近所の病院の娘と許嫁だけど何か質問でもある?   作:次郎鉄拳

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注:今回のみ、終盤のほうで多少の残酷表現がございます。
これには、登場人物に『直接関与のない』内容ですが、
『念のため』の注意書きとさせていただきます。


ドギマギめもりーす

 

 

夏休みも折り返しを過ぎ始め、なんだか暑さも少しずつ収まって、真姫の肌に汗が浮かぶところがあまり見れなくなったなぁと思い始めたそんなころ。

いつものビート・ライダーズの練習の帰り道に、裕也からゲームを渡された。

どうやら最近出たばかりの新作らしく、是非真姫と共にプレイをしてほしい、それで感想を聞かせてくれ。

と、頼まれた。

裕也が貸してくるゲームは最近参考には使っていないが、単純に面白いので、未だに借りることはやめられない。

 

 

「真姫、裕也から新しいゲームを借りたんだ、一緒にやろう」

「一緒にって……裕也さんが貸してくれるものって、いつも、二人以上でやるものじゃないわよ?」

「む……ん」

「それに、二人で遊べるゲームなんて、新しいのが出るたびに、ママとおばさまが買っているじゃない」

「……確かに。じゃあ、なんで裕也は貸してきたときに、『真姫ちゃんと二人でいるときにやるといい』って薦めてきたんだ……?」

「まず、そのゲームって何かしら? なに……ドギマギめもりーす6……?」

 

 

パッケージを見た真姫が顔をしぶめる。

ドギマギめもりーす6は、確か数日前に発売したばっかりのドギめもシリーズ最新作だったはずだ。

借りる数週間前くらいにザックと裕也だけでなく、珍しくミッチもその話に入っていたからそこらへんのことは覚えている。

ヒロインも舞台も何もかもが一新されたまさに画期的ゲームだとかなんだと騒いでいたな……

というかミッチがドギめものファンだったことに驚きだよ……孝虎さんよく許したな……

 

 

「ええと……これまでに存在しなかった、ドギめもによる新世界が……幕を開ける?」

「キャッチコピー壮大だな、おい」

「あら、真士……何もわからないで、裕也さんに借りたの?」

「いやぁ、まだ発売したばかりだからさ。裕也がプレイしてから、貸してくれるって思ってたんだ……」

「と、いうことはこれについては、何も聞いてないのね?」

「ああ、今回何も教えてもらってないし、これは今貸してもらえると思ってもなかったからさ」

「要するに、見事に知識なし……なのね」

「すまん……」

「いいわよ。パッケージ見るだけでも、なんだか凝ってそうだし、一緒にやりましょ」

 

 

そういって真姫はゲームをテレビにいそいそと繋ぎだす。

なれば俺はお菓子と飲み物を用意しておこう。

そういえば真姫の好きなトマトジュースがいい具合に冷えてるはず……

 

 

 

 

 

 

「さ、始めましょ」

「おう、まずは……主人公の名前か」

「いつも通りでいいんじゃないかしら?」

 

 

なんだかんだでおそらく一番楽しみにしているように見える真姫が急かしてくる。

応えながらニューゲームを選択すると、よくある「名前を入力してね!」が出てきた。

真姫の言う通り、いつもこういうゲームをするときに使う名前を入れておく。

 

 

「それもそうか。ええと……さ、く……ま。名前が……ゆ、う、や……っと」

「あら……好きな季節とか、好きな時間帯とか、そういうことまで決めるのね」

「んー? 前やった時の4にはこんな質問なかったぞ……」

「まだ続くのね……質問することがそんなにあるのは、なぜ?」

「俺にもわからない……必要なのか?」

 

 

五分ほど表示される質問に答え続け、ようやくプロローグらしきものが始まった。

なんだあの質問の数々。

好きな女性のタイプは? と出た時は真姫と顔を合わせて悩んだぞ。

とりあえず適当に、性格がクールで、立場が後輩と選択したが……

 

頭を振ってゲームに気を取り直す。

こういうゲームではプロローグで攻略対象と呼ばれる女の子たちのうち半分くらいが出てくる。

前にやった『なんちゃら同級生』とかいうゲームでは攻略対象が合計41人もいて思わず投げ出してしまったな……プロローグで20人は多いなと思ったらまさか倍もいたんだと……

つまり、出てくる攻略対象が少なければ、必然的に倍にしても少ないまま。

裕也は確か『選別タイム』と呼んでいた気がする。

 

 

「おお、最初からよくある展開だ」

「何処にでもいる。って表現が……よくあることなの?」

「ああ、今まで借りたゲームのうち、半分以上がこの出だしで始まってるんだ」

「顔も普通、性格も没個性、運動学業普通……そんな人って本当にいるのかしら?」

「裕也に同じこと聞いたけどさ、それは触れちゃいけないらしいんだ」

「こういうゲームの、後ろ暗い話……なのかしら」

 

 

プロローグの最初をまとめるとこうだ。

主人公『さくまゆうや』は、何処にでもいる平凡な普通の高校生。

高校二年生の始まりごろ、両親はそろって長期の海外出張へ出ることになり、ゆうやは家で寂しく独り暮らしを強いられることになる。

独り暮らしという年頃の男子なら誰でも夢に思う展開であるとともに、挨拶しても誰もいないつらさの中、彼は新学年をスタートしたのである。

 

 

「なんで御両親は、ゆうやさんを置いて海外に行くのかしら」

「どうやら、ゆうやくんの慣れてきた学校生活を無理やり終わらせてしまうことが、親御さんにとっては心苦しいらしいんだとさ」

「独り暮らしって、憧れるものなの?」

「どうだろうなぁ……俺は真姫がいてほしいから独り暮らしとか考えたこともないなぁ」

「もう……調子良いことばっかり」

 

 

会話を重ねながらポチポチとプロローグを進めていく。

プロローグにはどうやら選択肢がないゲームが多いらしく、ドギめも6も今のところそれと同じ類みたいだ。

攻略対象がシーンごとに出ている中、その一人である『かざなみゆいか』の登場シーンのところで真姫が、俺の肩をたたきながら声を上げた。

 

 

「真士! 真士! 見て!」

「ん……? どこをだ」

「そこ! ゆいかの左側、曲がり角のところ!」

「えーと……? ……なんだこれ……?」

 

 

真姫の指さした先、画面の左奥の曲がり角のあたりに、何かが見える。

見たところ、人影のようにも見えるそれは、半身をその曲がり角からひょこっと出しているらしい。

 

 

「さっきまでの背景に、こんなのなかったわ!」

「落ち着けって真姫。さっきまでの背景を覚えてないからわからないが、ただの通行人じゃあないのか?」

「そう見えたらすごいわよ!? 明らかに半身だけのぞかせるって怪しいと思わない?」

「んー……それもそうだが……現時点どうやら何もできないらしいぞ。確認はできないな」

「真士、今から背景にも気を配るわよ。なんか、なんかね、嫌な予感が……してるわ」

 

 

神妙そうな顔でコクリとトマトジュースを飲む真姫。

正直ゲームよりか真姫を見ている方が俺は楽しい。

しかし愛しの姫君は続きを急かすようで、俺は半ば呆けながらプロローグを進めた。

 

 

 

 

 

時計をちらっと盗み見てみると時は夕方五時。

始めたのがだいたい四時過ぎなので一時間は経ってるな。

母も義母も帰ってこないなーと、ふと思ったが……今日は遅くなるとかメールが来ていたことを思い出す。

ゲームのほうはそれなりに進んでいて、真姫と相談した結果、全9人の攻略対象のうち、真姫が背景で騒いだとき丁度出ていたゆいかを追うことにした。

選択肢やゆうやの発言に喜怒哀楽でツッコミを入れてくれる真姫がかわいすぎてどんなストーリー状況なのかうろ覚えすぎる。

しかし……幾度目かのゆいかとのコミュニケーションが終わり、ゲーム画面が暗転したとき、それは起こった。

 

 

「かざなみゆいかが選択できなくなりました……?」

「えっ……どういう……ことなの?」

「まるで意味がわからないぞ……」

 

 

次に出てきたメッセージには、かざなみゆいかを選択不能という知らせ。

対象選択画面でも確かにゆいかは見つからず、俺と真姫は顔を見合わせ、困惑する。

 

 

「何がどうなってるんだ……?」

「どっ……どうするの……?」

「どうもこうも……『まさと』に話を聞くか」

「ええ……そうね」

 

 

まさとというのはドギめも恒例の便利キャラである『おりべまさと』。

裕也曰くその立場は『親友ポジ』と呼ばれているらしい。

その便利キャラ扱いに恥じない情報持ち、選択肢の中で一つしか選べないが、選択するたびにそれらについて聞くことができるというありがたい存在だ。

故にこういうときこそ頼らざるを得ない。

しかしここでも、よくわからない事態が起こった。

 

 

「まさとを選択したのにまさとがいない……?」

「電話にも出ない。って……いったい何が、起こっているの……?」

「せっ……! 選択肢が出たぞ!」

「家に会いに行くか、それとも、よく遊びに行ってる場所に、行くかってことかしら……?」

「さっきの内容を見るに、おそらくまさとは登校していない……」

「でも、電話にも出ないってことは、家にいるはずもないわよね?」

「ここは、遊びに行ってる場所に行くのが正しいかもな……」

 

 

そう互いに納得して結論付け、まさとを探しに行く選択をする。

場面が暗転し、次に出たメッセージは……

 

 

「しかし、見つかることはなかった……か」

「まさとも、いったいどこに行ったのかしら」

「おりべまさとが選択不可能になりました……本当にどうなってるんだこのゲームは」

「ねぇ真士、一度……何もしないで終わってみない?」

 

 

何もしないとはすなわち、対象選択画面において誰にも会わずにその行動フェイズを終えることである。

この手のゲームにおいて、好感度の調整というもので使う人は多いのだとか……

真姫はそれを逆手に取り、誰とも会わず、ゆいかとまさと以外がどうなるかを見ようとしているのだろうか?

何はともあれ従うことにする。

 

 

「……ん? なんだ、夜に出歩いてるぞ。ゆうやが」

「これもイベントってやつなの……? 意味……わかんない」

「っ!? まっ、真姫……そこの電柱のとこ」

「ウソ……これ本当にギャルゲーってものなの? 絶対ホラーゲームじゃない!」

 

 

背景の電柱付近に何か違和感を覚えたのでよく見てみると、明らかな人影がこちらを見ているのが確認できた。

その口もうっすらとしか描かれてないが、ニタリとした形になっているのだけはなんとなくわかる。

薄らと寒気に襲われる俺に、同じく震えだした真姫が抱き着いてくる。

暖かい。その可愛さと暖かさに少しだけ落ち着いたので、勇気を出して話を進めてみる。

画面が瞬きのように短く暗転する。

そのとき、もう一度電柱の付近で違和感を覚えた。

 

 

「真士……いない……」

「……おいおい……」

 

 

先ほどの人影がいない。

どういうことだ。

メッセージが進む。

心なしか、真姫の俺を掴む力が強まった。

その時、画面に、ゆうやの肩を誰かが叩く。という文字が出てくると同時に、選択肢が表れる。

 

 

「振り向くか、逃げるか」

「やだ……こわい……」

「……ここは逃げるぞ」

「うん……」

 

 

心臓の動きがバクバクと響いてくる。

自然と体がこわばり、汗が噴き出ている感じがなんとなく伝わる。

俺と真姫のどちらが飲んだかわからない生唾の音が聞こえると同時に、逃げるを選択した。

 

【グサリ】

 

と、ナイフが刺さった効果音が響く。

想像以上に生々しい音で思わず頬が引きつる。

画面に赤いエフェクトが発生する。

 

【だめじゃないですか……あなたの妻が会いに来たっていうのに。】

 

画面の下部分所々に血が飛び散ったような演出が出る。

 

【グチャリ】

 

先ほどとは違い、肉を抉ってかき回すような音が鳴る。

もう、ただ読んでいるだけのこっちまで気が遠くなりかけている。

思わず心配になり、真姫に目を向ける。

何も反応をしないと思ったら……気絶を、していたのか。

 

 

 

 

 

真姫が気絶していただけだと知って、気付けば母に体を揺り起こされており既に夜だった。

ゲームは、いつの間に話を終わらせていたのか、メニュー画面に戻っていた。

どうやら情けないことに気絶をしてしまっていたらしい。

隣で起きていた真姫は半分くらい涙目で、次裕也にあったらビンタ一発はしてやると意気込んでいた。

母は興味をもって後でやろうとしていたが、とりあえずシャレにならないのでやめておくように言っておいた。

 

そしてこの日の夜、真姫と俺は、母と義母の寝室で一緒に寝させてもらうことを、ドギめも6の恐怖によってお願いするのだった。

 







・ドギマギめもりーす6

今回の話において最も重要な作品。
恋愛ゲームとして有名な制作会社がいろいろな挑戦システムを導入し、CEROレベルを限界まで引き上げたらしい。
「恋愛ゲームとして買ってはいけない」、「ホラーゲームだと思え」、「夜にやってはいけない」
と、レビュー欄は大荒れになっている模様。
そのゲームシステムについての具体的説明は次回のご予定。
なお、貸し出した裕也もこのレビューを貸し出した後に見て、
「やってしまった」と漏らしたらしい。



・ゲーム所有
なんだかんだで真士たちはゲームを保有している。
しかしそれはあくまでも家庭用ゲーム機のパーティゲームに限った話であり、ドギめもなどの一人プレイ前提のゲームは持っていない。
携帯ゲーム機のゲームも持っていないのがここの一家の特徴。


・真士のゲームプレイ
以上のことから、ゲームは二人以上でやるのが基本だと思っており、一人プレイのゲームも
「二人でやればより楽しめるってことか」
という解釈で、必ず真姫を誘っている。
真姫のほうがこういうことに対する認識は正しい方向で持っている。


・孝虎
久々に名前が出たミッチの兄。
ブラコンだが別に趣味にまで口をうるさく挟んでこない良識人。
しかし、ゲームプレイ中に横から口をはさむことが多いため、ミッチにはウザがられている。


・トマトジュース
よくあるギフトで買えるような高級ジュースの類。
真士はやはり飲めないので真姫専用飲み物になっている節がある。


・さくまゆうや君
真士と真姫が主人公の名前を自由に決められるときに必ず使う名義。
別に煽りとかそういう類ではなく、迷わなくていいじゃんということで決まったらしい。


・なんちゃら同級生
正式タイトルは『灼熱!爆炎!魂の同級生!』。
暑苦しいタイトルだがこちらも健全な恋愛ゲーム。
現在家庭用ゲーム機でプレイできる恋愛ゲーム中最多のヒロイン数を誇るゲームで、
その記録は発売から三年たった今も覆されていない。


・好きな女性のタイプ
自然とやっても結局真姫の要素が入ってくる真士。
真姫はこの時少し頬が緩まっていた。


・選別タイム
時たまにパッケージ購入をしてしまう裕也が行うヒロイン選別行為。
ボイス、言動、ビジュアルの基本三点で攻略対象が選ばれる瞬間である。
真士が裕也と真姫に流されて攻略するのも、選別タイムなどで特に興味を引く対象がないからである。


・平凡な
よくある表現だがいろんなゲームを見ていてもどこか一癖二癖強い物で。
平凡とは何か(哲学


・親友ポジ
様々な作品でドラえもんのごとくヘルプしてくれたり、選択フェイズの時に有益な情報をくれるまさに便利キャラ。
作者も時々お世話になる。


・後半
これがドギめも6の真骨頂。詳しくは次回で。




ドギめもについてのご質問などは次回更新の際にご回答させていただきます。

読了ありがとうございました。

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