「のう、白雪よ」
「何でしょう?」
「私はおんしにベーコンの薄切りを頼んだはずじゃが、何故角切りなのだ?」
※この時代にベーコンがある理由は白夜叉です。保存食として広めました。豚肉の代わりに猪肉を使用。
「そ、それは、神格保持者に包丁を持たせる白夜叉様が悪いのd「ほほう?私は神で星霊だが包丁を持ってるぞ?」すいませんでした」
白夜叉は土下座する白雪姫をほっといてキッシュの生地をお手製の窯に入れる。
「さて、焼き上がるまで時間がある。掃除でもするぞ。やる事はまだまだある」
「そういえば白夜叉様。何故貴女様が家事全般を担っているのですか?やはり主祭神である諏訪子様の方が立場が上だからですか?」
「いや、それは無い。私と諏訪子は民たちの前では諏訪子の方が立場は上だが実際はほとんど無い。実力も私の方が上だしな。そもそも私はこの土地の者では無い」
白雪姫は首を傾げる。
「では、何処の出身なのですか?」
「私は・・・名も知らぬどっかの森林に居た。そろそろ一度帰省して見ようと思うが、白雪も来るか?」
「よろしいのですか?」
「問題無い。まぁ、あるとすれば・・・血を見る覚悟さえあれば・・・」
確実に鬼たちと乱闘になる事は明らかである。
「まぁ、白雪も神格保持者じゃ。なんとかなるじゃろ。さてと、掃除を始め・・・」
白夜叉はふと窓の方をみる。
「・・・どうかなさいましたか?」
「やれやれ、掃除してる場合じゃなさそうだ」
すると、亜音速で飛来する矢が窓の外から飛んできて、
「よっと」
白夜叉が二本指でキャッチした。
「矢文・・・ですか・・・」
白夜叉は矢文の文面を確認する。
「これは・・・大和の国からだ・・・」
大和の国というのは、今でいう日本の事だと思ってくれれば簡単だろうか。
もともと日本は戦国時代のように一つの大陸の中で多数の勢力が存在しているような群雄割拠の世だったらしい。そしてそれらを統治しているのが諏訪子のような神霊たち。
その中でも群を抜いて光っていたのが大和の国で、数年前から圧倒的な力で次々と多勢力を吸収し、今では強大な領地と軍事力を兼ね揃えている。
「諏訪子に報告してくるから掃除をよろしく頼む」
白夜叉は急ぎ足で、諏訪子の私室に行き、
「起きんかぁぁぁぁ!!!」
惰眠を貪る諏訪子を叩き起こした。
〜暫くお待ちください〜
「こ、これは・・・!」
布団から引きずり出された諏訪子は矢文を見て驚愕した。
「ついに恐れていた事が来たか・・・大和の国との戦争が・・・」
矢文には、『我々は大和の神。近日中にそちらの信仰を貰いに行くが、戦となり兵が死ぬのは我々としても避けたいので、明日の昼過ぎに同封してある地図に記されている場所で交渉を行いたい。代理を送るのなら、その物が代理だと分かる物と地図を持たせた状態で送ってこい』
「戦争はあまりオススメはしない。相手は天照大神、須佐之男命、月夜見尊の三貴神、建御名方神、建御雷神、経津主神の軍神がいる。全て出てくるとは限らんが・・・建御名方神は来る可能性が高い」
建御名方神が諏訪地方を支配することは日本神話の中でも有名な話である。
「それでも・・・降伏することは私を信じてる民達を裏切る事に他ならない。だから・・・戦うよ」
白夜叉は知っていた。日本神話においての
「・・・おんしが覚悟を決めるのなら仕方ないの。ちょいと私は大和の国に行って交渉してくる。これがどんな結果になるかはわからんが・・・できるだけ良い方に向けれるよう努力する」
「え?白夜叉が行くの?大丈夫・・・だよね・・・」
「暫く作戦を練る。一人にしてくれ」
そう言って白夜叉は家事を白雪姫に任せて自室に籠もった。
因みに、その日の晩御飯が諸事情で爆発したキッシュになったのは内緒だ!
次の日
白夜叉が地図の通りに森を進むと大和の国の本陣が見えてきた。
(中から強い神力を一つ感じるの。他にもそこそこの神力を持つ者が沢山。おそらくこれが遠征軍だろう)
本陣の門に近づくと門番(下っ端の神)に止められる。
「止まれ。此処に何の用で来た?」
「洩矢神の使いで来た。証拠はおんしらが送りつけてきた地図と洩矢神から預かったこの鉄の輪だ」
白夜叉はギフトカードに収納していた鉄の輪を門番に見せる。
門番は無言で門を開け、白夜叉を中に入れる。
中には大勢の神々が居座っている。奥にはおそらくこの軍の大将であるであろう強大な神力を持つ神霊が座っていた。
「貴様が洩矢神の使いか?」
奥の注連縄を背負ったカリスマ溢れる女性の神霊が白夜叉に尋ねた。
「そうだ。私の名は白夜叉という。今日の交渉は戦をしないで済ませる為にするんだったかの?」
「その通りだ。おっと、名乗っていなかったな。私の名は八坂神奈子。さて、私達大和の神から出す停戦条件がこれだ」
神奈子が書面を白夜叉に渡す。
一、洩矢神は無条件降伏すること
ニ、洩矢神は信仰を大和の国に譲り渡すこと
三、洩矢神の配下の神々の信仰も大和の国に譲り渡すこと
四、国土を大和の国の支配下に置くこと
五、統治は
(ふむ、大方予想通りだの。私の能力でゲームに付き合わせるのは最終手段だの)
「さて、白夜叉よ。貴様らはこの条件を呑むのか?」
白夜叉は書面から目を離し、神奈子の方を見る。
「これは明らかに洩矢神を下に見た条件だの。呑めない。これが答えだ」
呑むだろうと思っていた大和の神々は騒めく。
「洩矢神は言っておった。戦わずして降伏することは信じてくれている民達の気持ちを裏切ることに他ならないと。故に、この条件は呑めない。これでは侵略と取られても文句は言えまい」
「・・・ならば・・・戦争をすると?」
「無論、そうなるの。戦争になる事は容易に予想ができた。私は大和の神々にこの契約書類に同意さえしてくれれば大人しくこの場を去る」
白夜叉は柏手を打ち、契約書類を出す。
『試練名:諏訪大戦
"諏訪の国"
大将 洩矢諏訪子
白夜叉/白夜王
白雪姫
"大和の国"
大将 建御名方神/八坂神奈子
その他の大和の神々
諏訪の国側勝利条件
その一、建御名方神/八坂神奈子を戦闘不能にする
大和の国側勝利条件
その一、洩矢諏訪子を戦闘不能にする
その二、白夜叉/白夜王と白雪姫を戦闘不能にする
規則
その一、大和の国の大将以外の神々は白夜叉と白雪姫が全て相手するものとする
その二、白夜叉と白雪姫は洩矢諏訪子に助太刀してはならない
大和の国側勝利報酬
八坂神奈子が交渉の際提示した条件を諏訪の国側に呑ませる事ができる。ただし、状況によっては改変の可能性有り
諏訪の国側勝利報酬
大和の国を無条件で撤退させ未来永劫攻め入る事は不可能にする事ができる』
神奈子は契約書類を見て一考する。
(内容は至って平等だ。不審な点は『大将以外の大和の神々は全て白夜叉と白雪姫が相手するものとする』の項目。しかし勝利条件に『白夜叉と白雪姫を戦闘不能にする』『白夜叉と白雪姫は洩矢諏訪子に助太刀してはならない』とあるから此方にとって有利な条件となっている。こちらが負けた場合、こちらは何も失う事はない。何が目的だ?)
神奈子は不審な点はあるものの、利点の大きさによりこの条件を呑むのが良いの考えた。
「・・・わかった。この契約書類に我々は同意する」
「それは良かった。開戦は一週間後で行こうかの。それでは私は帰る」
白夜叉が本陣を後にした後、神奈子は部下の神霊にこう言った。
「今すぐ出雲の本国に連絡を繋いでくれれ
その神霊は慌ただしく連絡の準備を始めた。
「・・・諏訪の神々よ。この戦争で貴様らを完膚なきまでに叩き潰してくれる・・・!」
諏訪の国 神社
「とゆうわけになったの」
「つまり、私と相手の一騎打ちってこと?」
「そうゆうことだの。これで勝率の底上げにはなった。後は、おんし次第だ」
白夜叉は能力でホワイトボードとペンを生み出し何かを書いていく。
「字は読めるな?」
「一応・・・白夜叉が大陸の文字を弄って『ひらがな』を作って私と民と白雪を含めたみんなに教え込んだからね・・・確かに情報残せるし大陸の文字みたいに複雑じゃないから覚えやすい」
大陸の文字というのは漢字の事である。今、白夜叉が作成している契約書類も全て漢字で書かれている。
「よし、これはおんしの弱点だ」
白夜叉はホワイトボードに諏訪子の弱点を書いていく。
『その一、攻撃が鉄の輪に殆ど依存している
その二、馬力が無い
その三、祟り神故に祟りによる攻撃を過信している
その四、攻撃が単調』
「あーうー、私の弱点・・・多過ぎ・・・」
「鉄の輪は強力じゃが破壊された時の手段は?もっと能力使わんか能力を。祟りは強い相手には聞かないぞ。これから一週間、私の特別修行で一から鍛え直してやる」
そして、一週間の間、諏訪子の悲鳴が大空に木霊していた事は言うまでも無い。