麦わらの副船長   作:深山 雅

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第32話 ROMANCE DAWN

 そして、やってきました船出の時!

 

 「ダダン、今までお世話になりました?」

 

 挨拶は大事だと思って俺はきっちり頭を下げた。

 

 「何で疑問系なんだい?」

 

 苦虫を噛み潰したかのような表情のダダン。だって……ねぇ?

 

 「実際にお世話してくれたのって、エースだし」

 

 ありがとう、エース。我が育ての親!

 ダダンは面白く無さそうだけど……俺知ってるからね!? そもそも、あんたがエースに俺を丸投げした張本人だって、知ってるからね!? まぁ……ダダンも、祖父ちゃんに俺を押し付けられた被害者なのは同じだけど。

 勿論、その祖父ちゃんには黙っての船出だ。当然ながら。

 ……W7、ヤだなぁ。祖父ちゃん襲来のときは、きっちり逃げよう、そうしよう。いざとなったらルフィを囮……いやいや、エサ……じゃない、生贄……じゃなくて、尊き犠牲としてでも!

 

 「ダダン! おれ、山賊嫌いだけどよ!」

 

 俺の隣ではルフィが満面の笑みである。あー、お前またダダンのダムを決壊させる気か?

 

 「お前らは好きだ!」

 

 ブワッと涙が溢れ出すダダン……よし、追撃しよう。

 

 「俺も好きだよ?」

 

 ダダンは完全にあらぬ方を向いて号泣しだした。

 

 「テメェらさっさと行っちまえ! チキショー!!」

 

 うん、いってきます。

 

 

 

 

 コルボ山付近から出航したエースと違い、俺たちはフーシャ村の港からの出航だ!

 ……でも、ルフィが『いってらっしゃ~い』と村人たちの激励を受けてる裏で、俺は『誰だアイツ?』的な目で見られてた。

 うん、寂しい!

 あぁそうだよ、どうせ俺がフーシャ村に居たのなんか生後数ヶ月だよ! 以来ずっとコルボ山だよ! どうせ忘れられてるよね! 予想してた!

 

 「ユアン、身体に気を付けてね?」

 

 マキノさん……!なんてお優しい……!!

 不覚にも涙が出そうだった。

 

 「サボが1番、エースが2番。おれたちは3番目だけど、負けねぇぞ!」

 

 おれ『たち』って言ってくれるルフィも優しいねぇ、しみじみ。

 ってカッコいいこと言ってるけど、船を出すのは俺なんだねルフィ? だってお前航海術ちっとも覚えてくれなかったもんね?

 フーシャ村の人々の声をBGMに、俺たちは港から出航した。

 

 

 

 

 

 「ユアンはさー、副船長にしてやるよ!」

 

 出航してすぐ、ルフィは無邪気な笑顔で上から目線にそう言った。

 ……本当に、目線が上からなんだよ。俺ってば、結局ルフィよりチビのままなんだよね……ってか、むしろ差は開いていくし。今の俺、せいぜい160cmぐらいだよ。そう、多分ナミより低いよ! って、人獣型のチョッパーを除けば一味で1番チビってことか!?

 何故だ!? 飲酒か!? 酒が成長を阻害したのか!?それとも何か遺伝的要因でもあるのか!? 或いはミニミニの能力の影響か!? 2mや3mのヤツがうじゃうじゃいる世界でこの身長は……うぅ、悲しい!

 いや、俺はまだ16歳。きっとこれから成長期なんだ! うん、希望を持て! 大丈夫だ、毎日牛乳飲んでるし!

 よし、ちょっと浮上した。ルフィにも受け答えできそうだ。

 

 「俺は1クルーでいいんだけど? 何で役職持ち? しかも副船長。」

 

 むしろゾロの方が向いてると思う。シメるときはきっちりシメるし。

 

 「お前が後ろにいると思うと、何か安心するんだ!」

 

 それってつまり……俺にお前のフォローをしろってことか?

 しょうがないか、どうせルフィは1度言い出したら聞かないんだ。でも、ちょっと苦笑してしまう。

 

 「2人しかいない海賊団に船長と副船長だけいてもどうしようもないんじゃないか?」

 

 うん、想像してみたけどすっごく空しい海賊団だね。

 俺は苦笑してそう返した。でもルフィはまた笑う。

 

 「いいんだよ、仲間はこれから集めるんだ! そうだなー、まずは音楽家だ!」 

 

 あ、やっぱソレなのね? うわ、コイツ1人に出来ない! 絶対遭難する! 

 

 「音楽家は後にしようよ、ルフィ。まずは航海士とコックと船医を探すべきだ」

 

 俺の意見は、至極まっとうで常識的だと思う。……ってか、本来ならむしろ船を早く手に入れるべきだよな。メリー号との出会いまで小船での旅か……ハァ。

 でも、俺の気持ちはルフィには届いていないらしい。

 

 「バカ言え、海賊は歌うんだぞ!」

 

 どーん、という効果音がつきそうな勢いで胸を張るルフィ。

 ……バカはお前だ。でも、ルフィがこういうヤツだってのは解ってた。

 そして、常識的な人間では海賊の頂点になんて駆け上がれないだろうってことも。だからルフィは、それでいいんだ。何と言うか……愛すべきおバカのままでいて欲しい。

 

 「前にゴミ山で拾ったハーモニカを練習しといたから、暫くはそれで我慢してよ」

 

 そう、俺頑張った。修行の合間を縫って練習した。『ビンクスの酒』は一応吹けるようになったよ! 何でハーモニカなのかって? 楽器なんて他に見つからなかったんだよ!

 ルフィは渋々引き下がってくれた。ってか、これでまだ駄々をこねたりしたら怒る。

 

 「まぁ、何にせよまずは仲間集めだ。10人は欲しいな」

 

 気持ちを切り替えたらしい。

 でも……ゾロ、ナミ、ウソップ、サンジ、チョッパー、ロビン、フランキー、ブルック。俺というイレギュラーとビビ&カルーを除けば、判明してるだけで9人。ジンベエは一旦断った……ってか、保留だし。10人目の仲間って出るのかな?

 

 「ユアン! 折角なんだから吹いてくれよ、ハーモニア!」

 

 「ハーモニカだ、ルフィ。」

 

 俺は苦笑した。でもまぁ悪くない、折角の船出だ。とはいえ、俺のレパートリーは『ビンクスの酒』だけなんだけど。

 

 「ヨホホホ~♪ ヨホホホ~♪」

 

 俺は吹いてて歌えないから、歌ってるのはルフィだけだ。

 いいねぇ、ルフィがいるといつでもどこでも賑やかだ。

 

 「帆に旗に蹴立てるはドクロ~♪」

 

 ……この船、まだドクロ無いけどね? ジョリー・ロジャー掲げてないけどね? でもそれって海賊船としてどうよ? あ、でもすぐにこの船は沈むんだし、どーでもいっか。

 とか考えてたら、突如海中に魚影が見えた。随分と巨大だ。あぁ、あれが。

 すぐに、1匹の海獣が現れた……ちょっと疑問に思ったんだけど、これって海王類なのかな? どっち?

 

 「出たな、近海の主!」

 

 嬉しそうだね、ルフィ……そんな好戦的な笑みを浮かべちゃって。

 

 「手伝おうか?」

 

 一応聞いておく。まぁ、答えは解りきってるけど。

 

 「いらねぇよ。……相手が悪かったな。10年鍛えた俺の技を見ろ!」

 

 ニヤリ、と挑発的な笑みを浮かべるルフィ。それを察したわけじゃないだろけど近海の主は興奮しながら向かってくる。でもまぁ、確かに相手が悪い。ルフィの技の威力は、多分俺が1番よく知ってる。

 そう、この対決そのものは心配してないんだけど……。

 俺にはちょっと頭に引っ掛かることがあった。

 

 「行くぞ! ゴムゴムの~~~~!」

 

 ブンブンと腕を振り回すルフィ。

 

 「銃!!」

 

 見事にクリーンヒットした拳は、一撃で近海の主と呼ばれる存在を沈めた。ザパァン、と大きな水しぶきが立った。

 この船がメリー号やサニー号なら、アレを回収して食料にするのにな。

 

 「思い知ったか、魚め!」

 

 あ、アイツって魚の括りなんだ?

 でも。

 

 「まだまだ……だなぁ」

 

 俺は極々小さな声でポツリと呟いた。

 ヤツをあっさり撃退した、それだけ見れば充分強いだろう。けれど、海賊王を目指すなら……全然足りない。

 ヤツが『向かってきた』、その時点でまだまだと言える。何しろ、どっかの誰かは一睨みで追っ払ってたもんね……ってか、アレも覇王色の覇気だったのか?

 けど、何も水をさす必要は無い。旅は……伝説は始まったばかりなんだ。これからまた上に登ればいいだけのこと。

 

 「よっしゃ、行くぞ! 海賊王に! おれはなる!!」

 

 で、俺はそのサポート役か。サポートというと聞こえはいいけど、相手がルフィだからね。むしろ、お守り役? まさか副船長に任命されるとは……いや、前向きに考えよう。レイリーポジだと思えば……うん、嬉しい! いいよね、レイリー! 渋いし強いし、ナイスミドルだよ!

目指せレイリー!

 

 

 

 

 最終目標は頂上戦争だけど、序盤はそこまで関わること無いからなぁ……そうだな、とりあえず活動資金を集めようか。

 だって俺、別にそれほど宝に興味は無いけどさ。でも流石にヤだよ、貧乏航海は。必要最低限の先立つ物は欲しい。

 でも民間からの略奪は論外だし……宝の地図とかも無いし。となると残るは……何だ、カモはいっぱいいるじゃんか。

 ニヤリ、と意地の悪い笑みが浮かんだのが自分でも解った。

 

 「ユアン? どうした?」

 

 「ん~? 何でもない」

 

 ルフィにもちょっと気付かれたみたいだけど、まぁいい。別に悪行を企んでるわけじゃないし……いや、企んでるのか?

 ただちょ~~~~~~っと、出くわす海賊の皆さんから搾り取ってやろうと思ってるだけなんだけどねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かくして、ルフィと俺の冒険は始まったわけで……うん、実際にこうなってみると、なんとも言えない高揚感があるね。そうだな、ルフィの旅立ちなんだ。始まりの言葉はコレがいいだろうか。

 

 

 

 

 ROMANCE DAWN!! ……なんて、ね?




 やっと終わりました、幼少期編が。
 さて、次回からようやく本当の『麦わらの副船長』として冒険が始まるわけですね。つまりは、言ってみればこの幼少期編は序章というわけで……なんて長い序章なんでしょう。

 途中、ハーモニカが出てきましたが、ユアンが頑張ったのはそれだけじゃありません。色々不安だったので、航海術と医術も基本は身に付けました。ルフィの暢気さが、傍から見てるユアンに逆に危機感を与えたようです。ちなみに、放っておくと肉しか食べないルフィ(+エース)の栄養管理のために、簡単な料理も作れるようになってます……器用貧乏な子です。でも、修行の合い間に時間を捻出して涙ぐましい努力をしたんですよ。


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