「っていうわけでさぁ……お前たちの言うとおりにしたら喜ばれるどころか怒られたんだけどさぁ、これってどういうことなのかなぁ!」
「イダダダダ!? イダイっイダイってリーダー! 骨が! 頭蓋骨ビシビシいってるぅぅぅ!」
「確かに貸したのは俺だけど参考にできるかどうかはお前次第だって言ったでしょっ、痛い痛い痛い! 骨じゃなくてなんか別のとこ食い込んでる痛いぃぃぃ!」
「ふはははは、褒めても怒るだなんて一言もいってくれなかったじゃないかぁぁぁ!」
先日の希ちゃんとのやり取りを踏まえ、ザックと裕也にうその情報を掴まれたと知った俺は、大学後の日課である練習の後でザックと裕也を呼び出して締め上げていた。
いつものアイアンクローではあるが今日は少し力の込め方を変えてみた。
ただし少々指の位置がうまくいかずに違和感に苛まれているとミッチが助言を出してくれた。
「リーダー、やるならもう少し爪を立てるように……そうそう。そうやって食い込ませるといい感じでしょう?」
「さすがミッチ、爪がいい感じに刺さってるのがわかるぜ」
「ミッチテメェこのやろぉぉぉぉ!」
「この外道ぉぉぉぉ!」
さすがミッチ。実はビート・ライダーズ随一で腹黒とか言われちゃう子だぜ。
しかしそろそろ飽きてきたので二人の頭を解放する。
すると二人して地面に倒れこんで頭の痛みに再び悶絶する。
仕方がないので先日の件に対してミッチに話を聞いてみようと思う。
「というわけでミッチ、それってどういうことだと思う?」
「いきなりそこから聞かれても何もわからないのでまずは最初から聞かせてもらえませんか?」
笑顔で「バカですか?」 って雰囲気ありありの返しをいただいたのでちょっと泣きながら帰ろうと思いました。
なお復活したザックと裕也にまたしても笑われたので無言で腹パンでもしておくことにする。
「とりあえずよくわかったのは、リーダーって歪みのない歪みきった人ですよね」
「なにその矛盾丸出しの、頭痛患ってるけど病気になったことありません。的な表現」
とりあえずミッチにことのあらましをすべて説明したのだがすっごい勢いで溜息を吐かれ、額を抑え、呆れられた。
いったい俺の何が悪いのかわからないが歪んでない歪んだやつとは何か。
まぁこれはだいたい想像がつく。真姫に対する愛情だ。そうに違いない。これはコロンビア不可避、大勝利だ。
「事実をそのまま言ったらこうなりました。とりあえずどんな言葉が望みですか?」
「え、なにその選択権をやるって感じのそれ」
「リーダーが今後どうやって真姫さん以外の女性と振る舞ったほうがいいか。とか、リーダーが今後裕也さんに騙されないようにするには。とか、ザックさんの似非テクニックを信じないようにするには。とか」
「俺騙した覚えなんてないぞ!?」
「俺が似非テクニシャンってどういうことだミッチ!?」
後者二つに激しく突っかかる裕也とザック。
裕也は完全にゲームがバイブルになってるし、ザックに至っては「俺彼女いるから」とか言いつつもそんな証拠が一つも出てきたことがないあたりミッチの評価も全く間違っていない。
実際反応も二人そろって初心っぽいし、むしろミッチに彼女がいるんじゃないかってくらいにミッチがあまりにも堂々としすぎている。
まぁミッチに彼女ができてたら孝虎さんが発狂してとんでもないことになってしまう感じが否めないが。
「で、リーダーはどれが聞きたいですか?」
「あー……そうだな、最初の奴が一番聞きたい」
「最初の、つまり他の女性にどう振る舞えばいいかってやつですね」
「そうそう。どうしたらいいのかよくわかんなくてさ。裕也の貸してくれる参考ゲームが役に立たないんなら俺ほかに頼れるものがなくなっちゃうし」
「そうですね。それじゃあ少し長くなりますから晩御飯はうちで食べていってください」
久々にミッチのうちで食事か、少し気分が高揚してくる。
なんて言ったってミッチの家はデザートが至高なのだ。
この時期ならば何が出てくるか、想像するだけでよだれが垂れそうになる。
そんなミッチの言葉を聞いて裕也とザックも目の色を変えミッチへの懇願を始める。
「なぁミッチ……俺たちもいいか?」
「ミッチ頼む! 俺たちにも食わせてくれ!」
「……そんなに必死になって頭を下げなくったっていいじゃないですか。ああ、わかりました。父に三人分の食事を追加してもらうように連絡してきます。その間にみなさんも各自の家に連絡忘れないでくださいね」
ミッチが少し早足で大学構内の端っこまで移動する。
ミッチはあまり父親との会話を聞かれたくないからなのかずっとそうしている。
まぁ数度あった身としては、やっぱり孝虎さんとミッチのお父さんだなと実感する人物だったと評するしかほかはない。
ザックと裕也も各自携帯を取り出して各々の家族に電話をかけ始める。
俺も連絡しなくては。携帯を取り出し、母さんへの連絡はメールで軽く済ませる。
内容は簡潔に【飯はミッチたちと食うから要らない。】でいいか。
大事なのはむしろここから。
メールの送信ボタンを押した直後にすぐさま電話帳を開き、一番上に記載されている【愛妻 真姫】 をタップし、通話ボタンをその数秒後にまたタップ、すぐさま耳に携帯を近づけながら一時その場を後にする。
ここまでの流れ体感時間約10秒。もう少し縮められたはずだ甘いぞ俺。次の機会では目標七秒だな、と自分に制約を課しながら真姫が電話に出るのを待つ。
三度目のコールが鳴る。ダメか?まぁこの場合、出られなくても仕方がない。もし仮にスクールアイドルをしているが故に出られないという場合、即ち真姫はスクールアイドルとしての活動を心から楽しんでいる。のかもしれないからだ。練習に真面目に取り組んで、ほか六人プラスアルファのメンバーと仲良く話して、そうやって満喫しているというのに無理やり電話に出させるのもあれだろう。友達付き合いだって真姫には必要だ。
流石に離婚とか婚約解消とか言われない限りは、彼女の自由を可能な限り叶えてやりたい。
そうこう考えるうちに五度目のコールが終わろうとする。心惜しいが諦めてメールで愛を送ることにしよう。ああ、真姫成分が不足しちゃうけど我慢だ。
『……もしもし真士! 間に合ってる?』
「お、おう真姫! 間に合ってるぞ、大丈夫」
『そ、そう……あの、ごめんなさい。友達と勉強してたら電話に出るの、遅れちゃったわ』
「いや、全然いいよ。こうして出てくれただけでも嬉しいから。俺のほうこそ、友達との時間を、邪魔してごめんな」
『そんなに気にしないで。私も、あなたから電話が来て……嬉しいから』
「……」
『……』
ふいに二人とも黙りこくってしまう。
電話の向こうに真姫がいて、話せるのがうれしくてたまらない。
家に帰れば話せるが、やっぱり話せるときに話したいのが俺の真姫への愛なんだ。
いかんいかん、このままだと真姫にも迷惑がかかってしまう。
向こうも友達付き合いがあるのだ、名残惜しいが早めに用件を伝えなければ。
「あのさ、真姫」
『ん、なぁに?』
「今日……飯はミッチたちと食べるから、母さんたちと食べておいてくれないか?」
『うん、一緒に食べるのも久々なんでしょ? わかったわ。でも、泊りは許さないから』
「大丈夫、絶対に家に帰るから」
『当然よ。それと、満実さんに伝えておいて。今度は私もご飯一緒させてください。って』
「おう、任せろ……んじゃあ、うん」
『そうね……切らなきゃ。互いに、用事の途中だものね』
「じゃあ、またあとでな」
『ええ、またあとで』
互いに苦笑をしながら一時の別れを告げる。
しかし別れを告げても、通話を切ろうとは思うがなかなか切れない。
裕也に過去一度「もう十年以上の付き合いなのに、付き合いたての初々しいカップルじゃねぇか!」 って突っ込まれたがその通りなのだろうか? 俺には初々しいカップルがどういうものかわかっていないからうなずくこともできない。
俺は目を閉じ空を一度見上げた後、大きく深呼吸をし、気合を入れなおして通話を切る。
通話時間の表示があまりにもむなしい。もっと話していたいという想いが膨れ上がる。
後ろ髪をひかれる思いに苛まれながら、後ろを振り向くとミッチたち全員がいつの間にか通話を終えていたようで、どこか微笑ましそうな顔で俺のことを見つめている。
「ほんといつみてもお前と真姫ちゃんのやり取りは飽きないよな」
「リーダー、好きすぎるもんな真姫ちゃんのことが」
「まぁここは一度リーダーの初々しい真っ赤なお顔は置いておきましょう。丁度入口に迎えが来てるはずですから」
色々とつっこんでやりたい衝動に駆られるが我慢をし、ミッチたちに追従する。
やっぱり通話を切ったことが名残惜しいのでメールでも送ろうかと思い、携帯を再び開くが、既に真姫からのメールが一件来ていた。
【電話は名残惜しいけど、今は食事を楽しんで頂戴。後でその話聞かせてね】
返信をするべきかどうか悩んだが、ここで返信をしてしまってはさっきの二の舞になるだろう。ならば今は真姫の言う通り、食事を楽しみたい。
俺は手に抱えていた携帯をそっとポケットにしまい、走って裕也とザックにタックルをかます。
ぶつかった時の体の痛みに少しだけ心地よさを覚えながら思う。
たまにはこうして真姫のいない時間を心から楽しんでみるのもいいのかもしれないかな。
・無言の腹パン
某アニメ定番の腹パン攻撃。たまに作画にも影響を及ぼします
・ミッチ
ド外道だけど良い子です。友達思い。実は彼女がいる。
・ザック
自称テクニシャン。実態は未経験者。初心なので実はわかりやすい。
・裕也
ゲーマー。恋愛ゲームをバイブルとか言って真士に貸すが、実は当の本人はそんなセオリー信じてない。
・コロンビア
正答の喜び、歓喜を表す時に一番使えると思ったやつ。検索の際は【コロンビア コラ画像】で調べるとよいかも。
・デザート
例のマミャーのアイスみたいに食べてもキラキラはしないがやっぱり重宝するのは甘味である。
・最後
真姫ちゃんいないと何にもできないっていうダメ主人公の初期設定がありまして。それがいまだに尾を引いています。
ランキングをふと見てみたらルーキー日間、日間加点(透明)の双方でランクインしていました。
読んでくださった皆さん、お気に入り登録してくださった皆さん、感想をくれたみなさん、評価をくれたみなさん。ありがとうございます。
これからも拙作をよろしくお願いいたします。
読了ありがとうございました