東方白夜王   作:ザイソン

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お迎え

輝夜の警護に就いてから3年後。

 

「王手」

「ま、負けた・・・」

 

輝夜と白夜叉は将棋をして過ごしてた。

 

結果は、白夜叉の全然全勝だった。曲がりなりにも知識の神としての側面を持つ神である。

 

「あー・・・白夜叉は金銀飛車落ちの状態。私は歩は全員と金に成って、飛車角成り状態なのに負けるなんて・・・」

「これが年季の違いというやつよの」

 

この年季と知識をトラブルに使う、というか絶対使うのだから大変だ。

 

「もう一戦よ!」

「よし来た」

 

パチンパチンと駒を並べる。

 

「もう貴女玉将だけでいい?」

「別に。それにしても、えげつないのぉ」

 

白夜叉陣営 玉将のみ

輝夜陣営 歩全員と金 飛車角成り

 

「あ、そうそう。貴女の言ったとうり、結婚は無し。作り物だって鍛冶屋が言ってた。あ、王手」

「あの鍛冶屋、忘れてたな?3年も待たせおって。実際蓬莱の玉の枝とか大陸にあるのに一週間で持ってこれるわけなかろう。竜王いただき」

「げ、しまった。で、次の満月、一ヶ月後頃にお迎えが来るのよ。でも帝から求婚がね」

「で、キッパリ断ったわけか。よし、と金全滅」

「えげつな・・・確かにキッパリ断った。でも文通するはめになったけど。楽しいからいいけど」

「一ヶ月後までの余興か・・・はい詰み」

「参りました・・・まぁ、いい人よ。月には居ない、優しい人」

 

結婚とまでは行かないが友人としてなら最高だという。

 

帰りたくない。これが輝夜の本音。その願いは、物語上では成就されない。ただ、イレギュラーがいれば或いは・・・

 

なんだかんだで一ヶ月後

 

「いよいよだの・・・」

「・・・そうね」

 

輝夜が目を向けた先には帝直属の兵士がぞろぞろいる。

 

地上に千人。屋根の上に千人の合計二千人の軍勢だ。

 

しかし月人の文明にとっては暖簾に腕押し、ぬかに釘、焼け石に水といったところだろう。

 

(白夜叉に助けを求めても・・・神としての力は少し強い土着神と同格程度。最新兵器で武装した月人の部隊には勝てない・・・)

 

輝夜にとって白夜叉の評価はその程度であった。

天照、月夜見、須佐之男を倒したと言っても一人だから勝てないと判断したのだ。

 

「白夜叉」

「なんだ?」

「今までありがとうね。色々、楽しかった。将棋、囲碁では全敗したけどね」

「別に永遠の別れというわけでもあるまい」

「そうね。月夜見様と知り合いならいずれ月にこれるかも。その時は私が勝つ」

「ハッ、しゃらくさい。無双してやんよ」

「お店、あるんでしょう?もう帰ったら?」

「・・・おんしがそう言うなら。だが、もし何か、何かあったら私を頼れ。一言でいいのだ。『助けて』と叫ぶだけでいい」

 

そう言って白夜叉は境界門を開けて何処かに行った。

 

「本当に・・・さようなら」

 

輝夜が閉まった境界門の方向を向いてそう呟いた刹那、庭の方から大きな声が聞こえた。

 

「来たぞーーー!全員構え!」

 

兵達が見上げた先にあるのは、光に包まれながら雲に乗って降りてくる神々しき月人達・・・ではなく、光る宇宙船だった。

 

「矢を放てーーーッ!」

 

指揮官の指示で一斉に矢が放たれた。

しかし、当然のごとく傷一つ付けられず弾かれる。

 

その様子を窓から見ていた輝夜は、勢いよく庭に出た。

 

「やめて!アレには敵わない!逃げて!」

「ご冗談をかぐや姫!我らは命を捨ててあなたを守る為にここに居るのです。今更引くわけには行きません!」

「でも!みんな死んじゃうのよ!!!」

 

輝夜の言葉を遮るように光が溢れ、宇宙船からレーザー光線が放たれた、兵士達が撃ち抜かれ、絶命していく。

 

輝夜と話していた兵士は後ろから撃たれ、口から血を吐き、輝夜に倒れかかるように力尽きた。

 

その兵士の血で輝夜の顔と服は緋く染まった。

 

「くっ!怯むな!斬りかかれー!!」

 

レーザー光線に運良く当たらなかった兵達は、逃げることもせずに刀を抜いて斬りかかる。月人達は無言で銃を構え、一瞬の内に斬りかかるすべての兵を撃ち殺した。庭はすでに血に染まり、池となりつつあった。

 

そして完全に地に降り立った宇宙艦のハッチの中からは、輝夜にとってとても大切な人の姿が現れた。

 

「姫様・・・お久しぶりです」

「え、永琳・・・」

 

ハッチの中から現れた月人、八意永琳は弓を持ったまま輝夜に近づいてきた。

 

「永琳!この人達を殺すのは止めて!こんなの・・・酷すぎる・・・!」

 

涙を流しながら永琳に訴えた。

 

永琳はしばらく沈黙し、口を開いた。

 

「・・・姫様、まだ地上に居たいとお思いですか?」

「・・・え?」

 

輝夜は素っ頓狂な声を出した。

 

「私は姫様が地上に行きたいと願った理由を知っています。ですから・・・まだ地上に居たいですか?私は、姫様に従います・・・」

 

輝夜に右手が差し伸べられた。

輝夜は苦悶に表情を歪めた。

確かに地上には居たいし月に帰りたくもない。

かといって、最も信頼する永琳を巻き込みたくは無い。

 

いざとなれば自分がここから逃げ出す考えはあった。

永琳を巻き込む発想はなかった。

 

この手を握ればもう、戻れない。

永琳と一緒にいたい。この穢れ、穢れているが故に美しい世界で、共に過ごしたい。

 

「・・・ええ!私、地上に居たい!月には戻りたくないわ!!」

 

輝夜は永琳の右手を掴んだ。

 

「・・・分かりました」

 

永琳はにっこりと笑い、

 

月人達に向けて矢を放った。永琳が放った矢は的確に月人の脳天を貫き、一撃で沈めていく。

 

「なっ⁉︎ 八意永琳!我らを裏切るつもりか⁉︎」

「あら?裏切るも何も、私は姫様の味方よ?」

 

永琳は次々と矢を放つ。不意を打たれた月人は頭を撃ち抜かれる。

 

「姫、走って下さい!!」

「くっ、追うんだ!両方捕らえろ!!」

 

他の船から降りてきた兵士も光線銃を持ち追跡を開始した

 

「八意永琳ッ!まさか裏切るとはな」

 

 

 

 

 

「くっ、囲まれたか・・・!」

 

輝夜を連れ、森へと逃げた永琳だったが追っ手を振り切れず囲まれてしまった。

ざっと数えても百人は居て、全員がレーザーを射出するライフルを装備している。

 

「くくっ、月の頭脳と呼ばれた貴方が馬鹿な事をしたものですな。我々を裏切るなど・・・愚かな・・なんとも・・・醜いものだ」

 

弓を引き絞る永琳だが、それよりも早く銃を抜いた指揮官の男に肩を撃たれてしまった。

熱線が肩を通過し、傷口に奔る焼ける様な鋭い痛みに思わず弓を落としてしまう。

 

「手足の一つ二つダメにしても問題無い!二人を捕らえろ!」

 

その言葉に顔を蒼くする輝夜を、庇う様に抱く永琳。

肩口から血が滲み出しておりとても痛々しく、それでも尚指揮官の男を睨みつけている。

 

『もし何か、何かあったら私を頼れ。一言でいいのだ。『助けて』と叫ぶだけでいい』

 

輝夜の脳裏に白夜叉の声が浮かんだ。

 

地上での最初の友人。私と遊んで警護をしてくれた人。

 

「し、白夜叉・・・」

「姫様?」

「助けて・・・助けて!!!白夜叉ぁぁぁあああぁぁぁ!!!」

 

輝夜は空に向かって叫んだ。

 

その刹那、森の獣、鳥の騒めきが止まった。

 

ーーー何か来る

 

鳥獣達はそう感じていた。

 

「天が呼ぶッ!地が呼ぶッ!!人が呼ぶッ!!!少し冷静にと人は言うッ!!!!」

 

その声が辺りに木霊した。


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