仮面ライダークウガ-白の執行者-【完結】   作:スパークリング

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こんにちは。
今日はちょっと早めに投稿できましたね。


第9話 『適応』

 時刻は午後4時33分。

 一条は覆面パトカーを走らせ、雄介から最後に連絡を受けた場所に向かっていた。

 荒川区で第46号を発見し、尾行すると言ってたびたび連絡を送ってきた雄介だが、10分前に同じく荒川区の廃工場に第46号が入ったと連絡が来たきり、一向に通信が途絶えてしまったのだ。

 嫌な予感がした一条は少しだけスピードを上げ、その廃工場へと向かう。

 5分後、ようやく荒川区に差し掛かり、雄介が教えてくれた地区を走っていると、一条の目の前にビートチェイサー2000が止められている廃工場が見えた。

 適当なところに覆面パトカーを止め、筋肉弛緩弾が込められた拳銃を持つ。通用しないことは理解しているが、今の一条を守れるものは雄介を除けば、この筋肉弛緩弾だけなのだ。無駄とわかっていても少しはアテにするしかない、藁に縋るような思いで拳銃を構えていた。とそのとき、ガンッ。工場の中で大きな物音がする。

 中で雄介が戦っていると思った一条は、勇敢に工場のドアを破って突入。銃を構えてみた先には驚愕の光景が広がっていた。

 工場内には2人の人影があった。

 1つは雄介ことクウガ。赤い金の力を使っているようだがその動きは弱々しく、なんとか起き上がろうとして倒れた身体に力を込めているようだ。その理由はすぐにわかった。クウガのボディのあちこちに何かで切り刻まれたかのような、貫かれたような痛々しい傷が出来上がり、そこから鎧とは違う真っ赤な液体が流れていたからだ。

 誰が彼にそんな酷いことをしたのか。その答えはもう1つの人影の主。少しだけ姿が変わっているが、その人影の正体を一条が間違えるはずがない。

 もう1つの人影は第46号こと、ゴ・ユニゴ・ダの物だった。

 彼女は右手に三叉戟を倒れているクウガに向かって横一線に薙ぐ。

 

「うわぁあっ!」

 

 悲鳴を上げるクウガ。また新しい傷が出来上がり苦痛に身体を捩じらせるが、そんなことはお構いなし。ユニゴはさらにクウガの身体を薙いだ。そしてまた、クウガが悲鳴を上げる。

 戦いは一方的だった。

 ユニゴが三叉戟で薙ぎ、クウガがそれを喰らって苦しそうに声を上げる。それの繰り返し、無限ループだ。しかし、そのループはすぐに終わりを告げる。

 攻撃を受け続けたクウガ。既に制限時間である30秒を超え、金の力は消えて通常の赤い姿に、さらに蓄積したダメージが限界を向かえてグローイングフォームになってしまい、一際大きく身体を跳ねると動かなくなってしまった。気絶してしまったのだ。

 だが、ユニゴの攻撃はまだまだ終わらない。

 気絶したクウガの首を左手で掴んで持ち上げ、右手に持っている三叉戟の先をクウガの喉元へと標準を合わせ始めたのだ。

 

「第46号、五代を放せ!」

 

 パァンと乾いた音が廃工場内に響き渡り、発射された筋肉弛緩弾がユニゴの身体にめり込んだ……が。ユニゴはまるで気にしていなさそうにクウガの喉に三叉戟の先を合わしていた。

 「えっ」と一瞬放心した一条だがすぐに立ち直り、パァンパァンっとさらに発砲。しかし何回撃ってもユニゴは平気そうだ。丁度6発目、全ての弾がユニゴの身体にめり込んだところで、その箇所から全ての弾が弾き出されてしまった。

 そんなバカな! 一条は空いた口が塞がらなくなった。

 公園で撃ったときは短い間であったが確かに効果があった筋肉弛緩弾が、まるで通用していない。もう覚えたと言わんばかりに、身体に抗体ができたと言っているように平気そうにクウガを……変身が解けてしまった雄介を持つ左腕を上げて行き、丁度いい場所で止まった。

 まずい! なんとかして助けねば! そう思う一条であるが悲しいかな、今の彼にはどうすることもできない。

 ユニゴは右腕を少しだけ引いた。勢いをつけて、確実に首を貫くためだろう……が。ピタッ。ユニゴが突然、動きを止めた。

 

「…………」

 

 そして次には、構えていた三叉戟を元の装飾品に戻して腰に取り付け、開いた右手を雄介の背中を丁寧に支えて、ゆっくりと工場跡に広がっていたブルーシートの上に彼の身体を置いた。

 寝ている雄介を解放したユニゴは一条を一瞥した。

 

「……残り、4日」

 

 と、それだけ呟くと、目の色を紫から青に変えて俊敏体に変身。一瞬で廃工場から姿を消した。

 

「……! 五代!」

 

 何が起こったのかがわからなかった一条だがすぐに我に返り、ブルーシートに横たわる血だらけの雄介の元へ向かう。とりあえず脈を確認し、相当なダメージを受けていながらも生きていることを確認した彼は、雄介を抱えて覆面パトカーに乗せ、関東医大病院へと向かった。

 

 

     ――――・――――・――――

 

 

 時刻は午後6時2分。ユニゴとの戦いから1時間半ほど経った時。

 関東医大病院のとある病室に、目を瞑って横になって静かに眠る雄介の姿があった。

 

「……なんとか峠は越えた。あとは意識が戻るのを待つだけだろう」

 

 雄介のかかりつけ医を自称する医師、椿秀一はその病室から出て、その前に設置されているベンチに座っている一条に告げた。とりあえず、雄介の命が助かったということがわかった一条はほっと息を吐く。が、椿の表情はまだ険しい。

 

「運ばれたときはもう、虫の息だった。死ぬ一歩手前、瀕死の状態だったんだ」

 

 腹や背中にあった複数の打撃痕に切り傷、強く絞められたかのように首に残る手形の青馴染、そして脚や腕、肩には何かが貫いたように作られた幾つもの痛々しい刺し傷。緊急手術をした椿や他の看護士、医者も一瞬「死んでる」と思ってしまうほどに、雄介は酷い状態だったのだ。

 

「ここまで痛めつけられて……それでも息を吹き返すなんて、こんなときだけだ。五代の身体が人間のそれじゃなくてよかった、なんて馬鹿なことを感じちまうのは。こんなふざけたダメージ、人間なら間違いなく、少なくとも10回……いや、失血死やショック死を加えれば15回は死んでいるぞ」

「…………」

 

 椿の言葉は重く一条に圧し掛かる。

 本来警察官が守るべきだったはずの、一般市民の雄介にここまで身体を張らせて無理をさせている。生粋の警察官である一条がずっと感じていたことだった。代われるものなら代わってやりたい。雄介のような笑顔がよく似合う青年に、こんな辛い戦いをしてほしくなかった。自由気ままに、冒険をしていてほしかったのだ。

 

「なぁ一条、今回の第46号は相当の強敵なのか? 五代がこうして同じ未確認に2回も敗れて、搬送されるなんて今回が初めてだ。それほど、奴は強力なのか?」

「ああ……。今回の戦いは最後しか見ていないが、1回目なら全部見ていたからわかる。奴は強い。人間態の、あのすぐにでも消えてしまいそうな外見とは裏腹にな」

 

 そこから一条は話した。

 赤いクウガのパンチを受けてもびくともしなかったこと。紫はおろか、金の紫の攻撃に身体を貫かれても平気そうに立っているほどに頑丈な身体をしていること。今回の戦いの中、金の赤の力を使っていた雄介から察するに、おそらくその攻撃すらも耐え抜いてしまったこと。そして、彼女の反撃があまりにも一方的すぎて、クウガはただやられるがままに全身を槍で貫かれていたこと。筋肉弛緩弾が全くといいほど効かなかったことを。

 

「マジか……」

「ああ。これまでの未確認生命体と比べものにならないほど頑丈な身体を、第46号は持っている。最初は効いた筋肉弛緩弾も2回目に撃ったときは効果がなかった」

「2回目には効果が……」

 

 筋肉弛緩弾の話を聞いた椿は少し考えたような素振りをし……何かに気が付いたような顔をした。

 

「椿?」

「おい、一条。付いて来い、見せたいものがある」

 

 それだけ言って歩き出す椿。一条は少し、雄介がいる病室に目をやってから椿の後に付いて行った。

 到着したのは関東医大病院の地下にあるとある部屋。そこにはさまざまの医療器材と手術台の上に力なく横たわっている1体の人影がいた。

 その人影の正体は、癖の強い白髪をセミロング程度まで伸ばした男だった。その男からは生気を感じられず、顔を真っ白にし、瞼を硬く閉ざしている。

 

「これは……第3号」

「ああ。第0号に殺された、第3号の遺体だ。おまえも見ただろう?」

 

 そう、この男は未確認生命体第3号。蝙蝠の特性を持った『ズ集団』の怪人、ズ・ゴオマ・グ。

 第1号であるズ・グムン・バとともにゲゲルが始まっていないにも関わらず人間を殺したためゲゲルの権限を失い、いつかくるダグバの整理から逃れるためにダグバのベルトの一部を横領して自身を強化しダグバに挑んだが、結果は虚しく一方的に殺されてしまった、悲劇のグロンギだ。

 彼の遺体は雄介と一条によって発見され、そこからグロンギ族が一体どういう身体の作りをしているのかを知るために役立たれている。

 

「ここにあるデータ、覚えているか?」

 

 パソコンを起動した椿はその中のあるページを一条に見せた。

 

「グロンギの身体の作りが人間とほとんど同じ、というデータだな」

「そうだ。そしてこれは、科警研に送った第3号の神経細胞についてのデータだ」

「ああ、よく覚えている」

 

 なにせ、このデータのおかげであともう少しで『神経断裂弾』が完成しようとしているのだから。

 

「この神経には、グロンギたちの身体をより頑丈にする機能がある。胸に銃弾が食い込んでもすぐに元に戻る驚異的な再生と回復、それらを引き起こす元凶だ。『神経断裂弾』はこの神経に対策するための物だ。撃ち込まれた弾丸を奴らの身体の中に留め、弾の中に仕込んだ火薬を連鎖的に炸裂させて、この神経が作用する前に体組織を破壊しつくす。今回の第46号は、身体が頑丈な上にこの神経が異常に発達している可能性がある……そう、俺は思っていた。一条、おまえが筋肉弛緩弾の話をするまでは」

「違うのか?」

「ああ。違う。全然、違う」

 

 顔を青くさせながら、椿は続けた。

 

「奴らにはもう1つ、特徴的な能力があるのを覚えているか?……物質を再構築する力だ」

「手に触れたものの形状を自由に変える力……たしか、そんな力だったよな」

「そうだ。どんなものでも、それが原子か分子で構成された物質であれば一度その形状を崩し、全く別の物へと変貌させる力だ」

 

 ちなみにこの力はクウガにも備わっている。

 鉄パイプなどをドラゴンロッドに、拳銃をペガサスボウガンに、ビートアクセラー(ビートチェイサー2000を起動させるためのキー)をタイタンソードに変化させるのも、この力が働いているからだ。

 

「ずっと不思議だったんだ。第46号に殺害された被害者の喉に刺さっていた三叉戟。それが数時間その状態を保っていたこと(・・・・・・・・・・・・)に。五代も他のグロンギたちも、変身を解けばすぐにもとの形に戻っていたはずなのに、第46号に限って、変身を解いてもその形状を一定時間維持することができていた」

「確かに……妙だ」

「最初はこういうタイプなのかと思って重要視していなかったが、さっきの筋肉弛緩弾の話を聞いて気が付いた」

「……まっ! まさか! そんなことが……!」

 

 椿の言おうとしていることに気が付いた一条は、目を見開いた。「ああ」と言って、椿は両手を机の上に置いた。

 

 

「奴が発達しているのは再生能力じゃない。物質を再構築する力(・・・・・・・・・)のほうだ」

 

 

 だから長時間、ユニゴの手から離れた物質も変化を維持することができ、すぐには元の装飾品に戻ることはなかった。そして1回目に効いて2回目に効かなかった筋肉弛緩弾で、椿のそれは確信に変わったのだ。

 

「つまり……自身の身体に受けたダメージや武器の特性をもとに身体の細胞を作り変えて、全ての攻撃に対する抗体のようなものを作り出して適応している……そういうことか、椿……!」

「そうだ。それなら筋肉弛緩弾の効果が1回目に働いて2回目に働かなった理由も、奴が変化させた槍がすぐに元に戻らなかったのかも説明が付く。厄介だぞ、一条。今後奴に攻撃するときには注意しろ。一発で仕留めないと、もう二度と通用しない可能性がある」

 

 椿の告白は恐ろしいものだった。

 これから開発されようとしている『神経断裂弾』。雄介に頼らずともグロンギを倒すことができる唯一の希望の光が、一撃で仕留めなければ意味がないと言われたこともある。が、もっと恐ろしいことはこれまでユニゴが喰らったクウガの必殺技が全部効かなくなっている可能性がある、ということだ。

 

「いいか、一条。これは極秘だ。少なくとも五代には絶対に知らせるな。もし五代がこのことを知ったら……なっちまうかもしれないぞ、『凄まじき戦士』に」

 

 ユニゴを止めるために覚悟を決め、戦うことを決意した雄介。そんな彼が、今までの技が全て通じず、『凄まじき戦士』になる以外に倒す方法がないと知ったとき。間違いなく変身してしまうだろう、その『凄まじき戦士』に。

 それだけは一条が絶対に防がなければならないことだった。下手をすれば、雄介を彼のその手で殺さなければならないからだ。基本一般人の雄介をここまでボロボロにさせてしまっているのに、挙句の果てに殺すなんて、理不尽にもほどがある。

 

「わかった。絶対に、五代には伝えない。これ以上、あいつに無理はさせたくはない。『凄まじき戦士』には絶対にさせない」

「俺もおまえと同じだ。これ以上、五代に余計なものを背負わせたくない。榎田さんにこのことをすぐに伝え、対応策がないかを検討する。おまえは一旦本部に戻れ。いいか、念を押すが。このことは俺とおまえ、そして榎田さんだけの秘密だ。口外するな」

「……ああ、わかった」

 

 地下の隠し病室に、2人の男が力強く視線を合わせた。立場は違えど、思いは同じ。

全ては五代を『凄まじき戦士』にしないためだった。

 

 

     ――――・――――・――――

 

 

 時刻は午後5時21分にまで遡る。

 昼間コーヒーを飲んでいた文京区の廃墟に、ユニゴは帰ってきていた。どうやら、ここを自分の潜伏場所として選んだようだ。

 またコンビニエンスストアから買ってきた幾つもの缶コーヒーを飲みながら、ノートパソコンを開いて自分のゲゲルの進行具合や世間の反応、そして次のターゲットを探していた。

 初めて飲んだときには口に合わなかった缶コーヒーが、2回目に飲むと案外悪くないようにも感じたユニゴは、どこか満足げだった。ようやく今日初めて、口に合うコーヒーが見つかった。

 

「また……クウガに止めを刺さなかったか」

「ドルド……」

 

 気が付けば隣に立っていたドルドに横目で見るユニゴ。「また盗み見?」そういっているようであったが、ドルドは決まって「偶然だ」と白を切る。同じ偶然が二度も続くものなのであろうか。真実を知るのはドルドのみだった。

 ドルドを責めるのを止めたユニゴは、「はぁ」と溜息をついた。

 

「私、クウガ、殺せないみたい。わからないけど、私の中で、クウガ、殺したくない。そう思ってる私、いる」

 

 昨日話した、クウガを殺せない理由がわかったら教えるという約束を守り、ユニゴはドルドに正直に打ち明けた。自分の中でクウガ……否、雄介を殺したくないと、思ってしまっていることを。

 

「そうか……。ユニゴ、おまえは本当に変わったな」

「……それ、昼にバルバにも、言われた。そんなに、変わった?」

「ああ。ありえないほどにだ。昔のおまえは、機械のようだったぞ」

「…………」

 

 ドルドの言葉を聞いて、ユニゴはしょんぼりと肩を落とす。思い当たる節があって、図星を突かれたからではない。「機械のよう」と言われたことにショックを受けたのだ。まるで自分が、生きていなかったかのように言われたことに、ユニゴは落胆した。ドルドがそんなつもりで言ったわけでないことは知っていてもだ。

 

「今のおまえは……まるでリントのようだ」

「…………」

 

 それも昼に、ポレポレに訪れた際にそこにいた全員に思われたことだった。

 本質は変わっていなくとも、思考がどんどん現代人(リント)のほうへと向かっていることに、ユニゴは改めて実感する。

 

 ――これ以上、リントのことを知ろうとするな。さもないとユニゴ、おまえは間違いなく死ぬぞ。

 

 バルバの忠告が頭によぎる。なんとなく、その意味がわかったような気がした。でも、それでもユニゴは己の探索を止めない。何度も言うが、知りたいものは知りたいのだ。

 変な空気になったのを切り替えるためか、空気の読むことに定評のあるドルドは別の話題……ゲゲルの話題を切り出した。

 

「残り4日で、96人。順調じゃないか」

「ん。順調。楽勝」

「クウガも2回も倒した。ザギバス・ゲゲルに進んでも大丈夫だと思うが?」

「……それは、イヤ。断る」

 

 また、変な空気になってしまった。

 

 

 

 

     ――To be continued…


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