麦わらの副船長   作:深山 雅

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第65話 バラティエの悲劇

 ジョニーの案内に従って航海すること3日。俺たちはバラティエへと辿り着いた。

 バラティエは魚の形をした船で、そのフォルムは面白い……でもこれって傍から見ると、レストランっていうより遊覧船のような気がする。店内は落ち着いた雰囲気のまさにレストランって感じなのに、何で外見はこんなユーモア溢れる姿なんだろう?

 まぁ、そんな感想はどうでもいいか。

 

 

 

 

 店の前で海軍船とニアミスした。多分海軍本部大尉『鉄拳』のフルボディの旗艦なんだろうけど、俺たちは海賊旗を掲げていないから絡まれることも無かった。

 なので自然的に、バラティエ破損&ゼフ負傷フラグも折れた……と、思ってたんだけどね……。

 うん、どうしてこうなった。

 いや落ち着け俺。落ち着いて何が起こったかよく考えてみよう。

 

 

 

 

 バラティエに到着し、コックを勧誘する前にまず食事をしようということになった。この際、何故かヨサクとジョニーも一緒にレストランに入っていった。

 ……さりげなくたかられた。まぁ、2人分の1食ぐらい、大したことないから黙認したんだけど。

 ちなみに、この際の決定権は何故か俺にあった。どうやら、財布の紐は俺が握ることになってしまっていたらしい。え、財布も俺が持つの? 原作ではナミがやってなかった? って思ったけど……どうやら、シロップ村で鍵付き冷蔵庫を俺の一存で購入したことが影響してしまったみたいだ。大きな買い物を独断でするもんじゃないね。

 閑話休題。

 でも俺は食事前にちょっと……まぁ、お手洗いに行ったのだよ。だから、1人だけちょっと遅れてきた。

 んで、中に入ってみたら店が無茶苦茶になっていた。そしてそこで仁王立ちしているルフィと、ぶっ倒れている男。

 ……うん、やっぱり、どうしてこうなったのかわけ解らん!

 

 「ルフィ……お前何してるんだ?」

 

 痛む米神を揉みながら、俺は聞いてみた。

 

 「あいつ、おれの帽子をバカにした!」

 

 話によると、あの男はルフィの麦わら帽子を『古ぼけた薄汚い帽子』と称し、『レストランに相応しくない』と勝手に取り上げようとしたらしい。

 うん、まぁ確かに、ドレスコードに則っているとは言い難いだろうけど……あの男は店員じゃなさそうだし、言い掛かりだろう。

 

 「フルボディさん、しっかり!!」

 

 ドレスのおねーさんが男を揺り起こそうとしている……って、アイツがフルボディかよ!? よくよく縁があるな!!

 しかし、多分軽くからかっただけだったんだろうけど、ルフィの帽子に手を出そうだなんて。

 でもルフィもルフィだ。

 

 「このバカ!」

 

 スコン、と俺はルフィにチョップした。

 

 「何すんだ!」

 

 突っ掛かられた方であるルフィは不満そうだけど、周囲を見てみろ。

 

 「やるなら海にでも叩き落せ! 店に迷惑掛けるな!」

 

 「あ」

 

 壊れたテーブルとイス。フルボディが激突したのだろう壁は貫通している。お客さんも殆どが遠巻きに戦々恐々としている……ってか、全く動じてないのってゾロだけだよ。

 そしてふと、背後に怒気を感じて振り返ると。

 

 「おれの店を壊しやがったのは誰だ?」

 

 迫力満点に凄む義足のおっさんがいた。

 

 

 

 

 「どうか、期間を短くして下さい」

 

 店を壊したことでルフィは義足のおっさん……ゼフに1ヶ月の雑用を命じられた。原作では1年だったはずだから、まだマシなのか?

 でもそれを受け入れるわけには行かないから、俺はゼフにそう頼み込んだ。

 

 「ふざけんじゃねェ。許す許さないはおれが決めることだ。1ヶ月! きっちり働いてもらうぞ! それかちゃんと弁償するんだな!」

 

 ゼフの答えは実にキッパリしたものだった。

 

 「そうじゃありません」

 

 俺は食い下がった。

 

 「当然、弁償はします。ただこの愚兄への懲罰として、馬車馬の如く扱き使ってやって欲しいんです」

 

 「ユアン!?」

 

 ルフィは『裏切られた!』、と言わんばかりのガーンという表情だ。

 でも本当、お前1度働いてみればいいと思うよ。そもそもその弁償費用も俺が稼いできた金だし……稼いだっていっても、略奪してきたんだけど。それに、ルフィたちが戦ってた裏側でコッソリ奪ってきた物だから、正直そこまで拘ってもいないんだけど。

 でも、お前もうちょっと慎みなよ。

 それに。

 

 「断言します。ルフィを1ヶ月も雇ったら、この店が潰れますよ」

 

 かつて独立国家を作り、俺が調理担当になった頃。片付けぐらいは手伝おう、と殊勝なことを言ってくれたエースとサボとルフィだったけど、ルフィは全然役に立たなかった。皿は割るし、水は飛ばすし、保存しておいた食料をつまみ食いしていくし……まぁ、つまみ食いはエースもしてたんだけど。

 最終的に、サボと一緒に2人を追い出した。

 子どもの頃の話だけど、多分今も変わらないだろう。むしろルフィの場合、酷くなってるような予感がする。

 俺の発言に、ゼフは微妙な表情になった。

 とりあえず、少し働かせてみて決める、という結論に至ったのだった。

 

 

 

 

 ルフィがゼフに引き摺られていくのを見送って、俺は店に戻った。……途中でトイレの前を通ったんだけど、何やら妙な声が聞こえた……うん、スルーしよう。別に『ヘボイモ恐れ入ります』とかどうでもいいし。

 店ではもう混乱も収まり、客が食事を楽しんでいた。

 ルフィにぶっ飛ばされたフルボディもだ。尤も、時折クスクス笑われているからか、随分と顔を歪めてるが。

 

 「よう。どうだった?」

 

 ……みんなもう、テーブルに着いてメシを食べ始めていた。酒を飲みながら聞いてきたゾロに、俺は肩を竦める。

 

 「弁償することになった……加えて、ルフィには強制労働の罰もだよ。どうして止めてくれなかったんだ?」

 

 「止める間も無かったんだよ」

 

 ウソップが料理を口に運ぶのも止めずにそう言った。

 

 「突然のことだったからなァ。アイツ、そんなにあの帽子大事にしてんだな」

 

 「宝物だって言ってたわね、そういえば」

 

 そういえばよくよく考えたら、ルフィのあの帽子への思い入れを知っていたのはナミと俺ぐらいなのか。バギーの時、ゾロは寝ていたし。

 

 「友だちから受け取った誓いの証、だったっけ? どうして帽子になんて誓うんだか知らないけど」

 

 う~ん、話してしまってもいいかな? ……いいよな、ルフィも10年前から何度も俺たちに話してきたし。耳タコになるぐらい。人に知られたくない話、ってわけじゃないだろう。

 俺は食事の合い間を縫って、ルフィが10年前に経験したことを話した。

 

 「左腕を犠牲に、か。原因はそれだったのか」

 

 話し終えると、ゾロが納得顔で頷いていた。俺の疑問顔に気付いたのか、今度はゾロが説明しだした。

 

 「おれの夢は世界一の大剣豪になることだ。そのために『鷹の目』の男を探してる。そいつを倒すためにな。そしてかつて『鷹の目』と『赤髪』が決着の付くことのない決闘の日々を送ってたってのは今じゃ伝説になってる。10年前に『赤髪』が利き腕を失うまで続いてたらしい。その失った腕の原因がルフィだったとは、驚いたぜ」

 

 あー、やっぱりゾロは知ってたか、その話。そりゃ、『鷹の目』を狙うぐらいだもんな。

 納得した俺の隣では、ウソップが首を捻っている。

 

 「でもその話し振りからするとよ、お前は『赤髪』と会ったこと無ェのか? ルフィから聞いた話って言ったよな?」

 

 そこか。

 

 「うん、俺は『赤髪』に会ったことは無い。祖父ちゃんの教育方針でね、その当時の俺は産まれた村とは別の場所に預けられて育てられてたんだ。上の兄と一緒にね」

 

 いや、あの教育方針にどんな意味があったのかは未だに理解出来ないけど。

 

 「何で祖父さんなんだ?」

 

 「ルフィも俺も、親を知らない……色々事情があってね。俺たちの保護者は祖父なんだ。まぁ、忙しい人だったから年に数回しか会わなかったけどさ。……だから俺は、ウソップの父さんにも会ったこと無いよ」

 

 事情って、死んでたり、行方知れずだったり、不明だったりね。まぁ日記のお陰で、俺は母さんのことは少し知ってるけど。

 さて、みんなの疑問には一通り答えられたかな?もう質問は無さそうだ。

 食事も一通り進んで一息ついていたら、イヤな声が聞こえてきた。

 

 「おいおい、この店は虫入りのスープを客に出すのか!?」

 

 フルボディである。懲りない男だね。そういえばさっき俺がルフィの過去話をしてるとき、ワインがどーたらこーたらだとか言ってたっけ?どうでもいいから聞いてなかったけど。

 その対応をするのは、金髪でぐるぐる眉毛のコック……そう、サンジだ。

 この虫は何だ、と言われて昆虫には詳しくないので解りません、という切り返しは見事だよね。見習いたい。

 慇懃無礼ではあったが、それでも当たり障りの無い対応をしていたサンジだったけど、フルボディがテーブル毎スープ皿を壊したことで、切れた。皿ではなく、スープを粗末にしたことに。

 その後のことは……詳しく言う必要もないだろう。

 フルボディはサンジに手も足も出ずにフルボッコにされた。

 こんな短い間にルフィにぶっ飛ばされ、サンジにボコボコにされと全く良い所のないフルボディがちょっと哀れにも思ったけど、正直どうでもいいので俺はデザートを楽しんでいた。酒を飲むゾロもそうなんだろう。反対にナミとウソップ、ヨサクとジョニーは混乱していたけれど。

 

 「海でコックに逆らうってのは、自殺に等しい行為だってことをよく覚えておけ」

 

 もう碌に動けないくらいになっているフルボディに、そう凄むサンジは、結構カッコよかった。


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