麦わらの副船長   作:深山 雅

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第17話 計画の穴

 エースによるルフィ襲撃は、そのさらに翌日だった。流石エース、行動が早い。

 

 例によって、グレイターミナルへと向かう俺たちをルフィが追い、1度撒いてからエースは1人、ルフィを待ち構えた……うん、襲う気満々だね?

 俺? 俺は先に行ってろって言われたけど、やっぱり不安だったからこっそり木の上から2人を観察してます。ちなみに、万一の時のために武器を持ってる。1/50サイズに小さくした石をいくつか。元のサイズに戻せば1mぐらいあるだろう。実は昨日、エースが1人闘志を燃やしてる間にこれらを準備しときました。

 現在はせいぜい2cm程度の小石だから、簡単に投げられるし狙いを定めるのも簡単だ。でも、投げた後で元のサイズに戻したりしたらどうなるか。

 考えてみて欲しい。1mを超える石が頭上から降り注いでくるんだ、それも正確に対象を狙って……恐怖しかないね! ゴム人間には平気だろうけどな!

 万が一の場合……例えば、エースが予想以上にやりすぎたりした場合なんかは、これを投げて牽制しようと思ってる。これなら流石にビビるだろうし。

 ちなみに今、ここにいるのは俺だけじゃなくて……。

 

 「やっぱりやる気だな、エースは」

 

 うん、何でサボここにいるの?

 いつもならゴミ山にいるサボが、今日は俺たちを待ち構えていたんだよね。理由は……見学。

 動機は簡単、『なんか面白そうだから』。……ハァ。

 確かに、これが自然発生した衝突なら、俺も内心ではちょっと楽しんでたかもしれない。でもこれは、俺が故意に仕組んだことであって……。

 ルフィにうっかりと見せかけて実はワザと能力を教えたのも、秘密にするって約束を交わさせたのも、エースがルフィを問い質す(?)ように言葉を選んだのも、全部俺の策略で……うぁ、良心が痛い。

 ルフィ、襲わせてゴメン。エース、こっそり唆してゴメン。

 

 

 

 

 「エース、どうした?」

 

 ルフィ、嬉しそうだな……うん、エースが自分からルフィに接触しようとするの、初めてだもんな。

 

 「お前、ユアンに何聞いた?」

 

 エース、直球ド真ん中!

 やっぱりね。エースなら真正面から聞きに行くと思ったよ。

 ルフィには、誘導尋問が有効だろう。けど、元々直情的な上にカッとなってるエースならそんなこと考えないだろうって。でも、そんな風に言われたらさ……。

 

 「し、知らねぇ! 何も聞いてねぇぞ!」

 

 目は泳ぎ、口元は引き攣らせながら答えるルフィ。うん。

 

 「「ウソ下手っ!」」

 

 思わずハモって、顔を見合わせる俺とサボ。

 もう本当にウソ下手だな、ルフィ! それでその言葉を信じるヤツがいたらお目に掛かってみたいよ。ここまでウソが下手だと思ってなかったんだろう、エースもすっごいビミョーな表情だ。

 

 「…………ウソ吐くな!」

 

 「ウソじゃねぇ!」

 

 いや明らかにウソだろ。顔に全部出てるって。

 その後、ウソ吐くな、ウソじゃないの問答が続くこと約10分……って長いわ!

 うん、エースにしては辛抱したよ、10分も同じこと言い合うって……。

 いい加減飽きてきた俺たちは木の上であっち向いてホイをしてた。新たな動きがあったのは、俺が3勝2敗したころだった。

 

 「いい加減にしろよ!」

 

 ゼェゼェと息の上がってきてるエース。おまけに、さらに頭に血が上って……ヒートアップしてるって感じ。

 

 「聞いてないもんは! 聞いてねぇ!」

 

 息が上がってるのはルフィも同じだ。それでも言わないルフィにいい加減エースは焦れてきたらしい。

 

 「……そうかよ」

 

 そう言い放ったエースにルフィはホッとした表情をしていた。納得してくれたと思ったんだろうけど……うん、エースの不穏な空気に気付こうよ!

 これはいよいよ目を離したらいけないか、と思い俺は2人に意識を戻した。

 

 「じゃあ吐かせてやる!」

 

 ルフィに掴みかかって押し倒し、馬乗りになるエース。あー、あれは頭打ったかな。

 

 「言えよ、じゃねぇと殺すぞ!」

 

 おいおい、そういうこと言っちゃう? ……そういえば、原作でも初めルフィが海賊貯金を見た時そんなこと言ってたっけ?まぁハッタリだろうけど。

 

 「いた……くねぇ! おれゴムだから!」

 

 あ、本当に頭打ってたんだ。

 ルフィに打撃は効かない。ゴムの能力が上手く使えてなくても、それは変わらない。そしてエースは刃物を待ってないはずだ。つまり、そこまで不安になるようなことは起きないはずなのに……何でだろう、胸騒ぎがするのは。

 ……多分、計画が上手く行き過ぎているからだろう。ここまで、俺の想像通りに物事が進んでいる。だから不安になるんだ、世の中に完璧な計画なんて無いはずだから。

 けど、結構なことじゃないか。上手くいけばそれに越したことはないし、これ以上妙なことを考えずにすむ。

 俺は頭を振って目の前の光景に集中した。

 

 「おれ! 本当になんにも聞いてねぇ!」

 

 ルフィの目には涙が溜まってる。

 当然だろう、ルフィにはエースの言葉がハッタリだということは解らない。俺は実年齢6歳でも前世の享年15から人生始まってるようなモンだからエースの睨みも可愛いものだけど、真実7歳のルフィには10歳のエースは怖く見えるだろう。大人になれば何てことのない3歳の年の差は、子どもにとってはとても大きい。

 それでも言わない。『約束』したから。

 

 「おま……!」

 

 ふと止まったエースのセリフが気になり、俺はその視線の先を辿り……そして、思い至った。俺が何を失念していたのか。

 それは、ここが山の中だということだ。

 聞く内容が内容なのだから、エースがダダンの家付近で行動を起こすはずない。かといって、信用してないのだからグレイターミナルにまで引き付けることもまずない。ならば必然的に、現場はこのコルボ山内になる。

 そんなのは予測できたことだし、実際そうなった。

 なのに俺は……こういった可能性に気付かなかった。

 山の中とは即ち、いつどんな獣が出ても可笑しくない場所ということだ。

 そして、エースはともかく、ルフィにはまだそれを退けるだけの力がない。そりゃそうだ、今のルフィはおそらく、俺より弱いのだから。

 

 「こんな時に……」

 

 内心で打った舌打ちは、この状況に対するものなのか、それとも詰めの甘い俺自身へ向けたものだったのか。

 エースの視線の先にいる狼……普段は谷の下にいる人食い狼は、明らかに捕食者の目でルフィたちを見ていた。


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