麦わらの副船長   作:深山 雅

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第67話 ナミの説得

 場所を船室内に移し、ナミと俺はテーブルに向かい合って座っている。とにかく、冷静に話し合おうということでね。

 さて、交渉において主導権を握るのに最も有効な手段は、先制パンチだろう。

 

 「それで? メリー号を奪って、アーロンパークにでも帰るつもりだった?」

 

 にこにこと、サラリと何でもないことのように俺はそう聞いた。

 

 「……何のことよ」

 

 ナミはひとまず、しらばっくれることにしたらしい。けれど、アーロンパークという単語が出た瞬間に顔色を変えたのは見逃していない。

 

 「だってナミって、アーロン一味の者でしょ? 腕にイレズミあったし」

 

 ナミは苦々しげな顔でイレズミを入れているであろう腕の部分を服の上から掴んだ。

 

 「ゴメンね。珍獣島を出た後に、水掛けちゃっただろ?その時見ちゃったんだ」

 

 「な! ……見てないって言ったじゃない!」

 

 激昂してイスから立ち上がるナミ。それでも俺は気にした様子もなくそらっ惚ける。

 

 「俺は、『見てない』なんて一言も言ってないよ? 『見たって何を?』って聞いたでしょ?」

 

 思いっきり暴論というか、屁理屈である。自分でもそう思うんだから、ナミはより以上だろう。

 

 「詭弁だわ!!」

 

 顔を真っ赤にさせて憤慨している。

 

 「そうだね……でも、知られたくないことだったんでしょ? なら言われない限りは気付かないフリをするのが礼儀ってモンじゃない?」

 

 俺はナミを落ち着かせようと、座りなおすようにジェスチャーで伝えた。腹の虫はまだ治まっていないようだけど、それでもナミは一応再びイスに腰掛けた。

 

 「誰にだって、人に知られたくないことはあるもんだよ。俺にだってある。ソレについてはルフィにすら話してないぐらいだ」

 

 主に、転生のことや親のことなんかね。

 特に転生。親に関してはバレたらバレたで諦めるしかないけど、転生のことは何としても隠し通さないと。墓場まで持っていくつもりだよ、過去や未来を知ってるだなんて決して口外出来ない。

 

 「だからナミのあの時の必死さから、話してくれるまでは気付かないフリしとこうと思ってたんだけど……こうして行動に出られてしまった以上、そんな悠長なことも言ってられない」

 

 実際には色々策を練ってたんだけど、それについては言わない。言う必要も無いだろう、話をややこしくするだけだ。

 ハッタリをかます以上、少しでも動揺を見せるわけにはいかない。

 

 「で、だ。それでも俺は一応調べた。アーロン一味に関してね。それで出した俺の予想を聞いてもらえるかな?」

 

 ナミは何も言わない。ただ固く拳を握って俺を睨みつけているだけだ。

 

 「ナミはアーロン一味の者。しかも、こうして長期的に独自で航海できてるということは、幹部級なんじゃないかな? それに、言ってたよね? 『1億ベリーを貯めてある村を買うのが目的』だって。それってひょっとして、ナミの故郷の村なんじゃない? 調べた感じではアーロンの目的は『支配』みたいだから、ナミの村もアーロンに『支配』を受けてると見てるんだけど。それで、その村を助けるためにアーロンと取引をした…違う?」

 

 「…………」

 

 ナミはそれでも何も言わないけれど、真っ直ぐに俺を睨んでいた視線を逸らした。

 

 「無言は肯定と見做すよ?」

 

 そう言っても、ナミは黙ったままだ。肯定はしたくないけれど筋の通った否定も出来ない、ってトコかな?

 

 「1億ベリーはもうすぐ貯まるって言ってたよね?1億ベリーを貯めるなんて、年単位で頑張ってきたんだろうけど……もし俺たちの宝を奪ったら、それで1億ベリーになる?」

 

 「…………お釣りがくるわよ。元の大きさならね」

 

 だろうね。

 原作では残り700万ベリーだったはずだ。今回はバギーからの500万ベリーを奪えていないけれど、それでもアルビダ・バギー・クロ・クリーク、そしてモーガン親子から奪った分はそれを軽く超えるだろう。

 ただしそれらは俺の能力で小さくして保管しているから、本来の価値にならない。

 俺はナミの答えに1つ頷いた。

 

 「じゃあ今回の1件が終わったら、次はアーロンパークに行こうか。ナミのためなら、きっと船長ルフィも賛同してくれるはずだ」

 

 その提案が意外だったのか、ナミは弾かれるように顔を上げて俺を見た。

 

 「俺があれらを元に戻せば、ナミは目的を果たせるんでしょ? それなら、それでいい。だってあれはこの海賊団の活動資金で……まぁ、殆どルフィの食費に消えると想定してたんだけど、とにかくそれは置いといて。で、ナミは俺たちの仲間だからね。仲間のために使わなくて、何のための資金だって話だよ」

 

 「私は」

 

 「仲間じゃない、なんて理屈は通用しないよ? シロップ村でも言ったけど、船長はルフィでそのルフィがナミを仲間と認定しているんだ。だったら少なくとも俺たちにとってはナミは仲間だ」

 

 海賊船の掟とも言える、絶対的な原則だ。それに。

 

 「それに、女の子が何年も掛けて一生懸命頑張ってるんだ。それに協力したいと思うのに何か理由がいる?」

 

 短期的に希望が見えたからだろう、ナミの表情が少し明るくなった。これでココヤシ村を救える、と。

 しかし、それではダメだ。さっき言ったのも本心ではあるけれど、アーロンはそんな簡単な相手じゃない。

 

 「けどね。こう言っちゃ何だけど、それじゃ何の解決にもならないと思うよ?」

 

 「? どういう意味よ」

 

 これまでとは180°真逆とも言える発言に、ナミは困惑顔になった。

 

 「ナミには悪いけど、あえて厳しく言わせて貰う。ハッキリ言って、それは無駄な徒労に終わる可能性が高い」

 

 カッと、またナミの頬に朱がさした。

 

 「どういう意味!? 私の8年間の仕事(ビジネス)をバカにするの!?」

 

 8年。そう、その年数が厄介だ。それだけ意地にもなるし、視野も狭まる。

 

 「バカになんてしてない。むしろ、立派だと思うよ。だから協力したいと思うんだ。ナミは、海賊嫌いなんでしょ? 大事な人を奪われたって言ってたよね? 俺は、そんなナミが自分からアーロン一味に入るとは思えない。ってことは、アーロンの方がナミを引き入れた。違う?」

 

 「…………」

 

 ナミは答えない。ただ俺を睨みつけてくるだけだ。

 

 「でもよく考えてみなよ。アーロンが種族主義で人間を見下してるってのは、ちょっと調べただけの俺の耳にも入るぐらい有名な話だ。そのアーロンが一応とはいえ、人間のナミを幹部として一味に迎え入れている。その理由は、ナミに特殊な才能、もしくは技術があって、それを買われたからなんじゃない? これまでの航海で見てきた感じでは航海士、もしくは……測量士ってトコかな?」

 

 「……そうよ。私はこの8年間、一味の測量士としてアーロンに海図を書かされてきたわ」

 

 こうして話してくれてる段階で、ある意味ナミの気は緩んでいる。アーロン一味での話を出してきているのだから。

 

 「さっきも言ったけど、アーロンは種族主義。それはナミだって解ってるだろ?なのに人間のナミを引き入れたのは、アーロン一味に他にそれだけの能力を持った者がいないからとしか思えない。そんな優秀な人材、そうそう手放してはくれないと思うけど?」

 

 「アーロンは、金の上での約束は守るヤツよ! 今までだってそうだった……私の住む村、いえ島を管轄している海軍支部の将校だって、アーロンに買収されてる!」

 

 それがポイントだろうに……。

 俺は小さく溜息を吐いた。

 

 「確かに、仕事(ビジネス)は1度でも反故にすれば信頼を失う。けど、それが一見(アーロン)の仕業じゃなかったら?」

 

 俺の真意を図りかねているのか、ナミは探るような視線を向けてきた。

 

 「こう言っちゃ何だけど、ナミの集めた金は盗品だ。盗品ならそれは、海軍に押収する権限が発生する。海軍支部がアーロンに買収されてるって、ナミ、自分で言ったじゃん」

 

 ハッと、ナミは息を呑んだ。

 

 「海軍支部が買収されてるってのは、俺も薄々勘付いてた。だって海賊が8年間も一所に留まってて何の問題も起きないなんて可笑しい」

 

 七武海じゃあるまいし。支部で手に負えない相手なら、本部に連絡が行くはずだし。

 

 「もしナミが本当に1億ベリーを集めても、アーロンは海軍を使ってそれを奪い取ると思う。そうすればアーロンは約束を破ってはいないことになる。海賊ってのはさ、欲しい物のためなら何でもするようなヤツらなんだよ。……尤も、あくまでも可能性の話だ。本当にアーロンが取引に応じる可能性も無いわけじゃない」

 

 けれど、俺の話は筋が通っていると思う。実際そうなるわけだし、出ている情報から考えても矛盾は無い。

 ナミも思い当たるフシはあるんだろう。顔色が悪い。

 

 「だから、アーロンパークのある島……コノミ諸島、だっけ? そこに着いたら………俺たちがアーロンを潰そうと思う」

 

 ナミは目を見開いた。

 

 「勿論、ナミが穏便な解決法として金銭の取引を優先したいというなら、それはそれで構わない。その場合は、足りない分はこっちでも出す。でもそれがダメになった場合は……俺たちがアーロンと戦う」

 

 「ふざけないで!!」

 

 ナミはまた立ち上がった。その勢いは、さっきよりも激しい。イスが後ろにガタッと倒れたほどだ。

 

 「いくらあんたたちに化け物じみた強さがあっても、本当の化け物に敵うわけないじゃない! これまでアーロンを討とうとしてやってきた海軍も、買収されたヤツ以外はみんな潰されたわ! この東の海でアーロンに敵うヤツなんていないのよ!」

 

 「あ、俺たちの心配してくれてるの? 嬉しいな~」

 

 「ふざけないでって言ってるでしょ!?」

 

 「……ゴメン、悪ノリしたね。でも、それがどうしたの?」

 

 ますます激昂するナミとは反対に、俺は出来る限り冷静に言葉を返した。

 

 「さっきも言ったよね? 俺たちにとってはもうナミは仲間なんだ。仲間が困っていたら、助けたいって思って当然だろう? まぁ、確かにまだルフィに話してないけど……俺たちは長い付き合いだからね。出すであろう結論は大体読める。ルフィだって、仲間は大事なんだ。例え敵わなくても、やれることがあるなら何でもするさ」

 

 これもウソではない。というか、ルフィなら真っ先に特攻するだろうなぁ。

 

 「ナミの村……いや、島には迷惑は掛けない。俺たちが負けたとしてもそれは、アーロンという東の海最高額の海賊に挑んで名を上げようとしたバカな海賊がやられたってだけの話だ。俺たち自身の心配をしてくれてるっていうなら、本当にヤバくなったらどんな手を使ってでも逃げるって約束する。ルフィたちが納得しなくても、俺が引き摺ってでも連れて行く」

 

 「でも……!」

 

 ナミは言葉に詰っている。俺たちを止めたいけれど、どう止めていいのか解らないんだろう。

 それはそうだろう。目的が割れている以上、例えナミが1人で逃げても俺たちは追いかける。俺が本気だってことも、これまでの航海でルフィの性格も解っているだろうから。

 それでも、感情としては止めたいんだろう。それなら……もう1つ、手を打つ。

 

 「じゃあ、これならどう? ナミはアーロンに1億ベリーを払う。それで解決するならそれでいい。それでダメなら、俺たちが戦う。勝てばそれでアーロンの『支配』は終わりだ。俺たちが負ければ………海軍に始末を付けてもらう」

 

 まぁ実際には、初めから海軍に始末付けさせればいい気もするんだけどね。1億ベリーを払う必要性も無い。何故ならその『支配』自体不当なんだから。

 

 「あんた……私の話を聞いてた? 海軍はアーロンに買収されてるのよ? そうでなければ、潰されている……海軍に何が出来るっていうのよ」

 

 「それは、海軍『支部』の話でしょ? ……さっきナミ、言ったよね? 俺たちが化け物じみていても、本物の化け物には敵わないって。じゃあ逆に聞くけど、ナミはアーロンがこの世界で最強だと思ってる?」

 

 「? 何よそれ?」

 

 ナミは目を瞬かせている。確かに、俺のこの話題転換は突拍子もないからねぇ。

 

 「或いは、かつてアーロンが所属した魚人海賊団の長、七武海の1人でもある『海侠』のジンベエ。或いは、世界最強と言われる四皇の1人、『白ひげ』エドワード・ニューゲート。或いは、過去の人物だと『海賊王』ゴールド・ロジャー。そういった者たちより、アーロンの方が強いと思う?」

 

 俺の出した例に、ナミは呆れ返った視線を向けてきた。

 

 「それはもう、次元の違う話でしょ? 私は、この東の海にはアーロンに敵うヤツはいないって言ってんのよ」

 

 ナミ自身、流石にそういった者たちよりもアーロンの方が上だとは思ってないらしい。それはそうだろう。もしそれより上なら、こんな東の海の片隅でコソコソしてるわけがない。

 俺は大仰に頷いて見せた。

 

 「そう。そしてそんな次元の違う大物たちと真っ向やりあってきたのが、海軍『本部』の海兵たち。つまり彼らも次元の違うレベルの者たちであり、アーロンを何とかするぐらいわけないと思わない?そもそも、アーロンが実力では自分に大きく劣る海兵をわざわざ買収している最大の目的は、本部へ連絡させないためだろうし」

 

 人間を見下しているアーロンも、流石に海軍本部を舐めてはいないに違いない。何しろヤツ自身、1度は黄猿に捕まったことがあるはずだ。原作の魚人島編でも言われてたけど、ジンベエにだって知られたくないだろう。

 

 「だとしても、どうにもならないわよ。海軍本部があるのはグランドライン、ここは東の海よ? 連絡を取ろうにも、支部が買収されてるんだから取り合ってもらえないわ」

 

 ……この様子からすると、実際に試してみたことはあるんだろうね。それでもダメで、自分たちで何とかしなきゃいけないと決めたんだろう。

 でもねぇ……俺ってば、コネがあるんだよねぇ。

 うん、虎の威を借る狐だよ。

 

 「ところでナミは、ガープって海兵を知ってる?」

 

 ニッコリ、と俺はいっそ無邪気にも見えるだろう笑顔で尋ねた。唐突な質問に、ナミは虚を突かれたような顔をした。

 

 「知ってるも何も……海軍の英雄じゃない。かつてゴールド・ロジャーを何度も追い詰めたっていう」

 

 うわ、凄い知名度。名前が売れてるっていいよね。

 

 「そう。海軍の英雄、『拳骨』のガープ。今尚現役の海兵で、海軍本部中将をやってるんだけど……うちの祖父ちゃんなんだよね、それ」

 

 「…………は?」

 

 「だから、ガープ中将はルフィや俺の祖父ちゃんなんだよ。祖父。グランドファザー。ジジイ。フルネームはモンキー・D・ガープだしね」

 

 シェルズタウンでヘルメッポ見てて、初めて気付いたんだよね。

 あれ、俺らって凄いコネ持ってんじゃね? って。むしろ何故それまで気付かなかった俺。

 ……うん、普段の祖父ちゃんの態度が無茶苦茶なせいだな。それで祖父ちゃんが偉いってことが何となく思考の彼方に吹っ飛んでたんだ。

 でもこう言っちゃ何だけど、ヘルメッポよりかは有益なコネの使い方だろう。

 

 「つまり俺は、ナミの言う『次元の違う人』に直接連絡を取る術を持ってるってこと」

 

 パッカリと口を開けて呆然としていたナミだけど、言ってる内容が頭に入って来たのか、やがて猛然と抗議してきた。

 

 「な、何よそれ! あんたたちって海賊一家じゃなかったの!?」

 

 「親兄弟は海賊だけど、祖父は海兵なんだよ。祖父ちゃんとしては、子どもも孫も海軍に入れたかったみたいだけど。……何なら、証拠を見せようか?」

 

 言ってテーブルの端から手繰り寄せたのは、シロップ村でカヤに譲ってもらった電伝虫。

 ナミがまだパニクってる傍らで、俺は電話を掛ける。掛けた先は勿論。

 

 <誰じゃ?>

 

 祖父ちゃんである。

 

 「あ、祖父ちゃん?俺」

 

 祖父ちゃんに直通の番号で掛けたから、向こうが名乗らないのはある意味当然である。

 うん、祖父ちゃんの直通番号、一応教えてもらってたんだよね。今までは電伝虫が無かったから使ったこと無かっただけで。

 

 <ユアンか!? どうした、何かあったか?>

 

 ……この様子からして、祖父ちゃんはまだ俺たちが海に出たことを知らないね。

 

 「あった、と言えばあったかな。でも今は取り敢えず、祖父ちゃんの声が聞きたくてね」

 

 <そうか!>

 

 受話器の向こうで嬉しそうに笑う祖父ちゃん。

 ……ゴメンナサイ、あなたの孫は2人揃って海に出て海賊になろうとしてます。ってか、心は既に海賊です。

 実を言えば、罪悪感はある。祖父ちゃんが俺たちを海兵にしたがっているのは、俺たちを守りたいからだってのは一応解ってるし。

 海賊になるのを止める気はないけど、爺不孝に関しては素直に謝ります……心の中で。

 

 <ルフィはどうした? 一緒じゃないのか?>

 

 「……あいつは今、レストランを破損してその償いとして雑用をさせられてるよ」

 

 ウソではない。ただ、この言い方では祖父ちゃんは、レストランってのは町のレストランだとでも思うだろうけど。

 

 「ねぇ祖父ちゃん。祖父ちゃんって、海賊王と戦ったんだよね?」

 

 今更な質問である。祖父ちゃんも一瞬沈黙した。

 

 <何じゃ、ヤブから棒に。聞きたいか、わしの武勇伝が!!>

 

 「いや別に」

 

 <何!?>

 

 嬉しそうだった祖父ちゃんの声が、ガーンという効果音が付きそうな感じになった。

 

 「ちょっとした確認……じゃ、またね」

 

 <また!? 待てユアン、久し振りの祖父ちゃんじゃぞ!?>

 

 「うん、ゴメン。ちょっと急いでるんだ。また今度ね」

 

 それだけ言って、俺は電伝虫を切った。

 今度、はW7になるだろう。

 今はまだ『自称海賊』の俺たちも、もうじき正真正銘『海賊』になる。そうなったら・・・祖父ちゃんへ連絡を取るのは、避けるべきだろう。

 肉親とはいえ、海賊と海兵が気軽に連絡を取り合うのは喜ばしいことじゃない。勝手な理屈だとは解ってるけど、俺なりのケジメだ……祖父ちゃんには申し訳ないけど。

 俺は頭を1度振ってちょっと気分を切り替え、まだ呆然としているナミに視線を戻した。

 

 「ご覧の通り。俺たちには、海軍本部の上層部と直接連絡を取る術がある。彼らなら、アーロンぐらいどうとでも出来るのは、ナミだって解るだろ?」

 

 「……海賊が海軍を利用する気?」

 

 その問いには、苦笑するしかない。

 

 「海賊だから、するんだ。聖人君子じゃないからね。必要とあれば卑怯な手だって使うよ…まぁそうは言っても、やっぱり孫としては心苦しいから、出来れば使いたくない。だから、最終手段として提示したんだ。本当なら、今すぐにでも報告すべきなんだろうね。グランドラインから東の海へ来るにはそれなりの時間が必要なのは事実だけど、そうすればわざわざ1億ベリーを用意する必要も無くなる。俺たちが戦う必要も無い。けどそれでも、俺はアーロン一味と戦いたいと思う。祖父ちゃんを利用するのは心苦しいし、何より」

 

 俺は真っ直ぐナミを見た。

 

 「少しでも早く、ナミの重荷を取りたいと思うからね」

 

 「…………」

 

 「どう?どっちに転んでもナミの村は助けられると思うんだけど……?」

 

 1億ベリーは貯まる。金を払えばそれで済むかもしれない。

 俺たちが戦って勝てば、それで『支配』は終わる。

 負けたとしても、海軍本部の『英雄』に繋ぎを取られれば、アーロンは終わる……ひょっとしたらこの場合、事情を知ればジンベエが来たりするかもだね。

 うん、アーロン詰んでるな!

 

 「本当に……危なくなったら、逃げるんでしょうね……?」

 

 暫くの逡巡の後に出されたナミのその答えは、遠回しな戦いの選択とも言える。けど取り敢えずこの場は、それで構わない。

 俺は笑顔で頷いたのだった。

 

 

 

 

 結局、ひとまずは1億ベリーを用意してみる、ということになった。

 ……8年間、ってのは長いね。それを達成しかけている所で急な方向転換は難しいだろう。俺が示唆したのはあくまでも可能性でしかないわけだし。

 まぁアーロンが1億ベリー受け取っても、戦うけどな! 

 祖父ちゃんの名が効いたのだろう。ナミは心持ち表情が明るくなってる。何にしても、最終的に村を救える目処は立ったわけだしね。

 スゴイな、祖父ちゃん。俺は今、産まれて初めて祖父ちゃんを尊敬してるよ……今までは、嫌いではなかったけど尊敬は全く出来なかったから!

 

 

 

 

 さて、結論が出たところで……次に考えないといけないのは、ゾロか。

 間違いなく大怪我してるだろうからね。原作ではアレ、自分で縫ったんだったっけ?

 治療しないとな……俺だって医者じゃないけど、慣れている分、少なくともゾロよりは上手く縫合できるだろうし。

 ゾロの気配は、既に随分と小さくなっている。急いだ方がいいだろう。

 ナミと俺はメリー号を動かし、ゾロたちがいるであろう方へと向かったのだった。


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