光陰矢のごとし、とはよく言ったものだ。
サボが旅立って早数年。俺は9歳になっていた。ちなみに、エース13歳、ルフィ10歳である。
そんなある日、由々しき事態が発生した。
「そんな……バカな……!」
俺は地に倒れ伏しながら呆然と呟いた。
「しっかりしろ、ユアン! 傷は浅いぞ!」
エース……ありがとう……励ましてくれて…………でも……。
「ゴメン……俺、もうダメだ……」
あまりの衝撃に、俺は立ち上がることも出来ないでいる。俺の弱弱しい言葉に、エースはガバッと俺を抱き起こした。
「何言ってんだ! 今までずっと頑張ってきたじゃねぇか!! こんな……こんなところで諦める気か!?」
そうだ、頑張ってきた……去年からは、六式の修行も始めた。
未だに1つも完成してないけどね!
いや、今はそれよりも大変なことになってるんだ。
俺は自嘲した。
「それでも……ダメなんだ。俺は……油断していた……。」
戦闘において油断をした者は負ける。解ってたはずなのに。
「あんなの、マグレじゃねぇか! 実戦で役立ちゃしねぇ! 気をしっかり持て!!」
マグレ。そう、確かにマグレだった。だからこそ堪えている……精神的に。
「エース……エースは油断しないでくれよ……。じゃないと、こんな風になっちゃうよ?」
「ユアン……!」
涙を湛えながら懇願する俺に、エースは言葉を詰らせた。
そして、そんな俺らを睨みつけながら。
「お前ら、しっけいだぞ!!」
と、怒りも露にルフィが怒鳴ったのだった。
いや、何かすっごい大事件でも起こったかのような状況だけどね。実際には、まぁ、うん。
コトの原因は俺たちの日課にある。あの1日100戦に(サボがいなくなって150戦から減った)。
今日の戦績を発表しよう。
①エース対ルフィ……50対0
②エース対俺……50対0
ここまではいつも通りだ。いつもと違ったのは……。
③ルフィ対俺……1対49
……そうだよ、俺ルフィに負けちゃったんだよ、遂に!!
しかも、その敗因が悲しい。
ルフィはいつも通り、制御できてないゴムゴムの技を使った。けれどさっき……俺は『ゴムゴムの
制御出来るようになったわけじゃないよ。下手な鉄砲も数打ちゃ当たるってヤツだ。んで、油断してた俺は、モロにクリーンヒットして……。
うん、1番の敗因が自分の油断だってのが悲しすぎる!!
それにしても、まだゴムの制御こそ出来てないけどルフィは強くなった。俺も2年のアドバンテージに胡坐を掻くわけにはいかない!
俺は1つの決心をしたのだった。
翌日。俺はある願いを口にした。
「エース、ルフィ、頼みがあるんだ!」
俺がいつになく真剣な顔をした俺に、2人も神妙な様子になる。俺は2人を見上げながら言葉を続ける。
「俺を……殴ってくれ!」
「………………………………え?」
エースが固まった。何故だ?
反対にルフィの反応は素直だった。
「いいのか?」
きょとんとした顔で拳を振り上げるルフィ。俺は慌てて止めた。
「待った待った! まだだよ、ちゃんと俺がコレ付けてから!」
俺は手に持っていた目隠しをルフィに突きつけた。
「ユアン!」
エースが焦ったような顔で俺の肩を掴んだ。
「早まるな! お前、何だってそんな……!」
……なんでそんなに慌ててるんだ?
エースの慌てっぷりに疑問を覚えた俺は、ちょっと考えてみた。考えてみて……ハタと気付いた。
今の俺の行動を客観的に見ると……!
目隠し片手に上目遣いで『殴ってくれ』……!
………………うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
「違う! 違うんだエース! 俺はただ修行がしたくて……!」
気付くと恥ずかしい、恥ずかしすぎる!! もうちょっと別の頼み方があっただろ俺!? せめてその理由ぐらい話すべきだった!
「? 2人ともどうしたんだ?」
意味が解ってないらしいルフィ…………純粋!
ルフィと同じく意味が解らない方は、どうかそのままでいて下さい、マジで。
俺がこんなことを言い出したのは、勿論、妙な道に目覚めたからではない。
覇気の修行がしたかったんだ。
昨日の敗北は、俺にかなりの精神的ダメージを与えた。
で、決心した。
もっと強くなりたい、と。
とはいえ六式の修行は既に始めてるし、基礎トレーニングも欠かしてない。
そうすると後は……と考え、思い浮かんだのが覇気だった。
そして武装色・見聞色・覇王色の3つの内、何とかなるかもしれないと思ったのが見聞色だった。
何か、アニメであった気がするんだよね。レイリーが後ろから殴ろうとするのをルフィがヒョイヒョイと避けてるシーン。うろ覚えなんだけど。
見聞色の覇気ってつまり、『気配』を読むことだろ? だったら、見えないところから攻撃されるのをかわせるようになれればいいかと……。
我流なんだけど、やらないよりはいいかと思ってさ。
後2つは……ねぇ?
武装色の覇気は『気合』……どないせいっちゅーねん!
いつも気合入れて修行してるよ! 引き出し方が全然解らん!!
でも万一、仮に、奇跡的に引き出せたとしたら……確認は簡単だよね。
ルフィを殴ればいい。ゴムに打撃が効けば、それは覇気が使えてるってことだろう。実際、『愛ある拳を防ぐ術なし』とか言ってる祖父ちゃんも、多分ソレ使ってるんだろうし。
覇王色の覇気はもっと解らん。『威圧』っていうけど……そもそも、持ってるかどうかってのが分かれ道だからねぇ。
武装色と見聞色は、多分誰でも持ってる。操れるかどうかって話であって。
でも覇王色は、数百万人に1人しか持ってない覇気だ。俺にあるのか、そんな大層なモンが。
原作でソレを持ってた人を思い浮かべてみる。ルフィ、エース、レイリー、シャンクス。持ってると言われてたのがハンコック、白ひげ……うん、無理! そんな超豪華なメンバーに混じれません!
俺のような凡人には荷が重い! 俺なんて、せいぜい裏でこそこそ画策する似非策略家だもん! 絶対無い!!
よって、覇王色は最初から考えてないと言っても過言じゃない。
俺が覇気の話をしても、2人は信じてくれなかった。
「本当にやる気かよ、そんなの」
事情を聞いて、信じてはいないけど納得はしてくれたエースは呆れ顔だ。
「そんなことできるのか?」
普段は素直の代名詞のようなルフィですら半信半疑だ。
無理ないか。俺だって、知らなきゃ与太話だと思ってたはずだ。
だが……。
「覇気の修行において最も大事なのは、疑わないこと」
レイリーのセリフ、パクってみました。
俺は2人に背を向けて座り、目隠しをした。2人の戸惑った空気が伝わってくる。
「信じる者は救われる……さぁ、来い!!」
出来るだけ前向きな気持ちで臨んだ……が。
「じゃあ……いくぞ」
エースの言葉と共に飛んできた拳が頭に直撃し、俺は悶絶した。
「~~~~~~~~~~!!」
と、戸惑ってるくせに本気で殴ってきた……!
いや、いいんだけど! 本気でないと意味無いんだけど!
頑張れ、俺! きっとこの先には光がある! 努力は人を裏切らないんだ!
「ゴムゴムの~~~~~銃!」
え、ルフィはこんな状況でもそれ?
……結果、拳は地面に落下したらしく、俺に届かなかった……ドンマイ。
と、思ってたらエースの拳が再び頭に落ちてきた。
「うっく!!」
痛い痛い、マジで痛い!
「ユアン……諦めろよ……」
エースが真実俺を気遣って忠告してくれてるのは解るけど、俺は首を横に振る。エースの溜息が聞こえた。
うぅ……ちょっと心が折れそうだ。
「ゴムゴムの~~~~~バズーカ!!」
一方でルフィの腕は、またしても地面に落ちたらしい。
いや……別に、技とか使わなくていいからさ……。
結局この日、ルフィは俺に一発も入れてくれなかった。
俺は……諦めない! いつの日か必ず、覇気をモノにしてみせる!!
「そらっ!」
「いだぁっ!!」
それまでに何百発殴られることになるかは、解んないけどね。
ユアン、見聞色の覇気を狙ってます。
今回のユアンの覇気に対する考えの中には1つ、矛盾点があります。先入観とでも言えばいいのか、本人は自覚してませんけれど。それに関しても、いずれある人に指摘してもらいます。