麦わらの副船長   作:深山 雅

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第92話 ビビ救出

 

 酒は船にある1番いいやつを開け、つまみも自分で作る。甲板で1人、のんびり月見酒と洒落込んでいた。

 雲一つ無い空は月がよく見えて、遠目でのサボテン岩がよく映える。でもあの岩のトゲって、墓標なんだよな……知ってて見ると、中々シュールな光景といえるだろう。これで満月だったら申し分無いのに……とは思うけど、そこまで言うのは贅沢ってやつだよね。賑やかさは無いけれど、それなりに楽しめる一時だった。

 

 そんな風流は、長くは続かなかったけどな!

 

 「げふっ!」

 

 今の耳障りな呻き声は、船に潜入した挙句に『死ねェ!!』とかのたまって襲い掛かってきた賞金稼ぎを蹴り飛ばした際の声である。

 

 俺の元に賞金稼ぎが押しかけてくるようになるのに、あまり時間は掛からなかった。

 まだ皆は潰すための宴の真っ最中みたいだけど、俺が1人で酒盛りしてるのはこの町のヤツらも知ってるからか、結構早い段階から断続的に2~3人ずつ来やがる。

 勿論、きっちり昏倒させた上で身ぐるみ剥いで川に叩き落としてるけど、正直に言って面倒臭くなってきた。もう50人ぐらいは来たんじゃないか?

 ちまちまちまちまとさ……いっそもっと大勢で来てくれたら無双が出来て楽しいかもしれないのに、とすら思ってしまう。

 収穫としては、武器類と多少の現金。あと、おっさん相手には服も頂いておいたよ。古着屋で売れそうだし。

 

 でも、そろそろ食料も欲しくなってきたな。だって、いくらあっても足りないような気がしてきてしまうんだよ、ルフィを見てると。

 

 「……決めた」

 

 俺は1つ伸びをして、メリー号から飛び降りた。

 どうせこのままここにいたって、襲われ続けるだけだ。もう何回も襲撃を受けてるんだし、こっちから町に繰り出して家々を漁ってもいいだろう。

 え、罪悪感? それはどんな効果だ、いつ発動する? 

 

 この町は食糧難らしいけど、流石に各々の家の冷蔵庫なんかには何かしらがあるはずだ。それに、酒造が盛んって言うぐらいなんだから、地酒も置いてるかもしれない。

 大丈夫、問題ない。これは民間への略奪なんかじゃなくて、賞金稼ぎへの報復なんだ。それに、ちょっとした酔い覚ましの意味もある。

 俺は小さくした大量の空の木箱を手押し車に乗せて、夜のウィスキーピークの町に繰り出したのだった。

 

 

 

 

 読みは当たった。

 家々の冷蔵庫には少し食料があったし、所によっては酒もあった。少し味見してみたけど、自慢するだけあってそこそこ美味い。

 他にも、衣類や小物、予備用らしき武器なんかも根こそぎ頂きました。

 え? セコイ? セコくて結構、貧乏よりはマシ。その家の住人が後で生活に困ろうと知ったこっちゃないし。ただの賞金稼ぎならちょっとは手加減する気になったかもしれないけど、バロックワークスの社員どもに手心を加える必要性なんて感じない。

 

 普通のサイズに戻した木箱に小さくした品々を詰め、一杯になったら箱ごとさらに小さくする。俺の能力の裏技の1つだ。小さくしたものを『何か』に入れてその『何か』をちいさくすれば、中に入れたものも周囲に合わせて小さくなるから、1/100よりも小さくすることが出来る。ちょっとややこしいけど。

 でも、後で整理しないとな。とにかく短時間で出来るだけ大量に奪おうとしてるから、箱の中は結構ぐちゃぐちゃだ。……後で目録を作るにしても、それだけで2~3日が終わりそうな気がする。誰か手伝ってくれるかな?

 

 そうそう、町中で随分と慌てた様子の住人と出くわしたこともあった。話を聞く限り、どうやらゾロから逃げて来たらしい。

 なるほど、漸く事が起こったか。そういえばさっきから、発砲音が何度か聞こえたし。まぁ心配はいらないだろう。むしろ心配する要素がどこにも無いし。

 当然ながら、そいつらも沈めて身ぐるみ剥ぎました。いやー、大量大量。

 

 

 

 

 で、だ。

 ちゃんと数えてはいなかったから正確なところは解らないけど……10軒以上は『仕事』をした後だ。

 少し前に爆発音が聞こえてきたから、Mr.5ペアがもう来てるんだろうなとは思ってたけど、ここはあいつらに任せて俺はこのまま出航まで略奪してても問題ないよなーって考えてたから、気にしてなかった。

 

 けれどふと気が付くと、かなりのスピードで誰かがこちらに向かってきているのが解った。

 人の足で走れる速さじゃないな……多分、カルーに乗ったビビだろう。何だ、ビビの逃走経路ってこっち方面だったのか。

 けど……可笑しいな。ビビ(+カルー)の他にこっちに向かってきている気配は2つ。Mr.5ペアなんだろうけど……ゾロはどうしたんだ?

 ちょっと気になったから、こっそり様子を窺うことにした。

 

 進行方向に先回りしてみると、ゴツイ女……多分、彼女がミス・マンデーだ。それが角材を担いで立っている。

 俺は見付からないように家の陰から様子を窺ってた。野次馬です、はい。

 

 「どうせあの怪力剣士のせいで、あたしたちは任務失敗の罰を受ける。それなら、友達の盾になってブチのめされたいもんだ」

 

 Mr.5ペアに追いかけられながらこっちにまで来たビビに、ミス・マンデーはそう告げた……漢だ!

 ミス・マンデーは担いだ丸太で対抗しようとしたけれど、如何せん実力の差というものがあったらしい。

 

 「バロックワークスの恥さらしがァ!」

 

 追い付いてきたMr.5の爆発能力によって倒れるミス・マンデー。

 どうでもいいけど、犯罪組織の恥さらしってどういう意味なんだろう。

 

 「ミス・マンデー!」

 

 この隙に少しでも距離を稼げばいいのに、ビビはミス・マンデーのことが気がかりらしい。少しスピードが落ちている……優しいもんだよな。彼女だってバロックワークスの一員、ビビにとっては仇と言ってもいいだろうに。

 まぁ、ミス・マンデーは問題ないだろう。あれくらいの爆発では死にはしない……それより、本当に何でゾロは来ないんだ?

 

 俺が内心で首を傾げていた、まさにその時だった。

 ドゴォン!! という物凄い破壊音が聞こえてきたのは。

 俺は驚いたよ。この瞬間に何故こんな音が響き渡る? 

 

 「!? 何だァ!?」

 

 「あ、あそこよ!」

 

 Mr.5ペアも予想外の事態だったんだろう、一時だけ任務を忘れたらしい。ミス・バレンタインが指差した先では、何らかの土煙が上がっていた。何かが起こったらしい。

 そう、何かが……今この島で何か騒動を起こすだろう存在なんて、そうそういないけどさ……いや、でもそんな……。

 俺は冷や汗を浮かべつつ意識をそちらに集中させて……膝を突いた。そう、orz状態だよ! だってさ、これって……。

 ことが起こっているらしい場所でぶつかり合う、覚えのある2つの大きな気配。

 うん、明らかにルフィとゾロだな!? 何で!? このままじゃビビを助けられないじゃん!

 

 「………………Mr.5、別に私たちには関係なさそうね」

 

 「そうだな、ミス・バレンタイン」

 

 げ、呆けてたMr.5ペアが復活した!

 

 「それでは我々は、速やかに任務を遂行するとしよう……アラバスタ王国王女、ネフェルタリ・ビビの抹殺を!」

 

 あー、やっぱり邪魔が入らなきゃそうなりますよねー。

 ビビもビビだよ。さっきは逃げる絶好のチャンスだったのに、一緒になってポカンとしちゃってさ! そんなことではジャングルでは生き残れないよ! ……それは俺の幼少期の話だね、王女様はジャングルに行く必要なんて無いからいいのか。

 ……現実逃避ですね、はい。こんなこと考えてる場合じゃありませんね!

 

 「鼻空想砲!」

 

 ビビに向けて鼻くそ爆弾を放つMr.5……くそっ!

 

 「剃!」

 

 考えても仕方がない、原因を考えるのは後回しだ!

 俺は咄嗟に剃で飛び出して、ビビとカルーを横から捕まえて爆弾を回避する……カルーがデカくて掴みづらかったけど、ちょっと強引に引っ張った。

 そう、回避である。正面から向き合うようなことはしない……今更だけど、現在俺はスモーカーの十手を装備している。ってか、慣れるために常備している。でもな……誰が鼻くそ爆弾なんか打ち返すもんか!!

 

 「きゃっ!!」

 

 急な方向転換に対応出来なかったんだろう、ビビはバランスを崩している。ゴメン、でもこっちも咄嗟だったんだ。

 

 「! あなた、『紅髪』! どうしてこんな所に!?」

 

 一拍の後に俺が誰なのか解ったんだろう、ビビは随分と驚いていた。そりゃあそうだろう、俺はメリー号にいるはずの人間なんだから。

 

 「ここは、賞金稼ぎの町なんだろ? 酒盛りを邪魔された腹いせに、こっそり略奪させてもらってたんだよ。」

 

 肩を竦めながら言ったけど、ビビは納得していないらしい。

 

 「それが、何で私を助けるの!?」

 

 「……目の前で女の子が殺されそうになってるんだ、それを見過ごせるほど堕ちてはいないつもりだよ」

 

 嘘ではない。実際、俺で対処できるような相手なら、例えこれがビビでなくても一応は助ける。命ぐらいはね。メンタルケアまでは面倒見きれないけど。

 

 「……つまりテメェは、おれたちの敵だな?」

 

 Mr.5が言ってきた。

 うんまぁ、敵なんだろうな。

 

 「キャハハ、邪魔ね。だったら私の能力で地面にうずめてあげるわ」

 

 傘をたたみ、帽子を脱ぎながら宣言するミス・バレンタイン……何だか俺、ナチュラルにゾロのポジションを奪ってしまってないか?

 まぁ、こいつらをどうしようと別に影響は出ないだろうけど……どこでズレが生じたんだろう。

 

 今こうしている間にも、さっき1発目の衝突音がしたのとほぼ同じ位置で断続的に音が響いて砂塵が舞っている。もうこうなっては、ルフィとゾロの喧嘩が妙なタイミングで勃発してしまったのは疑いようがない。

 う~ん、不確定要素を否定したいわけじゃないけど……これはヤバいって。下手したらビビはあのまま殺されてて、アラバスタ王国は崩壊で……しかも、クロコダイルが倒されてインぺルダウン送りになってくれないと、頂上戦争時の戦力が減っちまう。

 

 「………………って、無視してんじゃないわよ!!」

 

 ん? あ、いつの間にかミス・バレンタインが空を舞っていた。

 あぁ、あいつどうでもいいから存在忘れてたや。だってさ、ミス・バレンタインの攻撃って……。

 

 「『紅髪』、避けて! あの女は……」

 

 「いや、言われんでも避けるよ」

 

 そう、避ければ済む話である。

 

 「いい!? 私の能力は1㎏から1万㎏まで、体重を自在に操ることなのよ! くらえ、1万㎏プレス!!」

 

 上空で体重を変化させたんだろう、ミス・バレンタインが降ってきた……けど。

 

 「そんなの当たるわけないじゃん」

 

 ひょいっと躱して終わりました。

 だってさ、月歩とかで軌道修正してるわけでもなし、直線コースで落ちてくるだけなら2~3歩動くだけで十分躱せるもんな。

 当然の結果として、ミス・バレンタインは地面に激突、埋まることとなった。

 勿体ないよな。もし俺がこんな能力手に入れられたら、戦闘でももっと活かせると思う……ん?

 

 「鼻空想砲!」

 

 Mr.5、またそれか! せめてもっと別のものを投げて欲しいんですけど!? 

 

 「剃!」

 

 今度はビビを抱えて躱した。カルーは超カルガモだから、ちゃんと見てれば1羽でならあれを躱すぐらい問題ないだろう。

 にしても俺、ビビを抱えてるよ! お姫様をお姫様だっこしてるよ! ……って、そんなこと言ってる場合じゃないね。

 

 どうすっかな……このままルフィたちに合流しようか。でも、今行っても喧嘩の真っ最中だろうしな。俺でこいつら何とかしちゃおうかな。多分、どうとでもなりそうなんだけど。

 

 「『紅髪』、このままサボテン岩の裏まで行けない!? 船を泊めてあるの!」

 

 ビビの希望は、このまま逃亡することらしい。そりゃそうか、生きてアラバスタに帰らなきゃならないっていう使命があるんだもんな。

 でも、それはダメだ。俺たちが関わることが出来なくなるってのもあるけどそれ以上に、このままビビを行かせてもまず間違いなく道中で始末される。それしか方法が無いってんなら仕方がないけど、それ以外の道もある以上は頷けない。

 

 「事情も解らないのに、そこまでの要望は聞けないな。もっと手っ取り早い方法で行く」

 

 「手っ取り早い……?」

 

 「そ。要するにだ。あいつらをぶっ飛ばせばいいんだろ?」

 

 そうすればビビも落ち着いて話してくれるだろうし。

 そうだ、それがいい。あいつらは能力者っていっても自然系(ロギア)ってわけじゃないんだし、取り敢えずぶっ飛ばせばそれで済むしね。俺は1人納得して抱えてたビビを降ろした。

 

 「ぶっ飛ばすだと? 舐めたことを言いやがるぜ!」

 

 「そうね、Mr.5!」

 

 あ、ミス・バレンタインがいつの間にか這い出してきていた。

 

 「おれたちはバロックワークスのオフィサー・エージェントだ!」

 

 「私たちの真の恐ろしさ! 教えてやるわ!」

 

 言って、こちらに走り出す2人。どうやら、ひとまず狙いをビビから俺に変えたらしい。それはそうだろう、ビビを狙った所で俺に邪魔されるだけだし。

 よし、それじゃあ俺もやるか。

 俺は少し構えて、嵐脚を放つ準備をした……が。

 

 「ちょこまかと、少しばかり動きが速いからといって調子に乗るなよ、チビ!」

 

 ………………予定変更。

 俺は背中に背負っている十手に手を掛けた。あはは~、あいつらも能力者だからこれは効くだろうな!

 けど……何でビビは自分の命を狙っている2人じゃなくて、俺から距離を置こうとしてるんだろうな?

 

 「誰が………………」

 

 Mr.5とミス・バレンタイン、2人はもう目前まで迫っているけど俺に言わせてもらえば……遅い。

 

 「チビだァ!」

 

 「「あああああああ!!!」」

 

 スモーカーの十手仕様、指銃・Qを放ちました。2人はぶっ飛んだよ! けど大丈夫、これまだそこまでの威力は無いから、貫通なんてしてない。ものすっごく痛いだけで。

 そして俺は、甘くはない。

 

 「まさか、これで終わりだなんて思ってないよな?」

 

 どうやらさっきの一撃が随分と効いたらしくて2人は倒れたままだけど、まだ意識はあるようだ。

 

 「たぁっっっっぷり、反省してもらうからな?」

 

 俺がニッコリと、動けずにいる2人に笑いかけると、2人共に顔を真っ青にした。

 お仕置きはまだまだまだまだまだまだ、始まったばかりである。


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