仮面ライダークウガ-白の執行者-【完結】   作:スパークリング

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こんにちは。

少し遅れました、すいません。


第29話 『願望』

 時刻は午後8時23分。

 九郎ヶ岳遺跡の麓に、2台のバイクが止まった。1台はビートチェイサー2000、もう1台は……最新型の白バイであるトライチェイサー2000だ。

 その2台のバイクを運転していた男2人が黒いヘルメットを同時に脱ぐ。ビートチェイサーに乗っていたのは五代雄介。そして、トライチェイサー2000に乗っていたのは一条薫だった。東京にいた一条は一刻も早く現場に急行するために、愛車である黒い覆面パトカーからトライチェイサーに乗り換えて、この九郎ヶ岳遺跡に向かっていた雄介と合流したのだ。

 バイクから降り、最終決戦が行われる方向を見る2人。

 

「一条さん。俺、桜子さんに嘘を言ってしまいました」

 

 雄介は苦笑して……そして覚悟が決まったような顔で告げた。

 

「――俺、なります。『凄まじき戦士』に」

「五代……」

 

 なんとなく、一条は雄介がいつかこれを言ってくる日が来ると予感していた。できれば予感だけでとどめてくれと、何度も願った。だが……残酷なことに、雄介はなることを決めてしまった。理由もわかる。

 

「そうしないと、きっと彼女の願いを叶えられません」

 

 『彼女』。その彼女とは、おそらく……いや、確実に第46号のことだ。

 昨日、第47号を倒した後に第46号と出会って、彼女とある約束をしたことを一条は聞いていたから。……なるほど。確かに彼女との約束を果たすには、ならないといけなさそうだ。

 

「だから、いざというときには……」

 

 雄介は、変身する際にアークルが浮き出る腰のあたりに手を置いた。

 

「ここに、遠慮なくやっちゃってください」

「五代……」

「もちろん、万が一、俺が究極の闇をもたらす存在になっちゃったらですけどね」

 

 「あはは」と笑みを浮かべて、安心させようとする雄介。だが、一条の表情は晴れない。それどころか……またあの、時折見せる雄介に対しての罪悪感に浸った顔になってしまった。

 

「こんな寄り道はさせたくなかった」

「え?」

「君には、冒険だけしていてほしかった」

 

 未確認生命体との決着をつける前だからか、一条は今まで言いたくても言えなかったことを告白する。雄介は気が付いていた。一条がずっと、ずっと前から今までずっと、自分のことをこうして心配してくれて、大切に思ってくれていたことに。といっても、気が付いたのは今朝なのだが。

 

「ここまで君を付き合わせてしまって……」

「ありがとうございました」

 

 だから、一条が「すまなかった」と言う前に言葉を遮り、感謝の言葉を一条に伝えた。こんなに自分のことを大切に思ってくれたことへ、戦友としていつも裏方でサポートしてくれたことへ。その他さまざまな気持ちを乗せて。そして……

 

 

「俺、よかったと思ってます。だって、一条さんと会えたから」

 

 

 自分と出会ってくれて。

 みんなが雄介といる時間を心地よく思っていたことと同じように、雄介だって、みんなと一緒にいる時間が楽しかった。確かに冒険はできなかったけど、それに負けないくらい楽しかった時間なのだ。

 そんな時間ができたのは一条と出会えたからだ。一条と出会えたから、雄介は椿に榎田、杉田や桜井、松倉と出会えた。一条がいなかったら、きっとここまで充実した日々は送れなかった。きっとここまで、未確認生命体と戦うことは出来なかった。だから、雄介は後悔なんてしていない。心の底から、思える。「ありがとう」、と。

 グッと、一条にサムズアップをする雄介。そんな彼を見て、一条は……ようやく、気が晴れたような顔をした。そうか。俺と出会ったことが、この笑顔が似合う青年にとってそんなによかったことだったのか。嬉しかった。もしかしたら、心のどこかで雄介は、自分を恨んでいるんじゃないかと一条は思っていた。こんな過酷な戦いを強いらせてしまった原因を作ったのは、一条だったからだ。自由を奪ってしまい、ついに普通の人間の身体ですらなくなってしまった原因を作った自分は、恨まれて当然だと思って、勝手に雄介が自分を恨んでいると決めつけていた部分があった。

 だけど……ああ、こんな笑顔を浮かべている雄介が嘘なんかつけるはずがない。本当に、自分に感謝してくれている。ようやく、雄介に対しての罪悪感が和らいだ一条は……微笑んで、彼にサムズアップを返した。サムズアップを返された雄介は笑って……そして、真剣な顔をした。

 

「じゃあ、見ていてください。俺の……変身」

 

 きっと雄介が、最後にクウガに変身する瞬間だ。見届けよう。一条は静かに首を縦に振った。了承を得た雄介はビートチェイサーの前に立って……アークルを出現させた。

 一条が見守る中、雄介は左腕を腰に添え、右腕を左前に出して……いつもの覚悟を決めるポーズをとる。ゆっくり、ゆっくりと、右腕を右前にもっていき……構えている左腕に力を籠めると、雄介の身体が変化していく。最初に金色のラインが血管のように雄介の身体を走り、次にその金色のライン同士の間に黒い鎧が形成されていく。胸を、両肩を、両腕を、腰を、両脚へと鎧が包まれると、最後に頭が変化した。

 一条の前に現れたのは、真っ黒な戦士だった。4つの角、両肩・両腕・両脚には真っ黒な棘が生えており、かなり禍々しい姿をしている。そんな変わり果ててしまった雄介を見て、一条は少し恐ろしく感じてヒヤリと冷たいものが全身に走った。しかし……その若干の恐ろしさは、彼の目を見て消え失せる。真っ黒なボディの中、目だけはいつも通り赤く輝いていたからだ。

 凄まじき戦士……『アルティメットフォーム』となったクウガは一条のほうを少し見ると……彼女が待っているであろう、遺跡に向けて走った。待ち合わせの時間は9時。30分以上も早く着いたのに……どうしてだろう。彼女が言っていた結界とやらが張られている様子がない。不思議に感じたクウガは嫌な予感がして、さらにスピードを出した。降り続ける吹雪なんて関係ない。ただただ走り続けた。そして……見つけた。

 

「……クウガ。随分、早く来たんだね」

 

 昨日約束を交わした、真っ白な少女に。こんな吹雪の中、夏物の白いワンピースを1枚だけ着た、金髪の少女が。

 

「それに……なったんだ。究極の力を持つ存在に。……よかった。生物兵器になっていなくて」

 

 少し嬉しそうに少女はクウガに話しかけると、今度はクウガが少女に尋ねた。

 

「……結界は? 9時になるまで、消えないんじゃなかったの?」

 

 昨日、彼女は言った。ザギバス・ゲゲルの際に張られる結界は、開始から4時間で消えると。だから、それまでの間は誰も立ち入ることは出来ないと。なのに……まっすぐ走ってきたら、すぐに彼女を見つけることができた。彼女の言う、結界と思われるものなど、どこにもなかったのだ。

 そんなクウガの疑問に、少女はさらっと答えた。

 

「そんなの……嘘だよ」

「……へ?」

 

 嘘? え、ええっ!?

 

「う、嘘だったの!?」

「うん。嘘だよ、大嘘」

 

 そんな……完全に騙された。いや、クウガは疑ってすらいなかった。だってあの少女が。純粋で、嘘を言えないような素直な性格をしているあの少女が嘘を言うなんて、思いもしなかったのだから。

 

「嘘ついて、ごめんね。でもああでも言わないと、クウガは来ちゃうでしょ?……私と一緒に、ダグバを倒すために」

「!」

 

 そこでクウガは、彼女が言おうとしていたことが、思っていたことがわかった。確かに……彼女の言う通りだ。もし彼女が結界の話をしなければ、間違いなく加勢をしていただろう。彼女の願いをより確実に叶えられるように。今だって少し早めに来たのは、一通りの人たちに挨拶を済ませて時間が余り、あとはもうここに来るだけだったし、もし結界を無理矢理壊すことさえできれば、彼女を助けられると思ったからだ。

 申し訳なさそうな顔で、少女は続ける。

 

「どうしても……どうしてもクウガを、ダグバと戦わせたくなかったんだ。あんな奴と……あんな、戦いを楽しむような奴と、戦わせたくなかった。あんな怖い戦いを、クウガにさせたくなかった」

 

 おやっさんが言っていた。彼女はみのりから、自分のことについて聞いていたと。そして……自分が暴力を振るうことが嫌いだと聞いて、涙を流していたということを。だから……戦わせたくなかったんだ。第0号と……ダグバと。

 彼女の話を聞くに、第0号である『ダグバ』と呼ばれる存在は戦いを楽しみ、しかもよほどの恐怖を植え付けるような奴だったらしいし……なるほど。確かに、そんな奴と戦うのは精神的にきつい。それに……そんな戦いをした後じゃあ、彼女の願いを叶える余裕なんてなかっただろう。

 本当に、本当にいい子なんだ、あの子は。他人を思って涙を流せて、素直で、気遣いもできて……とってもいい子なのに……。

 

「私はダグバを殺した。ザギバス・ゲゲルに勝利して、新しい究極の闇をもたらす者になった。……約束を果たしたよ。今度は、クウガが約束を……ううん。私のお願いを叶える番」

 

 そんないい子を、今から自分は……ッ。

 拳を強く握って震えるクウガ。それを見た少女は、本当に申し訳なさそうな顔を一瞬だけ作って目を閉じ……そして、覚悟が決まったように目を開いてクウガを見据え、右手を自分の胸に置き、自分の願いを告げた。

 

 

「さぁ、クウガ。――私を倒して、ね?」

 

 

 途端、真っ白な光を発光させて少女の身体は変化していく。

 145cm程度だった身長は急成長して194cmまで伸び、年相応の慎ましかった胸もその身体の変化に合わせて膨らみを増し、少し白かった肌は真っ白に変色する。胸を隠すための鎧とロングスカートも真っ白であるが、その輪郭をなぞるように金色のラインが引かれている。それ以外の装飾品は両肩と両手首にある金色の鎧と、金のバックルが取り付けられているベルトしかない。エメラルドグリーンだった瞳も輝く金色に変色し、額の中央からは雷のような形をした4つの金色の角が前髪のように30度上の角度で左右対称に生え揃い、セミロング程度まで伸ばしていた後ろ髪は、1つに纏められてポニーテールと化している。

 

「私はン・ユニゴ・ゼダ。おいで、クウガ。来ないなら――私から、行くよ」

「!」

 

 名前を名乗った少女、ン・ユニゴ・ゼダは……何一つ、音を立てることなくクウガの前に現れた。『ン』となったユニゴのスピードは、あのダグバですら反応できなかったほどに素早い。クウガからしたら、きっと遠くに離れていたユニゴが、自分の目の前にズームしてきたように感じただろう。

 

「おいで」

 

 しかし、クウガの真ん前まで移動したユニゴは何もしない。せっかく先制攻撃を仕掛けられるチャンスをものにしたというのに、自慢の蹴りを入れるどころか、指1本もクウガに触れていない。触れようともしない。ただただ、自分に攻撃させようとクウガを挑発するだけだ。

 

「……っ。ハアァァッ!!」

 

 少し俯いて何かと葛藤したクウガであったが意を決して、握り拳を作った右腕を引き、そして……ドガンッ! その拳をユニゴの腹に突き刺した。パンチ力80トンという軽戦車と同じくらいの重量を誇るクウガのパンチ。これだけならダグバのものと何ら変わりない。しかし……。

 

「……! うっ!」

 

 一撃をもらったユニゴは身体を少しだけ跳ねさせて呻き、真っ赤な鮮血で雪を染める。パンチを喰らった彼女の腹には……アメイジングマイティキックを決めた後にガドルの身体に浮かび上がったものと同等か、それ以上の大きさの封印のリント文字が浮かび上がった。

 クウガの最強の形態、『アルティメットフォーム』。 このフォームの恐ろしいところは、全身からの封印エネルギーの放出だ。

 例えば基本形態であるマイティフォームを例にしよう。唯一武器を使用せず、マイティキックだけでグロンギたちを倒してきたマイティフォームには右足内部にのみ、とある血管状組織が存在していた。クウガはこの血管状組織に封印エネルギーを溜めて、そしてそれをグロンギの怪人たちにぶつけることによって封印エネルギーを身体の中に無理矢理注入していたのだ。これは他の、どのフォームでも同じだ。

 しかし……この究極の姿であるアルティメットフォームでは、なんとその血管状組織が発達して全身を彩っている。他のフォームで必殺技を放つ時のみ放出されていた封印エネルギーを、全身から放出できるようになっているのだ。つまり、ただの体当たりやパンチといった何の変哲もない通常攻撃だけで、必殺技と同様の効果を発揮することができるのだ。

 

「……流石、ダグバをモデルにしただけのことはあるね……」

 

 アメイジングマイティキック以上の封印エネルギーを叩き込まれたユニゴは少し身体を傾けさせて、殴られた腹を擦る。……と、封印のリント文字がすぐに消えていった。

 

「でも、これは効かない。もっと、おいで」

 

 ダメージはきっちり受けている。ただ、致命傷に至るには程遠いだけなのだ。ユニゴの防御力はダグバ以上。華奢ながらも頑丈な身体と、あらゆる攻撃に適応する適応能力によってすぐに体は元の状態に戻る。もうユニゴは、適応能力によって身体を作り替えることはしていない。ダグバにできたことをクウガにできないはずがないと見越して、今はただ、自分の身体を元に戻すことだけに集中させていた。だから足りない。

 

「く……はぁっ!」

 

 ドガッ、ドガンッ、ドガンッ!! どこか苦しそうに彼女の身体を殴り続けるクウガ。攻撃を喰らうたびにユニゴは身体を仰け反らせ、後ろへ、後ろへと下がり、封印のリント文字を浮き上がらせて行くが、やはり最終的にはそのすべてを掻き消し、傷も癒える。

 

「クウガ……もしかして、迷ってる?」

「……ッ」

「……やっぱり」

 

 一瞬だけ動揺したクウガを見て、ユニゴは溜息をついた。究極の存在となっても、クウガは自分らしさを捨てていない。五代みのりの兄である、五代雄介を見失っていない。まったく、どこまでも優しいな。こんなどうしようもない自分に対して、まだ非情になりきれていないなんて。本当に、戦うこと……いや、暴力を振るうことが嫌いなんだ。どんな相手に対しても……きっとダグバと戦わせても彼は、手を上げることを躊躇ってしまうのだろう。

 みんなの笑顔を守るために戦うといっても、周りがどれだけ雄介の雄姿を讃えて正当化しても、彼の中では大嫌いな暴力を振るっていることとなにも変わらないんだ。……そんな優しい彼に、そんな彼だとわかっているのに、なんてお願い事を叶えさせようとしているのだろう自分は。酷い女だ。

 でもきっと彼でなければ、自分を倒すことができない。殺せない。もう、自分以外のグロンギは全滅してしまった。完全な『究極体』となってしまった今、神経断裂弾も碌に効果が表れることはない。神経断裂弾はモーフィングパワーには対抗できない兵器だからだ。

 

「昨日、言ったよね。私はあなたの敵、って。ダグバに代わって『究極の闇をもたらす者』になった私を放っておいたら、どうなると思う?」

 

 だから……ユニゴは煽る。少しでも自分を倒すことへの抵抗を消すために。クウガの暴力を正当化させて気を楽にしてもらうために。ただし、彼が自分に代わって究極の闇をもたらす生物兵器にならないように上手に調節しながら。人間心理学をマスターしている彼女にとって、ちょっとした心理誘導をするのは容易いことだ。

 人間の心を理解してしまった彼女の中にあるのは、何人もの人間を殺害してしまったことに対する後悔と、誰よりも優しい心を持ったクウガに対する罪悪感だけだ。『殺人』という、もう後戻りができない罪を少しでも償うには、自分が死ぬしかない。でも自殺なんて、逃げるような方法で死ぬのは許さない。人間かクウガに、殺される。人間に近くなったといっても、まだグロンギとしての感性も少しだけ残っているユニゴらしい、償い方だった。

 

「…………」

 

 一方、クウガはユニゴの言葉の真意よりも、彼女が言ったことについてを考えるので頭がいっぱいだった。もし彼女をこのまま放っておいたらどうなるか。『究極の闇をもたらす者』としての力を覚醒させ、第0号との戦いを勝利に収めた彼女を倒さずに生かしておいたらどうなってしまうのか。

 ユニゴに限って、自分の意思で人間を殺すことはありえないだろう。……だけどもし、なにかのはずみで理性が崩壊し、『究極の闇をもたらす者』となってしまったら……きっと彼女は生物兵器に成り下がってしまう。自分だって、そのリスクを承知でアルティメットフォームになったのだ。『究極体』となったユニゴもまた、暴走と隣り合わせのリスクを背負っているに違いはなかった。

 

 

「クウガ、お願いだから……私にこれ以上、リントを殺させないで」

 

 

 黙って立ち尽くしているクウガを見て、きっと自分を放置したらどうなるかを考えているのだろうと判断したユニゴは、ついにとどめのセリフを口から出した。もう、これを聞いてしまったらクウガは決心を固めるしかない。彼は誓ったのだ。みんなの笑顔を守ると。もうこんな悲しい戦いは終わらせると。そして、自身の罪を認めて深く後悔しているユニゴの手をこれ以上汚させたくないと。もう苦しませたくないと。

 自分の手で、それらを実現させられるのなら……。彼女の本心と覚悟を受け取ったクウガは、後ろに3mほど下がって充分な距離を確保し始める。

 椿は言っていた。第46号ことユニゴと戦う場合は一撃で仕留めなければもう二度と通用しなくなると。ならば、最強の技で一気に圧すしかない。彼女の身体が適応する前に倒す。

 

「……そう。それで、いい……」

 

 ようやく、やる気になってくれたことを素直に喜んだユニゴは力を込め、胸を前に出して腕を引き、構える。(ここ)を狙えと雄弁に語っていた。

 

「来て、クウガ。終わりにしよう」

「……っ。はあぁぁぁっ!」

 

 最後の引き金を引いたユニゴの言葉で、クウガは彼女に向かって駆ける。全身に放出していた全ての封印エネルギーを両脚に集中させ、様々な感情が混ざり合う叫び声をあげてユニゴとの戦いを終わらせるために、白い雪の積もる地面を蹴って走る。

 今までの経験で一番距離的に丁度のいいところでジャンプをして、空中で一回転。

 

「おりゃあああぁぁぁぁ――っっ!!!」

 

 気合の入った声をあげて、両脚を前に出し……ユニゴの胸にアルティメットキックを炸裂させた。

 

「うぐぅっっ!!!」

 

 今まで経験したことのない衝撃とダメージ、そしてこれでもかと言うほどの封印エネルギーを真正面から受け、構えていたユニゴは地面に足をつけたまま10mほど後ろに下がる。

 

「うあ……あ……」

 

 アルティメットキックを喰らった痛みと、大量に身体の中に流れ込む封印エネルギーの影響で身体を傾けびくりっ、びくりっと痙攣させるユニゴはクウガを見て……右手人差し指を立てた。

 

「も、もう……1回……ッ」

「え……」

「いいからッ! もう1回、やってッ! 間に合わなくなるからッ!」

「!」

 

 ……なんと。アルティメットキックを真正面から喰らって大ダメージを受けても、ユニゴは耐えることができてしまった。致死量まで届かなかった。予想以上にユニゴの身体は頑丈だった。

 ただ効果はしっかり現れており、今も彼女は大量の封印エネルギーに苦しめられている。適応し、治るには時間がかかるのだ。だから……適応しきる前にもう一度同じ攻撃をしてくれと申し出た。

 首を縦に振って応じたクウガは、また両足に力を籠める。今度はさっきの距離のおよそ倍を走るために、両足に溜まる封印エネルギーの量も多くなる。ジャンプの飛距離も高くなり、威力は倍以上にまで跳ね上がった。

 

「おりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――っっっ!!!!!!」

 

 それに呼応してか、一撃目の際に上げた気合を込めた叫び声も大きくなり、九郎ヶ岳遺跡全体に響き渡った。そしてもう一度、アルティメットキックを撃ち込んだ胸に、封印エネルギーを込めた両足を突き刺す。一瞬だけ、キックを受けたユニゴの胸元から血飛沫が舞った。

 

「うあああぁぁぁぁッッ!!!」

 

 今度は一撃目のときと違って衝撃に耐えられなくなり、ほとんど一直線に蹴り飛ばされてしまい……九郎ヶ岳遺跡の岩に激突した。ぶつかった岩はまるで爆弾が爆発したかのようなけたたましい音を立てて崩れ、ユニゴの身体はその粉々になった岩の中へと埋まる。

 蹴り飛ばしたユニゴがいる場所をじっと見つめるクウガ。すぐに状況は動いた。真っ白なユニゴの手が崩れた岩を掴み、そこを支点として、彼女は身体を起き上がらせる。何とか2本足で立ち上がり、痛みに震えながらも少しずつ前に歩き出すユニゴ。

 

「……うっ! あ、あうぅ……っ」

 

 瓦礫の中から何とか抜け出したところで、彼女の身体は大きく震え、倒れないように足を内股にし、

 

「あ……あっ……う、うぅ……」

 

 2回のアルティメットキックを受けた自身の胸に両手を当てて「うっ……ううっ」と苦痛に悶える声を数回繰り返して身体を上下に動かして、胸に当てていた両手を離すと……彼女の胸の中央に、巨大な封印のリント文字が浮かび上がってしまっていた。今度のものは今までのものとは違う。いつまで経っても消える雰囲気がないばかりか、むしろその文字の輝きは強くなっていく。

 

「うわっ……ううあっ……」

 

 胸に刻まれた封印のリント文字から下半身に向かって、少しずつ身体に亀裂ができていく。ジリジリと、進攻するスピードはこれまでのグロンギ達と比べてかなり遅い。頑丈すぎる体質と、無意識のうちに発動している適応能力のせいで自分の身体を蝕む封印エネルギーをなんとかして食い止めようとしているからだ。だが食い止めようにも、身体に撃ち込められた封印エネルギーの量はあまりにも多すぎた。彼女の能力、そして身体の適応範囲を軽くオーバーしてしまっていた。能力で作り出している抗体も次々と破壊され、確実に広まっていく身体の亀裂。その亀裂の中を駆け巡り、さらに亀裂を作っていく封印エネルギーはどんどん彼女の下半身に向かって進んでいき……

 

「あうッ!!」

 

 ついに、彼女の急所――腰に巻かれているベルトの中心部分で金色に輝く、グロンギ族の紋章であるバックルに到達した。

 

 

 

 

     ――To be continued…


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