近所の病院の娘と許嫁だけど何か質問でもある?   作:次郎鉄拳

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来校

最近愛しの真姫がどこか隠し事をするようになった気がする。

具体的には今年の春くらい、音ノ木坂学院の廃校が噂されるようになったあたりである。

真姫は容姿もよいがそれをねたませない程度に要領がいいのでクラスで特に浮いているとかなく、廃校についても、

「出来ることはないだろうけど、少し残念だわ」

と、一抹の寂しさを感じていただけに、俺はちょっと親父を脅して寄付させようかとか思ったくらいだ。

 

 

 

いや、そういう話ではなく、だいたいその話をしていた数日後だろうか。

小中合わせてもあまり露骨な疲れを見せなかった真姫が、珍しく顔に「私疲れたわ」という雰囲気を丸出しにして帰ってきたのである。

少し驚いたし、いじめか?そいつ人生後悔させてやろうか?と思ったので話を聞こうとしたが、

「あなたの思ってるようなことはないから安心して。学校生活は楽しくやれてるわ」

と、突っ返されてしまったので仕方なく聞けず仕舞いに終わったのだ。

 

 

しかしさらにその後今度は真姫の帰りが遅くなった。

別に束縛とか門限とか厳しく設けてるわけではないが、いつも俺より前に帰ってきて、俺を玄関で出迎えてくれる真姫が、神妙な顔をしながら俺に出迎えられるというのは、当然心配になるだろう。日課というのはそれほどちょっとした変化に疑念を抱かせやすいのだ。

 

 

さらに言えば真姫は最近寝る前に地下のスタジオ室でピアノを弾くようになった。

真姫がほかの楽器を使ってるところを見たこともないし本人から聞いたこともないのでピアノに違いはない。確信している。

最近あんまり弾くことも減ったので俺としてはうれしいことこの上ないのだが、スタジオ室の入口に「真士入室禁止」と書いて貼ってあるのには思わず目の前が真っ白になった。

辛かったから真姫を寝るときにいっぱい抱きしめたら蹴っ飛ばされた。

 

 

だが真姫は割と深刻なことなら俺に相談してくれる。

真姫だって高校生で子供じゃない。本当に困ってどうしようもない時の表情がどういうものだっていうのも俺には分かる。

というかあいつは体中に表れる雰囲気でなんとなくそこらへんも分かる。

不機嫌な時もうれしい時も悲しい時もなんとなく伝わるのだ。

これが以心伝心。非現実的だとは思うがわかるのだから仕方がないね。

 

 

 

またしても話がずれてしまったが、まずはこの話に至るまでの流れを思い出さなければならない。

先日裕也やミッチ、ビート・ライダーズの仲間であるザックこと、佐久間(さくま)(がく)と話していた時なのだが、

 

 

「なぁ真士、これさお前の嫁に似てないか?」

「んあ? なんだこれ、スクールアイドル?」

「リーダー、スクールアイドルも知らないのか? 有名なのに」

「いや、俺真姫にしか興味ないし……」

「兄さんみたいな告白ありがとうございました。でも、とりあえず黙ってそれよく見てください」

「へいへい……」

 

 

ミッチの指示に従い、あんまり乗り気ではないものの、裕也が持つタブレットに視線を向ける。

タブレット付近でザックの手が待機してるのが少し気になるが。

 

 

「んじゃあ流すぞ。たぶんすぐわかるから目、離すなよ」

「リーダー、【これからのSomeday】って曲だからな、忘れるなよ」

 

 

曲と映像が始まる。七人の少女たちが曲のイメージに合わせたのであろう衣装を身にまとっていて、少し感嘆する。全員にあっているからだ。

そんな中ザックが一人の少女を指さす。

映像の中とは言え一人だけ飛びぬけて輝いて見える、情熱の紅色の髪で、釣り目だが口元が緊張且つ、おそらく喜びで複雑な状況になっているマジシャンのサポーターみたいな衣装の少女……間違いない。

真姫だ。

 

 

「リーダー? リーダー⁉」

「ダメです。リーダー自分の世界に浸ってます」

「ほんとに嫁さん好きなんだよなコイツは……」

 

 

三人が何か言ってるがどうでもいい。真姫から目が離せない。

真姫がダンスをする姿を見るのもそういえば久しぶりだったかもしれない。

俺たちビート・ライダーズと一緒にダンスをしてたことは数度あったが、真姫は何処か違うといった感覚があったようだし、ここまで生き生きと踊る彼女を見れるのが幸せである。

真姫はやはり歌もうまい。踊りながらなのに息がそんな切れてないのはあれだろうか、俺たちと踊っていた経験などが無駄ではなかったということなのだろうか。

だとしたら少しうれしい。

曲が終わって映像も終わる。

結局真姫以外に目を向けてなかった。

まぁ何度も言うが真姫以外にあんまり興味がないからいいのだが。

 

 

顔を上げるとミッチもザックも苦笑いをしながら俺を見ているし、裕也はおなかを抱えゲラゲラ笑っている。

なんか無性に腹が立ったので裕也に一回蹴りを入れて、ザックたちに向き直る。

裕也が悶絶をするところを笑顔で見ているミッチが怖く思える。

 

 

「ずいぶんと集中してたなリーダー。そんなに集中してたってことは自分が何言ってたのか覚えてなさそうだし」

「え、そこまで? 俺そんなに口走ってた?」

「ええ。リーダーずっと『真姫……真姫……』 とうわごとのように真姫さんのこと呟いてましたよ」

「ぶっちゃけると録画して真姫ちゃんに見せてやりたかったぜリーダーの集中っぷり」

 

 

集中しすぎて真姫成分が枯渇しているのに気付いていなかったようだ。

これはもう音ノ木坂に迎えに行くしかないようだな。と薄ぼんやり考えながらクックックと笑いをこらえるザックにアイアンクローを行う。

ザックの痛みからの絶叫が晴れの空に響き、その声にメンバー全員が集まって写真を取っていたのはまた別の話。

 

 

 

 

 

と、ここまでがこの話のいきさつであり、

それを踏まえたうえで俺が今どこにいるかというと……

 

 

「ねぇ、あの人かっこよくない?」

「声かけてみなよ、お近づきになれるかも!」

「でもわざわざ音ノ木坂に、しかもこの時間に男性が来るって何だろうね?」

「もしかして、誰かの彼氏!?」

「うらやましーい!」

 

 

……音ノ木坂学院の入り口にいます。

周りの女子生徒の反応を見るとやっぱ女子高なんだなとか感じます。

ぶっちゃけるとすっごい気まずいです。

勢いできたけれどよくよく考えればアポ取ってねぇし突貫工事にもほどがあるだろ何やってるんだろう俺。

周りにヒソヒソ話のタネにされたまま帰るとそれこそ不審者扱いで警戒されるかもしれない。しかしこのまま入ろうにもアポがないので追い返されるのが落ち。

もしかしたらこれ詰んだかもしれない。このまま待っても通報されるんだろうなぁ……

 

 

「そこのあなた、音ノ木坂学院に何か御用ですか?」

 

 

真姫に会いたい一心で練習切り上げてきたっていうのにこれはあんまりだよ真姫。

 

 

「ちょっと、聴いていますか? 何の御用ですか?」

 

 

ああ真姫。真姫、こんな甘さ丸出しの情けない夫(予定)を許してくれないか……

こんど一緒にトマト専門店食べに行こう。俺がおごるから……

 

 

「そこの校舎を見上げてじっと立ってる男性のあなた! 私の話を聴いてますか!?」

「ん?おお、すまない、俺のことだったのか」

「あなたしかいないでしょう!? さっきからそこにいるので、生徒たちが不審がってるのですよ!」

 

 

顔をおろして声の主を見ると、そこにいたのは真姫とどっこいどっこいの身長で、綺麗な金髪の少女がいた。

なんか怒ってるなと思ったがそういうことか。

 

 

「ああ、いやすまない。ここに用があってきたのはいいが、あいにくとアポを取り忘れててね。どうしたらいいかわからなくて棒立ちになってしまっていたんだ。君は……?」

「私はここの生徒会長です。確かに本日来客があるという話は聞いていませんが、だからと言ってそこにずっといられると生徒に不安を与えてしまうのですが」

「うむむ、それは確かにそうだな。話しかけてくれて助かったよ、今日は素直に帰ろうと思う」

「最初からそうしてください。次来校の際はアポイントメントを忘れずに」

「ご忠告ありがとう。気を付けるよ」

 

 

生徒会長さんはなかなかにお堅いようで、取りつく島もなさそうなので素直に帰ることにする。

ああ、早く真姫に会いたい。そう思って踵を返そうとすると、誰かがこっちに走ってくる。

誰かじゃないな。あれは真姫だ。間違いない。俺が来てると知って会いに来てくれたんだ。

 

 

「真姫! 会いたかったよ、真姫ぃぃぃぃ!」

「なんでっ、来ないでっていったのに! 来たのよっバカァァァァァァ!」

「ダバッ!?」

 

 

走ってくる真姫に抱き着こうと思ったら、涙目の真姫に頭からのタックルを決められて吹き飛ぶことになった。

生徒会長さんが戸惑った顔でこっちを見てる。

ああ、だめ、これ、頭うった……

 

 




・真姫
この作品では真士の存在により原作よりも社交的な感じに。
割と完ぺき超人キャラクターな感じは否めなくなっている。

・真士
やってることがミッチのニーサンとだいたい同じ。
愛というのは免罪符。

・真士入室禁止
真姫ちゃんは恥ずかしがり屋なので仕方がないね。

・ザック
元ネタキャラ:仮面ライダー鎧武
メインは彼と裕也とミッチ。ちなみに名前はザック→サック→さく→佐久間と、役者さんの名前から。

・音ノ木坂学院
真士は黙ってればイケメンで済むらしい。

・生徒会長
どこのKKEなんだろうか(棒読み

・トマト専門店
真士はトマトが得意じゃないです。



読了ありがとうございました。

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