東方白夜王   作:ザイソン

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酒呑童子

昔々の大昔、あるところに異形の家族がいました。

 

父親は龍であり、母親は人間であり、その血を受け継ぐ子は龍人であった。

 

父親の龍は神としても祀られており龍神であり、大酒豪であった。正体は八岐大蛇であり、山と水の神である。

母親は優しく大和撫子そのものであった。

子は美男子で老若男女に人気があった。そして人柄もよく心技体の全てが備わっていた。

 

しかし時は流れ避けられない別れが訪れる。人間と龍では寿命が遥かに違った。

故に先に死んでしまった。

 

子は父親に問うた。

 

『父よ、どうして母を死なせたのか?』

 

龍神である父親には母親の寿命を延ばす事など容易であった。もちろんそうしたかった。

 

しかし母親はそれを拒否した。

人間として天寿を全うすることは美しい事だとし、最初で最後の我儘を父親に言った。

 

それを子に伝えたのだがその時の子には理解できなかった。

そうして夜中に家を出た。父は引き止めなかった。

 

子は術で龍人であるその身を鬼に変えた。

 

その子の名は伊吹弥彦。後に酒呑童子として名を馳せる大鬼である。

 

酒呑童子は人間の捨て子を拾って自身の住処に招き入れた。そして術で捨て子を鬼に変え、時には他の鬼を倒して配下に加えた。

 

初めに拾った赤ん坊は酒呑童子を良く慕い、兄と呼んだ。酒呑童子はその子を妹とした。名を伊吹萃香という。

 

とある身売りに出されていた娘を救い出し人としての記憶を殆ど消して鬼とした。その娘は鬼でありながら人としての側面を他の鬼より多く見せた。

名を茨木華扇という。

 

とある鬼の集団は力が強く、喧嘩を仕掛けてきた。酒呑童子は単身で全て倒した。鬼の集団の首魁は何度も喧嘩を仕掛けてきて返り討ちにあった。

名を星熊勇儀という。

 

とある鬼は自分に自身がなく、ほかの妖怪から逃げて生活してきた。ある時怒りで千もの妖怪を蹴散らした。それを見ていた酒呑童子は賞賛して配下に加えた。

名を虎熊隼斗という。

 

酒呑童子の名の意味。それは大酒飲みという意味もあるが、捨て子を拾う、"捨てん童子"という名も混じっていた。

鬼の殆どはその酒呑童子の事実を知らない。噂はあったが特に気にしてもいなかった。

 

これが、酒呑童子の真実である。

 

 

 

弥彦の金棒とルーミアの大剣がぶつかり火花が飛ぶ。

 

弥彦は金棒でルーミアを押さえつけ左脚で腹を蹴り飛ばした。

 

ルーミアは腹を闇で保護しておりダメージは無かった。

 

ルーミアは笑いながら大剣を振り回す。

技術はないがパワーがある。弥彦と同レベルだろう。

弥彦は金棒で弾き妖力弾をゼロ距離でぶちあてる。

 

闇の守りというのは案外硬くほぼ無傷である。

 

弥彦は離れて足元の地面を蹴った。

 

地面、いや地盤ごとめくれて土塊が散弾のごとくルーミアに向かう。どれも必殺の威力を持つが闇の保護により全て無効化されていく。

 

(あら?あの鬼がいない・・・?)

 

ルーミアは突如背中に強い衝撃を感じた。

 

弥彦が後ろに瞬時に回って殴り飛ばしたのだ。

 

バキバキと背中の骨が粉砕される音が聞こえる。

 

そして木々を吹きとばしながらルーミアは百メートル飛んでいった。

 

ルーミアはフラフラと立ち上がり、背中の激痛と口から出た血を確認し、ワナワナと震えた。

 

「こ、この私を一撃で・・・一撃で・・・」

 

途端にルーミアの妖力が増大した。

 

「もうお遊びはお終いよ。貴方を惨殺するわ」

 

ルーミアの声は百メートル離れていても感覚増幅を行っている弥彦の耳に届いた。

 

 

1分後

 

 

弥彦は全身の骨が粉砕され、手足が吹き飛んだ状態で地面に倒れていた。

 

(あ、侮っていた・・・あの時に仕留めるべきだった・・・)

 

ルーミアは憤怒の顔で弥彦を見下ろした。

 

「ふん、所詮は雑魚よ。他愛もないわ」

 

弥彦は術で手足を再生し、立ち上がった。

 

「なに?まだやるの?さっさと死んでくれない?」

 

「死ぬ気でここにきた・・・が、このままではいられねぇんだよ!」

 

弥彦は眩いほどの閃光を発した。ルーミアは闇で目を保護し、その姿を見た。

 

「ふぅん・・・成る程。そういうわけね」

 

光が収まり、弥彦の姿が現れた。しかし、その姿は以前も大きく異なっていた。

 

「貴方は・・・仇討ちに来たのね?八岐大蛇の」

 

弥彦は蛇のような龍に変幻していた。これが伊吹弥彦の真の姿。

 

『この姿になっても俺はお前には勝てない!だが・・・一矢報いる位はしてみせる!』

 

「ふん!ほざけ!」

 

弥彦は雄叫びをあげて天災を呼んだ。

 

ルーミアは闇を極大まで集めて暴発させた。

 

ルーミアの全力と弥彦の全力がぶつかり合い光と闇のカオスを生み出した。

 

(なぁ、親父・・・俺は上手くやれただろうか・・・)

 

弥彦は全身ボロボロになり、倒れた。

 

そう、弥彦は、敗れたのだ。

 

「ふぅ、流石は酒呑童子といったところかしら・・・でもこれで終わりね。さようなら」

 

ルーミアの大剣が弥彦の額に迫る。その刹那、

 

弥彦の巨体が消えた。

 

「ッッッ⁉︎何処に⁉︎」

 

あの巨体が消えるなんてありえない。ルーミアは辺りを見回した。そして、空を見た。

 

自分の闇に覆われているがそこに唯一光源を確認した。

 

「やはり・・・弥彦の正体は龍か」

 

星霊にして弥彦の親友、白夜叉が弥彦を担いで浮いていた。

 




伊吹弥彦(龍)
全長 108メートル
体重 90トン
能力 天災を起こす程度の能力

弥彦の真の姿である。鬼の弥彦は術で種族を変えていたに過ぎない。本当の意味での鬼ではないため嘘がつける。元人間の鬼は完全に鬼にしている。
八岐大蛇の子であるが首は一本。東洋の龍の形態をしている。白雪姫よりデカイ。

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