比企谷八幡のSAO録 作:狂笑
でないと話が崩壊しそうだったので。
俺は、また失敗したのか?
それとも、まだチャンスはあるのか?
12月某日、俺は平塚先生から助言をもらった。
俺はその助言の通り、消去法を使って自分の心を整理した。
そして生徒会長選挙のとき、何故小町に俺が動く理由を与えてもらってまでして動いた理由を見つけた。
それこそが、俺の答えだった。
俺はそれを持って、だが表面上は個人的に手伝っいる総武高校と海浜総合高校との合同クリスマスイベントに関する依頼ということで奉仕部へ足を運んだ。
結果だけ言えば、失敗した。雪ノ下が否定した。
だが、そのことに異を唱えた由比ヶ浜の言った言葉が引き金となり、色々と言ってしまい、遂には一つの本音がこぼれた。
「俺は、本物が欲しい」
誰にも言うはずのなかった、胸の奥に秘められた、俺の本当の願望。
だが、こんな言葉で一体何がわかるのだろうか。
案の定、雪ノ下はわからなかったらしく、
「私には、……わからないわ」
とつぶやき、それどころか部屋から出て行ってしまった。
由比ヶ浜に踏み出す勇気をもらい、一色に場所を教えてもらい、取りあえず雪ノ下を追った。
だけど、
何て声をかければいいのか、わからなかった。
「……私には、わからない」
雪ノ下がさっき奉仕部の部室で口にした言葉をまた放つ。
「あなたの言う本物って一体何?」
「それは……」
俺にもよくわかってはいない。今まで見たこともないし、手にしたこともない。
だが、ふと思うのだ。本物とは、人によって違うものなのではないかと。
そして本物とは、それを味わっている時には決して気付かない、年を取ってから、ああ、あの頃の関係こそが本物だったんだな、と気付くものなのではないかと。
だから、『これが本物』、と言えるものを、今の俺は持ち合わせていない。
だから、今の俺に答えることはできない。
俺があれこれ考えて何もできずにいると、それを補うかのように由比ヶ浜が一歩踏み出し、雪ノ下の肩にそっと手を乗せた。
「ゆきのん、大丈夫だよ」
「……何が大丈夫なの?」
確かに、何が大丈夫なのかは俺にもわからない。だけど、由比ヶ浜は俺や雪ノ下と違い、感情で動くことが多く、俺らにできないことをやってのけることがある。
ここは、由比ヶ浜を信じよう。
「あたしも実はよくわかんなかったから……」
困ったように照れ笑いしながら誤魔化すようにお団子髪を撫でる。
そしてその笑いを引っ込めるとさらにもう一歩踏み出し、もう片方の手も雪ノ下の肩においた。そうして、真正面から見つめる。
「だから、話せばもっとわかるんだって思う。でも、たぶんそれでもわかんないんだよね。それで、たぶんずっとわかんないままで、だけど、なんかそういうのがわかるっていうか……。やっぱりよくわかんないや……。でも、でもね、あたしさ……今のままじゃやだよ……」
由比ヶ浜は雪ノ下の肩を引き寄せ、泣き始めてしまった。そしてそれに呼応するように、雪ノ下も泣き始めてしまった。
つくづく、由比ヶ浜はすごい奴だと思い知らされる。
俺はどれだけ考えてもこんな答えは出せないし、行動も不可だ。
環境が激変でもしない限り。
俺は遠回りで捻くれた虚実混ざった理論しか振りかざせなくて。
雪ノ下は抱いた想いをうまく言葉にすることができずに黙り込んで。
言葉なしには伝えられず、でも言葉があるから間違えた。
なら、俺たちは一体何がわかるのだろうか。
きっと何もわからない。
でも、今はそれでいい。
ゆっくりとでいい。三人で同じ時を過ごして、会話などをしていけば、きっとわかるようになる。
そう思っていた。
結果としては同じ時を過ごすことは不可能となったが。
聴こえていた嗚咽が消えた。
「比企谷くん」
「ヒッキー」
二人が俺を呼ぶ声が聞こえ、そちらを向く。
二人とも目を赤く腫らしていたが、笑顔だった。しかもバックの夕陽と相まって、さながら絵画のようだった。
「ありがとね、本音語ってくれて、関係戻してくれて」
「そうね。やっぱりあなた、大抵のことはやってのけるのね。私も感謝するわ。そ、その……ありが、とう」
「どういたしまして」
この時俺は、この関係がずっと続くと思っていた。
だけど、この日こそが、総武高校の生徒同士として、関われる最後の日だった。
ソードアート・オンライン 正式チュートリアル配信開始まで
あと1日
さて、八幡は帰還したらどうなることやら。