近所の病院の娘と許嫁だけど何か質問でもある?   作:次郎鉄拳

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策謀

「あ、来た来た。真士さんこっちやこっち」

「はぁ……いきなりメールがきたから何だと思いきや思った以上に深刻そうでなくて何よりだ。どうもお久しぶりだね希ちゃん」

「えへへ、あの文面でよかったか正直悩んだんよ。でもあれくらいのほうがおもろいかなとおもってな」

「面白いって……変わってるなぁ希ちゃん」

「悪気はなかったんよ。信じてほしいんよそこらへんは」

「ま、それならそれでいいさ。んで、どうして俺を呼び出したんだ?」

 

 

大学の授業も午前で終わり、ビート・ライダーズの練習もテストが近いとのことで一時中断になった日の夕方、突如とした希ちゃんからのメールで呼び出された。

まぁおそらくここにいるだろうなとあたりを付けて、少し前に出会ったあの神社の境内で待っていたら、音ノ木坂の制服で希ちゃんが走ってやってきた。

様子をぱっと見る限りそこまで大変な内容ではないようで安心した反面あきれのようなものが浮かぶ。

まぁ、後で遅めに帰って真姫に出迎えられるのは悪くないのでいいだろう。

帰りに少し遠回りして例のたい焼きの正体を突き止めに行くのもいいな。

そう思いながら希ちゃんに顔を向けると何かの書類らしきものを出していた。

 

 

「……なにしてんの?」

「んー? まずなんでうちが真士さんを呼んだかわかる?」

「んー……ゴメン、覚えてないわ。なんだっけ」

「真士さん忘れっぽいって言われへん?」

「生まれてこの方真姫だけはそんなこと言わなかったぞ」

「真士さん真姫ちゃん以外に何言われたかは覚えてるの?」

「ほとんど、覚えてない!」

 

 

希ちゃんの冷ややかな視線にさらされながら書類を手渡される。

書類に軽く目を通すと、入校許可証申請に関するもののようだ。

申請理由が既に希ちゃんの筆跡でこう書いてある。

μ’sのダンス指導のため

……え?

希ちゃんに顔を向けるとにっこりと俺の反応を楽しみにしている。

俺は思ったままのことを口にした。

 

 

「音ノ木坂のスクールアイドルって……名前μ’sだったのか!」

「まずそこなん!?」

 

 

 

 

 

「まったく……うちに『音ノ木坂のスクールアイドルについて教えてくれ』なんて要求をしてくるもんやからてっきり名前くらいは知ってるのかとおもったわ」

「あはは……友達にPVはよく見せられるんだけどなぁ……思えば真姫以外全く見てなかったわ」

「真士さんってほんまなんというか……どういえばいいのか……」

「真姫を愛する一途な男って言ってくれていいんだぜ?」

「お兄さん……真姫ちゃんとはただの幼馴染やなかったっけ……?」

「……あっ」

 

 

そういえば希ちゃんに直接面と向かって真姫との関係は説明してなかった。

彼女大体わかってた雰囲気で振る舞うから勝手に知ってる気になってた。

ああ、説明しないといけないのか……まぁ、希ちゃんなら大丈夫か。

 

 

「まぁ真士さんの想像通り確かにうちは知ってるけどね……」

「まぁなんで知ってるのかも大変気になるけどさ」

「当然わかるやろ。正月にそろって初詣来てたり、よく中学生の真姫ちゃんとそろって歩いてたし、あれで気付かん方がおかしいで」

「あー、やっぱ真姫は目立つのかぁ、綺麗だし、かわいいし、愛らしいし、美しいし、雰囲気からして別次元だし」

「あのな、真士さん。お願いだからナチュラルに惚気んのやめてもらえんかな? うちちょっと胸焼けしそうなんやけど」

「おお、ごめんごめん?」

「まったく……だいぶ話がずれてもうたけど、一から説明したげる」

「あ、そうか。もともとこの書類のことについて聞くんだったな」

 

 

話をまとめると……

音ノ木坂スクールアイドルであるμ’sは前に見たPVの七人から九人へ人数が増えた。

それに当たって一斉での練習は問題ないが、個々人のパーソナル、特に歌よりもダンス方面があまりはかどっていないらしい。

μ’s最初あたりの頃から真姫が作曲に加えダンス担当も買って出ていたらしいのだが、人数が増えるにつれて一人一人への手が回らない状態に陥っているからとのこと。

歌のほうはもともと真姫以外にもセンスや努力が実りやすい声質をしているものが多いためうまくいってるとのことだが……

 

 

まぁ大体は言いたいことがわかる。

真姫は確かにビート・ライダーズでの練習経験もあるため、【魅せる】と【踊れる】を兼ね備えたダンスは他と比べてすることができる。

だが反面実際に他人へ教えた経験がないので、中途半端な享受でしか終わることができない。

他人にたいしても手が回ってないが、自分自身への手も回ってないのに、真姫は本当に友達思いというのかなんというのか。

あと一斉練習それで問題ないというのが不思議である。個人練習は問題ないけど一斉の方が問題あるってパターンはよく聞くがこのパターンを任されるのははじめてだ。

 

 

ここまで希ちゃんに話を聴き、そのうえで一曲分のPVを見る限り確かに【魅せる】ダンスができる者は多いのだが、如何せんその動きに【実用性】、【効率性】が欠けているというのはなんとなくわかる。

あまりPVを見るときに真姫以外を見てないし動きそのものの効率性については考えたことがなかった気がするので今更考えるというのもこれまた変な話だが。

というか今更気付いたが穂乃果ちゃんも絢瀬ちゃんも希ちゃんもμ’sにいたのね。

 

 

……とまぁ話がずれたが要するに希ちゃんが言いたいことは……

「現在以上のμ’sのパワーアップを図るために、ビート・ライダーズの現リーダーである俺に直接ダンスの特別講師をお願いしたい」

というものである。

 

 

ダンスチームであるビート・ライダーズは、スクールアイドルの普及によって知名度は下がったものの、それでも未だ話題になることがある一種の有名グループみたいなものだ。

俺の名前で探せばビート・ライダーズのリーダーであるという情報も出る。

実際に数代前のリーダーの時からちょくちょく派遣特別講師みたいなことはやってたものだ。

というかよくその情報まで引っ張り出せたなとは思ったけれども。

 

 

前に音ノ木坂のスクールアイドルについて知りたいといったのは俺であり、それのためだけにここまで理由と手を尽くしてくれる希ちゃんになんか頭が上がらない。

つまり、ある意味通理であり、ある意味正攻法な手段であり、だが反面明らかに一種の嘘であるこれを行った彼女に感謝しなければ。

その前にふと気になったことを聞いておく。

 

 

「ところで希ちゃん、絢瀬ちゃんとか真姫にはこのこと伝えたの?」

「んーん。伝えたら真姫ちゃんは恥ずかしがって反対するし、えりちにはこの件を一任されてもーたから完全にうちの独断や」

「はっ? え? それって大丈夫なの?」

「当然。うちの独断だとしても、うちは生徒会役員や。独断の理由も生徒会長であるえりちに丸投げされとるからやし道理にかなっとるやん? 特別講師を呼ぶこと自体はμ’sのみんなも許可してくれてるし」

「うっわ、確かに大体道理にかなってるから何にも言えねぇ。俺はあくまでもビート・ライダーズのリーダーとしての招待になるんだもんな、そりゃあ不備はないわ……」

「まぁ後は真士さんがビート・ライダーズにその旨を伝えたうえで正式にOKしてくれれば万事解決するんやで。どや?」

「まぁ、そういわれたらこっちも乗るさ。ビート・ライダーズのダンス、みっちり仕込んでいくから楽しみにしてくれな?」

「真士さんはまず真姫ちゃんみて暴走しないかだけが心配やけどね」

「さすがに公私混同は避けたいと思う。善処するわ」

「断言はせぇへんのね……」

 

 

かくして希ちゃんの案に乗ることを選んだ俺は、真姫には言わないようにと釘を刺され帰宅した。

当日までの間に真姫に感づかれてしまうかもしれないが、とにもかくにも、当日が楽しみである。






・覚えてない!
真姫以外に言われたことだとビート・ライダーズ面子に言われない限り特に覚えられない真士くん。自分でいったことでも忘れることがあるのでいろいろと問題。


・入校許可証
のんたんからしばらく連絡がなかったのはここまで準備を整えてたから。
わりと無理矢理な内容なのはのんたんの努力が見えるかと思ったから。


・真士の無知
なぜ名前を知らないのか。別にスクールアイドルとしての名前自体には興味がないからである。あと真姫から未だに聞かされていないのも原因。


・真士の惚気
まず外見から入り、その後内面に話がシフトし、そのあと過去エピソードまで、最終的には未来予想図まで語り始めるので、切り捨てるタイミングを見失うと話を聞いてすらくれなくなる。


・μ's
真姫以外に誰がいるのかを知っててもらえなかったりする。
今回初めて誰がいるか知った模様。しかし半数は知らないので……


・ビート・ライダーズ
実は数代前のリーダーの時点で【派遣型ダンス教室】をしていたのだが、スクールアイドル普及によりビート・ライダーズ共々埋もれてしまっていた。
そのため今回ののんたんはある意味ダンス方面の成長では超ファインプレーである。


・ダンス
海未ちゃん→古武術、えりちか→バレエなどと、ともに本来アイドルが用いる創作ダンスに応用しづらいステータスで、にこにーは独学故他人に教えるのはうまくいかないということで【効率性】と【魅せる】の両立がキツイではないだろうか?と、今回真士が訪問する理由づけに考えました。
例えセンスが合っても実際に動かすのは歌よりもうまくいかないというのは学生時代の経験に基づかせていただきました。


・まるなげえりちか
実は真っ赤なウソ。えりちかに丸投げをされたのが先ではなく、のんたんの言いくるめが先で、それによってえりちかが一任したとえりちかなんにもわるくない。
真士の反論を封殺する気満々ののんたんまじあくどい。いいぞもっとやれ。


・真姫との約束
これは真士お風呂一緒にはいってもらえなくなるのでは?と思う方もいるはず。
一応彼らの言い分として≪希から要請があった≫≪目的と人選に私意が見えてない≫というものがある。通じるかは別問題。



次回、その裏側では……?
早く真姫とのイチャイチャかビート・ライダーズ回を書きたいです。

読了ありがとうございました。

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