麦わらの副船長   作:深山 雅

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第55話 ウソップの失言とルフィの威厳

 「じゃあ、海軍本部上層部は?」

 

 「1番偉いヤツがいて、その下に一杯いる! 祖父ちゃんもいる!」

 

 「……七武海のメンバーは?」

 

 「7人いる!」

 

 「…………四皇は?」

 

 「シャンクスがいる!」

 

 あ、やっと人名出てきた……って。

 

 「ルフィ……お前の頭はザルで出来てるのか?」

 

 「失敬だな、お前!」

 

 というより、むしろ何故その回答で胸を張れるのか理解に苦しむ。

 3日間だ。食事で釣りつつルフィに『勉強』させること3日……その成果がコレ。俺、泣きたい。

 いや、航海術を仕込もうとした時よりはマシか? 一応少しずつ覚えてくれてるみたいだし。メンバーはともかく、それぞれの勢力の概要ぐらいはもう覚えてくれたし。

 仕方が無い、根気よくやるしか無さそうだ。

 

 

 

 

 そんなこんなしていたら。

 

 「島に着いたな!」

 

 そう、あっさり到着シロップ村のある島。途中、嵐に巻き込まれるとか、海賊や海軍に絡まれるとかのイベントもなく、とてもスムーズなものだったよ。

 ちなみにナミの提案により、今俺たちはちゃんと装備された船を求めている。勿論、仲間も随時募集中。『音楽家が欲しい』というルフィの意見は黙殺したが。

 ん?

 船を着けた海岸の直線上に、思いっきり解りやすく隠れている顔が4つ……隠れてるつもりなんだろうな、アレ……。

 

 「陸は久し振りだ」

 

 珍獣島のときは寝ていて下船していなかったゾロが、身体を伸ばして柔軟をしている。

 そのゾロだけど、バギーにやられた傷はもう治っちゃってる。抜糸もしたけど、綺麗に塞がってたよ! 回復力パネェ!

 

 「で……どうする? あれ」

 

 あの正面の4人には当然ながら全員が気付いていた。代表して俺が聞いてみたんだけど。

 

 「「「見付かった~~~~~~~!!!」」」

 

 こちらの意見が出る前にちっこい3人が逃げた。

 

 「おい、お前ら! 逃げるな!!」

 

 哀れウソップ、置き去りに。……うん。

 ウソップだ! 世界一面白い鼻(ボンちゃん談)の持ち主・ウソップだ!

 鼻長ぇ! ウソップとカクとバギーで面白鼻選手権したらどうなるんだろ!?

 

 「………………」

 

 固まっているウソップ。うん、気まずい。

 

 「……おれはこの村に君臨する大海賊団を率いる、人呼んでキャプテン・ウソップ!!」

 

 まるで何事も無かったかのように啖呵切った!?

 

 「この村には手を出さない方が身のためだ! おれには8000万の部下がいる!」

 

 「ウソだろ」

 

 ツッコみました。うん、ナミのツッコミを待つ気にはなれなかった……ツッコミ所満載で。

 

 「げ、バレた!?」

 

 衝撃を受けた顔で口を滑らせるウソップ……お前は何がしたいんだ?

 そこは、さらりとかわして切り返しに不敵な笑みを浮かべてハッタリをかますべき所だろう!?

 

 「バレたってことは……やっぱりウソなんじゃない」

 

 今度はナミが呆れながらツッコんだ。

 

 「バレたって言っちまった!? おのれ策士め!」

 

 いや、勝手に言ったんだろ。

 それにしてもウソップのリアクション……面白っ!

 

 「お前面白いな!」

 

 既にルフィは腹を抱えて笑っている。けれどその様子に、ウソップは憤慨した。

 

 「おれをバカにするな! おれは誇り高き男なんだ! 人はおれを『ホコリのウソップ』と呼ぶ!」

 

 「それもウソでしょ」

 

 「これはウソじゃねぇよ!」

 

 うぉ、ツッコミにツッコミで返した!?何という高等テク!

 ってか、ウソじゃなかったのか。本当に呼ばれてたのか。

 俺が心からの賞賛の視線を送っていると、ウソップが俺を見た。

 

 「何だ、文句あるのか!?」

 

 え、俺そんな責めるような視線送ってないのに……ネガッ鼻!

 

 「尊敬してるんだよ……凄いスキル持ってるなぁって」

 

 これはウソじゃない、本心だ。

 それにしてもウソップは、煽てに弱いらしい。言われると胸を張った。

 

 「解ってるじゃねぇか! まだチビのくせによ! そうとも、人々はおれを称えさらに称え、そう呼ぶのだ!」

 

 ………………………………………………あれぇ、今何か聞こえたよーな気がするなぁ?

 俺は、表情がやけに綻んでくるのが解った。

 

 「ちょっと、何するのよ!」

 

 「おいルフィ!?」

 

 「いいから下がれ! 死にてェのか!?」

 

 あれ? ルフィ? 何でナミとゾロ引っ掴んで後退してるんだ? しかも何か不穏なセリフが聞こえるぞ? ……まぁいいか。

 俺はウソップに向き直った。あれ? 何かウソップの顔色悪いなぁ。風邪か? いや、それよりも今は。

 

 「さっき何て言った?」

 

 「人はおれを『ホコリのウソップ』と……」

 

 「その後。」

 

 「おれを称えさらに称え……」

 

 「その前。」

 

 「文句あるのか……」

 

 「行き過ぎ」

 

 「解ってるじゃねぇか……。」

 

 「もう一声。」

 

 「まだチビのくせに……」

 

 うん、やっぱ聞き間違いじゃなかったんだな。

 あはは……シメよう☆

 え? 心狭いって? 自覚はしてる、してるけど……これだけはダメだ。

 

 「剃」

 

 俺は一瞬で間合いを詰め、ウソップの背後を取った。

 

 「んなっ!?」

 

 背後を取り、そのまま首根っこを押さえ付ける。

 

 「チビ? それ俺のこと? うん、確かに大きくはないけどね。でもこれでも俺、一応海賊なんだ。お前もさっき自分を海賊って言ってたよな? じゃあ闘り合うか? 俺、村を襲う気は毛頭無いけどさ、そんなに闘いたいなら吝かじゃないよ? 海賊だもんな、海賊とは闘わないと。獲物でもあるしね。あ、でももうホールドしちゃってるか。さぁどうして欲しい? 言ってごらん、拷問フルコースでも即殺でも何でもいいよ? 海賊名乗ってるんだからね、命懸ける覚悟ぐらい出来てるでしょ? え、出来てない? 腰抜けが。海賊バカにしてるの?じゃあ後悔しろ。たっぷりじっくり後悔させてやるから、その悲哀の中で1人寂しく」

 

 「ユアン。それぐらいにしてやれ」

 

 いつの間にかナミとゾロを遠くに追いやっていたルフィが1人傍まで戻ってきていて、ウソップの首を押さえている俺の手を掴んでいた。何だろう、必死だ。

 ……正直、物足りない。言いたいことの1/10も言えてない。

 でも、ルフィが止めるんなら余程のことなんだろう……俺、やり過ぎた? いや、やり過ぎる所だった?

 いけない、落ち着かないと。そうだ、クールになるんだ俺。

 俺は数回深呼吸をしてウソップを離した。

 ウソップは尻餅をつき、その座ったままの姿勢で思いっきり後ずさっていった。

 

 「おま……おま……『1人寂しく』何なんだよ!?」

 

 え?

 

 「聞きたい?」

 

 俺がニッコリ笑顔で聞いてみたらウソップは……失神した。あれ? 何で?

 

 

 

 

 後でゾロとナミに聞いた所、ルフィは2人に『ユアンを絶対に本気で怒らせるな』と厳命したらしい。

 そして何故か、2人とも文句も言わず重々しく承知したんだとか。

 

 

 

 

 ウソップの目が覚めてから俺たちは場所をシロップ村のメシ屋に移し、事情を説明した。

 でもその間、ウソップは俺と目を合わせてくれなかった。ってか、あからさまに怯えられてる……うん、やり過ぎたかも。反省。

 

 「そうか、仲間と船を探してるのか」

 

 聞き終えたウソップは、話の内容を簡潔に纏めた。

 

 「この村で船を手に入れられるとしたら、あそこしか無ェな」

 

 「おばさん、肉!」

 

 「聞けよ!」

 

 話の途中で肉のお代わりを要求したルフィに、ウソップがツッコんだ。

 

 「……この村には場違いな豪邸が1軒あってよ。そこの主なら持ってるはずだ」

 

 「おれには酒をくれ」

 

 「だから聞けって!」

 

 今度はゾロが酒の追加を頼み、ウソップは再びツッコむ。

 

 「……まぁ、主っつっても、病気で寝たきりの女の子なんだがな」

 

 「あ、俺も酒切れた」

 

 「上物を頼む!」

 

 ウソップは三度ツッコみ……しなかった。あれ? 俺だけ扱い違くない?

 俺に進呈されたのは、明らかにこの店で1番高そうな酒。

 

 「俺、今持ち合わせが無いんだけど……」

 

 こんな良い物飲むつもり無かったから、持ってきた現金じゃ足りなさそうだ。

 

 「ハイ、オゴリマス!」

 

 ……どうしてこうなった? 俺とウソップの関係。何か敬礼されてるし。けど、その敬礼は敬意から来るものじゃないだろう。小刻みに震えてるよ、オイ。

 まぁとにかく。

 ウソップの話によれば、お屋敷の女の子は1年前に両親を亡くし、今はたった1人で莫大な遺産と多くの使用人に囲まれてくらしているらしい。

 

 「金があって贅沢できても、それが幸せとは限らねぇよな」

 

 そうぼやきながら天を仰ぐウソップを見詰めていたナミが、軽く息を吐いた。

 

 「やめましょ。この村で船を手に入れるのは諦めて……別の町や村を当たればいいわ」

 

 そうだな、と真っ先に賛成したのはルフィだった。

 

 「別に急いじゃいねぇし。ユアン、また食い物買い込んでおいてくれよ! 特に肉!」

 

 やっぱりか。

 

 「はいはい」

 

 元よりそのつもりだ。肉魔人がいるからね。酒も買い込む気だけど。

 船長が決定を下したことで、ゾロも反論はしなかった。本当に、そういう所は律儀だよね。

 

 「それよりお前ら……仲間も探してるって言ってたな?」

 

 ウソップは不敵に笑うとグッと自分を親指で指した。

 

 「おれが船長キャプテンになってやってもいいぜ?」

 

 「「「「ごめんなさい」」」」

 

 「即答かよ!」

 

 だって……ねぇ?

 

 

 

 

 取り敢えず、ウソップはツッコミスキルがガイモン以上だ、ということを覚えておこうと思える出会いだった。




 そして出来あがる、ウソップとユアンの(精神的)上下関係。始まりは恐怖から(笑)。
 
 でもウソップは幸運です。途中でルフィが止めたので、聞かされたのは脅迫部分だけです。心を抉る毒舌はあまり受けませんでした。怒れるユアンという名のネガティブホロウは本来のモノと違い、根がネガティブな人間にほどよく効きますから。きっとそこまで行ってたら立ち直れなかったでしょう(笑)。

 以前書いた過去編において、本気で怒ったルミナを止められるのは師匠たちだけ、と書きました。それと同じように、本気で怒ったユアンを止められるのは兄ちゃんたちだけです。実際、ダダンに対して切れた時も、エースが止めてましたし。ただこの場合、ユアンの怒りの矛先が兄ちゃん本人に向かっていたら効果が発揮されません。

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