大学のテストも終わり、真姫が合宿からかえってきた。
合宿はとにかく暑かったらしく真姫の肌にくっきりと日焼けの跡がついていた。
どうやら今まで塗っていた日焼け止めを塗り損ねてしまっていたらしく、お風呂で悲鳴を上げていたのはつい昨日までの話だ。
どうやら合宿で先輩後輩の壁をうまく取っ払えたのは、真姫が希ちゃんや絵里ちゃん達を先輩抜きで呼んでるところから何となく理解できた。
日焼けといえば、日焼けした真姫の肌もいいなと思ったのだが、どうやら俺はこの日焼けを好きになれない運命の星に生きているようだ。
なぜなら真姫は日焼けによる痛みのため、俺とのお風呂も俺との添い寝も俺との情事も俺とのデートも、全てを控える羽目になってしまったからだ。
真姫の小麦色になった肌はやっぱり綺麗だし、可憐さをその瑞々しさで存分に生かしてくれるし、しなやかな肢体の動きが周りの風景でよくわかって大変素晴らしいのだ。
そう、正直まだまだ言い足りないほど素晴らしいのだが……だが! 真姫にその日焼けによる痛みを与え俺との時間を、彼女の安寧を奪うことは言語道断許してはならない悪であり、処断するべきものである。
だからこそ今後は真姫の為に常日頃日焼け対策を切らさないようにしなければならない。
それが冬だとしても手を抜いてはいけない。なぜか?
照り返しがあるからだ。雪によって反射した光でも実は日焼けと同じ現象を起こす。
つまり真姫と俺の時間を護るために四六時中日焼けを撲滅するよう心掛けなければならない。
「だから……真姫、たとえ浴衣でも日焼け止めは忘れないでくれ!」
「心配性すぎるって言ってるでしょっ、バカァ!」
「あらあら、美穂? あなたの息子があんなに真姫を想ってくれるわ。母親冥利に尽きちゃうわねぇ。あなたも私を想いやってくれてもいいのよ?」
「うるっさいわね優姫。そういうアンタの娘も真士の為にさっきからコソコソ持ち物準備してたわよ? アンタも私の為に何か用意してくれてもいいんじゃないかしらぁ?」
「……フフッ」
「……ハハッ」
「真姫、早く行こう。せっかくの浴衣デートをあの二人に潰されるわけにはいかないんだ」
「そうね、動きづらいとかそんなこと言ってる場合じゃないわ。急ぎましょう」
「久々にキレちまったよ優姫ぃ」
「奇遇ね……私もよ美穂」
今すぐにでも喧嘩を開始しそうな母さんと義母さんを置いて今日のデート先である神社のお祭りへとやってくる。
割と小規模だが屋台も人も多く、浴衣を着た真姫と色違いでおそろいの浴衣を着て歩けるのでたまらない。
真姫の日焼け痛みが前日に引いたのでいつものイチャイチャも問題なく行えると知り、その翌日、即ち今日にお祭りがあると知ってはじっとしていられない。
義母さんと母さんに前から買ってあった真姫の着付けを頼み、俺は其れに合わせて買ったおそろいの着物を着たかったのだが、一人では着付けられないので甚平で行こうかと考えたところ、義母さん付き添いで真姫が俺の着物を着付けしてくれたので無事におそろいの着物でこうしてデートに出てこれたのだ。
しかし着付けをしてくれた真姫が恥じらっててかわいすぎるので何度襲いたくなったことか。
義母さんがいなかったらもう、すぐにベッドまで連行してたくらいには最近真姫成分不足で悶々としてたので寧ろいてくれてありがとうと思っていた。
しかしとなりで手を繋いで歩く真姫を意識するとナンセンスだがそこの茂みなどに連れ込みたくなってしまう。
我慢するんだ東原真士。俺は帰れば思う存分イチャイチャができるってわかってるんだろう? ならば今は何とか耐えて……たえて……
「真士? どうかしたの?」
「ぁえ……? どうしたって……」
「いつもと違ってなんだかへんよ? まだ昨日一緒に寝ること拒んだの気にしてるのかしら?」
「あー……いや、そういうわけでは……あるな。うん。気にしてる」
「もう、今は抑えてちょうだい。せめて花火が終わるまで」
「……善処する」
「もう、頑張って。ほら、行きましょ」
いかんいかん、どうやら真姫に怒られるくらいには悶々がまずい具合にいっぱいらしい。
真姫に楽しんでもらいたいし、気持ちは切り替えていかないと。
ということでまずは真姫が食べたそうに目を向けたから揚げ串でも買ってみる。
屋台特有のジャンクさと高さに苦笑いがこぼれるが、真姫が嬉しそうに頬張るので良しとしよう。
調子も戻ってきたのでたこ焼きを買って二人で分け合って屋台を練り歩いていると、μ'sのメンバーである
いや、花陽ちゃんは完全に止めに回ってる方か、苦労してるんだな。
「あー! 真姫ちゃんにゃ! コーチもいる!」
「凛ちゃん、あの二人ともデート中なんだよ……!?」
「そんなことはきっと気にしないにゃ! おーい!」
「……凛、花陽。二人ともお祭りに来てたの?」
「折角だし来たの! こうでもしないとかよちん浴衣を着てくれないんだにゃ!」
「凛ちゃんいっつも強引なんだ……」
「なんだ、凛ちゃんも自分で浴衣を着ればいいのに。二人おそろいの浴衣っていうのはいいものだぞ?」
「凛はいいにゃ。かよちんの浴衣だけで満足だから! ねーかよちん!」
「あはは……凛ちゃんいつもこんな感じですから。あの、お邪魔してすいませんでした」
「あー。それは気にしなくていい。……寧ろ助かったし」
「そうよ花陽。悪いのは凛なんだから、あなたが謝る必要なんてないわ」
「真姫ちゃんひど―い!」
「ひどくないわよ。……そろそろ真士と……に」
「真姫ちゃん?」
「真姫?」
「なんでもない! ほら、真士行くわよ!」
「あっ、引っ張るな引っ張るなって! それじゃあね二人とも!」
「じゃーねー!」
「お、お疲れさまでした!」
先ほどから黙りこくる真姫に浴衣の袖を握られ、歩いてきた先は神社の裏手。
真姫はそこで俺から手を離し、モジモジとし始める。
トイレではないのは間違いがない。そもそも運営によって祭り会場にはある程度いたるところにトイレがあるのでその心配はない。
それでは何か?
俺には一つだけわかることがある。
真姫が自分の着用する服の裾付近をにぎにぎといじるのは、欲求不満の時だ。
さらに言えば、しきりに唇を気にするそぶりを見せるのは更に欲求不満であるアピールだ。
もっと言えば……先ほどからそこら付近でそれらしき行いの声が聞こえているにもかかわらずそこを離れようとしないのだ。
つまりこれは真姫の確信犯である。
「真姫、それは花火終わるまで待てって……言わなかったか?」
「いいのよ。私がもう待てないの、待てないのよ」
「……」
「それに、真士もここに来る前からそわそわしてたわ。我慢……まだできるの?」
「無理。無理だな。無理だ」
「でしょ? 私とおんなじ……ね?」
花火が始まっていた時、俺たちは既に祭を後にしていたのだった。
「ねぇ真士」
「ん? どうした」
「そろそろね、μ'sのみんなくらいにはちゃんと紹介したいわ」
「……そうだな。絶対気付かれてるんだろうしな」
「絶対気付かれてるわ。だって私がそう見えるように、感づけるようにふるまったんだから」
「そりゃあ気付かないほうがおかしいよな……」
「でしょ? だから、そろそろいいじゃない?」
「おう、だがμ'sのみんなにだけだぞ」
「当然よ。全世界に公表するのは引退宣言の時にするわ」
「公表先広すぎるだろ。だけど、それはそれで楽しみだな」
「ええ、楽しみにしてなさい。あなたの許嫁は、世界も狙えるってこと」
「……でもいやかも」
「……そうね、自分で言っといてなんだけれど、世界の真姫になるよりあなただけの真姫でいるのが大事」
「ありがとう、愛する妃よ」
「本当におおげさなんだから。私だけの王様」
・日焼け
健康的な小麦色真姫ちゃんはロマン
・母親's
お前ら仲がいいのか悪いのかどっちかにしろという言葉をそろそろいただきそう。
・浴衣
夏祭りといえばで一度は書きたいシチュエーション。
・凛と花陽
いつもセットでいるイメージのためこういう状態でないと収拾がつけづらい。
二人だけで会話が完結してしまうのも作者の感じた難点。
・神社の裏手
ウス=異本の代表場の一つ。
・真姫のアピール
露骨だが、要するに真士が我を失いそうになってるのと専らおんなじ理由である。
真姫も日焼けは避けるようになっている。
・花火が始まる頃
事後(断言
・最後
露骨アピになった真姫ちゃんと真士の関係をしっかり本人たちに語らせるか否か。
ここは最初のほうで言わせなかった分はっきり蹴りつけなければならないと感じていた。
・引退宣言
μ'sを途中でやめるというよりはやり切ってやめるときにという意見合いで真士たちは話してる。
・世界の真姫
世界のYAZAWAと違い、この作品の真姫はとことん真士だけのものであることを意識して言わせたかった。
・妃、王様
仮タイトルにちなんで。
仮タイトルは【妃有りし王の戯れ】だったが、内容がわからないんじゃないかと思い没になった。
UAも評価もたくさんいただけて作者は恐縮しています。
ありがとうございます皆様。
これにて一日一投してきましたが、間を開けた投稿に移っていきます。
今回はちょっと表現が露骨にしすぎたかなと思うので次は抑えめで書きたいです。
読了ありがとうございました。