グランドラインの入り口に程近い島にある『始まりと終わりの町』、ローグタウン。
かつて海賊王、ゴールド・ロジャーが生まれ、そして処刑された町だ。
「行く?」
ナミのその問いかけに、ルフィは即座に頷いた。
で、だ。
俺はというと、ローグタウンへの上陸が決定してすぐに、船内で髪を染めた。そう、あのココヤシ村で手に入れた染め粉でね。
数分後には、俺は黒髪少年になっていた……が。
「お前誰だ!?」
甲板に出て真っ先に俺を指差して叫んだのは、ルフィだった……お前、どこまで天然なんだ!?
「俺だよ、ユアン」
「ユアン!?」
驚愕するルフィ。
そうだよ、俺はお前の従兄弟で義弟のモンキー・D・ユアンだよ!!
「どうしたんだ、その髪! 勿体無ェ!!」
お前はどんだけ赤髪好きなんだ!
「島に上陸するだろ? これまでに奪ってきた宝とかを換金しようと思うんだけど、賞金首になっちゃったからさ。面倒ごとになったりしたら嫌だから、変装してみた。幸い顔そのものはバレてないから、この髪さえ隠せば何とかなるかな、って」
そう考えると、あの二つ名も利用できる。
なまじ赤が強調されているだけに、それが見当たらなければそうそう怪しまれることは無いかもしれない。
「お前はどうするんだ?」
「おれは処刑台を見に行くぞ! 海賊王が最期に見た景色、おれも見てみてェ!」
ルフィは随分とワクワクしているらしい。
「そっか……ただ、1つだけ気を付けときなよ? ローグタウンを取り仕切ってるのは、海軍本部大佐『白猟』のスモーカーってヤツらしい。悪魔の実の能力者、それも煙人間……
と言っても、ムダだろうけど。
ロジャーが最期に見た景色を見たいってことは、やっぱりルフィは処刑台に登るつもりでいるんだろう。そんなことして見付からないわけがない。
「おう! 解った!」
返事だけは立派だね、お前。
そんなやり取りをしていると、ウソップが首を捻りながらガン見してきているのに気が付いた。
「何か言いたいことでもあるのか、ウソップ?」
「あー、いや……何ていうか」
ウソップの言葉は、どこか歯切れが悪い。
「おれ、お前らは中も外も全然似てねェ兄弟だと思ってたんだけどよ……こうして髪の色が揃ってるところを見ると案外、外見は似てねェこともねェんだなって思ってよ」
「そういえばそうね。何となく、そこはかとなく」
ウソップの意見に、ナミが同意している。いや、その傍でゾロとサンジも頷いてる。
それにしても。
「そうか? まぁ……俺たち、一応血は繋がってるしな」
初めて言われたな、ルフィと似てるって。
けど、例え俺の顔立ちはどっかの誰かと瓜二つだったとしても、ルフィとだって確かに血は繋がってる。一応。外見に関しては、面影が多少重なっても可笑しくはないだろう。
そうは言っても、正直そんなことはどうでもいい。
「それより、お前らはローグタウンでどうするつもりだ? もしよかったら、サンジには俺と一緒に来て欲しいんだけど」
「おれか?」
俺は頷いた。
「そう。換金するって言っただろ? そしたらその金で、食料を補給しないといけないし……しかも、大量に。でないと次の目的地までにルフィに食べ尽くされる」
財布の管理を俺がしている以上、換金は俺の役目だろう。そして俺の能力は、大量の買い物をする場合とても便利である。
「ま、そーだな。いいぜ、荷物持ちに使ってやる」
サンジも納得してくれた。何だか偉そうな言い草だけど、まぁいいや。俺も人のこと言えた義理じゃないし。
「おれは武器屋だな。刀が2本要る……金は……」
言って、俺を見るゾロ。
ミホークに折られたままだもんな。アーロンパークではヨサクとジョニーに借りてたけど。
「金より……これを持ってきなよ」
俺はポケットからケースを取り出し、元の大きさに戻してゾロに渡した。
「クロが使ってた『猫の手』だ。これを武器屋で売って、その金で刀2本を揃えればいい……ただ、出来るだけ安く買ってきてくれな? 何なら、1番安い刀のコーナーも見てから選んで欲しい。そういう所にも案外、掘り出し物があったりするかもしれないしさ。稼いだ分から活動資金を抜いた金額は、全員で山分けってのが海賊船だし。一人の取り分を増やしたい」
そうは言うけど、実際には『三代鬼徹』を見つけてもらうためだ。アレは確か、1本5万ベリーの群れの中に突っ込んであったはずだし。
ゾロも頷き、『猫の手』が入ったケースを受け取る。
よし、これでわざわざ換金のために武器屋にまで行く手間が省けた。
後、ナミは服を、ウソップは装備品を買いたいらしい。2人にも軍資金を要求されたので、こちらには現在の手持ちの現金を等分して渡しておいた。
さぁ、各々の行動も決まったし、もうすぐ上陸だ!
ローグタウンの換金所は、結構大きな所だった。商売繁盛しているみたいだね。とはいえ、客は専ら賞金稼ぎみたいだけど。
流石はスモーカーのお膝元、海賊は滅多に来ないらしい。
「ほぉ、これはこれは」
大量に持ち込んだからか、査定のために個室へ通してくれた。
換金所のおっちゃんは、小さな虫眼鏡まで持ち出して次々に見ていく。
「よくぞこれだけ集めたものですな?」
「色んな海賊から奪ったんです」
感心したような口調に、俺は得意の愛想笑いで答えた。元日本人でよかった、と思う瞬間だね、こういうのは。
俺の発言に、おっちゃんは顔を上げた。
「あなたは賞金稼ぎなので?」
実際には賞金首である……が。
「まぁ、似たようなことやってますね」
いや、今回の収穫にはモーガン親子から奪った分もあるから、厳密には違うけど。
思い返せば、海賊をぶっ飛ばし、金品を奪う……ピースメインの海賊って、賞金稼ぎとやってることは同じだよね。この2つの違いって、海賊旗を掲げているかどうかってことだけじゃないか?
「これなら……これぐらいで如何でしょう?」
おっちゃんがソロバンを見せてくるけど……フッ。
「それじゃあ割に合わないですよ、せめて」
パチパチ、とソロバンの玉を弾く。
「これぐらいは欲しい所ですね」
その金額を見て、おっちゃんは目を丸くしている。
「いや、これはお高い……これぐらいならどうです?」
パチパチ、と俺が提示した金額よりは低いけれど、先ほど自分が示したものよりも少し高い額を見せてくる。
「そうはいっても、こっちにも生活がありますからね。ぼったくりってほどの値でも無かったでしょう? ……じゃあこちらも妥協して……これなら?」
パチパチ、とおっちゃんが2度目に出した金額よりも少し高い額を出す。
おっちゃんは暫く唸っていたけど、値切りはここで打ち止めになった。
「ありがとうございました~」
金を手にし、俺はサンジが待つ換金所の外へと出たのだった。
サンジを見つけると……目を♡にして固まっていた。
「…………ナミに言い付けるぞ?」
「はっ!! おれは何を!?」
おぉ、素早い反応。
「おれとしたことが……ナミさんという者がありながら、絶世の美女に心奪われかけるだなんて……!!」
その呟きで、何となく事情は解った。
つまり、スベスベの実を食べて容貌が激変したアルビダを見かけたんだろう。
アルビダか……さっきルフィは、髪を染めた俺が誰だか解らなくなるぐらいの天然っぷりを発揮した。それにワレ頭にせよそげキングにせよ、原作読んでる時に『気付けよ』って思ったことは多々ある。でも、あのアルビダの大変身だけは解らなくても仕方がないって思えるよね。
それにしても、『ナミさんという者がありながら』って……現状では、体よくあしらわれているだけのくせに。
「それで、幾らになったんだ?」
宝が売れた金額? それは……。
「驚け。3000万ベリーだ」
何と、俺の賞金額と同額だった。最初に提示された額は2000万ベリーだったりするから、1.5倍にまで引き上げたのだ。俺を褒めてもいいぞ。
ちなみに、1番宝の質が良かったのはバギーから奪った分だったりした。流石はお宝大好き男。
「へェ! そりゃあ、いい食材が買えそうだな」
「質だけじゃないぞ、量もだ。ルフィがいるからね……。とはいえ、ココヤシ村で賭けに勝ったから、大分マシになったと思うけど」
スーパーへの道すがら、歩きながら話した。
これまでの航海でも、1ヶ月は1日3食ってのをルフィは忠実に守っていた。約束は守るヤツなんだよね。
ちなみにサンジは、絶世の美女(=アルビダ)だけではなく、変な着ぐるみマンを乗せたライオンも見掛けたそうな……うん、明らかにリッチー&モージだな! モージのヤツ、サンジにも着ぐるみって言われちゃってるよ!
スーパーに着くと、まず目を引いたのは……アレだよ、エレファント・ホンマグロ!! やった、俺、これ食べてみたかったんだよな!
「お前の能力があれば、これを運ぶのも楽だろうな……丸ごとくれ」
前半は俺に、後半は漁師のおっちゃんに向けてサンジが言った。
そんな俺たちの傍を、ウソップがスタスタと歩いていった。
「あいつ、装備品買うんじゃなかったのか?」
そんな呟きを溢していると、ウソップは真っ直ぐ卵コーナーへ。
「うぉ、卵が安い! でもお1人様1パック!」
「……主婦か、あいつは」
サンジのツッコミに、俺は無言で頷いた。
でも待てよ、ひょっとしたらアレで卵星でも作るつもりなのか? それなら装備品とも言えるし。
それはともかくとして。
「どっちにせよ、卵がお1人様1パックだってさ。俺たちも買っとこうよ」
確かにアレは安い! お買い得だ!
サンジにも異存は無かったらしく、あっさりと頷いた。
「そうだな。……それに、アイツも荷物持ちによさそうだ」
同感である。
その後、サンジがメインになって食材を選び、俺が小さくし、ウソップが持つという形が完成した。
買い物はのんびりしたものだったけど……さて、これからが問題だ。
バギー、スモーカー、そして……我が伯父、ドラゴン。
ドラゴンは敵じゃないけど、10年ぶりだよな……向こうは俺のこと、覚えてくれているのだろうか。