仮面ライダークウガ-白の執行者-【完結】   作:スパークリング

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こんにちは。

新しい冷蔵庫が届いてほっと一息、スパークリングです。
日々様々なコメントや評価を頂いて、かなりテンションが上がっています。

今回は嵐の前の静けさ、ユニゴのゲゲル終了とそれぞれの視点を纏めました。
榎田さんの話だけ全然していませんが……それは済みませんが、原作をご覧になってください。原作の中で、よく表現されていますので。はい


第15話 『視点』

 時刻は午前7時21分。

 東京都某所、例のバーのような場所にて。

 

「そうか。ユニゴはゲゲルを達成したのか」

 

 軍服をきちっと着こなし、威厳のある振る舞いを見せる男、ゴ・ガドル・バは目の前に立っている、ニット帽を深く被った男ラ・ドルド・グに向かって言う。

 ドルドは小さく首を縦に振った。

 

「見事な腕前だった。3996人、まさか、本当に4日で達成するとは思わなかった」

「全くだ……流石はユニゴだ。だが、ユニゴはザギバス・ゲゲルに進む気は、本当にないのか?」

「ああ。ユニゴはここで終わりだ。すでに『ラ』へと昇格している」

 

 グロンギたちが根城にしていたこのバーに帰ってきたユニゴは、即座に身体の中に仕込まれた封印エネルギーをバルバによって抜かれ、ゲリザギバス・ゲゲル直前に申告した彼女の意向に従ってユニゴの階級は『ゴ』から『ラ』へと昇格した。よって、今の彼女の名前は『ラ・ユニゴ・ダ』だ。

 

「そうか。それがユニゴの意思ならばそれでよい。だが……」

「うむ……」

 

 ガドルとドルドは2人揃って部屋の隅を見る。そこには。

 

「……どうして?……わからない」

 

 薄い電気しか付いていない店内の、更に端にある暗い空間。そこの椅子に、今話題に出していたゴ・ユニゴ・ダもとい、ラ・ユニゴ・ダが座っていた。白いワンピースと煌く金色の髪の毛のせいで、暗い空間にいながらも彼女の姿は浮いていて、よく目立っている。

 

「どうして……? どうして、殺させない?」

 

「貴女も、恨んでた。殺したい、くらいに。どうして?」

 

「私、間違ってる? どこが?……わからない」

 

「どうして、わからない?」

 

「……それすら、わからない……」

 

 壊れた人形のようにぶつぶつ呟き、頭を抑えて必死に考えるユニゴ。帰ってきてからずっと、あの調子が続いていた。ゲゲルに成功し、自分の目的を果たせたユニゴだったが、今の彼女には新たな問題が生じていたのだ。

 『なぜ人間を殺してはいけないのか?』という疑問のほかにもう1つ、増えてしまった人間に対する大きな疑問。それらを、なんとか処理しようと、理解しようとしているのだ。ゲゲルを成功させた喜びも、そのせいで完全に消えてしまっていた。

 

「……ユニゴは何を考えているのだ?」

「……さぁな」

 

 「はぁ」と2人して溜息をつく。

 昔から頭がよく、グロンギ最年少の身でありながら数々の難問をクリアしてきた実績のある彼女が、あんな風になってしまった。一体何があったんだと、その場を一部始終見ていたドルドさえ、彼女の心情がわからなかった。

 

「……そろそろ、始めるぞ」

 

 空気を読むことと払拭させることに定評のある『ラ集団』の1人、奥のカウンターから現れたバルバがガドルを見ながら一言。聞いたガドルはポケットの中から、標的が書かれた木の札を取り出し、ドルドに投げる。受け取ったドルドはそこに書かれている文字を見て把握した。

 

「いよいよだな」

 

 ゲゲルを始めるため、封印エネルギーをガドルのバックルに注入しようとゲゲルリングを構えるバルバ。しかし、ガドルは首を横に振った。

 

まだだ(ラザザ)

「……なに?」

新たな力のヒントを(ガサダバヂバサンジントゾ)クウガから得た(ゲダバサ クウガ)

 

 そう言って、ガドルはどこかへ向かっていった。

 

「新たな力か」

 

 バルバはどこか、面白そうに頬を緩ませ、ガドルを見送った。

 

「ユニゴ」

 

 バーからガドルが出て行ったあと、バルバはユニゴの方を見て呼びかける。呼びかけられたユニゴは、どこか焦点の定まっていない視線をバルバに向ける。

 

「おまえはガドルのゲゲルを、ドルドと見守れ。折角『ラ』になったのだ。残り少ない我らの仕事を、やってみるといい」

「…………」

 

 『ラ』の仕事。

 『ゴ』以下の集団のゲゲルを監督し不正を行わないか、ゲゲルをしていないグロンギがリントを殺害しないかの監視、そして、バグンダダを用いて何人のリントを殺害したかを測定するのが主な仕事だ。こうして見てみると、意外とフットワークを使う仕事だったが、残っているゲゲルの参加者はガドルだけの上に、体力もあり俊敏体に変身できるユニゴには特に問題はない。

 

「……わかった」

 

 バルバの誘いを受け入れ、肯定の言葉を返すユニゴ。

 なんとしてでも知りたい2つの疑問の答え。でも、今のままだと到底理解できないとユニゴは判断。別の視点……今までゲゲルをやっていた『ゴ』としての視点でなく、ゲゲルを見守る『ラ』の視点で考えることにしたのだ。

 次にやるべきことが決まり、混乱していたユニゴの頭は一気に冷えた。ゲリザギバス・ゲゲルをクリアしたユニゴは、もう自分の身体の中に爆弾を抱えていない。正式に『ラ』に昇格したからダグバと戦うこともない。ゆっくり、さまざまな視点から解決していけばいいのだ。何も慌てて、急いで答えを出す必要はない。

 そうだ。もう自分の命は滅多なことがない限りは大丈夫なんだと、余裕を取り戻し、ようやく元の冷静沈着なユニゴに戻った。

 

「ドルド、よろしく」

「……うむ」

 

 椅子から立ち上がったユニゴはドルドの前に立ち、ぺこりと頭を下げる。

 ドルドもユニゴの同行に不満はないらしく、2つ返事で了承した。

 

 

     ――――・――――・――――

 

 

 時刻は午前10時30分。

 警視庁、警備部長室。

 

「え? 私への処分はなしですか?」

 

 そこに訪れていた一条は驚いたような顔で、椅子に座る警備部長松倉貞雄に訊いた。

 独断で長野県警と合同捜査をし、一度攻撃を耐えたら二度と同じ攻撃を受けない第46号に神経断裂弾を使い、しかもそれで殺しきることができず、挙句の果てに最後の1人、3996人目の犠牲者まで出してしまった。

 もはや懲戒処分されてもおかしくない大失態を犯し、覚悟もしていた一条にとって『無処分』という通達は予想外だった。

 

「ああ。君は勿論、杉田も桜井も同様、一切の処分はなしだ。これは上の合意で決定したこと。決して嘘ではないぞ」

「い、いえ、松倉本部長が嘘をおっしゃっているとは疑っておりません。ただ、なぜ無処分なのか。それが知りたいだけです」

「うむ……。それは、この第46号の事件を詳細に説明した結果だな」

 

 「事件の詳細を話した結果?」と、一条は訊き返すと「ああ」と松倉は続けた。

 

「今回の敵はまず、どこに現れるかが判らないという習性を持っていた。場所どころか、どこまでが奴の範囲(テリトリー)なのかも判らない。これではいくら警戒を固めても運が絡む。とてもじゃないが、絶対に犯行を食い止めることは不可能だ」

「しかし上なら、それでも『どうにかしろ』と言ってくるのでは?」

「その上から派遣された大川部長すら、食い止めることができなかったんだ。何も言えなくなってしまったのだろう」

 

 なにせ、大川を送ったのは自分たち上層部なのだから。大川の失態=上層部の失態という構図が出来上がってしまったのだ。

 

「次に責任は誰が取るかだが、上は全ての責任を大川部長1人に押し付けた。自分たちの失態を、丸々全部だ。一条たちに責任が来なかったのは、この事件に関してのベテラン刑事だからだ」

 

 悪い言い方になってしまえば、まだ一条たちには使い道があるから。

 未確認生命体第0号を倒していないこの状況で彼らを処分してしまえば、今度こそ未確認生命体を食い止める術がなくなってしまう。一方の大川はキャリア組、代わりなどいくらでもいる。どっちを天秤にかけるか、いくら頭の固い警察上層部でも速攻で判断できた。彼らにとって、威信とプライドさえ守れればそれでいいのだから。

 ちなみに松倉に責任が来なかったのは、あくまでも大川の補佐に徹していたからだ。余計なことをさせてもらえなかったからこそ、責任を免れた。

 

「そして決定打になったのは、霧島東二の逮捕だ。奴が精神異常者に偽装して罪を免れたことが明らかになったことにより、世間からの警察のイメージが上がった」

 

 4年前のあの通り魔事件の裁判。あの判決にはほとんどの国民が不信感を抱き、反発した。だがこうして霧島の本性が知れた今、裁判はやり直し。それを導いたのが第46号から彼を護りきった警察なのだから、イメージが上がるのは当然だった。結果しか見ない国民は、こういうときに便利である。

 

「以上のことから、君たちの処分は帳消しとなった。第46号のゲームが成功させてしまったのは全く以って残念だが、今後はこうならないよう、更に引き締めていこう」

「はい! 今回は、申し訳ございませんでした!」

 

 一条は松倉に頭を下げ、そして警備部長室を後にした。当然、出て行く際に「失礼しました」と言うのを忘れず。

 

「おう、一条」

「一条さん!」

 

 警備部長室から出た一条を待っていたのは杉田と桜井だった。

 

「どうだった? 処分は?」

「いえ、心配なく。処分は免れました」

「よかった……自分たちもです」

「ああ。散々46号に振り回されて、第46号に助けられちまった。全く、皮肉な話だ。もし第46号が霧島をターゲットにしなければ、決定打が足りなくて首切られてるぞ俺たち」

 

 冗談では済まされない冗談に、もう笑うしかない一条たち。しかし、次にはその笑っていた顔は真剣なものに変わった。

 

「出しちまったな、奴らのゲームの成功者。しかも2人目を」

「……はい。悔しいことに」

 

 3996人という、とんでもない数の被害者を出してしまった第46号のゲーム。

 軽犯罪者から重犯罪者、さらに犯罪者予備軍まで、一切差別することなく片っ端から殺害した第46号の事件は、おそらくさまざまな形で後世に伝わってしまうであろう、歴史的大事件だった。

 

「すみません。私、行かないといけないとこがありますので」

「ああ、わかってるよ」

「五代さんのところ、ですよね?」

 

 もう自分の考えていることが筒抜けになってしまい、一条は苦笑した。

 

 

     ――――・――――・――――

 

 

 時刻は午後12時31分。

 関東医大病院。

 

「そうですか……ユニゴを、第46号を……」

 

 病室で着替えを済ませすぐに退院しようと廊下を歩いていた雄介は、その途中でバッタリ会った一条から第46号ことユニゴのゲームの結果と生死を、歩きながら教えてもらっていた。

 

「すまなかった。おまえの負担になる要素を、取り逃がしてしまった……」

「いえ、いいですよ。それに一条さんのおかげで、新しい力を手に入れられましたし」

「え?」

 

 雄介の言った言葉の意味がどういう意味なのか、理解できなかった一条は聞き返す。

 

「昨日、椿さんに電気ショックをしてもらったんです」

「なに? 電気ショック?」

「はい。なんかこう、体中に力の素Aみたいなのがガッチガチに詰まっているようなんです。これなら、金の力を目一杯使えそうな感じがして」

「そ、そうか……」

 

 それを訊いて一条は、少し複雑に思ってしまう。

 第46号を倒して、雄介を少しでも楽にさせようと思っていたのに結局倒しきれなかった。だけど、自分が与えた休みの時間を使って、雄介は更なる力を手に入れられた。

 悔しいような嬉しいような、やはり複雑だった。

 

「ゲームを成功したからと言って、もう46号と戦わないとは限らない。もし、また第46号がおまえの前に立ち塞がったとき、おまえは戦えるか?」

 

 例え新しい力が手に入っても、それを充分に使えなければ意味はない。

 迷った状態でクウガになればどうなるか、それは雄介自身がよくわかっている。きっと新しい力を自らすすんで手に入れたということは、しっかりと覚悟は決めているのだろう。だがそれでも、一条は心配なのだ。だから訊いた。彼の意志を確かめるために。

 少し自分より先に歩いていた雄介は一条の問いを聞いて立ち止まり、

 

「勿論です。また第46号が人を襲うようなことをすれば、そのときは必ず、俺は全力で戦います」

 

 グッとサムズアップを決めながら笑顔で答えた。

 

「……そうか」

 

 それを見て一条はようやく安心できた。いつもの雄介が帰ってきた、と。

 第46号の事件で心身ともに傷つけられた雄介だったが、もう大丈夫。しっかり傷を癒して、しかも新しい力も手に入れて戻ってきてくれた。それだけでも、一条が雄介を戦線から離脱させ、休ませた意味があるというものだ。

 一条の判断は、決して間違ってはいなかった。

 

 

     ――――・――――・――――

 

 

 それから1ヶ月が経過し、現在1月23日。

 とある街中。

 

『1ヶ月の間に渡って続いている原因不明の電圧の低下について、監督官庁である通産省では、関係各方面に原因の究明を急がせていますが、依然として科学的要因は掴めておらず、行政の対応の遅れに市民の苛立ちがピークを迎えております』

 

 歩道橋の上に立って、街頭テレビのそんなニュースを聞いていたバルバ。彼女には、その原因不明の電圧の低下の原因が一体なんなのか、おおよその見当がついていた。

 

「新たな力を、得たようだな」

 

 隣に立つ男……ガドルに話しかけたバルバは、「だが」と続けた。

 

「クウガやリントの前に、ゲリザギバス・ゲゲルさえ、ユニゴ以外、成功させられなかった。そのユニゴさえ、最後はかなりの傷を負わされて帰ってきた。クウガに、ではない。リントにだ」

 

 今の現代人(リント)が昔の古代人(リント)とは違うことを、『ラ』としての第三の視点から認識してきたバルバは強調した。

 昔はクウガに護られるだけで簡単に殺すことができたリントが、次々と仲間達を追い込み、『ゴ集団』のナンバー2のユニゴにまで、殺すことはできずとも重傷を負わせたのだ。バルバとしては、そんなリントたちにガドルの新たな力とやらが通用するのか。興味もあったが、若干の不安もあった。

 

「そんなリントだからこそ、殺す意味がある。ドルドから話は聞いている。クリアする寸前、ユニゴはリントたちの武器によって、散々痛めつけられたとな。面白い」

 

 ふっと笑うガドル。

 どんなに威風堂々とし、格下のゴオマにすら気遣うガドルだが、やはり根本は冷徹な殺戮者であるグロンギ族だ。これから自分が行おうとしているゲゲルを、楽しもうとしている。

 

「ゲリザギバス・ゲゲルは当然成功させる。新たな力はもともと、ザギバス・ゲゲルのためのものだ」

 

 すでにガドルの中ではゲリザギバス・ゲゲルは成功すると確信していた。

 自分よりワンランク下のユニゴすら倒せなかったクウガに負ける気はさらさらないし、リントがユニゴに大怪我を負わせたという兵器は気になるが、やはりそれもユニゴを殺すまでは至らしていない。逆に、自分が大怪我するかもしれないという可能性が、ガドルにとっては重要だった。

 いよいよ始まるガドルのゲゲル。

 新しい力と、昔とは変わったリントの戦士たちに興奮し、気合が入ってきた……その時。

 

 

「待ってるよ」

 

 

「……!」

「…………」

 

 若い男の声が、ガドルとバルバの耳に響いた。

 驚いて前を見てみると……歩道橋の下のショーウィンドウが並ぶ店の出口付近に真っ白な人影。

 その人影は興味深そうにガドルを少し眺めると、すぐにどこかへ行ってしまった。

 

「このゴ・ガドル・バはユニゴと違って優しくはないぞ、ダグバ。必ず、おまえを殺してやる」

 

 ガドルは拳を硬く握り締めた。

 

 

 

 

     ――To be continued…


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