比企谷八幡のSAO録   作:狂笑

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第三話

茅場のあのデスゲーム宣言から一か月が経過した。

現在の死者数は約二千人。

全体の二十パーセントが死亡した今も、まだ第一層はクリアされていない――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

流れ星。

これを俺はリアルで見たことはない。俺の住む千葉市自体が星を見るのには不向きではあるが。

だがこの世界――SAOでは、何度か見たことがある。

流れ星は死んだ人の魂だ。

子供の頃、親父にそう教えられたことがある。

故に、それを見るたびに考えるのだ。

この世界の流れ星は、この世界で散っていったプレイヤーの魂ではないか、と。

ああ、また一人、散っていったのかなぁ、と。

だが今俺が見た流れ星は――

モンスターの命を狩る、慈悲の欠片も情緒もない、神速のソードスキルだった。

 

 

 

 

 

鬼気迫る、とでも形容したくなるような戦いぶりだった。レベル6の亜人型モンスター、《ルインコボルド・トルーパー》の振りかざす無骨な手斧を、一般的なプレイヤーが見れば背筋が冷たくなるような、だが戦闘慣れしているとわかるギリギリの間合いで躱す。

三回連続で回避に成功すると、コボルドが大きく体制を崩す。

その隙を逃さず、レイピア使いのプレイヤー全力で単発突き攻撃のソードスキル、《リニア―》を放つ。

そのスピードは凄まじく、明らかにシステムのモーション任せではない。

プレイヤー自身の運動命令によって速度をブーストしている。

アインクラッド広しとはいえども、かのプレイヤーのような速度を出せる者などそうそういないだろう。

驚くべきところはこれだけではない。

《ルインコボルド・トルーパー》はこのダンジョンでもかなりの強敵だ。

それをあのレイピア使いは、コボルドの斧を三連続で避ける→反撃の《リニア―》を打ち込む、というパターン化された攻防を繰り返し、無傷で屠ったのだ。

 

とは言え、決して余裕の一戦とは言い難く、とどめのソードスキルに胸当てのど真ん中をぶち抜かれ、モンスターが仰け反りつつ爆散すると、実体なきポリゴンの欠片に押されたかのようによろめき、通路の壁に背中をぶつける。

そのままズルズルと座り込み、荒い呼吸を繰り返していようだ。

 

痩せ形、やや小柄か。

装備は暗赤色のレザー・チェニックの上に軽量な銅のブレストプレート、下半身はぴったりしたレザーパンツに膝までのブーツ。頭から腰近くまでを覆う、フード付きケープを羽織っている。

ケープさえ除けば、如何にもフェンサーらしい装備だ。

だが恐らく、そのほとんどが初期装備に近い。

 

対して俺は深緑の革鎧に群青のレザーコートと軽金属のチェストガードとすね当て。そして黒色の沓である。(誤字に非ず)

 

典型的かつ利己的なソロプレイヤーである以前に、コミュ障ぼっちでシスコンであるおれは基本的に自分から他人に近づかない。

……ゾンビと間違えられて、助けようとしたプレイヤーに襲われたからでは断じてない。

ないったらない。そういうことにしておいて欲しい。

 

まあその話はさておき、現在、唯一の例外は戦闘中にレッドゾーンに突入したプレイヤーを見つけた場合のみだ。

あのフェンサーのHPゲージはほぼフル状態を保っているため、俺が関わる必要などどこにもない。

だが、何故だろうか。

関わるべきだ、と脳が告げている。

面識も無いはずなのに、だ。

なのに、既視感がある。相手が知り合いであるかのような感覚が。

まさか、俺のお兄ちゃんスキル(小町専用)が勝手に発動しているのか?などどバカなことを考えながらつい、話しかけてしまった。

 

「……さっきのはオーバーキルすぎるぞ」

 

するとフェンサーはこちらに顔を向け、先刻の突き攻撃を彷彿させる鋭利な視線を俺に突き刺しながら、「オーバーキルって何?」とでも言いたげな雰囲気であったが、俺の顔を完全に認識した瞬間、フェンサーの纏っていた雰囲気は驚愕へと染まった。

 

……俺の目が腐っていたから驚いた、とかモンスターだと思った、とか言われるのだろうか……。そいつは流石にヘコむぞ。

だが俺の予想に反して、聞こえてきた声は、呼び方は、ひどく懐かしいものだった。

 

「ハチくん、なの……?」

 

聞き間違えるはずなどない。祖父ちゃん家に行くたびによく遊んだ、幼なじみとも、第二の妹ともいえる存在の、小町と同い年の女の子。

 

「ハチくん、これで、わかる?」

 

不安そうにそう言って、彼女はケープのフードを外す。

 

露わになる、艶やかな栗色のロングヘア。

小さな卵型の顔。

大きなはしばみ色の瞳。

小ぶりだがスッと通った鼻筋。

華やかな、桜色の唇。

 

間違いない。

忘れてた、そう思っていた彼女の名前も思い出した。

だけど、彼女がSAOをやっていたことが意外過ぎて。

こんなところで会えるなんて、思ってもみなくて。

こんな時にかける、適切な言葉が出てこない。

だから、ここが仮想空間であることを意識しない、あたかも現実で再会したかの様な言葉をかけた。

 

「久しぶりだな。元気にしていたか?

               ――明日奈」

 




折角の再会シーンなのに……上手く書けない……

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