近所の病院の娘と許嫁だけど何か質問でもある?   作:次郎鉄拳

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最終回≪彼と彼女の務め≫

――これは、真士と真姫が結婚した後のお話――

 

 

スクールアイドルμ'sが解散し、その後真姫が無事に音ノ木坂学院を卒業し、俺の悲願であった『真姫に給料三か月分の指輪でプロポーズをする』ということも成功。

真姫が大学生になった歳の夏、大事なビートライダーズの仲間と、真姫の友達でもあったμ’sの皆、その関係者を呼んだ結婚式を俺たちは行った。

結婚初夜――とはいってももう数年前に初夜は済ませているが――を終え、家で親父の手伝いを行いつつ真姫を大学に送り迎えする毎日。

当然俺たちの間に倦怠期やら氷河期とか揶揄されるものはない――と思っている。

いつでも熱いカップルでいるぞ俺たちは!

 

 

そんな感じで新生ビートライダーズの特別コーチとして駆り出されたり、裕也の家まで冷やかしに行ったり、あまり変わることのない生活を続けていたが。

そんなある日、母さんに呼び出された俺はこんなことを告げられた。

 

 

 

「もうじきであんたの結婚を報告するパーティー開くけど何着ていくの」

「意味わかんない!」

 

 

 

俺に拳骨をくれやがった母さんによれば、どうやら親父も結婚したときに親戚一同や関係者各所を呼んだパーティーをしたらしいのだ。

故に、俺もそうするべきだという話になったらしく、次期東原家家長の紹介もかねて開くことになった――のだとか。

 

 

 

「勝手に決めないでもらえませんかね母上」

「だまらっしゃいバカ息子。この家に生まれたってことは嫌でもそういう会もやらなきゃいけないのよ」

「でも俺その日休みだから真姫連れて遊びに行こうと思ったんだけど……」

「真姫ちゃんも行かせるわよ。結婚報告もするパーティーなのに新婦を行かせないってどんな冗談よ」

「いや、そういうことじゃなくてさ――」

 

 

 

真姫をそういう場に連れていって嫌な空気を吸わせたくないだけだし、そんなところに連れていくくらいならもっと楽しいところなんてあるし……

そんなこんなでごねようと思ったら母さんに一発拳骨を落とされ、問答無用でいくように命令された。

途中から話に入ってきた義父さんと義母さんにもなだめられた俺は、取り合えず新しいスーツを発注することになり、またそれだけでも一日を束縛されてしまったのである。

おかげさまで真姫と約束していた大学帰りのたい焼き屋がお流れになる痛恨の失態を犯した俺であった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「ごめんな真姫……こんな二人そろって休みな時に限ってこう言うところにしか連れてこれないような夫で……」

「もう、なに罪悪感に押しつぶされているのよ。まるでことりの部屋でラッキースケベにあったザックさんみたいな声まで出しちゃって……」

「え、ザックいったい何があったのアイツ」

 

 

 

会場の控室で衣装を着付け、二人で待機しているとき真姫に謝っていると大変衝撃的な言葉を、真姫から聞いた。

ザックが無事粘り強さで音ノ木坂理事長こと南涼麻(すずめ)さんとゴールインしたことは本人からも報告を受けたし、結婚式にも招待された。

家族生活はちょっとことりちゃんと距離感がつかめていないがうまくいっているようだとも、彼自身から聞いていたのだが……

ことりちゃんの部屋でラッキースケベとかいったい何をどうしたらそうなるんだアイツ。

 

 

 

「ことりから聞いたんだけど、ことりが風邪ひいた日に涼麻さんが仕事中だからと代わりに看病しようとしたらしいの」

「まぁザックなら歳も近い上義理とはいえども、娘になるんだからそういう気を焼きたいのかもしれないしなぁ……」

「そんなある日にことりが着替えていたら思わずころんじゃったらしくて」

「服が引っ掛かったとかそんなんだろ? 真姫だってたまにやるし」

「バカ、思い出さないでちょうだい。まぁ、そんな感じでことりも転んだんだけど……」

「なるほど、オチが読めたぞ」

 

 

 

大方ザックがその音を聞きつけて部屋に飛び込んだのだろう。

余裕ぶっている割に焦りやすいおっちょこちょいなあいつのことだ。

それによって着替え中のことりちゃんの着替えを見たのだろう。

――という俺の推理は見事真姫に――

 

 

 

「いいえ。ザックさんはそこでノックをして無事を確認してたからそれはないわ」

「えっ、違うの」

 

 

 

――否定された。

ということは何だろうか。どうしてザックはことりちゃんの部屋でラッキースケベを起こしたのだろうか。

 

 

 

「ザックさんがことりからドアを開けてもらうのを待ってて、その開けてもらったドアを避けようとしたら後頭部を壁にぶつけたらしいの。あとはよろけてことりに倒れこみそうになったのを体捻って躱そうとしたら、ドアの近くの壁に頭をまた打って、悶絶しているところにことりが脚躓けてザックさんを倒しちゃったみたいで」

 

 

 

ザックなんも悪くねぇじゃん。これが俺から出たたった一言のツッコミである。

ザックが悪いから平謝りしたのかと思ったら全くザック悪くなくて偶然の産物じゃんかどういうことだよ真姫。

 

 

 

「私にも知らないわよ。ただ私はことりに『岳さんと仲直りしたいから助けて』って言われてその話を聞いただけだし」

「マジか、じゃあどういうアドバイスをしたんだ」

「直球で謝りなさいって言ったわ」

 

 

 

どうやら愛しの妃様は謝罪も真正面から行うことが正しいと思っていらっしゃるようです。

素直な真姫かわいいから別にそれでもいいかな!

と、そんな会話をしていたところ、そろそろ時間だと無粋な声をかけてきたやつがいるのでそっちに顔を向ける。

そこにいたのはどこかで見たことがあるような、見たことが無いようなそんな顔。

覚えていないのだからきっと初体面のボーイさんか。

 

 

 

「ありがとう角人(すみと)さん。ほら真士、行くわよ。楽しい会話はまたホテルでしましょう?」

「わかったよ真姫……ええと、ボーイさん、ありがとなわざわざ」

 

 

 

なぜかボーイさんと呼んだとたん、顔を文字通りゆがめて睨んでくるボーイ。

会場に向かう中で真姫にその話を振ってみると、すごく呆れたような顔をして俺を窘めてきた。

聴くところ、先ほどのボーイだと思っていた青年はうちの遠縁の親戚である白岡(しらおか)家の長男。

名を角人といい、次期白岡家家長という立場を背負っているが故にここのパーティーに出席しており、過去のパーティーにも出席していたことがあるというらしい。

なるほど。だから真姫は名前を憶えているのか。

 

 

そんなん言われてもなぁとは思う。もともと自分の家の親戚などあったこともほとんどない。

いきなりあった相手が親戚の子ですよーとか言われたところで興味もない。

真姫がいれば俺はそれで充分。あとはビートライダーズの仲間もか。

まぁそれを真姫に直接言ってはまたあきれられてしまうのだから、言わないでおこうと思いつつ。パーティーを形だけでも楽しもうと思った。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

媚び諂うような顔で俺と真姫に上からの祝辞を述べ続ける気持ちの悪い瞬間から無理やり逃れ、俺と真姫はバルコニーで二人っきりの時間を楽しんでいた。

 

 

 

「まったく……そうやってやってたらいつまでもおじさまたちが苦労するんだからね?」

「いいんだよ俺はそういうの興味ないんだから。真姫しか要らない……は言い過ぎだけどさ、ああいうのは大っ嫌いだ」

「ほんとバカなんだから……仕方ないわね。私がその分頑張るのはいつもだものね」

「じゃあ俺はその分真姫を愛して支えるよ。これまでもだったけど、これからもそうする」

 

 

 

真姫を抱きしめ、さっさとこの空間からホテルに帰って寝たいなと考える。

そんな中、またもや誰かから邪魔が入る。

顔を上げてその人物を確認すると、白岡の角人だったかが俺たちをあきれの顔で見ていた。

 

 

 

「……なにしにきた」

「それはこっちのセリフだ。本家様の長男だか何だか知らんが、好き勝手にやってその上パーティーまで勝手に抜け出しやがって」

「ああ? 俺と真姫の邪魔してまで言いたいことはそれか?」

「お前本当に昔からその許嫁さんばっかだな。案の定俺のこと忘れてたとかわかった時はあきれるどころか泣きたくなったわクソったれ」

 

 

 

向こうがガンを飛ばしてくるのならばこっちもガンを飛ばす。

真姫との時間を邪魔してまで言いにきたことがこれとか本当に目障りで、早く真姫と二人っきりの空間まで戻してほしい。

なぜこいつらはこっちの気持ちを感じないのか。真姫とか裕也たちは言う前にやってくれることが多いってのに。

 

 

 

「まぁまぁ真士、落ち着きなさいよ。ほら、角人さんも睨まないで、ね?」

「……チッ」

「真姫に免じて許してやるよ……」

 

 

 

真姫が間に入ってなだめてくるので、ここは真姫を立てて怒りを抑える。

相手方も舌打ちをして頭に右手をかざす。

そんな相手と真姫が会話を始めた。

 

 

 

「それで、角人さんはどんな用事できたんですか?」

「……パーティは後三十分で仕舞いになる。だからお前等の言葉で〆ようってなってみんな探してるんだよ」

「ごめんなさい、でしたらすぐに戻ります。ほら真士、行くわよ」

「さっさとしてくれ。二人がいなきゃ終われねぇし、俺も飯持って帰れねぇんだ」

 

 

 

真姫が手を握り、俺をバルコニーより連れ出し、ホールの会場まで向かう。

横目で見た彼の手には、今更気付いたがなぜかプラスチックで作られたタッパーが握られていた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「お疲れ様真士」

「お疲れ様、真姫」

 

 

 

場所は俺たちが泊まっているホテルのスイートルーム。

そこのテーブルで、真姫はトマトジュースを。俺は水を注いで乾杯する。

最初から最後までパーティーは居づらくて仕方がなかったが、こうして真姫と二人で過ごしていると、そんな辛さもなかったこととして感じられる。

 

 

 

「真士」

「どうした真姫」

「呼んでみただけ」

「そっか」

「――真士」

「なんd――」

 

 

 

真姫のほうを向くと、目の前に真姫の瞳があって。

キスをされたのだなと思ったときには、真姫のぬるっとした舌を感じた。

どうやら真姫は熱い夜をお望みらしい。

 

 

 

「んはっ――今日は珍しく誘ってくるのか?」

「うん――あまり一緒にいれなかったし、寝るだけじゃ……満足できなさそう」

 

 

 

真姫の指を撫で、真姫の希望を受け、ベッドまでお姫様だっこのまま運ぶ。

寝かせた真姫に覆いかぶさり俺は――――

 






・南涼麻
南ことりの母親。初めて出てきた名前ではあるが別にこれと言って理由はない。
ザックの粘り強いATTACKに折れ、交際を始めたところザックの真摯さに惹かれてゴールインをした。


・ザック
義理の娘となったことりが近い年齢のためいまいち距離感に困っている南家の婿。
後日ラッキースケベの謝罪をことりにされ、一時間くらい謝り合っていたとか。


・白岡角人
私作である網元の長女が許嫁(仮)なんだが!の主人公。
タッパーを持っていたのはパーティーの料理の残りを持って帰るつもりだったため。
遠縁の親戚である真士のことはよく思ってない模様。


・真姫
真士愛しの許嫁。揺るぐことのないメインヒロイン。
最終的に真士の意識改善を完全に行えないとあきらめ、自分が支えることが大事だと確信。


・真士
真姫狂い主人公。
他人なんてどうでもいい精神が過ぎるため子供の頃にあったらしい角人のことすら覚えていない。
この後彼と真姫は二人の娘と一人の息子が生まれる――とか。




そんなわけで凍結から経て最終回です。
真姫嫁を読んでくださったみなさま、ありがとうございました。
変にストーリーを匂わせたり、次回書くと言いつつも書いていない話もありますが、これにて当作品は完結とさせていただきます。
改めて皆様、ありがとうございました。

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