仮面ライダークウガ-白の執行者-【完結】   作:スパークリング

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遅くなりました。

ついに主要人物たちの中から……


第20話 『変質』

 時刻は午後2時10分。

 世田谷区駒沢のセントラルアリーナ。

 『ゴ集団』のリーダーであり最後のゲリザギバス・ゲゲルの挑戦者、ゴ・ガドル・バと、『ラ集団』の実力者、ラ・ドルド・グの一騎打ちが始まってから既に2時間が経過していた。

 戦いはドルドが押していた。ダグバを除いたグロンギ最速のスピードを生かし、更に直線でなく変則的な飛び方をして相手を翻弄させ、両手に握るトンファーと、空中キックで攻めるドルド。これではいくら強力なパワーを誇るガドルもどうすることもできず、終始ドルドの攻撃を受けては吹き飛ばされ、そして運がいいときはギリギリでかわしていた。

 

「…………」

 

 倒れた身体を起き上がらせるガドル。2時間も攻撃を受け続けているが、まだまだ余裕そうだ。伊達に剛力体となったユニゴの蹴りを受けきったわけではない。彼女に次いでガドルもまた、防御力は高いのだ。しかし、ダメージを確実に喰らっていることは間違いない。少しずつであるが、ガドルの反応が鈍くなっているからだ。

 

「…………」

 

 それを感じ取ったドルドは攻撃を続行。いくら強靭な肉体と体力を誇るガドルであっても、そろそろ限界が来ていると思ったからだ。

 ガドルの背後に素早く回り込み、接近。強烈な蹴りをお見舞いしようとする……が。

 

「……ふんっ!」

 

 突然ガドルが自分のほうに振り返り、右手を伸ばしてきた。

 

「っ!」

 

 それに驚き、同時に左翼から痛みが生じたドルドは攻撃を中断。そのままガドルの横を通り過ぎて、着地した。

 翼を押さえながらガドルの方を見ると、ガドルの右手には自身の黒い翼が握られていた。引き千切られたのだ、翼を。あの一瞬で。そこでドルドは気が付いた。ガドルの反応が鈍くなったのはダメージが蓄積されたせいではない。自分のスピードや攻撃パターンを分析するために、そして身体がそれに着いて行けるようにするために、わざと攻撃を受けていただけだと。

 

「うーむ……」

 

 流石と思いつつも、攻撃が通ったということはガドルが自分の攻撃に対してコツを掴んだということ。ユニゴではないが、自分の攻撃パターンに対して完全に適応されてしまったということだ。しかも翼を捥がれてしまい、先程までの速度を出すことも出来ない。つまり……この時点で、ドルドは詰んでしまったのだ。命は惜しいのだろうドルドはガドルに背を向けて、逃走した。

 

「リントの……戦士の匂いがする。クウガも、だ」

 

 ドルドを追いかけようとしたガドルに、後ろのエスカレーターから現れたバルバが呼び止める。振り向いてバルバを見たガドルだが、既にバルバはガドルを見ていない。バルバのその視線は、少し遠く、いずれここにくるであろう、ドルドを汚したリントの戦士を見据えていた。

 

 

     ――――・――――・――――

 

 

 同時刻。

 一条たちがセントラルアリーナに到着してから1時間が経過しようとしていたとき、1台のこちらへ向かってくる車の音が轟いた。

 

「来たか!」

 

 ここら一帯の避難を完了させ、ここに向かってくる道全てを規制したために、一般車両が入ってこられるはずがない。と、なれば、ここへ向かってくる車は警察関係者が乗っている車だということ。このタイミングでここに来る理由など、1つしかない。

 外に出た杉田は両腕を大きく振る。一条のものとは違った黒い覆面パトカーはその合図に気が付いて静かに停まった。

 一条と桜井、雄介もそれを見て『神経断裂弾』が届いたことを悟って杉田の元へ来た。全員集まったところでようやく準備ができたのか、中に乗っていた警察官が3丁のライフルを両手に抱えて車から降りた。

 

「新型の神経断裂弾、確かにお届けしました!」

「これが……新型神経断裂弾、ですか?」

 

 第46号のときに使ったものは普通の拳銃に収まる程度の弾だったのに、いきなりライフルを渡された桜井は少し戸惑ってしまった。それに対して、持って来た警察官は「はい!」と答えて続けた。

 

「短くですが説明するように、榎田博士から伝言を預かっております。今お渡ししました、新型神経断裂弾の威力は、第46号に対して使ったもののおよそ3倍です」

「さ、3倍!?」

 

 思わず声を上げてしまったのは一条だ。神経断裂弾の威力は、使用した一条が一番良く理解していた。もし6発、全てのリボルバーに弾が込められていたら第46号を倒すことができたと思わせるほどのダメージを与えた神経断裂弾。その力がいきなり3倍に膨れ上がったのだから、それは驚くだろう。

 

「ですが強力な反面、弾はライフル式の物でないとならないと……ですので、それぞれ2発ずつしか込められていません! 注意して、ご使用なさってください、とのことです!」

「わかりました。ご苦労様です!」

「ご苦労さん!」

「ご苦労様!」

「ありがとうございます!」

 

 4人から返事を貰った警察官はしっかりと敬礼をし、覆面パトカーに乗って早々とこの場を去っていった。

 

「よし、新型の神経断裂弾が来た。これで俺たちも戦えるな」

「ですね」

 

 新型神経断裂弾が込められたライフルを大事に抱えながら、ようやく状況が動いた杉田と桜井は嬉しそうにはにかむ。

 

「行きましょう!」

 

 雄介が声をかけ全員が頷くと、雄介はそのままで、一条・杉田・桜井の3人はライフルをしっかりと両手に持って、セントラルアリーナの地下出入り口から館内へ突入する。……が。

 

「うわっ!?」

 

 その瞬間、何かが出入り口から飛び出し、桜井がそれにぶつかって倒れてしまう。

 

「桜井!」

「大丈夫ですか!?」

 

 気遣う杉田と雄介に「大丈夫です!」と返す桜井。一方、飛び出してきたのが何かをしっかりと捉えた一条が叫んだ。

 

「B9号……第48号です!」

 

 桜井に体当たりをしたのは、超高速で空を飛ぶ未確認生命体B9号ことドルドだった。ガドルとの戦いが不利になり、逃亡している途中で偶然、雄介達と遭遇してしまったのだ。

 

「俺と桜井は第48号を追う! 一条と五代くんは第47号を!」

「はい!」

「わかりました!」

 

 遠くに第48号が逃げないうちに、そして第47号がまた新たな犯行を起こす前に仕留めるために、グループは二手に別れた。

 

 

     ――――・――――・――――

 

 

 更に同時刻。

 文京区、喫茶ポレポレ。

 とある人物の来店によって今日の営業を終了した店内。そこには、ポレポレのマスターである玉三郎、手伝いをしていた奈々とみのり、そして来店したとある人物……未確認生命体第46号ことラ・ユニゴ・ダの4人がいた。

 

「そっか……そんなことが……」

 

 今日から行動を開始した第47号によって目の前で男性警察官が次々と殺されていく光景を見て、ようやく自分の価値観や考えが間違っていたと気が付いたこと。自分が許せなくなって、せめてもの贖罪のために第47号に戦いを挑み、無様に敗北してしまったこと。これ以上、人間を殺させないために新たな力を求め、たった今それを手に入れて身体に馴染ませていること。洗い浚い、何も着飾ることなく、ユニゴは正直に話した。

 

「今更なの、わかってる。私、酷い女……。ごめんなさい」

 

 そして全てを話した後、再び肩を落として謝るユニゴ。そんな彼女を見て、3人は改めて思った。なんて人間のような未確認なのだと。

 始めに会ったときも、充分に人間味を帯びていたユニゴ。丁寧に自己紹介をし、理性を保ち、普通に会話も成立していた。だが、あの時の彼女はどこか浮世離れしていて、価値観が違いすぎて、人間といってもどこかの世間知らずの箱入りお嬢様のような感じだった。

 しかし、今の彼女は全然違う。自分の価値観が普通の人間たちと違うことに気が付き、徐々にそれを理解しようと、それに適応(・・)しようと必死になり、自分自身を変えようとしている。自分の間違いを認めて、言い訳をする前に一言「ごめんなさい」と謝り、正そうとする。皮肉なことに人間ではないユニゴが、本来あるべき人間の姿を形作っていた。

 

「……あの、1つ。お願いしても、いい?」

 

 俯かせたまま、上目使いで周りにいる3人に断りを入れるユニゴ。3人はそれぞれ、「あ、う、うん」「いいよ」「なんや?」と了承した。

 僅かに頬が赤くなってしまっているのは、不覚にもユニゴのことを可愛いと思ってしまったからだ。そん所そこらのアイドルやモデルには絶対に負けないほどの美しさと年相応のスタイルを持つユニゴの上目使いは、同姓であってもときめかせてしまう。尤も、戦闘部族であるグロンギ族には全く通用しないのだが。

 そんな必殺技を無自覚に使ったユニゴは「?」と首を傾げるも、了承を得たことを確認し、3人のうちの1人……みのりをしっかりとそのエメラルドグリーンの瞳が捉えた。

 

「みのりと……2人にしてほしい」

「!」

「!」

「!」

 

 意外すぎる申し出に、3人は驚く。一瞬、ユニゴがみのりに何かをするのではないかという疑いが頭によぎる玉三郎と奈々。しかし、みのりをまっすぐと見つめるユニゴを見て、その疑いは晴れた。ただただ2人でお話をしたいという願いが込められた彼女の視線はあまりにも純粋で、そしてそれ以外の余計な感情は含まれていなかったからだ。

 

「私は、いいよ。ユニゴちゃんと2人でお話してもさ。いいかな、おやっさん、奈々ちゃん」

 

 当然、彼女の視線を独り占めしているみのりもそれに気付いて我に返り、玉三郎と奈々を見る。

 

「……ああ、わかった」

「うちら、向こうの休憩室のほうにいるわ」

 

 もう、ユニゴに疑いを持っていない2人は断る理由がなかった。すぐに店内から休憩室のあるドアのほうに迎い、その中に入ってガチャンとドアを閉めた。これで要望どおり、ユニゴとみのりの2人っきりの空間が出来上がった。

 

「私の名前、覚えていてくれたんだね」

 

 最初に話しかけたのはみのり。1ヶ月も会っていないのに自分の名前を覚えていてくれたのが、実はちょっと嬉しかったりするのだ。そんな彼女に、ユニゴはなんでもないような顔で答えた。

 

「貴女も、私の名前、覚えていてくれた」

「ま、まぁね……」

 

 そりゃ、あのとき世間を騒がせていた未確認生命体が、自分から丁寧に自己紹介してくれたのだ。忘れられるわけがない。

 

「私、教えてくれた名前は、絶対に忘れないから。だから覚えてた」

「そっか、ありがとう。それでどうしたの? 私と一緒に話をしたいなんて」

 

 軽い話をした後、すぐに本題に持って行くみのり。ここら辺の会話の展開の仕方も、無自覚なのだろうが兄の雄介に似ていた。

 ユニゴは「あの、ね」と少し言いよどんで俯いた後、みのりと再び視線を合わせて言った。

 

「私にクウガのこと、教えてくれる?」

「……え?」

 

 またも予想外なユニゴの願いに、みのりは間の抜けた声を上げてしまう。ユニゴも覚悟はしていたのか、今日何度目かの申し訳なさそうな顔を作って理由を言った。

 

「私、クウガのこと、よく知らない。どういうリントなの?」

 

 そう。実はユニゴは、クウガが……否、雄介がどんな人間なのかを全く知らなかったのだ。優しくて、笑顔が似合っていて、勇気のある、とても良いリント。これしか、ユニゴは雄介のことを知らない。

 今日ユニゴが、このポレポレに来たのは、雄介が一体どんな人間なのかを聞きたかったからなのだ。勿論、いるならば奈々に謝るという理由もあったのだが、メインはこちらだ。

 みのりを残したのは、彼女が雄介の妹で、一番に彼の事を理解していると踏んだからだ。そして、雄介の正体を知らない2人を追い出したのは、雄介のことを気遣ってのことだった。

 

「そっか。ユニゴちゃん、お兄ちゃんのことを知りたいんだ」

「ん……私、知りたい。お願い。クウガは……どんなリントなの? 教えてほしい」

 

 知りたいがあまり身体をみのりの身体に乗り出し、膝に置いてあった彼女の左手を、少しだけ力を込めて掴んでしまうユニゴ。しかし、ユニゴの『少し』は普通の人間であるみのりにとっては強すぎた。握られた左手を物凄い力で締められてしまい、「痛っ」と声を漏らしてしまうみのり。ハッとしたユニゴは、すぐに彼女の左手を握っている自分の右手を引っ込める。

 

「ご、ごめんなさいっ。痛かった……?」

 

 どうすればいいかわからず、オロオロしてしまうユニゴに、みのりは「気にしないで」と笑顔でフォローを入れた。その笑顔も、どこか彼女の兄に似たような力を持っており、それを見たユニゴはよかったと安心した。

 

「いいよ。お兄ちゃんのことについて、教えてあげるね」

「! ほ、本当?」

「うん。お兄ちゃんのこと、ユニゴちゃんによく知ってほしいって私も思うから」

 

 今まで雄介が倒してきた未確認生命体たち。かなり変質してしまっているとはいえ、目の前にいる少女も彼らと同じ存在には変わらないのだ。だから思った。自分の兄がどんな性格をしていて、どんなことを普段はしていて、どんな思いで今まで戦ってきたのか。このユニゴにはそれを知ってほしいと、心の底から思った。

 

「お兄ちゃんはね――」

 

 

     ――――・――――・――――

 

 

 時刻は午後2時35分。

 とある川沿いにて……杉田と桜井はライフルの標準を、スコープを使って定めていた。

 ライフルの銃口の先にあるもの……それは、自分たちが追ってきたB9号の怪人体、第48号だった。衝突していた第47号に勝てる見込みがないと踏んだ第48号はセントラルアリーナから逃走し、この川沿いに降り立った。超高速飛行したのはいいのだが、一条に仕込まれたマーキング弾のせいで警察からは逃げることができず、杉田と桜井に追いつかれ、待ち伏せされてしまったのだ。

 まさか、人間に待ち伏せされるとは思っていなかった第48号だが、所詮は人間。あの第47号との戦いの後だからか、ついつい油断してしまった。……人間には、トップクラスの実力者である第46号を半殺しにした、とある兵器があることなどすっかり忘れて。

 パシュッ、パシュッ!

 ゆっくりと歩いてくる第48号に、ライフルの標準を合わせるのは容易だった。即座に杉田と桜井の、2つのライフルが火を噴くと、そこから飛び出した弾が第48号に被弾。瞬間、ボンッボンッと何かが爆発するような、絶対に鳴ってはいけないような音が第48号の身体の中から轟く。

 

「ぐっ……わっ……」

 

 当然、その身体の持ち主である第48号は一溜まりもない。

 1発が通常の神経断裂弾の3倍の威力を発揮する新型神経断裂弾。4発被弾して第46号に重傷を負わしたそれが一気に6発分、この第48号に襲い掛かっているのだ。そのダメージは少しでは済まされないだろう。

 

「ぬっ……」

 

 新型神経断裂弾を受けた腹を押さえながら、覚束ない足取りで逃走しようとする第48号。しかし……パシュッパシュッ!

 無情にも3発目、4発目が発射。そしてそれを背中に喰らってしまった。これで威力は通常の12倍。第46号に喰らわせた量の3倍だ。致死量を軽く上回っている。

 激しい痛みと身を裂くような熱に苦しむ第48号は変身が強制的に解除、B9号の姿に戻って川の中まで震える脚で歩く……が。

 

「ぐっ! がああぁぁぁ――…………」

 

 ひときわ大きく身体を震わせた瞬間、苦痛に塗れた叫び声を上げ、その大きな身体を川へと投げてしまった。

 倒れたB9号は、もうピクリとも動いていない。不死の再生能力を誇る神経が働く前に、身体の中が完全に破壊されてしまい、絶命してしまっていた。

 これが未確認生命体第48号こと『ラ集団』の実力者、ラ・ドルド・グの最期だった。まさか、狩ってきた人間の武器によって倒されるとは、彼自身も思いもしなかっただろう。

 

「よし、やったな!」

「やりましたね!」

 

 ライフルを片手に、杉田と桜井はハイタッチ。

 ようやくだ。ようやく人間は、グロンギ族に対して有効に作用する武器を手に入れることができた。しかも仕留めたのが、第46号を下した第47号と杉田の目の前で互角に戦っていた第48号だ。相当の実力者だったのは明確だった。

 この1ヶ月間、徹夜した榎田と、長い間未確認たちを追ってきた警察の苦労が、報われた瞬間だった。

 

 

 

 

     ――To be continued…


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