仮面ライダークウガ-白の執行者-【完結】   作:スパークリング

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はい、こんにちは。というかこんばんは。

ぎりぎり今日中に投稿できました。
ちょっと後半のバトルに集中しすぎて、直前のとある2人のやり取りが雑になってしまったような気がします。あとで直せるところは直しておきますね。

さて……そろそろタイトルの『白の執行者』の意味がわかると思います。
それではどうぞ。


第27話 『進化』

 午後5時28分。

 長野県、城南大学考古学研究室。

 

「雨、早くやまないかな……」

 

 激しい雨の降る外をぼんやりと眺めながら、桜子は呟く。昨日の夕方から突然降り出した豪雨の勢いは治まることを知らず、地面に叩きつけて五月蠅い水音を奏でている。と、そのとき。

 

「……!」

 

 聞き覚えのあるバイクの音が耳に飛び込んできた。しかも音がどんどん大きくなってくる。この城南大学のほうに近づいてきている。まさかと思った桜子は下の地面のほうを見る。と、そこには、予想通り1台のバイクが走ってきていた。あの独特のデザインのバイク……ビートチェイサー2000に乗っている人間なんて、桜子の知る限り1人しかいない。

 少しでも早く、あのバイクに乗っている彼に会いたいという気持ちに駆られ、白い傘を片手に研究室を飛び出した。3階から2階、2階から1階と走って駆け下り、校舎口で傘を広げて外に出ると……そこには、バイクを適当な場所においてエンジンを切っている彼が立っていた。バシャバシャと地に足をつくたびに水音を鳴らしていたせいか、彼も自分に気付いて、

 

「やぁ」

 

 ヘルメットの中の、満面の笑顔を彼……五代雄介は自分に見せてくれた。雄介は第46号や第47号の事件で忙しく、桜子は碑文の解析に苦戦していたために、電話で連絡は取り合っても会うことは出来なかった。だからこうして、久しぶりに元気そうな雄介に会えたのが嬉しくて、桜子もまた笑顔で彼を迎える。

 しばらくの間、そのまま見つめて笑顔を向けあう2人。桜子のほうが先に、「ここじゃ濡れちゃうから」と切り出して、雨の雫が当たらない校舎口まで移動した。

 

「…………」

「…………」

 

 さて、移動してそれぞれ傘を閉じ、ヘルメットを取ったのはいいが、ここから先の会話が続かない。会うのが久しぶりすぎて、そしてこれから言おうとしている内容が少しだけ重くて、気まずくなってきたのだ。

 

「五代くん」

「桜子さん」

「「あ……」」

 

 ようやく話をしようと思ったらこれだ。今度は2人して同時に呼び掛けてしまい、可笑しくなってあははと笑う。雄介が桜子に「どうぞ」と手で合図を送って、笑い終えた桜子は本題に入った。

 

「もう、終わるんだよね。この未確認の事件」

「……うん」

「そっか……そうだよね」

 

 「だって昨日、電話で言ってたもんね」と桜子は笑った。しかし、すぐにその笑顔は消えて、寂しそうな表情を作る。……もうこれで、桜子が何を思っているのかが、雄介に伝わった。雄介もまた、本題を切り出す。

 

「この事件を解決したら……そのまま冒険に出る。それから……もしかしたら、なっちゃうかもしれない『凄まじき戦士』に」

「……だと思った」

「……さすが」

 

 やっぱり自分の考えていること、桜子さんにはバレバレだなぁと雄介は苦笑した。

 

みんな(・・・)の笑顔、守りたいんだもんね」

「……うん」

「でも……聖なる泉は、枯れ果てさせちゃだめだよ?

「……うん」

「それから、太陽を闇に葬ったりしないこと」

「……うん」

「それから――」

 

 ピィーッ! 桜子が言葉を紡ごうとした瞬間、ビートチェイサーの無線が鳴った。桜子とビートチェイサーを交互に見た雄介。桜子は顔を下に向ける。「行っていいよ」と、雄弁に語っているように見えた雄介は、ビートチェイサーに向かって走って、「はい!」と呼びかけた。

 

『五代』

 

 通信をしてきたのは一条だった。

 

『九郎ヶ岳遺跡で、不自然な大きな落雷が起こっている』

「九郎ヶ岳遺跡……!」

 

 すぐにそこで何が行われているのかを察した雄介。

 九郎ヶ岳遺跡。全てが始まった場所であり……、

 

 ――明日の9時、思い出の地……九郎ヶ岳遺跡に来て。

 

 昨日ユニゴが指定した、待ち合わせ場所だった。ということは、その落雷の原因は……

 

「わかりました! すぐに向かいます!」

『ああ。俺もすぐに急行する。現地で合流しよう』

「はい!」

 

 通信はそこで切れた。申し訳なさそうな顔をして桜子のほうを見る雄介だが、その桜子は笑っていた。

 

「行くんだね?」

「……うん!」

「行ってらっしゃい!」

「行ってくる!」

「頑張ってね!」

「頑張る!」

 

 グッと、桜子にサムズアップを笑顔でする雄介は「じゃあね!」と言ってヘルメットを被り、ビートチェイサーのエンジンをかけた。独特のエンジン音を鳴らし始めたビートチェイサーを雄介は180度回転させて、そのまま走っていく。目指すは思い出の地、九郎ヶ岳遺跡。ここからなら3時間で到着する距離だ。待ち合わせよりも早いけど、早いに越したことはない。それにもしかしたら、ユニゴの言う結界とやらを破って乱入できるかもしれない。

 急ごう。その一心で、ビートチェイサーの最大速度を遠慮なく出して向かっていった。

 

「絶対絶対、頑張ってね! 窓の鍵……開けとくから……」

 

 雨の中、雄介の姿が見えなくなるまで傘も差さずに走っていた桜子は、グッとサムズアップを決めていた。

 

 

     ――――・――――・――――

 

 

 ……時刻は午後7時23分。

 九郎ヶ岳遺跡頂上。

 ン・ダグバ・ゼバとラ・ユニゴ・ダのザギバス・ゲゲルが始まってから2時間半が経過しようとしていた。状況は……。

 

「ほら、どうしたの? これでお終いじゃないでしょ?」

「ぐっ……。はぁ……はぁ……っ」

 

 傷1つ負っていないダグバが、肩で息をしているユニゴに無邪気な声で問いかける。

 戦いは一方的だった。

 超自然発火能力の耐性は1時間かけてようやく完成したユニゴであるが、攻撃を仕掛けるために接近すると雷を落としてきて碌に近づけもしない。運よく躱したとしても、今度はダグバによる無慈悲な肉弾戦がスタートする。蹴りを入れて反撃しようにも瞬間移動で避けられ、その隙に自分が殴られ、そして蹴り飛ばされる。様子を窺って距離を取っていても瞬間移動で接近し、再び暴力の嵐だ。

 ダグバの攻撃や雷を何回も受け続け、身体がどんどんそれに対応しようと作り替わっていき、ようやく慣れてはきたが、2時間半も地獄の攻撃が続いたこともあり、ユニゴの体力は既に限界を越えてしまっていた。

 

「うーん、なんだか面白くなくなってきちゃったなぁ……」

 

 いまだに一発も攻撃を喰らっていないダグバはがっかりしたような声を上げる。飽きてしまったのだ。

 耐性を身につけてくれているのはいいのだが、疲労のせいで動きが鈍くなってきているユニゴは、もはや満身創痍。脚は震え、鎧は歪み、ロングスカートはもうボロボロだ。雷撃体となって強化された適応能力のおかげで、破損されては修復を繰り返しているベルトのバックルは、辛うじてその形を維持させることは出来ているが、もう限界まで来ている。ダグバの本気の一撃(・・・・・)を一発でも喰らってしまったら完全に破壊され、修復不可能になってしまうだろう。そうなってしまったら、ユニゴはもうお終いだ。全ての力を失い、絶命してしまう。そこまで追い詰められてしまっている。

 かつて自分のベルトの一部を横領して究極体となったゴオマとは違い、自分の力と能力のみでここまで攻撃を耐えてきてくれたユニゴ。本気でないとはいえ、ここまで()ったのは彼女が初めてだ。大事に、大事に甚振って、自分と同じくらいになるまで強くなってから、本気を出してサクッと殺したい。それがダグバの願望だった。

 さてどうしよう。これじゃあユニゴは強くなるどころか、本格的にダメになってしまいそうだ。殺して「楽しい」と思えなければ意味がない。ただの人間(リント)だったら苦しむ姿を見るだけで楽しいからそれでいいのだが、今自分の前にいるのは貴重な遊び相手(ユニゴ)だ。

 

「もっと手加減したほうが良いのかな?」

 

 どうすれば強くなってくれるのか、そして、どうすれば待っている間に自分が楽しい思いを出来るかを考え始めるダグバ。

 せっかく超自然発火能力を耐え切れるようになってくれたんだから、あえてそれだけに縛ってみようか。

 いや、身体を組み替えてくれたのだから、その身体を燃やすにはどうすればいいかを実験してみるのも面白そうだ。

 暴力を振るって喘ぎ声を聞くのもなかなかだ。ユニゴは可愛い声をしているし、何かの拍子に変身が解除されて人間態に戻ってくれれば、金髪碧眼スタイル抜群美少女の断末魔を聞くことができる。そんな傷だらけの彼女に雷を落としたらどうなるんだろう? 悪くない。

 うーん、それからそれから……。

 

「これ以上の手加減なんか……いらない……!」

 

 痛めつけ方を楽しそうに考えているダグバをギンッと睨み付けるユニゴ。余裕綽々な態度のダグバに腹が立ったのもそうだが、何よりこれ以上手加減してくれては困るのだ。もう少しで……あと、もう少しであの力に届こうとしているのに、ここでやめてもらっては身体が()たない。この2時間半が無駄になってしまう。変なことを言ってしまうが、後もう少しこのペースで甚振ってもらわないと、ユニゴの企てたダグバ打倒への道は完全に閉ざされてしまうのだ。この『本気でないけど手加減過ぎない程度の充分すぎる苦痛』を喰らうことが、ユニゴにとって重要なことだった。

 

「ふーん……」

 

 ユニゴの返事を聞いて、ダグバは嬉しそうに笑った。なにを企んでいるのかは知らないが、この調子で攻め続ければいいというのだからダグバにとって楽なことはないし、彼女を見るに何か策があるらしい。決してハッタリではなさそうだ。だって彼女が嘘なんてつけないような正直すぎる性格をしていることを、ダグバは知っているのだから。面白いな。早くそれを見てみたいな。今すぐにね。そしてそんなユニゴを殺したいな。

 

「わかったよ。じゃあ今まで通りやるから。途中で死んじゃったらいやだよ?」

 

 彼女の掌の上で踊らされることは承知で、ダグバは考えるのをやめた。そもそもダグバは考えながら戦うようなタイプではない。単純なことが一番。楽しければそれでいい。それがダグバなのだ。

 キッと、殺意を込めた視線をダグバに向けるユニゴ。常人なら向けられた瞬間に卒倒しそうな迫力があるが、ダグバにとっては自分を興奮させるスパイスでしかない。

 

「ウラアアアァァァァ――――ッッッ!!!!!」

 

 両拳を固く握り締めて豊満な胸を前に出し、空に向かって咆哮を上げるユニゴ。それはまるで、何かを守るために強敵に立ち向かうべく雄叫びをあげる、勇敢なるユニコーンのようだ。

 その咆哮は彼女に向かって降ってくる横薙ぎの吹雪をダグバの立っているほうへと、風に逆らって吹き飛ばすほどに、彼女の足元の雪を全て蒸発させて茶色い地面を晒してしまうほどに強く、そして凛々しいものであった。

 瞬間、ユニゴのバックルから一気に電流……否、稲妻が迸り、全身を包み込んでいく。しかしそれは、彼女が疲労したことによって力が暴走しているわけではない。彼女自身が『適応能力』を最大限まで使って、自分の身体そのものを大幅に作り替えようとしているのだ。時は既に、満ちている。

 

「……!」

 

 ダグバは少しだけ驚いた。本当に進化しようとしている。しかもこの力の波動は……間違いない。自分が『ン』となったときの、あのときと全く同じ絶大な力の波動だ。今彼女は、それを手に入れようとしている。ただし……。

 その引き金は、ダグバの手の中にある。彼女が進化できるか、できないかはダグバ次第だ。

 普通なら進化などさせないだろう。こんな生きるか死ぬかがはっきりしている真剣勝負の場で、塩どころか炊き立ての白米を敵に送るような物好きは、普通はいない。……そう、普通は。

 

「いいね! いいね! いいよ、ユニゴ! アレをすればいいんでしょ! やってあげるよ!」

 

 だけど、このダグバは普通ではない。わざわざ自分と戦うために『雷撃体』という特殊な形態を習得してくれて(・・・)、手加減といってもこのン・ダグバ・ゼバの攻撃を全て耐えきってくれて(・・・)、そしてあろうことか、彼女自身の運命すら自分の手に委ねてくれて(・・・)いる。

 面白い、面白い。どこまでも面白い。ここまで愉快な思いをしたのは初めてだ。しかもまだまだ、自分を楽しませようとしている。身体そのものを彼女自身が壊し、組み換え、再構築し、次のステージへ向かって走ろうとしている。

 全てはこのダグバを殺すため。過去の彼女からは予想もつかないほどの、強すぎる殺意と敵意を剥き出しにしてくれて(・・・)いる。

 いいぞユニゴ、もっとだ。

 もっと殺意を抱け。

 そして僕にくれ。

 君の殺意、敵意、その他すべての負の感情をくれ。

 君の殺意は、敵意は、すべてこの僕のものだ。

 誰にも譲ってやるもんか。

 そして、そのすべてを受け取ったら、殺したい。

 いや、殺す。

 それか、そのすべてをくれたら、喜んで殺されよう。

 いや、殺せ。

 殺したい、殺す、殺されたい、殺せ、殺したい、殺す、殺されたい、殺せ、殺したい、殺す、殺されたい、殺せ。この4つの言葉だけが、今のダグバの脳内に駆け回っている。

 

「行くよ、ユニゴ!」

 

 ダグバが空に向けて手をかざした瞬間――真黒な雷雲がカッと光らせ、今までユニゴに落としてきた以上の電流が流れる雷を落とした。当然、落とす先はユニゴの頭だ。寸分たりとも狂いはしない。確実に、確実に彼女の脳天に直撃させる。

 荒れ狂う龍のごとく素早く、そして乱暴な軌道でユニゴの頭へと走る稲妻。ピシャアァンッという雷鳴が轟いた。

 

「――来たッ!」

 

 何回も受けて時間を計っていたユニゴは、どのタイミングで自分に雷が落とされるのかは掴んでいた。直撃するほんの刹那の間、ユニゴは自分の3本の角に力を集中させる。すると、雷のような形をした3本の角が輝き出した。

 ビリィッ、バチイィンッ! 電気に頬を平手打ちされたような音がしたとき、ユニゴに雷が直撃した。だが……今のユニゴは違う。

 確かに受けたことは受けた。しかし、ダメージは全くと言っていいほど受けていない。脳天に痛みも感じない。なぜか。それは、落ちてきた雷がすべて、ユニゴの3本の角に吸収されたからだ。ユニゴの頭全体に落ちるほどの巨大な雷だったが、その3本の角がまるで避雷針のような働きをして、雷全てをまるまる自分の体の中に取り込んでしまったのだ。……と。また彼女の身体に異変が起こる。

 バックルと3本の角が視界を塗り潰すほどの光を発生させ、それがユニゴの身体全体を覆う。その強すぎる閃光には流石のダグバも怯み、ユニゴを直視することができない。5秒ほど経ち、ようやく光が弱まっていき、改めて彼女のほうを見ると……。

 

「…………」

 

 そこには雷を全身に纏った、真っ白な存在が立っていた。

 

 

 

 

     ――To be continued…


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