近所の病院の娘と許嫁だけど何か質問でもある?   作:次郎鉄拳

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朝模様

王の名を持つ(予定の)俺はいつも優雅な朝を迎える。

オーダーメイドの柔らかなベッドでオーダーメイドの枕から顔を上げる。

その後オーダーメイドの壁紙に囲まれながらオーダーメイドのパジャマからオーダーメイドの日常着へ着替える。

オーダーメイドの櫛を用いて髪を整えオーダーメイドの整髪剤でなじませる。

王の名を持つ俺はオーダーメイドにこだわり常日頃からオーダーメイドをオーダーメイドするために財を使う。これこそが真のオーダーm あがっ!?」

 

 

鳥が囀る早朝に、特にこだわってもいないこだわりを延々と青年が独り言で語っていたところ、彼の背後から首に向かって枕が投げつけられ、彼はぶつかったその痛みに悶絶をする。

数秒して青年が、枕が飛んできた方向、即ちベッドへ顔を向けると容姿端麗という言葉が似合う少女が呆れたような視線で彼を睨んでいた。

 

 

「なんだよ、せっかく人がいい気分で朝を満喫していたというのに」

「それは満喫とは言わないわ。現に私は無理やり起こされたようなものだし。そもそもあなたその名前はあんまり好きじゃないとか言ってたじゃない、その割にはどういう戯れなの?」

「君を愛する気持ちに心変わりはないさ愛しの妃よ、まずはお目覚めのキスでも……ふべっ」

「そっ、そうやってごまかすのはやめてっていつも言ってるでしょ!あとキスする前にご飯食べて歯を磨くって約束じゃない!」

 

 

青年がベッドに詰め寄ろうとすると少女は顔を真っ赤にしてもう一つあった枕を投げつける。

枕が見事顔面へ直撃し、そのまま足による追撃を加えられた彼だが、起きあがると少女へ向かってサムズアップをしながら次のように述べた

 

 

「うん! やっぱり真姫(まき)には薄いピンクの下着が似合うな!」

 

 

次の瞬間、何かが壁に叩きつけられる音と、少女の悲鳴が早朝の家屋に響き、さらに数度ドスッドスッと鈍い音を聞きつけた住人たちがせわしなく走り回るのであった。

 

 

 

 

 

 

「はい召し上がれ」

「いただきます」

「……いただきます」

「なぁに? あんたまた真姫ちゃん怒らせたの?」

「怒らせてねぇし、愛を囁こうとして拒まれただけだし」

「それ婚約解消近くない? シャレにならないからやめてよね?」

「ちょっ、たちの悪い冗談も勘弁してくれ母さん」

 

 

朝食の食卓、青年の母親である人物に真姫の様子と彼の顔を見比べられ、今朝のいざこざまで彼女に察せられる。

ここぞとばかりにニヤニヤしながら青年を弄る母親と、その内容によって想像力を掻き立てられた彼が頭をかきむしりながら机に突っ伏す。

話題の中心である真姫はちらちらと妄想で唸る彼を見ながら少し体をよじり、中身の一向に減らない彼の茶碗を手に取る。

 

 

「……ほら、あーん」

「真姫?」

「ごはん、早く食べないと時間……遅れちゃうわよ。人待たせちゃうんでしょ」

「おお……真姫、俺を許してくれるのか……」

「べっ、別に許すとかそんなんじゃないから。いつもいつも同じようなやり取りしておいて今更そういうのも変じゃない」

「真姫、やっぱりお前は最高の女だよ……」

「もう、そう言うのやめてっていってるじゃない。おばさまにも見られてるのよ? 恥ずかしいわ」

 

 

真姫の言葉にバッと音が鳴る勢いで青年が母親の方向へ顔を向けると、当の母親は食器を片づけながらニヤニヤと、まるで近所への話題を見つけたような表情で笑っている。

青年は顔を熟れたトマトのように真っ赤にしながら真姫のあーんをさっと食し、そのまま茶碗をかすめ取り、がつがつと食事をかきこむ。

なお、彼からのあーんをしてもらえなかった真姫は少し残念そうに目じりを下げながらも、気まずそうに食事を続ける彼を見ながら微笑を浮かべ、食事を再開するのであった。

 

 

 

 

 

 

「ほら、服装大丈夫? 襟乱れてない? 財布は持った? あなたそそっかしいんだから。カギも忘れちゃだめよ」

「おう、持ったよ。真姫こそ、俺の準備ばっかり注意して、自分の持ち物とか忘れるなよ?」

「あなたと一緒にしないで。宿題も着替えもしっかり持ってるわ」

「じゃあ、そろそろ行くか」

 

 

青年が笑顔を向けると反対に真姫が不機嫌そうに口元をとがらせ微弱な抗議の意を示す。

彼は首を傾げ自身の衣服周りを再確認する。

真姫はそうでもないという意でさらにかすかに首を横に振る。

青年は困ったのか真姫の衣服に手を這わせ始める。

直後真姫は拳骨を落とし、頭に手を当てあきれを示す。

ここまでのやり取りに言葉はないが、二人共々笑みが浮かんでいる。

 

 

「ごめんな、一番大事なこと忘れちゃだめだよな」

「そうよ。いつものアレ、忘れたら婚約解消しちゃうわよ?」

「それは嫌だなぁ。記憶喪失になっても覚えてなきゃ」

「当然でしょ? 私の婚約者なんだから」

 

 

互いに顔をそっと近づけあう。

身長は青年が十数センチほど高く、真姫が背伸びをして青年が屈める。

すぐに離れ、互いにそっぽを向きながら手を繋ぎあう。

 

 

「さ、いきましょ?」

「おう。日課の通学デートの時間だ」

「もう、調子のいいことばっかりなんだから」

 

 

 

 

 

「それじゃあ、大学、遅れないでね?」

「心配するな。頼れるチームメイトが迎えに来てるんだ、遅れはしないよ」

「もう、角井(すみい)さんにあんまり頼りっきりだといつか痛い目に合うわよ?」

「それは心得てるさ。じゃあまたあとでな」

「ええ、後でね」

 

 

真姫は近所の女子高、音ノ木坂学院に通う一年生。

しかし青年はここから電車で約二駅ほど離れた大学に通っている。

そのため通学路途中で必ず別れることになり、先ほどまでつないでいた手のぬくもりがないことに一抹の寂しさを覚えた彼は少し急ぎ足で待ち合わせの場所まで向かう。

 

 

駅前のロータリーにつくと金髪に染めた柔和そうな好青年が青年に声をかけた。

彼がその、青年の友人である角井裕也(ゆうや)である。

 

 

「約束の時間まであとだいたい15分、えらく早いな、いったいどうしたんだ?」

「別にいいだろう? 早く来たい時もあるんだ」

「そうか、まぁ早く来てくれるに越したことはないしな」

「そういう裕也こそ、だいぶ早く来てるじゃないか」

「早く来たい時もあるんだ、俺にだってな」

「おんなじじゃないか。仲良しか」

 

 

笑いあう二人。裕也が腕時計を見た後バイクにまたがる。

青年はサイドカーに乗り、シートベルトを付けて裕也へ合図を送る。

 

 

「じゃあ飛ばすか! 悲鳴は上げるなよ真士(しんじ)!」

「冗談きついっての! 荒い運転はお断りだからな!」

 

 

 

彼の名は東原(あずまはら)真士。μ’sの一員である西木野(にしきの)真姫の婚約者で、

ダンスサークル≪ビート・ライダーズ≫の現リーダーでもある。

この物語は、彼と彼女の日常と、それを彩る仲間たちの作品。

 

 









・オーダーメイド
お金持ちといえば

・薄いピンク
作者の妄想です。

・角井裕也
元ネタキャラ:仮面ライダー鎧武
角井の漢字が違うのは≪あの裕也ではない≫という差別化を込めています。
この作品内では真士の親友ポジションに当たります。

・ビート・ライダーズ
出典元:仮面ライダー鎧武
該当作においては舞台内での中心団体というものでしょうか。
この作品においてのビート・ライダーズは
「ごく普通のダンス好きの団体」
という方向性で書いていきます。


次回からは一人称で書いていきます。


読了ありがとうございました。

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