近所の病院の娘と許嫁だけど何か質問でもある?   作:次郎鉄拳

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穂むら

「あーやっぱりあのとき真姫ちゃんが話してくれた真士さんは、お兄さんのことだったんだね!」

「あの時……? 真姫、学校でどんな話してるんだ?」

「ベっ、別に真士が気にするような話は何もしてないわ! 高坂先輩も意味わかんないことは言わないでください!」

「またまたぁ。お兄さん、私と真姫ちゃんね?実h ムグッ!?」

「オホホホホ、先輩、少し向こうで話しましょう? 真士、少し席を外すわね」

「お……おう、わかった」

「ムグッ……ムグー!」

 

 

穂乃果ちゃんと真姫がなんだか剣呑な雰囲気を出したように感じたのも早一瞬。

何事もなかったように俺たち二人を案内した穂乃果ちゃんは真姫の隣に座ってごく自然と会話に混ざっていた。

真姫はいったい穂乃果ちゃんとどんな繋がりなのだろうか。

真姫は入学当初、部活に一切興味が湧かないといっていたはず。

真姫の才能はあらゆる方向に手が出せるレベルで、確かに運動以外は天才といってもいいレベルの実力もあるのだから学校の部活じゃあ満足できやしないだろうと思いつつも、部活をしないで学校になじめるのか不安に思うときもあった。

しかしそんな真姫が一年だか二年上の穂乃果ちゃんと親しげに話す……嬉しい反面、どんな繋がりでそうなっているのか不思議に思うのをやめられない。

突如誰かに肩を叩かれる。どうやら思考にはまってしまいまたしても意識がおろそかになっていたようである。情けない。

後ろを振り向くと穂乃果ちゃんの妹である高坂雪穂(ゆきほ)ちゃんがお盆を持って俺のことをジトっとした視線でにらんでいた。

 

 

「やぁ雪穂ちゃん。久しぶりだね、元気にしてたかい?」

「そういう真士さんこそ元気そうで何よりです。ええ、私は元気ですよ」

「そりゃあよかった。今いくつだっけ?」

「中三です、受験生ですよ」

「ほう、学校は何処にするか決めたのかい?」

「UTXです。お姉ちゃんは音ノ木坂に通わせたいみたいですけど、廃校問題は解決できてませんから、志望校は変更しないつもりです。」

「ああ、そういえば確かに音ノ木坂は廃校するかもしれないって言われてたな、俺としては真姫が通ってる間は後輩に不自由させたくないが、どうにかできないだろうか?」

「そんなことを私に言われても何もできません。本当に昔初めてここに来た時から真姫さんのことばっかり話しますね。あの今お姉ちゃんにすごい形相で突っかかってる方であってますか?」

「突っかかってるというよりじゃれついてるように俺は見えるな。優しくて気遣いもできて綺麗でかわいくて最高の許嫁だ」

「自然と惚気ないでください。なんかむかつきます」

「なんでさ。あ、今日は無理だけど今度また勉強見てあげようか?」

「ほんとですか? 真士さんって教えるの上手ですから助かるんですよね」

「任せたまえ。穂乃果ちゃんの受験勉強も見てたんだ、雪穂ちゃんを教えるのは簡単なことさ」

「さりげなくお姉ちゃんがバカって言ってますよね。まぁ、あの時は確かにひどかったですけれど……」

「あれは苦労したよ……」

 

 

雪穂ちゃんはお盆をテーブルにおいて俺の隣に座る。

お盆には三つだけのおまんじゅうと、四つの湯呑みが乗っている。

はて、この席に座るのは雪穂ちゃん、穂乃果ちゃん、真姫、俺の四人だが……

おまんじゅうだけが一つ足りていない。どういうことだろうか?

 

 

「お姉ちゃんは飽きてしまったそうなので抜きです。あと、これはサービスなのでお代は結構です」

「おお、悪いね。穂乃果ちゃんまんじゅう飽きたって……あー、でも和菓子屋の娘だからねぇ、寿司屋の子供は魚を好まないといわれるがそれと同じかな?」

「いえ、久々に顔を出してくれたからという父からのあいさつのようなものですから。まぁ、確かに気持ちはわからなくはないですけれど」

 

 

レジ側のほうに顔を向けるとここの店主がこっちを見ていたので、まんじゅうの礼もかねてお辞儀をする。

彼はこちらのお辞儀に軽く会釈で返すと厨房へと戻っていく。

するとそれとほぼ同じタイミングで真姫と穂乃果ちゃんも戻ってきて、穂乃果ちゃんが俺の向かいに、出遅れたと歯噛みする真姫はその隣に腰を下ろす。

雪穂ちゃんは真姫にまんじゅうを渡すと、いつの間に自分の分を食べ終えていたのかそそくさとレジの奥、高坂家の居住区域に戻っていく。

それを見送った俺は真姫に食べることを促す。

 

 

「真姫、それはここの店主からのサービスみたいなもんだ。さ、食べよう」

「え、そうなの? それは後でお礼を言わなきゃいけないかしら。いただきます」

「……あれ? 穂乃果の分のおまんじゅうは?」

「雪穂ちゃんいわく、おまんじゅう飽きたっていったから抜き。らしいよ」

「ガーン……」

「高坂先輩、少し静かにしてください」

「ひどいよ真姫ちゃん!?」

「クックック、二人とも仲がよさそうで何よりだなぁ」

「真士、私は別に高坂先輩と仲良くしてるつもりはないわよ?」

「真姫ちゃぁん!」

 

 

先ほどの何かしらを暴露されそうになったことに対する仕返しなのか、真姫はここぞとばかりに穂乃果ちゃんを弄りにかかる。

穂乃果ちゃんって反応が表情に出やすいから面白い気持ちはわかるんだよなぁ。

現に真姫の表情は愉悦で緩みっぱなしだし。

あたふたといじられてる彼女をしり目に俺と真姫はまんじゅうを食べきる。

そのまま俺はメニューを開き、続いてあんみつを一つ注文する。

 

 

「お兄さんいっつも来るたびにそのあんみつ食べてるよねー」

「好きだからな。和菓子はいろんな店で買うが、どうしてもあんみつだけはここ以外で食べる気にならん」

「そういえば前に真士が通ってる大学の近くにある和菓子屋に行ったけど、その時あんみつがおすすめだって書いてあったのに、真士ってばお汁粉を食べてたわね」

「お店の人としてはお兄さんの気持ちは素直にうれしいなー。ありがとうね!」

 

 

と、ここであんみつをもって再び雪穂ちゃんが現れたために持ち帰りようの饅頭も六箱くらい用意してもらうことにする。

受け取るのは会計時にするとの旨を伝え、あんみつに舌鼓を打つ。

真姫が食べたそうにこっちを見てることに気付いたので、匙で一口分掬って真姫にあーんを促す。

真姫は一口一口が小さ目で、そこだけ見れば小食なのだが、実は大食いのため割と食べても満足しないところがある。

そのためスピードは遅くともものによっては俺よりも食べるときがあるのだ。

話がそれたが何がいいたいのかというと、

 

 

「真士、もう一口ちょうだい。ほら、はやく」

「はいはい。ほら、あーん」

「あーん。フフッ、美味しいわ」

「俺の分なくなっちゃうなぁ」

 

 

こういうことである。

真姫の好みにかなうかまでは食べてもらうまでわからないが、好みに合うとこうして俺の分がなくなるまで食べ続けたりするところがあるので、そのたびにもう一回頼むなどしなければならなくなる。

しかし真姫は一度あーんで食べさせると時間に余裕がある限りあーんを強請り続けるので、新しいのを頼んでも食べられないのがつらいところ。

だが、真姫がおいしそうに食べてるその笑顔を見るだけで俺はもう解脱できてしまうほどに人生悔いが残らなくなりそうである。

まぁ、残らなくなりそうだけどきっと探せば悔いは出てくるので解脱はできない。

ああでもずっと現世にとどまっていたい。真姫と永遠の輪廻を一緒に回るのも悪くないな。真姫いなきゃ俺解脱どころか死んでも死ねなくなっちゃうし。

ああ、どうして真姫は俺を狂わせるのだろうか。許嫁だからか、もう愛し合いすぎて脳が溶けちゃったんだきっとそうだ。真夏の所為じゃないさこれは。

 

 

「お兄さん、真姫ちゃんもひょっとして穂乃果のこと忘れてない?」

「ごめんなさい高坂先輩。真士とあんみつに夢中で気付きませんでした」

「そんなひどい!お兄さんはわすれてないよね? 穂乃果のこと気付いてたよね⁉」

「…………ごめん、穂乃果ちゃん」

「ガーン!?」

「真士、本当に忘れるのはさすがにひどいわよ?」

「いや……言い訳もできないくらいゴメン。」

 

 

 

 

 

 

 

こうしてデートも無事に終わり、自宅に帰った数日後、希ちゃんからたった一言

 

 

「逢いたい」

 

 

と、メールが届くことになるのはまた、別の話。

 





・あの時
第五話、辟易<真姫>を参照。


・真姫の焦り
いまだスクールアイドルとしての話をしたがらない真姫。その心境はいったい(感想でのネタバレをなかったことにして)


・高坂家
常連の真士は雪穂とも親父さんとも実は仲がよかった。


・惚気ないでください
雪穂自身も意識はしてないけど実は……


・おまんじゅう
あんこ飽きた発言のツケ。


・あんみつ
真士の大好物。一番好きなのは白玉なのでお汁粉も大好物。


・真姫
食べ方小食、量は大食らい。よく噛んで食べるので健康にもいいはず。


・のんたん
メールがあまりにも意味深すぎるが別にそういう意味ではない。



ここ三日ほどで感想をよりいただけるようになり嬉しく思います。
本編以外にも用語解説の部分でネタを仕込んだりすることもあるのでそこらへん、感想などで知って、くすっとしてもらえればと思います。


次回はとうとうスクールアイドルな真姫とかかわることに……!?

読了ありがとうございました。

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