さて、どうなるだろう。
原作では3発目のバギー玉は、モージがルフィに負けたことを知って激昂したバギーが撃ったものだったはず。
でも今回、モージはすぐそこで伸びているから、バギーがヤツの敗北を知ることはない。となるとバギー玉はもう飛んでこないんだろうか。
いや、それならそれで結構なことなんだけどね。町が破壊されずに済むし。
なら、こっちから仕掛けた方がいいかな?
「もう我慢ならん!!」
……あ、これがあった。ブードルさんの大演説が。
「わしは町長じゃ! この町が潰されるのをただ見ているわけにはいかん! 男には! 引いてはならん時がある! そうじゃろ、小童ども!!」
女であっても引いちゃいけない時はあると思うよ……って、今はふざけてる場合じゃないか。
「ああ、ある!」
ルフィがニヤリと笑って答えると、ブードルさんはこの町の歴史を語り出した。
かつて海賊によって1度は消え、今のこの町の年寄りが少しずつ少しずつ作っていった。その期間、実に40年。
40年か……長いよな。大海賊時代が始まるよりも前じゃん。
立派な町だよね。フーシャ村とは比べ物にならない。
……やっぱりバギー玉が撃たれなくて良かったんだよ。
「まぁ否定はしないけど、ここは俺らに任せてよ。こっちにはこっちの目的もあるんだ、利用できる者は利用してしまえばいい。ルフィ。グランドラインの海図はどこにあるんだ?」
予想は出来るけど、一応聞いてみる。
「知らん!」
…………驚いた。まさかそんなにドきっぱり断言されるなんて。思いっきり胸を張りやがってこのヤロウ。
「海図は、バギーが持ってると思うわよ」
かわりに答えてくれたのはナミだった。
「赤っ鼻が?」
聞き返すと、ナミとブードルさんが引いた。え? 何で?
「どこで聞いたか知らないけど、それは禁句よ! アイツの鼻のことはツッコんじゃいけないの!」
あぁ、そういうことか。
でもなー、俺は日記を読み始めた13年も前からアイツを『赤鼻』として認識してきてるからなー。
しかも、だ。
「そうなんだ! アイツ、デカっ鼻の赤っ鼻なんだ!」
船長がこうなんだから、俺がアイツを赤っ鼻って呼んでも問題ナシ!
アイツはおれがぶっ飛ばす、とルフィは闘志を燃やしている。
「ゾロはどうする? 結構深手だったから置いてってもいいけど、もし敵の中に剣士がいたら、別の意味で恨まれそうだ」
世界一の剣豪を目指してるぐらいだ。剣での戦いは逃したくないだろう。
「誰を置いて行くって?」
「ゾロ? 寝てなかったのか?」
目を擦りながら、ゾロがブードルさんの家から出て来た。
「騒がしいんだよ。起きちまった」
そっか、家の真ん前でVSリッチーをやったからな。
でも、マジで眠そうだ……あ、そういえば。
「薬の副作用か……痛み止めの方の」
鎮痛剤の副作用に眠気……メジャーだな。貧血気味なせいでもあるのかもしれないけど。
「戦り合うならおれも行くぞ……やられっ放しでいられるか」
デスヨネー。ゾロだもんな。
「あんまり動きすぎないように気を付けなよ? 傷は塞がったわけじゃないんだ」
聞いているのかいないのか、ゾロはいつもの黒手拭いを頭に巻いて既に臨戦態勢だ。
となると後は。
「君は? そういえば、名前もまだ聞いてないな」
俺は今度はナミに顔を向けた。
好きなものと嫌いなものは聞いたけど、名前はまだ聞いてないよね。
「あ、お前! おれたちの仲間になれよ、海図や宝がいるんだろ?」
ルフィがナミに片手を差し出した。
「私は海賊の仲間になんてならないわ……手を組みましょう。互いの目的のためにね」
パンと軽いハイタッチをルフィと交わし、ナミは俺を見た。
「私はナミ。海賊専門の泥棒よ。あんた、良いこと言うわね。確かに、利用できるなら利用するに限るわ」
強かだな。
「俺はユアン。職業は海賊で……さっきも言ったっけ? 一応、コレの副船長やってるよ」
コレ、のところでルフィの脇腹を小突いたら、ナミは怪訝そうな顔をした。
「副船長? 船医じゃないの?」
多分、迷うことなくゾロの治療に当たったからだろう。そう思われても仕方がないか。でも、違う。
「副船長だよ、俺は……ただ、副船長兼音楽家代理兼コック代理兼船医代理なだけで」
「あんたどんだけ背負ってんのよ!」
ナミはビシィッとツッコんだ。切れがいいな。コビーにも負けてないぞ!
でも……ふ、と俺は溜息が零れるのを抑えられない。
「まだマシになったんだ……さっきまでは、航海士代理も付いてたからね」
……海賊大嫌いなはずのナミの目に強い同情の色が見えるのって何か微妙な気分だ。やっぱり俺、働き過ぎなんだな。
「さっさと行くぞ!」
拳の骨を鳴らしながら、ルフィは戦る気満々だ。
「あ、ちょっと待ってくれ」
俺はリッチーとモージを持ち運び便利な大きさにまで小さくした……ら、ナミとブードルさんが目を丸くした。
「な、何したの!?」
そういや言ってなかったな。
「俺はミニミニの実を食べた縮小人間なんだ。ちなみに、ルフィはゴムゴムの実を食べたゴム人間」
うにょーん、と隣に立ってるルフィの頬を引っ張ってみせた。
「あんたたち、悪魔の実の能力者なの!? バギーと同じ!?」
……赤っ鼻と同じって、何か嫌な響きだな、ソレ。
俺のそんな感情が顔に出てしまったらしい。ちょっと引かれた。悲しい。
まぁいい。
俺は1匹と1人をズボンのポケットに押し込め、小さくして持ってきていたコートをフードまでスッポリ被る。大きいヤツ買っといてよかった、フードを目深に被れば顔が隠れるや。
「暑くないのか、それ?」
キョトンとした顔でルフィが聞いてきた。
「暑いに決まってるだろ」
ここは冬島じゃないんだから! 俺だって、目的が無きゃこんなの着ない。
ハァ、と小さく溜息を吐いた。
「色々事情があるんだよ……」
バギーがまだ母さんに未練があるなら、上手く乗せれば利用できるかもしれないとは思った。でもそれはあくまでもインペルダウン・マリンフォードでの話であって、今は徒に話をややこしくするだけだと思うんだよね。出来れば隠したい、この顔。
この件に関して、それ以上突っ込んで聞いてくるヤツはいなかった。
ブードルさんは、それでもやっぱりくっ付いて来た。余所者の俺たちだけを行かせるわけにはいかないと言われたら、あまり強く反対出来ない。
そして今。俺たちは例の酒場の前にいる。
宣戦布告も兼ねて、俺はまだミニサイズのままのリッチー&モージを放り投げた。
「解除」
丁度酒場の屋上にまで飛んでいった辺りで元の大きさに戻す。
バギー一味にしてみれば、ボロボロになったコンビが急に降ってきたように感じただろう。
喧騒が俺たちのところにまで届き、ルフィが大きく息を吸い込んだ。
「デカっ鼻ァ!!!!」
まるで町中に響き渡りそうな大音量だ。
「誰がデカっ鼻だコラァ!!」
顔を出すよりも先にすぐさま返ってくる声……最早これって条件反射じゃないか?
「お前をぶっ飛ばしに来たぞー!」
ルフィの宣言に、バギーの顔がやっと出て来た。
………………うん、俺この顔で良かった! あの鼻よりはマシ! 実物を見て心底思う!!
俺がフードの奥で安堵の溜息を吐いてると、ナミが指を突き付けてきた。
「いーい? 私が欲しいのはあくまでも海図と宝! 戦うのはあんたたちの勝手なんだからね!」
うん、解ってる……でもこの戦い、俺の出番ってあるのかな いっそナミと一緒になって略奪にでも動いた方が有益なんじゃなかろうか?
「よくもまぁノコノコと戻って来やがったなぁ、貴様ら!」
バギーは怒り心頭らしい。まぁ、そりゃそうか。
「ぶっ飛ばすって言っただろうが! 赤っ鼻ァ!!」
ルフィの返しに……バギーが切れた。ブチッと。
「ハデに撃てぇ! 特性バギー玉ァ!!」
大砲に砲弾は装填済みだったのか、すぐさま砲弾が飛んで来る。一瞬その姿形が見えた……何てダサいデザインなんだ!
「ゴムゴムの……風船っ!」
息を吸い込み大きく膨張したルフィに弾かれ、ダサい砲弾は逆に酒場の方へと返っていった。
ドォォォォン、と着弾・破裂し酒場は吹っ飛ぶ。
「頭数は減ったな」
感じる気配そのものは減ってないから、死んではいないだろう。けれど、変わらず健在そうな気配は2つだけ。バギーとカバジだな。
予想通り、巻き上がっていた砂埃の中から現れたのは、部下を盾にしたバギーとリッチーを盾にしたカバジ。
「旗揚げ以来最大の屈辱ですね、船長……ここは私にお任せを」
リッチーを放り投げ、一輪車に乗ったカバジが剣を片手に突っ込んで来た。
「私はバギー一味参謀長、『曲芸』のカバジ! 覚悟しろ!」
剣をまっすぐルフィに突き立てようとした……が。
「剣士の相手はおれがする」
間にゾロが割って入り、その切っ先を受け止めた。
ちゃんと傷を縫っておいたのが効いたのか、傷口から新たな出血が溢れるなどということは無かった。けど、だからって傷が塞がってるわけでもないんだ、やるならさっさとケリをつけて貰いたい。
………………って、ゾロさん? もう刀3本抜いてるの? え? 流石に早すぎない?
「曲芸・火事おやじ!」
「チッ!」
カバジが火を吹いたため、ゾロは後ろに飛び退いてそれを避け……すぐに体勢を立て直して構えた。
「鬼……」
え、もう!? 俺まだ火事おやじしか曲技見てないよ!? いやいいんだけど! ゾロの怪我を思えばその方がいいんだけど! でもどこで原作変わった!?
「斬り!!」
「ぐはぁっ!」
ゾロの三刀流の前に、カバジは一太刀にて斬り伏せられた……って、展開すごく早いね!?
「おれは剣士と名の付くヤツに負けるわけにはいかねぇし……もう、変な余裕をかますわけにもいかねぇんだよ」
え~と、それってつまり、バギーの能力を知りながらも油断して傷を負わせられたことにプライドが傷付けられた、と……そう解釈していいかな?
「我々……バギー一味が……コソドロなんかに……!」
カバジが悔しそうな、苦しそうな息の下で吐き捨てる中、ゾロは手拭いを取った。
「コソドロじゃねぇ……海賊だ! ……悪ィが、おれは寝るぞ……眠ィ」
貧血な上に薬が効いているんだろう、ゾロはフラフラと近くの民家の軒下まで行くとまた眠り始めた。
「ルフィ。俺、一応ゾロの傷の様子を診てくるぞ」
俺に活躍の場は無いだろうし、それならその方がいいだろう。やっぱこの場での略奪はナミに任せてさ。
「私はお宝を探すわ。海図はバギーが持ってるはずだから、あんたたちがソレを手に入れられたら、また手を組みましょ?」
俺の考えてることが伝わったのか、と思うようなナイスタイミングで、ナミは堂々と窃盗宣言をした。
「あぁ……アイツはおれがやる」
腕を回すルフィの視線の先には、バギーがいる。
ナミは裏道を通りながら今はもう崩れてしまった酒場、その裏手に当たる場所にある小屋を目指し、俺は顔を見られないように注意しながらゾロの所へと向かったのだった。