μ'sのダンス講師を務めることになって、その代わりに真姫のアピールがこれまで以上に露骨になってから早数週間。
μ’s全体のダンス能力は向上し、真姫の通う音ノ木坂の廃校が延期になることも決定し、真姫と俺の関係がμ'sに何度もバレそうになって、なんとか彼女たちは夏休みを安全に迎えることができるようになった。
しかしダンスを乗り越え、本格的に活動するμ'sの現状一番問題なのは上下関係によるぎこちなさであり、それを解消するために海に近い別荘のほうで合宿をするとのこと。
一応特別講師として参加してほしいとの旨は受けたが、いろいろな事情がある故と断ったら、真姫にとても惜しまれた。
それでも真姫の上目づかいに負けず断腸の思いで参加を断った俺は褒められてもいい。
隣で穂乃果ちゃんとかことりちゃんがショックを何やら受けてたがそこらへんはまあどうでもいいか。
残念ながらビート・ライダーズが幾ら大学公認でいろいろやってようとも一応名目上では非公認サークルの扱いのため、どっかの学校で特別講師をやっていようが大学生の授業が免除されるわけではない。
つまり俺はまだ大学の授業期間で、ただいま現在進行形でテスト期間のため真姫の合宿についていくわけにはいかないのである。
幾ら余裕で単位を取れる学力があろうとそもそも出なければもらえるものももらえないのだから。
そんな学生ならでわなテスト期間という現状に加えて、ジワジワ照り付ける夏の日差しによる暑さの中でビート・ライダーズの練習も全くはかどるわけがない。
仕方がないので少なくともテスト期間が終了するまでの間は活動をしないように通達した。
しかし俺の懸念というか不調の原因はそこではない。
合宿故に前日から真姫が不在で、一人で寝起きしなければならなく、さらに朝夜日課のキスと添い寝ができなくなるし、さらに言えばお風呂もお迎えなどのデートもすべてができない。
とてもつらくて仕方がなくて真姫がいる瞬間までタイムジャンプしたい。
そんな焦燥感に駆られながらも、隣で水分補給を行っているテスト終わりのザックと、夏休み故にザックをからかいに来たミッチに向かって言葉を絞り出す。
「……というわけでさぁ、真姫成分が枯渇してて何にもしたくないぃ……真姫に会いたくて震えるよぉ」
「たかが三日間の合宿だというのに、それを待つあんたがそんなんでいいのかリーダー。もう少しシャキッと威厳見せたらどうだ?」
「ザックさん、彼女も○フレもいない貴方にはわからないと思いますけど、リーダーにとって真姫さんが半日すらいないということは究極的死活問題なんです。
おそらく僕の予想では、真姫さんもリーダーに会えなくてつらい思いをしているはずです。
わかってあげてください、だからいつまでたっても彼女無しの似非テクニシャンなんですよ、この童○」
「お前はいつも一言多いよなミッチィィィ! だぁれが似非テクニシャンだってぇ!?」
「さて? 何のことやら? 僕は事実しか述べていないんですが」
「人を煽っておいてすっとぼけるのも大概にしてくれよぉ!」
「何をすっとぼけるんでしょうか。ねぇリーダー? 僕がなにか嘘を言ってましたっけ?」
「そんなぁことはどうでもいい! 真姫ぃぃぃ! 俺ぇ、おまえに会いたくて、今すぐに海へ行きたいよぉぉぉ!」
「ミッチテメェ今のリーダーの状況わかってて話振っただろ、あとリーダー頼むから少し黙っててくれぇぇぇ!」
「ああ……暑い……リーダーのせいでもっと体に熱がこもる……」
「俺わるくないもーん! 真姫に会えないのがつらいんだもーん!」
「あんたはガキか!? まったく……仮にも俺らのリーダーなんだから、こういう時位きっちりやっててくれ……ほかのメンバーに示しがつかないじゃねぇか」
「だって俺単位に何にも問題がないしぃ、学力に困ってないしぃ。それに今活動休止だしぃ」
「あってるのが無性に腹立たしいんだよなこの万能野郎め」
「伊達に真姫の許嫁として努力してませーん!」
「くそっ……こんな奴に負けるなんてぇぇぇ!」
「というかミッチは何してんのぉ?」
「……あ、ごめんなさい、急用ができたので、帰ります」
「え? はい? ちょっとちょっとミッチ!?」
「ミッチ!? どうしたんだ!?」
「ごめんなさい急いでますので!」
暑さに耐えきれず大学内の図書館でひんやり涼んで、しつこく絡むザックをスルーしていたところ、急に携帯を弄っていたミッチが立ち上がり、床においていたカバンをひっつかんで、走って飛び出してゆく。
いきなりのことだったので対応もできるわけがなく、そんなミッチをただただ見送ることしかできなかった俺たち二人は、顔を見合わせて首を傾げあう。
ミッチはあそこまで急ぐことがなく、いつも余裕をもって振る舞いをしていた。
そんなミッチがいったい何であんな焦ってせかせか走っているのか……。
真姫がいないので頭が回るわけでもなく考えることを放棄して、しきりに話しかけるザックを蹴っ飛ばし俺は帰宅をした。
翌日、午前中にテストが終わった俺は、食堂で昼食を取ることにしたところ、未だにテストが残る故にヒーコラと範囲のノートをまとめている裕也を見かけたので、いつも買っている五代決闘丼を受け取り、予想通り作業の終わらない様子の裕也の向かいに腰を下ろす。
裕也は五代決闘丼で気付いたのか、突如花の咲くような顔で俺のことを見る。
だいたい次の言葉は予想不可避のため先回りして潰しておくことにした。
「言っておくがテストの持ち込みOKだからと言ってノート書いてくれと懇願されても助けないぞ」
「そこを何とかっ! というかわかってたなら助けてくれてもいいじゃねぇか……」
「んー、いいけど後期入ってからの五代決闘丼一か月毎回おごりで手を打つ」
「地味につらっ!? せめて半月! 半月以外は死んじゃう!」
「……まぁいいか。食べ終わったら貸してくれ」
いただきます。と丼を貪るように食す俺に裕也は礼を言いつつ作業を進めていく。
体感時間数分後にトマトだけ裕也に除けて全てを食べ終えた俺は、食器と盆を受け付けに戻し、隣にある売店でいつものコーヒーを買い、再び裕也の向かいに座る。
裕也が恭しく差し出してきたプリントを見ると、どうやらテスト範囲を全部と定める癖にテスト問題はそのうち1~2割ほどしか使用しない。さらにはテスト問題は毎期変更して絶対に過去十年同じ問題がないという、生徒に単為やらずと不評に不評を重ねられる名物教授の授業であるとわかった。
裕也は先ほどのやり取りで言うほど馬鹿ではなく、バイトも授業に支障のない範囲でやってるのでいったいなぜこうも切羽詰まった形相でノートをまとめるのかもこれで合点がいく。
あの教師の授業はしっかり出て聞いててもそことは関係のない問題が出ることもあるので教科書からもしっかり山かけをしなければならない。
俺はまだ受けたことがないが蔓葉先輩や
全部を覚えるなどは到底不可能且つ至難、裕也のそばに過去の
正直裕也のこの授業での単位は絶望的だ。
「悟ったような顔でうなずいてないで助けてくれよ……」
「ごめんごめん。まぁそこまでまとめてるなら後はあんまり急がなくていいでしょ。あの教師のテストは明後日なんだし」
「そうだな……少し肩の力抜くよ。悪いな真士、また助けられちまった」
「まぁ、あの教師をなぜとったかは聞かないでおくよ。あと条件は取り消し。これなら頼む気持ちはわかるし」
「まじか……サンキュー真士、これで新作が買える!」
「やっぱ払えや」
「マジ勘弁してくれ……!」
ヒーンと嘆きながらノートを纏め続ける裕也を手伝いながら、こんなんじゃあミッチの件については聞けないなと思ったが、どうやらその予想は正しかったようで。
少し経ったのち時計を見て次のテストへ行かないと! と急ぐ裕也を見送り帰宅する最中、例のたい焼き屋に寄ることにした。
前に食わされたあの冒涜的な何かを知りたくてメニューを隅から隅まで探したが、結局見つからず解らなかったので無難にあんこをチョイス。
割とネタなフレーバーだけでなく定番のフレーバーもおいしいのかと、これからもちょくちょく通うことを心に決めるのであった。
・合宿
一応西木野家の所有物件のため参加しようと思えば可能。
・真姫と真士の関係
もはや感づかないものはいないがあえて口に出していないだけ。もう教師も黙認。
・非公認サークル
寧ろ名目上これだから色々な人物が集まるし派遣できるんだと思ってます。
・ミッチ
ザックへの口が悪いのも暑さのせい。なお彼女がいることはメンバーの誰も知らない。家族も孝虎さん(非合法手段)のみしか知らない。
・ザック
今回「童○」、「似非テクニシャン」、「○フレもいない男」と散々に言われているが最近気になる女性に出会ったらしい。しかしヘタレのためうまく踏み出せない。
そのため真士のように気持ちがはっきり公言できる人に嫉妬している。
・五代決闘丼
要するにウニ+キクラゲ+蟹+エビ+トマト丼。
トマトだけは食べられないので裕也とかザックたちに丸投げ。
しかしそれ以外は好きなのでよく購入している。
ウニや蟹、エビを使用しているためにお値段1080円。買えるのは金持ち故。
・裕也
数々の生け贄を越え単位を目指す者。しかし相手が悪すぎる。
・駆門戒斗
蔓葉の友人で意地っ張り。生け贄続出の授業も「ふん、俺にその程度越えられぬわけがない!」と意地を張った結果見事轟沈したという。
・例のたい焼き屋
どうやったら屋台にそんなに入るんだよというくらい種類が多い。
そのうち自然と食べられなくなるものに関してはしっかりメニューから切ってるあたり判断はできる人が経営しているようだ。
次回こそ久々のイチャイチャ予定
読了ありがとうございました。