近所の病院の娘と許嫁だけど何か質問でもある?   作:次郎鉄拳

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朝食

 

「真姫、とってくれ」

「もう、主語を入れなきゃわからないわよ。ほら」

「サンキュ。やっぱ真姫はだれにも負けない最高最強完ぺきの許嫁だ」

「どうしたのよ、最近やたらと変な褒め方しちゃって、少し変よ?」

「んー、まぁ、なんというか、少しだけナンセンスなこと考えちゃってさ」

「ほんと、唐突にそんなことばっかり考えるわよね。今日は練習ないんでしょ? μ’sもないんだからデート、行くわよ」

「だいぶ真姫も唐突じゃないか」

「あなたのせいよ、バカ」

 

 

互いの両親がそれぞれ朝より不在の朝。

今日はビート・ライダーズもお盆によって何もなく、真姫の言う通りμ’sの練習もない。

真姫お手製の和食固めの朝食中、真姫に醤油を取ってもらい焼き魚にドバっとかける。

やっちまったという想いと、真姫からの呆れの目によって挟まれながら気を取り直して納豆のふたを開ける。

最近真姫の親父さん、つまり義父さんがはまっている納豆らしく、前々から推されていたので食べてみることにしたのだ。

蓋の発泡スチロールをバリッとはがすと納豆独特の匂いがして、真姫が少し顔をしかめる。

これはいかんな。この納豆は想像以上ににおいがきついらしい。

しかし開けてしまったものである以上食べるしかない。

覚悟を決めて出汁醤油とからしを突っ込みまぜはじめる。

ねばねばの見た目はよろしくないが割とこの瞬間が楽しい。

 

 

「ネーバネバネッバーネバネバギヴァップー」

「……」

「ネバネーバギヴァギヴァーネバネバギヴァーップ」

「……」

「ネーバネバガンバラネーバネーバー」

「……ねぇ真士」

「ギーヴァ……ん? どうした真姫」

「いつも納豆混ぜてる時歌ってるけど、それ、なに?」

 

 

……なに? だと聞かれてもよくわからない。

納豆をかきまぜているときなぜか口ずさむこれは割と理由も何かもないのだが、真姫はいったい何が気になるのだろうか?

やけに神妙な顔をするのがどうしても気になる。

 

 

「……そう、あなたのことだからわかっていたけど、やっぱりわからないのね」

「んー……まぁな。んでさ、どうしたんだいきなり?」

「……そのリズム、次の曲に使ってもいいかしら?」

「……はい? 使うって……まぁいいぞ」

「そう、ありがと。ほら、早く食べなさい」

「おう……おう?」

 

 

それっきり黙々と朝食を食べる真姫。

どうやら答えてはくれないそうで、デートの為に俺も早く食べてしまったほうがいいとそのまま俺も食べることに集中した。

やはり、真姫の朝食はうまい。後で帰ってきたら義父さんに納豆の苦情でも言っておこう。

 

 

 

 

 

 

「デートっていうから期待してたのに……」

「そう落ち込まなくてもいいでしょ。あなたと出かける場所全部がデートスポットなのよ? つまり今してるのもデートよ」

「すがすがしいほどの暴論ありがとう、些細な時間でも二人だけのデートしてくれるなんて本当に素晴らしい許嫁だ。愛してるよ、真姫」

「当然よ。だからその些細な時間もじっくり楽しむわよ? ……あ、真士、今日の晩御飯なんだけど、ママがいい野菜をもらったって言ってたから、きっと蒸し野菜のディップ……」

 

 

真姫に野菜といわれた時点で逃げることは確定していた。

俺は野菜なんて大嫌いだ、野菜の七割は嫌いだと断言する。

真姫の好物であるトマトだってぶっちゃけてしまえば俺にとっては畏怖の対象になる。

野菜について死刑宣告をしてくる真姫の買い物が終わるまで、どこかで待とう。

当然ながら一人で帰るという選択肢はない。帰り道が希少なイチャイチャデート時間なのだ。

 

 

「……そういえば最近食玩で面白いのが出たって駆門先輩に言われたな……此処は売ってるかな」

「……げっ、コーチ……」

「おう、誰かとは思ったがにこちゃんか。こんにちわー」

「こっ……こんにちは……偶然ね、今日は一人なのかしら?」

「いや……真姫も来てるが……」

「ヒィッ……」

 

 

ふらりと食玩付近に寄ってみるとμ’sのメンバーであるにこちゃんがお菓子を選んでいた。

選んでいるのは明らか男の子の好きそうなヒーローものの食玩。

はて、にこちゃんそういうのが好きだっただろうか?

寧ろあらいずとかいう現在スクールアイドル界トップらしいグループとコラボしたウエハースのほうがほしいのではないだろうか?

そんなにこちゃんは俺を視界に入ると俺が親父を見た時のような表情をする。

前々から思ってたが君は俺のことが嫌いか。いや、俺に関する何かが嫌いなのだこの子は。

その証拠が真姫に対する妙な恐れだ。

コーチとして入った時からそうだが、彼女はなぜか真姫が俺といるときほど、よく恐怖を覚える表情をする。

真姫はいったい彼女に何をしたのだろうか?

俺の最愛の許嫁は意味なく他人を傷つけるなどあり得ないのできっとにこちゃんが失言でもしたのか、そうだきっとそうに決まってる。

 

 

「ま、まぁ、俺のことは置いといて、にこちゃんはここで何をしてるんだ?」

「えっ!? ええ、そうね、にこは……えっと……」

「……そうか、邪魔して悪いね。そうだよな、にこちゃんはきっと、まだ皆にこういうの知られたくないんだもんな」

「……はっ? えっ? ちょっとコーチ!?」

「ごめんな! でも、真姫のことは信じてやってくれ!」

 

 

 

 

 

 

にこちゃんの趣味は見なかったことにして、足早に真姫を探しに行くことにする。

真姫とは青果売り場付近でわかれたがそんな時間も経ってないのできっとまだ付近にいるはず。

そう思いながら精肉売り場あたりまで足を延ばす。

真姫はだれよりも目立つかわいさ綺麗さ美しさがあるので視えればすぐにわかる。

精肉売り場にもいない。どこだろうか。

突如携帯が震える。

メールだ。俺にメールを飛ばしてくるのは真姫か裕也か駆門先輩か母親位、それもこのタイミングで送ってくるなら……

 

 

≪今どこにいるの? もう買い物は終わりだから、早く行くわよ。写真のところで待ってるからね≫

≪わかった。今すぐ行くよ。大事なお姫様≫

≪ばか≫

 

 

やはり真姫だ。いつの間にか買い物を終えていたらしい。

どうやら俺のことを、スーパーから出て少し歩いた場所で待っているようだ。

夏真っ盛り、暑いこんな季節。真姫が熱中症になってしまってはたまったものではない。

あと日に焼けてはまたイチャイチャできなくなる。

少し急いで合流しよう。

そう思い移動すること体感時間二、三分で真姫を発見、荷物はあまり大きくないあたりそんな買うものはなかったのか。

いつも通り後ろから

「愛しの姫よ、お待たせしました」

と、声をかけると彼女はあきれながらこちらへ振り向く。

 

 

「まったく、いっつも野菜と聞いただけですぐにどっか行くんだから。ほんとにまだ野菜嫌いが緩和されないのね」

「そうだよ……勘弁してよ真姫……俺が野菜ダメなの知ってる癖に無理やり野菜食べさせようとするんだから……」

「あなたのせいで、毎日毎日苦労して献立を考えている、ママとおばさまと私たちの気持ちも考えてほしいわね」

「うっ……ごめん……」

「……もう。ほーら、これもって。持ってくれないと手を繋げないじゃない。急ぐものは買ってないから、少しだけ、ゆっくりと、遠回りで帰りましょ?」

 

 

真姫に手渡された空色のエコバッグを右に持つ。

左手を真姫の右手と繋ぎながら帰路につく。

まだまだ夏は終わる気配がしない。

早く秋が来てほしいと願う気持ちも、夏が終わってほしくないという願いの気持ちもごっちゃ混ぜになりそうな、すっかり晴れ渡った空だ。

秋が来れば真姫のラブライブ!参加がより近づく。

 

 

しかし、何だろうか、妙な胸騒ぎは。

せっかくの真姫との帰宅デートだというのに。

なぜか、どことなく、今の快晴な天気のように俺の思考が晴れてくれないことが、当たっていたと知るのはまた別の話。

 






・とってくれ
真姫のツッコミも以心伝心のように手渡す動作の前では無意味であった。


・納豆
なぜか好む好まないの判断基準は真姫が匂いをきついと思うかどうか。
ここまでくると納豆実は好きではないのか?と思えてしまうであろう。


・変なリズム
真士が物心ついたときには実は口ずさんでた。
真姫は何に使うつもりなのだろうか?


・野菜嫌い
真士の好き嫌いはあまりにも極端すぎて同じ野菜でも調理法などに気を使わなければならないレベル。
この作品での真姫は料理上手だが、これが理由で料理が好きではない。


・食玩
最近紘汰がスタントで演じた実写アクション映画のフィギュアである。
シークレットのポーズが地味に話題になっているとか。パラパラではない←


・にこちゃん
真士に「アイドルオタクの体を装っているが実はヒーロー趣味」と激しい勘違いを受けた不憫(?)なにこにー。
この時期はまだ家族のことが明かされていないはずなのでこのような感じにおさまった。
きっちりアライズウエハースは購入した模様。


・にこの恐れ
辟易<真姫>のラストがいまだにトラウマだそうです。


・真士の懸念
今のうちからわかりやすくネタを書いておくスタイル。



次回2週間以内の投稿を目指します。

読了ありがとうございました。



謝辞

初投稿から一か月そろそろ経つことになります。
思った以上の多くの皆様に読んでいただけて私もびっくり仰天、大変うれしく思います。

この一か月ほどで高評価を下さった皆様全員に向け、この度深い感謝を述べさせていただきます。

(順不同、敬称略)
れいか1087、タクミ★、夜月四季、緋桜理、Nフォース、相原末吉、トシコシダー、tatsumi、メッサー、山本36、ユウアラウンド、ショートサーキット、knao、流星@睡眠不足、K-Matsu、EXIARP2、spada、ダブルオーライザー、セレナード、グンナンノマサ

ありがとうございました。


そして今日までにお気に入りしてくださった900を超える皆様、お名前は割愛させていただきますが、感謝を述べさせていただきます。
ありがとうございました。

更新速度は下がりましたが、これからも拙作をどうぞよろしくお願いいたします。

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