の一人が一つのテーブルを囲んでいる これは会議だ

「これより、バレンタイン准将の密命を発表する・・・その前にディール大佐、そちらの女性は?」

「あぁ、私の秘書だ 私一人の先走りを防ぐため彼女の同席を願いたい」

「始めまして、エメリー・レーベナンと申します 階級は伍長でございます 万が一のため、同席のご許可を下さいませ」

ブラウンの隣にいるのは、ネプーテュヌスのオペレーター兼情報統制官エメリー・レーベナン伍長である ブラウンの副官のようなもので、彼はエメリー同伴での事情説明を求めた

なにせ、とんでもない機密がもたらされるのである 艦において自分一人の判断のみで行動したくない それがブラウンの要求であった

「了解しました、いずれ艦全体にこの情報を伝えたいと思います」

サクラは一言そう言うと、咳払いをして場の空気を変えた

「本題から話します この戦争は仕組まれたものである可能性が非常に高い」

シェリーが固まった エリックは驚きの声を隠せない ブラウンは温和そうな顔を引き締め、エメリーは目を閉じた

言った本人であるサクラ・ラークロスタ自身ですらが、いまだに信じられないというように肩を震わせる

ドラグ6だけが、パイプ椅子の上で静かにたたずむ

「そして、その仕組んだ相手は・・・」

サクラは祈った

このようなことがあって良いのだろうかと

こんな残酷なことがあって良いのだろうかと

「ユーロユニオン各国、アメリカ、ロシア・・・この戦争に参加している国家全てだ この戦争は、参加国による出来レースなんだ」

サクラの発表に、誰かが反応しようとした その時、ブリッジで作業をしていたクルーの一人が叫んだ

「対潜ソナーに反応、敵の潜水艦です!」

「対艦レーダーに感アリ!米艦隊四時の方向!」

「対空監視から伝令・・・ステルス戦闘機多数確認しました!」

 

 





竜ちゃんはまだ死神君より弱いよ
まだまだ成長します
でもなんか空気気味です

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