仮面ライダークウガ-白の執行者-【完結】   作:スパークリング

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こんにちは。

今回は短いです。嵐の前の静けさ、みたいな感じでご鑑賞ください。
アンケートなのですが……反対意見が全くなかったので、そのままの書きかたでこれからも行きます。ご協力感謝します。


第23話 『決意』

 午後3時ジャスト。まだ太陽が昇っている時間だが、空は厚い黒雲が覆ってしまっているために光が届かず、辺りは少し暗くなってしまっている。

 世田谷区のとある雑木林。そこでは、未確認生命体第47号ことゴ・ガドル・バとクウガの戦いの第2ラウンドが始まっていた。

 両手を使って共に投げ合って地面を転がり、立ち上がり、また同時に攻撃を繰り出す。移動している最中、既にライジングマイティフォームにフォームチェンジをしていたクウガは、その渾身の右ストレートをガドルの左頬に、攻撃力が劇的に上がる紫の瞳を持つガドルの剛力体が繰り出した右ボディブローが、クウガの腹に突き刺さった。

 

「むっ!」

「ふむっ!」

 

 互いに鋭い痛みからくる衝撃で吹き飛び、自然と距離ができた。ゆっくりと立ち上がる2人。まだまだ戦えるぞ、という意思表示を無意識のうちにしているからか、動きは鈍くともどこか言葉にできない迫力があった。

 

おまえたちが作った力で(ゴラゲダヂグ ヅブダダヂバサゼ)殺してやる(ボソギセジャス)

 

 ガドルの身体に電流のようなものが走ると、その姿を変えていく。金色のボディに金色のバックル、そして金色の瞳を持つ『電撃体』へと。

 

「……! 金の力……」

 

 敵の身体の変化を見たクウガは、ユニゴの身に何が起こったのかがわかった。驚異的な防御力を誇っていたユニゴは、あのガドルの金の力に負けてしまったのだと。ただでさえ攻撃力が高かったガドルが自分と同じ雷の力を身につけて、そしてその攻撃を正面から直に受けてしまったら……いくら頑丈な彼女でも保たなかったのだろう。少しピクピクしていたのは、電流を一気に身体に流されてショックを受けてしまったからだ。ということは……今の自分も、アレを受けてしまったらお終いだ。

 すぐに理解したクウガは、少し後ろに下がって充分な距離を取り……ライジングマイティキックを決めるポーズを取る。それに伝導し、クウガの左足に金色に光る装甲が出現した。

 

「フンッ!」

 

 気合と殺気が入り混じった声を発すると、ガドルは前進に雷を纏いながらクウガに向かって走る。走って足が地に着くたびに、その足からバリッバリッと電流が流れた。

 来た! きっとアレが、ユニゴが受けた必殺の一撃だ! 直感でクウガはそう思った。アレをまともに受けてしまったらお終い。例え躱したとしてもきっとまた同じ攻撃を仕掛けてくるだろう、永遠に勝負がつかない。意味がない。ここでガドルを倒すには……こっちも迎え撃つしか、方法がない。

 

「……ハッ!」

 

 覚悟を決めたクウガも気合を入れて、構える……と。クウガの身体に変化が訪れる。

真っ赤なボディに一際大きい雷を纏うと、一瞬でその色が黒色に変わった。姿、形は先程までのライジングマイティフォームと全く同じなのに、身体の赤かった部分が全て黒に染まってしまったのだ。……否。一箇所だけ元のまま、赤い部分があった。

 それは目だった。真っ黒なボディになっても、目の色だけは燃えるような赤色に発光している。だがそんな自分の身体の変化など、クウガは気がついていない。それほどまでに、目の前の強敵に集中していた。どんどん迫ってくる敵に、こっちも負けじとその両足を駆け出すクウガ。

 互いに丁度良い位置まで走った後……やはり同時にジャンプ。

 

「フウゥンッ!!!」

「おりゃあああぁぁぁぁ――っっ!!!」

 

 それぞれ声を上げて敵にライダーキックを放ち……そして。

 

「っ!」

「っ!」

 

 それは、どちらも胸に受けた。どちらもクリティカルヒットしてしまった。その必殺の一撃を。蹴りを放った後、2人は地面に着地せずそのままの態勢で倒れこんだ。誰も居ないくらい林の中、しばしの間静寂が訪れる。

 両者共にとびきりの技を受けてしまったために気絶してしまったのか、はたまた死んでしまったのか、ぐったりと力なく身体を地面に投げ出している2人。

 

「…………」

 

 ザリッ。土に手を当てて、倒れていた2つの戦士のうちの1人が動いた。身体を動かせたのは……ガドルだ。意識が戻りゆっくりであるが、その金色の巨体をしっかりと2本足で支えて起き上がらせた。

 立ち上がったガドルは倒れているクウガを見て、近づく。もし生きていたら、今のうちに殺すためだ。

 一歩、二歩と、歩みを進めた……そのとき。

 

「……っ! んくっ!? んんっ!!」

 

 胸に……クウガのキックを受けた部分に両手を当てて、ガドルは突然苦しみ出した。何かに耐えようと、なんとかしてなにかを押し返そうと、苦悶の声を上げながらも胸に手を当てて力を込めるガドル。

 一瞬だけ動きが止まり、胸に当てていた手をどけると……そこには、巨大な封印のリント文字が2つ、浮き上がっていた。

 ガドルの声によって気がついたのか、今度はクウガも起き上がった。こちらは平然としていて、いつまで経っても身体に変化が来ない。多少のダメージは受けたようだが致死量とまでは行かなかったのだ。

 一方、いくら気合を入れて発散させようとしても、大量の封印エネルギーを身体の中に無理矢理入れられたガドルは封印のリント文字を中心として体中に皹が生じていく。上手く、身体の神経を再生させることもできない。直前に一条によって狙撃された新型の神経断裂弾が、ガドルの身体の再生能力を司る神経のほとんどを破壊してしまったからだ。本来なら互角のはずの攻撃が決定打になった原因がまさか、自分の殺害対象だった警察官(リントの戦士)の攻撃だったとは。ガドルは想像もしていなかっただろう。それでもなんとか耐えようとするガドルだが、身体の爆発は止まらず、ついに封印エネルギーが身体の核であるゲブロンが込められているバックルへと到達。バルバが事前に仕込んだ封印エネルギーが一気に身体に流れ出し……激しい獄炎を身体から放って大爆発を引き起こした。

 その爆発の威力は今までのグロンギたちとは比較にならず、直径10kmはあるであろう炎の柱となって空まで届き、それを覆っていた黒い雲を一瞬で消してしまう。遮っていた雲が晴れ、真冬の太陽らしい少し弱い光を爆発地点だけに照らすという、異常事態が起こっていた。

 

「……! こ、これは……」

 

 ガドルが爆発したことによって焦土となった雑木林に立ち尽くしたクウガは、ようやく自分の身体の変化に気がついた。ライジングマイティフォームとはまた違う新たなマイティフォーム……差し詰め、その驚くべき強烈な破壊力から命名して、『驚くべき(アメイジング)マイティフォーム』と言ったところか。これが、椿が雄介に行った二度目の電気ショックによって誕生した、新しい力だった。

 サクッ。自分の変化に驚いているクウガだったが、なにかが枯葉を踏んだような足音に気がついてその方を見る。

 

「……!」

 

 そこには、少女がいた。真っ白なワンピースに真っ白なヒールを履き、金色の懐中時計を首から垂らし、どこか悲しげな表情をしている金髪碧眼の少女が。そしてクウガは、その少女の名前を知っている。

 

「ユニゴ……!」

 

 「どうしてこんなところに?」という気持ちが乗せられたクウガは、彼女の名前を呟いた。目の前に立っている少女の名はユニゴ。たった今倒したガドルの前に『悪人』を3996人殺害するというゲームを行い、見事に成功させた未確認生命体第46号ことゴ・ユニゴ・ダ。今は昇格して、ラ・ユニゴ・ダとなっている。

 

「クウガ……ガドルを、倒せるようになった……凄い」

 

 一瞬、ガドルの敵を討つために来たと思ったクウガだが、その彼女の言葉と午前の行動を思い出してすぐに考えを改めた。じゃあ、一体、何をしに来たのであろうか。

 

「クウガ……安心して。もうこんなことは起こらないから」

「え……?」

 

 ユニゴの言っている言葉の意味がわからないクウガ。しかし、次にユニゴの言葉で、その意味を理解できた。

 

「これで、ゲリザギバス・ゲゲルに参加する者はいなくなった。だからもう、ゲゲルが行われることはない」

「!」

 

 そう。今のガドルがゲリザギバス・ゲゲルの最後のプレイヤー。それが倒された今、もう挑戦者はいない。挑戦者がいなければ、ゲゲルをしたくても出来ない。よって、ここでゲリザギバス・ゲゲルは終了。グロンギたちによる個別の大量殺戮ゲームは終結したのだ。

 しかしユニゴは「だけど……」と続けた。

 

「まもなく、ダグバによる究極の闇が始まる」

「……っ!」

 

 戦いが終わったと内心で喜んでいたクウガは『ダグバ』の名前を聞いて凍った。そうだ。自分が戦うと決意するきっかけとなった少女、夏目実加の父親を殺害し、この殺戮ゲームを開始させた張本人である黒幕、未確認生命体第0号こと『ダグバ』が、まだ姿を現していない。まだ、倒していない。

 

「このままじゃ、今以上のリントが殺される。やろうと思えば、ダグバは1日も経たさないうちに世界は滅ぼせる。……でも、安心して。究極の闇は、発動させない」

 

 瞑目したユニゴはすうっと小さく息を吐いて、そのエメラルドグリーンの瞳をクウガに向けた。その瞳にはなにか、大きな決意を固めたような力強さが篭っていた。

 

「――私が、ダグバと戦う」

 

 「えっ!?」と、クウガは驚いた。生き抜くために、ダグバに殺されないようにゲゲルを行い、目的を達成して無事に昇格したはずのユニゴが、自分からダグバと戦うと言い出すなんて、予想していなかったからだ。

 ユニゴは続ける。

 

「私は……ザギバス・ゲゲルへと進む。そしてダグバを倒す。そうすれば、究極の闇が永遠に行われることはない」

「そんな……だってユニゴ、このままいれば生きられるんだろ!? だったら俺に任せ――」

「そうは、行かない」

 

 どこか諦めてしまって、それを受け入れたようにユニゴは語る。

 

「私、ダグバに目を付けられてるから」

「っ!」

「意地でも、ダグバは私と戦いたいみたい」

「そんな……」

 

 「酷い」。クウガは素直にそう、思った。ただ生きようと必死だったユニゴを、自分の身勝手で強制的に巻き込むなんて……。ショックと怒りが静かにクウガの中に溜まる。

 

「結局、究極の闇の発動中に私は、ダグバと戦うことになる。だったら、究極の闇を発動させる前に、ダグバとザギバス・ゲゲルをしたほうがいい。そうすれば、時間は稼げるし……リントも、死なずに済む」

「だったら俺も戦う! 君1人で、戦わせはしない!」

「…………」

 

 どこまでもお人好しなんだからと、ユニゴは心の中で思う。自分の勝手で傷つけるようなことをいっぱいしたのに、それでもなお、自分のことを心配してくれる。手を差し出してくれる。人間(リント)とは、とても不思議な生物だった。

 

「無理、だよ。ザギバス・ゲゲルが発動すると、周りに結界が張られる。いくらクウガでも、それを破るのは無理。1対1。それがザギバス・ゲゲルのルール。どちらかが死ぬまで、介入できない」

 

 グロンギ族の頂点を決める『ファイナルゲーム(ザギバス・ゲゲル)』。それはあくまでも崇高な儀式であり、他者の介入は絶対に許されない。助けに行きたくても、助けることはできないのだ。

 

「大丈夫。私は負けない。新しい力も、手に入れた。――絶対に、勝つから」

 

 強い言葉を使うユニゴ。まるで本当に、心配をかけたくないように、クウガを……雄介を気遣うように静かに透き通った声で、彼女は言った。

 実はといえば、勝ち筋なんて全く見えていないし、勝てる見込みもない。新しい力がどこまでダグバに通じるかもわからない。だけど、それでもなんとか雄介を安心させようと平気そうな顔を作って、丁寧に言葉を紡いでいるのだ。

 

「クウガ。願い事、1つ。私が勝利したら、そのときは――」

 

 

 

 

     ――To be continued…


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