【主人公】戦場起動【喋らない】   作:アルファるふぁ/保利滝良

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久々の更新
前回からの続きです



【一瞬】

 

大きなガレージに、いくつもの巨人たちHAMMAS用の修理ガレージにて、量産機ウィンストーンと汎用機スターライトがズラリと並んでいた

その中に、ドラグ小隊もあった

「バズーカと、ガトリング?」

「はい どこから送られてきたかはわからないということです 他の機体のモノを改造してスターライトに積めるようにしました そちらの許可さえあればすぐ取り付けることができます」

サクラの怪訝そうな声音に、整備員が説明した 二人の視線の先、巨大な武器が横たわっていた

一方は大口を開けた煙突のようなもの もう一方は細長い筒を束ねたようなものだ

両方とも、周りのHAMMASの携行火器とは二回り以上サイズ差があった とても大きい

「どこから持ってきたか、か・・・」

だが、サクラが目をつけたのはそこではなかった

「これは、タナトスの武装だな?」

「ええ、隠す気があるんでしょうかね クロノスインダストリはアメリカの企業なので、弄るのに大変苦労しました」

黒髪が揺れ、整備員は質問に答える 改造されたバズーカとガトリングは、かのタナトスの装備だったのだ しかも、改造後の外見からサクラがアタリをつけられる程だったからには、偽装工作が全くされていないことを意味する

そして整備員の言う通り、クロノスインダストリはユーロユニオンと戦争をしているアメリカに武器を売っている会社だ

つまり、普通ならこんなものがこんな場所にあるハズがない

しかし現実に、それはそこにある

「かなりきな臭い まさか自爆装置でも着いてる訳じゃあるまいな・・・」

「っていうかこれ、こんな大きいの搭載してスターライトが動けるんですか?」

「アメリカの開発した代物なら、システムとかの問題でそもそも撃てるかどうかわからないけど・・・」

サクラの訝しげな一言に、その場にいたシェリーとエリックが続いた ドラグ小隊は全体的に、用意された武器二つに様々なリスクを見出だしている

三人とも、タナトスから流用したというバズーカとガトリングをじっと睨み付けていた

「い、いえ、問題はありません 念入りな稼働テストはドラグ小隊の皆さんが来る前に終わらせてますから、あとは実戦データを取る・・・または実際に戦闘で使用する段階です」

整備員は慌てて否定した 自分達の仕事をけなされては、軍人生命に関わる 仕事の出来が悪いと上に判断されたら、最悪の場合には営倉送りだ

「ふむ・・・お前はどう思う? と言っても、バージニアは特に装備に変更は無いか」

振り向いたサクラ大尉が、突っ立っていたドラグ6に質問を投げ掛け、訂正した

二つの巨大装備のさらに向こう、四つのブースターユニットを背負った機体があった ドラグ6のバージニアだ その両脇に、ドラグ7ことシェリーのスターライトと、ドラグ8ことエリックのスターライトが並んでいる

世界最強のHAMMAS、タナトスから流用された武器は、バージニアの両脇のスターライトに装備される

いまだに追加装備を睨んで首をかしげる部下二人に、サクラは嘆息して言った

「まあ、次は恐らく防衛戦となるだろう 機動力低下はともかく、火力の増強は必要だと思うが・・・どうだ?」

呼び掛けられた二人は、振り向く やや納得いかなそうな表情をすると、少し不満を顔に出しながら頷いた 大人しく立っているだけのドラグ6に比べコミカルな動きだった

「そうですね・・・ロシア機を確実に倒せる火力なら、防衛戦にて役に立つと思います 重くなって動きが悪くなるのが困りものですが・・・」

「それなら、お二人のスターライトの肩部にブースターユニットを装着させます 走行は遅くなりますが、加速移動の速度は向上します」

「お、お願いします」

整備員はシェリーとエリックの二人と短いやり取りを交わし、すぐに全体に連絡をとるべく移動をした ドラグ小隊から離れる際軽く別れの挨拶をして、小走りに他の整備班のところへ向かっていった

「防衛戦か・・・」

エリックがボソッと呟いた

「やれるかな、俺達」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

要塞の壁としてはやけに薄い構造物を背中側に置いて、いくつかのウィンストーンがミサイルランチャーやスナイパーライフルなどの遠距離武装を反対側に向けていた これから来るであろう敵への備えだ ユーロユニオンの要塞防衛隊は、一様に拠点死守の陣形だ

ドラグ小隊が斥候隊を見付け、全滅させたことにより、近くに大規模なロシア軍の部隊が近付いていることがわかったこの要塞は、今は警戒状態を施行している

もしかしたら斥候を倒されたことに気付いて引き返してくれると考えることもできるが、万一も在りうるのが戦争だ 用心のし過ぎに越したことはない

要塞の壁の外にも巨大な構造物が転がっている 鉄筋コンクリートの壁だ 撃ち合いでHAMMASが使うのだろう  そのうちの一つに、ドラグ小隊の三機が固まっていた

背中に接続したバズーカを左肩に背負ったスターライト、ドラグ7の機体 背中に接続したガトリングを右脇に抱えるように持ったドラグ8の機体 そして四つのブースターと両手の特殊ライフルが特徴的な、ドラグ6のバージニア

それらが時おり銀世界をチラチラと眺めている 観光のためではなく、敵の発見のために

この要塞は、ロシア侵攻の一大拠点である ここをやられた場合、ユーロユニオンはあっという間にこの北国の大地から追い出されるだろう

それをさせないために、ドラグ小隊も防衛に務めている

「なかなか来ないなぁ」

「斥候をやられて恐れをなしたりね・・・」

ヒソヒソと軽口を叩く二人 向こう一面に広がる銀世界に、敵の姿は見えない

ドラグ6がバージニアの頭部を動かした 続いてレーダーを確認しようとした時、それは現れた

数十機のHAMMASが、猛スピードで突っ込んで来たのだ

大柄な体躯と角張った装甲、ロシアの機体だ

その後ろから、別の何かが飛んできた 対地ミサイルである

「き、来たっ!」

ドラグ小隊の後ろ、要塞の壁の付近から、無数の弾丸が飛び交った ミサイルを迎撃するための迎撃機関砲が作動したのだ

宙に浮いた無数のミサイルが、弾丸に貫かれて爆発した あるいは墜落した

だがそのうちのいくつかは、無事に要塞の壁へ突き進んだ

「この・・・」

ドラグ7が引き金を引いた スナイパーライフルの弾丸が一発のミサイルを粉砕する

「あんなのが当たったら、この要塞が潰されちまう!」

ショットガンを空中に乱射しながら、ドラグ8が地上のロシア機隊を見た 雪国のHAMMASは一向に動きを止めない

散弾が命中したミサイルが大爆発した 破片が大地の上に落ち、伴った熱で雪を水に変えた そのさらに向こう、ブースターによる加速移動でいくつもの鉄の塊が突き進む

ミサイルは全て叩き落とした 要塞外壁に大きな被害はない だが、ロシア地上部隊は壁を直接壊せるだけの戦力を持っている

近付かせるのは、不味かった

「あっち、行けよ!」

ドラグ8が武装をショットガンからガトリングに持ち変える 背中のユニットが大きく動き、銃身がスターライトの脇に抱えられ、トリガーグリップがその右手に収まる エリックは迷わず射撃ボタンを押した

一秒間に十発、雷が落ちたような音が聞こえた ガトリングから吐き出された連射弾は、一発一発が現行の戦車の砲に匹敵する威力 かすっただけでロシアの機体が部位を大きく欠損し、グシャグシャになった

直撃ともなると、最早原型が留められていない

ガトリングを食らったHAMMASは、特殊合金製の前衛アートと化した 穴だらけの機体は、とても先まで元気に動いていた戦闘機械と思えない

「す、すげえ・・・なんだこの武器・・・」

反動制御で息切れしながらも、エリックは新武器の性能に驚いている やたら大きいサイズに見合った、とんでもない威力

一秒間に沢山発射される戦車砲というのがいかに恐ろしいか、エリックは理解した

ドラグ6が打って出る 両手のライフルを乱射しながら、ドラグ小隊の隠れていた遮蔽物から飛び出す そちらへすぐさま砲弾や銃弾が飛んでくるが、四つのブースターが炎を吹いて、それらへの命中をかわした

装甲に当たる寸前に、マシンガンの弾が避けられる

いくつかのロシア機が、頭部や胸部にバージニアのライフルを食らった 表面で起こった爆発に慌てるパイロット あっさりと装甲を貫通されて慌てるパイロット

飛び回りながら攻撃を続行するバージニアに、ロシアのHAMMASが銃を向けた

「先輩・・・っ!そうか!」

シェリーはドラグ6の意図に気付いた

敵の狙いが逸れた今なら、バズーカで勝負をかけられる ドラグ6は囮役を買って出たのだ

スターライトの背中に吊るされていたバズーカは、砲口を上に向けた そのままレフトサイドにスライド、銃身を左肩に乗せる

バズーカが、即席のキャノン砲になった

「行けぇーっ!」

ドラグ7のスターライトの頭部にある、サブFCSが稼働を増した

引かれたトリガー バズーカが大きな大きな火を吐いた

飛んでいく一陣の巨大砲弾 それは一機の敵を貫いた 二機目の胸部装甲で爆発した砲弾は、その爆風でいくつものロシア機体を巻き込んだ

装甲から何から燃やされて、爆発範囲内のHAMMASは次々ダウンした

至近距離から食らった者は、中身が黒焦げになっている

「この武器、強すぎ・・・」

一発で引き起こされた惨劇に、シェリーが苦笑いした 隣では、ドラグ8のスターライトもガトリングを向けている

タナトスは、武器も超性能だったようだ

「よし、次を・・・えっ?」

いよいよトリガーを引こうとしたとき、ロシアのHAMMASの動きが変わった

ドラグ小隊のバズーカとガトリングに恐れをなしたわけではない それは明らかに、撤退の準備だった

すぐさま転身して逃げ帰っていく敵 それを後ろから撃つべきかとエリックは歯噛みした

戦闘が開始されてから、ほんのわずかな時間しか経っていない まるで、一瞬の戦争だ もっと続けたいとは思わないが、何か拍子抜けの気分だった

と、エリックが考えていたそのとき、要塞の壁の向こうから黒い煙がたなびいていたのが見えた

「何だ、今度はなんだ!?」

振り向いたドラグ8が、錯乱したような声で誰にともなく聞いた

「・・・各員、聞こえるか」

「サクラ大尉!?いったい何があったんですか! 要塞から火が上がるし、敵は逃げてくし・・・まさかっ!」

捲し立てるエリックに、サクラ・ラークロスタは重々しく現況を話した

たった一言で

「スパイに、基地施設の一部をやられた」

加速移動で撤退していくロシアのHAMMAS ドラグ8の乗機が、それをじっと見つめていた

 

 





ちなみにドラグ小隊は、この時点で
・竜ちゃん 少尉
・シェリー・フォード 曹長
・エリック・クライムス 曹長
・サクラ・ラークロスタ 大尉

階級が上がる日も近い、かも

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