東方白夜王   作:ザイソン

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天照の思い

高天原 天照の邸宅

 

白夜叉は天照の邸宅に呼ばれていた。邸宅は豪奢で太陽の様な輝きを放っている。夜は・・・明るすぎるかもしれない。

 

中に入った白夜叉を使用人の神霊が迎え、応接室に通された。

 

応接室は簡素な作りだが主人の繊細で上品な性格がよくわかる作りだ。

 

暫くすると部屋の戸が開かれ天照が現れた。

 

「どうも白夜王。元気そうで・・・いや、元気そうでは無いですね」

 

白夜叉はあからさまに体調が悪そうだった。顔が真っ青だ。

 

「・・・空亡討伐祝いの宴会で二日酔いだ」

 

「あの・・・すいません」

 

天照は申し訳無さそうに俯いた。天照が謝る道理は無いのだが天照は八百万の神の中でも最も物腰が柔らかくて謙虚なのだ。

 

「空亡が封印されたと情報が入りましたが・・・やはり貴女が倒したのですね。近々経津主神を下界に向かわせる予定でしたが」

 

「あぁ、空亡は確かに強かったがあれは私が太陽神であるが故。経津主神ならば空亡程度、簡単に倒せただろう。空亡は日食の化身。天照が倒せなくて当然だから気にする必要は無いぞ」

 

白夜叉は扇子で扇ぎながら笑った。

 

しかし天照の顔は暗かった。

 

「空亡は・・・本来ならば私が倒さねばならない妖怪だったんです」

 

「・・・なに?」

 

天照は涙目でそう言った。後悔の念が見て取れる。

 

「空亡は、私が生み出したも同然なんです・・・かつて、須佐之男の行為に拗ねて天岩戸に閉じこもった事があります」

 

天岩戸。

須佐之男命が機屋の屋根に穴を開けて、皮を剥いだ馬を落とし入れたため、驚いた1人の天の服織女は破片が刺さって死んでしまった。ここで天照大神は天岩戸に引き篭った。高天原も下界も闇となり、さまざまな禍が発生した。

そこで神々は考えた。

まず岩戸の前で祭りを開いて『私が居ないのに何故お祭り騒ぎなのか』と天照が思って顔を出した時に力の神が引きずり出す。

まぁ、このような伝説がある。

 

「私が閉じこもった時に下界は闇に包まれた。つまりは太陽が隠れ、日の光が届かない・・・日食が発生しました。その時に下界の民達の日食によって発生した暗黒に対する恐怖が"日食"に宿り、日食の星霊、空亡が発生した・・・」

 

つまりは空亡が暴れた責任は自分にある。故に自分が責任を取って倒さねばならなかった。

天照はそう言いたいのだ。

 

「白夜王。私は・・・責任を放棄したも同然です。私に八百万の神々の主神たる資格はありません」

 

「・・・何が言いたい?」

 

天照は万感の思いを込めてこう言った。

 

「白夜王・・・貴女に主神の位を譲渡したい・・・」

 

「・・・な、何を言っている・・・?」

 

「本来は私が主神になるべきではなかった・・・強さ、頭脳、精神面においても未熟な私は相応しくない」

 

「お、おい天照・・・」

 

「須佐之男の愚行を抑える事も出来ない!私がもっとしっかりしていれば月夜見が保食神を殺す事もなかった!私の未熟さ故に二度も他神群との戦争を許してしまった!戦争で多くの部下を死なせてしまった私は・・・神群の長たる資格など無い!」

 

天照は涙を流しながらそう訴えた。それを見かねた白夜叉は、

 

バチン!

 

天照の頬を平手打ちした。少々威力が強すぎたため天照はひっくり返ってしまったが。

 

「黙って聴いていればいい加減な事を!須佐之男と月夜見の愚行?そんなの伊邪那岐にでも頼んで叱ってもらえばそれでいいし天照が気負う必要などない!戦争に関しては全くもっておんしに責任はないだろう!」

 

白夜叉は天照の胸ぐらを掴んで怒鳴った。あまりの剣幕に天照は身が竦んでしまう。

 

「別天津神や伊邪那岐たち神代七代がおんしに主神の位を任せたのはおまえしかいなかったからだろう⁉︎須佐之男でも月夜見でも伊邪那岐と伊邪那美の長男の大事忍男神でも無かった!おんししかできなかったからだ!自分を見下すのもいい加減にしろ!!!!」

 

白夜叉は天照を突き放した。

 

「す、すいません・・・」

 

「はぁ、それに空亡が生まれたのは・・・天岩戸に閉じこもる原因を作り出した須佐之男の責任だろう?」

 

意外なところに責任が飛んでつい天照は吹き出してしまった。

 

「ふ、ふふふ、そうですね・・・コレは全てあの須佐之男(愚弟)の責任です!私は悪くありません!」

 

「そうだそうだ!須佐之男(駄神)に責任取らせろ!」

 

「手始めに主神という地位を利用(職権乱用)して須佐之男の持つ天叢雲剣を貰い受けましょう!」

 

そして天叢雲剣で切り裂いてやると天照は黒い笑顔で呟いた。天照はこんな顔が出来るのだなと白夜叉は思って苦笑いを浮かべ、安心した。天照は今までの事が吹っ切れたようだ。

 

須佐之男は自宅で悪寒を感じたそうな。

 

「えー、所で白夜王」

 

天照は紙に何か書いて白夜叉に渡した。紙を見た白夜叉は顔を引きつらせる。

 

「・・・天照大神サマ?これは・・・」

 

「請求書です♪貴女の気迫とか神気とかで色々吹っ飛んで壊れたので。主神の命令には従いましょう♪」

 

白夜叉はやれやれと呟いて自分の財布と能力で出した金塊を壊れた机の上に置いた。

よく見たらこの机は黒檀で作られてやがる。日本に無い黒檀。多分、仏門の方から輸入したと思われる。

 

「まいどありー」

 

「おんしは商人か!」

 

普段はボケる側の白夜叉だが今回は天照にボケを取られてしまった。白夜叉は自信がツッコミキャラに成るのを恐れながら帰路につくのであった。




別天津神
天地開闢の時に現れた五柱の特別な神霊。

神代七代
別天津神の後に誕生した七柱の神霊。伊邪那岐と伊邪那美も含まれる。

大事忍男神
伊邪那美の伊邪那岐が国産みを終えた後に二柱から産まれた神霊。天照や須佐之男たちの兄。


空亡ルーミアの章も終わりです。そろそろ原作に入りたくなってきました。でもまだ書かなきゃならない場面とかあるんだよなぁ・・・オリジナル色強すぎてコレは本当に東方なのか怪しくなってきた今日この頃。

これからも宜しくお願い致します。

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