ザッハークは依姫の愛宕の火を正面から受け止めた。地上にこれほど熱い炎は殆どないが、ザッハークには火傷一つつかなかった。
「・・・なに」
「中々の熱量を持つが・・・この私を焼きたければ金翅の炎でも持ってこい!」
ザッハークは今こそ大人しくしているが元は拝火教の悪の化身、三頭龍 アジ=ダカーハ。火を神聖視する拝火教の神群は例外なくその恩恵が与えられる。つまりは、ザッハークに炎の攻撃は意味をなさない。炎でダメージを与えるには、対神対龍の能力を持つ大鵬金翅鳥の金翅の炎を持ち出すしかない。
依姫は効かないとわかった途端に別の神霊を降ろした。
「天津甕星よ」
途端に刀が極光に包まれ天から光の矢が降り出した。
普通の妖怪なら跡形も無く消し飛ぶほどの威力が一矢に込められている。いかにザッハークといえど傷を負うことは必須だ。
ザッハークは避けられないと悟り、
(このまま全部受けて双頭龍を出すのも良いが・・・少し面倒だ)
ザッハークは切り札を使う事にした。
「"アヴェスター"起動ーー相剋して廻れ、擬似創世図」
天津甕星の光の矢の性能を、己に全て上乗せし、真正面から相殺する。つまり光の矢を全て吹き飛ばしたのだ。
「さて、次はどうくる?月の戦士よ。それともこちから行こうか?」
「くっ、祇園様の剣」
依姫が刀を地面に突き刺すとザッハークの足元から刀が無数に生えてザッハークを包囲した。
「ふむ・・・」
動いたらおそらく刀が容赦なく突き刺さるだろう。
(これで・・・終わり!)
動けない。そう依姫は思った。
しかしその希望は、砕かれた。
「つまらん・・・避けろよ?月の戦士!
ザッハークの口から閃熱が放たれ地面の刀は融解し一直線に依姫を襲う。
光を切り裂く事ができる依姫だがこれは無理だった。間一髪でかわし、
ザッハークの
(わ、私では勝てない⁉︎)
依姫はものの数分の戦いで、大してダメージも受けてないのに、絶対的な力の差を思い知った。地上にこんな強者が存在したのかと驚愕する。足止め不可能。倒すなんてもってのほかだった。
「貴様は強い。だが、終わりだ。月の戦士よ——貴様ではこの"悪"の御旗は砕けないッ!!!!」
豊姫の能力は"海と山を繋ぐ程度の能力"。点と点を繋ぎ瞬時に移動する、空間跳躍の類である。この能力でディストピアの結界の中に入り込んだのだ。
紫の"境界を操る程度の能力"より万能では無いが、空間跳躍の一点においては紫を大きく上回る。
紫の空間跳躍は"スキマ"を"開き"、"入る"という動作が必要なので多少時間がかかるが、豊姫は瞬時に空間跳躍ができ、タイムラグが無い。つまり、戦闘で連続使用すればかなり強力である。
一見すると無敵の能力だが僅かに弱点が存在する。
それは、
(これは想定外ね・・・まさか出現位置を寸分の狂いも無く把握されて的確に攻撃してくるなんて。おそらく、未来予知の類ね)
未来予知の能力で出現位置を特定されることである。
全てのステータスが零華を上回っている豊姫だがこの未来予知のせいで攻めきれない。
死角から攻撃すれば見ずに防がれ、
空間跳躍すれば出現位置を把握され反撃され、
攻撃しようとすればその前に対応される。
さらに全てにおいて先手を取って行動してくる。
(仕方ないわね・・・試作品で出力が上手く調整できないけど・・・"扇子"を使ってみようかしら)
豊姫は瞬時に零華の真上に空間跳躍をする。すでに顔がこちらに向いているが関係無い。
豊姫は扇子を振るい、大風を発生させた。すると、辺り一帯の岩、石、地面が消失し、クレーターを形成した。そこには零華はいない。
この扇子は月の試作兵器であり、辺り一帯を素粒子分解して浄化する風を巻き起こすことができる。
「ふぅ・・・中々手強い相手だったわね・・・」
豊姫は安堵の息を漏らし、地面に降りたち、
「5秒って結構あるんですよ。色々できると思いません?豊姫さん」
「え?」
豊姫が振り向くと零華に縄で縛られた。
「は、え?いつの間に⁉︎」
「豊姫さんが扇子で大規模な素粒子分解をしてくるのは予測済みでしたので、5秒間の間に札で変わり身の人形を用意しました。貴女はかなりお強いですが・・・地上出身地上育ちでも強い者はいるものです」
豊姫と依姫、二人が追い詰められた。ザッハークと零華は殺す気はさらさら無いが絶体絶命のピンチとはこのことだ。
方や"人類最終試練"で方や"最強の普通の人類"と呼ばれる。
すると、月光の如く速度で何者かが飛来した。
四人はその人物を確認した。
「「「月夜見さま⁉︎」」」
「月夜見尊・・・?面倒だ。帰る」
ザッハークは転送魔法で帰宅し、残りの三人は驚いた。
「三人とも、矛をおさめろ。お前たちが争うのは理にかなってない」
「な、何故ですか⁉︎こいつらは「侵略者?いや、そこの博麗零華は侵略者じゃない」・・・え?」
依姫と豊姫は訳がわからないと見合わせた。
「先に襲来した妖怪の方は侵略者だ。ただ、偽りの白夜王の軍だ。後からきた本人達こそ、つまりそのの博麗零華、さっきまでいた男こそ正規軍。ニセモノを捕まえるためにきた。・・・と本人が言っていた」
月夜見の後ろから白夜叉が顔を覗かせた。
「うむ、其れは間違い無い・・・ニセモノの軍の大将にの、協力しろと言われたから断ったら南極大陸に飛ばされた挙句旗まで盗まれてな・・・」
「というわけだ、因みに妖怪の大将はこの後白夜王からのキツイお仕置きが待っているそうだ・・・」
具体的には白夜叉によるリンチとかリンチとかリンチとかリンチだそうだ。自業自得だ。
「さて、やるべき事は終わったから、帰るかの」
「まぁ待て白夜王。せっかく月にきたのだから観光していかないか?以前、じっくり見てみたいと言ってたじゃないか」
「なるほど・・・確かに良い機会だの。うん、そうしよう」