エースと別れました。正直に言えばちょっと寂しいぜこの野郎。
けれど、そんな感傷に浸ることを許さないのがこの国の情勢であり、クロコダイルの企みであり、俺たちが置かれた現状だ。
目的地・ユバまでは本当に後もう少しらしい。ラストスパートだ頑張ろう……と、思ってたら。
「ウオォォォォォォォォォォ!!」
何だろう、ルフィが突然暴れ出した。
「あいつ、また変なサボテンでも食ったか?」
杖に縋り付きながら嘆息するウソップの発言に、俺は漸く思い出した。
そういえばありましたね、そんなこと。
「ユアン、何とかしてよ」
マツゲの上からナミに言われたけれど、俺は肩を竦めた。
「流石に錯乱状態で幻覚まで見てるヤツを止めようと思ったら、実力行使になるだろうからなァ。面倒くさ……じゃなくて、時間かかると思うよ」
『クロコダイルー!』とか叫びながら走り回るルフィの様子を見るに、いつものような軽い説教では終わらないだろう。
「俺がエースと一緒に逸れてる間にも似たような事があったんだろ? その時はどうしたんだ?」
「アンタ今、『面倒くさい』って本音が漏れかけてたわよ? ……あの時はチョッパーが麻酔を射ってくれて……チョッパー、行ける?」
ごめんなさい、チョッパーは砂漠の暑さにダウンしてます。ちなみに居場所は俺のポケットの中だ。
それでも、ポケットの中でチョッパーがもぞもぞと動いたのを感じ、やがてゆっくりと顔を出した。
「………………ん~」
もの凄く辛そうだけれど、それでもやってくれるつもりらしい……あぁもう、そんな顔されたら俺だけのほほんとしてるのが悪い気になるじゃないか!
「ハァ……俺が取り押さえるから、その隙に麻酔を頼むな」
それだけ言うと、俺は1番近くにいたゾロにチョッパーを渡した。ポケットに入れたままだと危ないからね。あ、大福も一緒に渡しといたよ。押し付けられた形のゾロは不満げだったけど、そんなことは気にしない。
当のルフィはというと、極小さな砂丘の向こうで暴れていた。お前、この暑いのによくそんな体力があるな。
ちょっとばかり頭痛がして、大きな溜息が出てきた。ったく、この騒動を起こす天才は。
正直に言えばもの凄く面倒くさいけど、しょうがないよな。今後の為にも。
……って、あれ? 俺ってば、何だかイッちゃってる目付きのルフィに鼻息荒く睨みつけられてるような気が……。
「クロコダイルーーーー!!!」
あ、もう完璧にラリッてますね。いや、解ってはいたけどさ。
しかし、俺は言いたい。
「誰がクロコダイルだ! 俺をあんなオールバック野郎と一緒にすんじゃねェ!」
「おい、ツッコむトコそこか!? てか、クロコダイルの髪型なんて知ってんのか!?」
チョッパーを連れているからかこちらに来ていたゾロがツッコんできた。
「昔の手配書で見た。俺はオールバックは嫌だ! だって将来的に前髪が後退していきそうだし! ハゲたくない!」
ぶっちゃけそこまで好きな髪でもないけどさ、ハゲよりはマシだよ。うん、ハゲよりは。世のオールバックの方々及びハゲの皆さん、ごめんなさい。でもこれが俺の偽らざる本心だ。
そもそもハゲの原因は何だ? 老化、ストレス、放射線、遺伝的要因……って、別に10代で考える必要は無いか。30超えてから気ィ配ろう。
「今はオールバックの議論なんざどうでもいいだろうが!」
うん、そうだよね。別に胸張って力説するほどのことでも無いよね、確かに。
俺が場違いにもうんうんと納得した、丁度その時だった。
「ゴムゴムの~~~~~サブマリン!!」
ゾロとミニコントをしていた間も(したくてしてたわけじゃないけど)ルフィが何か喚いていたのはぼんやりと聞こえていたけど、綺麗に聞き流していた。でも、実際に攻撃されれば話は別だ。
ルフィのパンチが砂の中から出てきて、俺はゾロと一緒にそれを避けた。
「……マジだな、あのバカ」
本気で頭痛がしてきた。あいつが錯乱状態なのは解ってたけど、さっきの拳の威力は本当に本気の一撃だったと思う。
「毎度毎度のこととはいえ、トチ狂ったアイツを止めるのは骨だな」
刀に手を掛けたゾロが苦々しげに呟く。けれどすぐに刀からは手を離してた。そりゃそうだろう、傷付けるのが目的じゃないんだし……あれ?
「ゾロ、チョッパーと大福はどうした?」
さっきまではゾロが持ってたはずなのに、いつの間にかいなくなってる。ひょっとして、さっきのルフィの攻撃を避けた時に落としたのか?
「あ」
ゾロも今まで気付いてなかったみたいで、珍しく少し間の抜けた声を出している。
あぁもう! あの時結構砂が舞ったからな、どこかに埋もれてるかも。
「……錯乱してるルフィを止めるのとチョッパーたちを探すの、どっちがいい?」
じゃんけんをしました。だってゾロも俺も、出来ることならあんな状態のルフィには近付きたくなかったから。
そして俺は負けました。とどのつまり。
「だ~、もう! 鬱陶しい!」
久々にルフィと殴り合いをすることになっちまったんだよね、うん。
思い切り出されたパンチは体を軽く捻らせて避け、その余りに大振りな攻撃の後に出来た隙を狙ってドテッ腹に蹴りを入れる。けどそんな攻撃は当然ながらダメージにはならず、今度はこっちが頭突きを見舞われる羽目になる。
「いっ!」
顔面を狙われたけど、それは顔を逸らしてギリギリ躱した。急に捻ったから首が少し痛いぜ畜生が。
正直に言おう。こんなの当たったら絶対痛い。ってか、頭突きって……何でもアリか、コイツは!
でも無理な体勢での攻撃は、隙も大きい。こっちも少し動きは止まったけど、何てことは無い。そのまま突き出てる頭をぶん殴ってやった。
そのままバカスカやり合うけれど……はっきり言って、こんな攻防は面倒以外の何物でも無い。
「クロコダイルーーーーー!!」
「だ・か・ら! 誰がクロコダイルだっての!!」
元々スピードは俺の方が上だし、今のルフィは錯乱状態で闇雲に暴れてるだけだから隙が多い。結果、ルフィの攻撃は殆ど当たらないのに俺の攻撃は大体当たる。
何も知らないヤツが傍から見れば俺の方がずっと優勢なんだろうけど、ルフィはゴムだから全くと言っていい程こっちの攻撃は効かない。
となると体力勝負になるから、最終的には体力が尽きた方の負け。でもそんなんじゃ意味無い。
そりゃあ俺だって、一応はゴム人間(ルフィ)に有効的な攻撃手段は持ってる。嵐脚と海楼石の十手なら効くはずだ。でも嵐脚だと効きすぎて怪我をさせるだろうし、十手は……この場合は適切とは言い難い気がする。
ぶっ飛ばしても意味無いんだよな、抑え込まないと。
ルフィとは逆に、俺はコイツの攻撃なんて1発でも当たったらダメージになるし、ここは慎重に行こう。
使うならここぞという時、抑え込むのに成功してから……!
ルフィが大振りで拳を放ったのを避け、腕を掴みつつ懐に入り込む。丁度いい具合に体が開いてやがる。そのまま体のバネを利用して。
「どっせぃ!!」
何をしたのかは単純明快だ。まぁ、アレだよ。一本背負い。そしてそのまま十手を取り出し、押し当てて力を奪う。
もしもルフィがラリッてなかったら、こうもクリーンに決まらなかっただろうね、しみじみ。
告白します。実は俺、前世では中学時代、体育の時に柔道を選択してました。いやぁ、何がいつ役に立つのか解らないもんだよ。
おっと、今はそんなことはどうでもいいな。
「チョッパー、麻酔!」
殴り合い(?)の最中にゾロがチョッパーと大福の発掘に成功していたのは、横目で見てた。今はもうチョッパーの準備は出来ているらしい。
その後、チョッパーを元に戻してからルフィに麻酔をしてもらい、昏倒したルフィから手を離して周囲を見渡してみると。
「あー……俺たち、置いてかれた?」
現在この場には、俺たち4人と1匹(?)しかいなかった。
どうやら、俺らがごちゃごちゃやってる間に他のみんなは先に進んでしまったらしい。
冷たい! 冷たいよ、みんな! ユバに向かえばいいって解ってるとはいえ、よりにもよって砂漠の真ん中で放置プレイ!? これどんな状況!?
……うん、ド天然と方向音痴と暑さにダウン気味のトナカイを引っ張って行けって状況ですね解ります。解りたくないけどな!
しょうがない、せめてルフィが寝てる間に少しでも進んでおこう。
「というわけで、出発!」
無理やりテンション高い調子でゾロとチョッパーの背中を押した。なお、俺は現在ルフィを持っているため、悪いがチョッパーは歩きだ。
暫くの間、俺たちは黙々と歩いた。途中何度かはあらぬ方向に向かいそうになるゾロの軌道修正をしなければならなかったけど、それくらいは些細な事だ。
「うーーーーーん……。」
あ、ルフィ起きた。
「あれ? みんなは?」
きょろきょろと周囲を見渡すルフィに内心腹が立った俺はきっと悪くない。
「多分、先に行っちまったんだと思うよ」
幾分投げやりに答えると、ルフィは不満げな顔をした。
「何だそれ。また迷子になってんのか!?」
…………………………うん。
「ゾロ、ちょっといいか?」
出来るだけ怒りを抑えて朗らかに声を掛けると、ゾロはかなり座った目付きでこっちを振り返った。
「あのさ、俺が押さえておくからさ」
「い!? おい、何だァ!?」
言いながらルフィを後ろから羽交い絞めにすると、焦ったような声が聞こえてきた。聞く気は無いが。
「ちょっとコイツ斬り捨ててくんねェか?」
「任せろ」
即答か。お前も怒ってるんだな。ゾロが刀に手を掛けたことで、微かにチャキリという音が聞こえた。
「えー!? ちょ、待てお前ェら!!」
俺たちの本気を悟ったのかルフィはじたばた暴れる。離す気は無いが。
最終的には、チョッパーが取り成したことでルフィは斬撃を浴びずに済んだ。チョッパーめ、余計なことを。
ルフィには俺が、ゾロにはチョッパーが付いて砂漠を歩く。気分は(迷子専門の)介護士だ。暑いだろうに、チョッパーは根性を見せてくれている。良かった、1人で全員の面倒を見ることにならなくて。ありがとうチョッパー。しかし大福はさっさとポケットの中に舞い戻っている……イイ性格してるよな、本当。
チョッパーの鼻でももう匂いが解らないらしいし、俺も特に何も感じない。なので取りあえずユバに向けて歩いてる。みんなとはどれだけ距離が出来てしまったんだろうか。
ったく……アレが無ければ、何があっても絶対にこんな状況になんかしないのに。
暑い暑いとぶうたれながら歩を進めるルフィを横目に、内心かなりイライラしながら俺も歩く。数歩先ではゾロ&チョッパー組が何やら話しながら歩いているけど、そう大声じゃないこともあって内容までは聞こえてこない。
「あ!」
あいつら何話してんのかな、でも無闇に嘴を突っ込むのもアレだよな、とかそんなことをぼんやり考えてたら、ルフィが急に顔を上げた。何だろう、目に見えて元気になってる気がする。
その視線の先を辿って見ると。
「あ~、成る程」
「日陰見つけたァ!!」
まだ何十mも先だが、そこには小休止を取るには丁度よさそうな岩場があった。
良かったー、ちゃんと到達出来た! 見たかったんだよな、アレ!
俺は期待に胸を弾ませながらゆっくりと岩場に向かう。
え? ルフィ? あいつはゴムゴムのロケットでバビュンと飛んでったよ。ゾロとチョッパーを巻き込みながらね。そんで痛そうな音を立てて思いっきり岩に激突してた。俺はそんなのゴメンだから、さっさと逃げさせてもらいました。
俺がその岩場に到達したのは、ゾロがルフィの首に当てていた刀を鞘に納めた時だった。
「いや~、見事に飛んでったな」
へらへらと敢えてささくれ立った神経を逆なでするように話しかけたら、ゾロにギロッと睨まれた。何故挑発的かというと、何てことは無い。からかうのが面白いからだ。
「ったく……」
ゾロは大きく溜息を吐くと、手近な岩に腰かけようとした。どうやらこの場は休息を取ることにしたらしい……が。
「どわっ!?」
ゾロがその岩に体重を掛けた瞬間、ヤツは岩ごと砂の下に落ちて行った。その様子にルフィは目を丸くする。
「おい、ギャグ言った覚えは無ェぞ?」
「ずっこけたわけじゃねェよ!!」
「あっはっは。ゾロ、腕を上げたな?」
「おれがギャグやってるわけでもねェ!!」
砂の下から聞こえてくるゾロの声は反響を伴っていて、何だかキンキンしている。にしても、ゾロって意外とツッコミスキル高いよね。
「俺らも降りよっか。地下ならここよりもっと涼しそうだし」
「そうだな」
少し離れた所で倒れているチョッパーが砂に埋もれつつある、即ちチョッパーも落ちつつあるのを確認してから、俺はルフィにも声を掛けて下に降りた。
地下はそれなりの深さがあったけれど、入る前に心構えはしていたからそれ程問題じゃない。むしろ俺にとっての問題は、この暗さだ。
今さっき俺たちが入ってきた穴から僅かに太陽光が差し込んでいるから、暗闇というわけじゃない。けれど薄暗く、目が慣れてくるまでは細部まで解らない。
う~ん、こういう時こそエースがいてくれたら良かったのに。そしたら松明替わりになってくれただろう。
まぁ、無いものは無いのだからしょうがないと諦めるけど。
先に降りた……というか落ちたゾロはと思って見てみると、大きな『何か』の前に立っている。まだ目が慣れないからその『何か』を正確に見ることは出来ないけれど、俺はそれが何なのか知っている。
「何でこんなモンが」
「地下にあるんだ?」
訝しげに呟いてたゾロは、俺たちも降りてきていることに気付いてなかったんだろう。セリフの後半をルフィに驚いて心底驚いていた。
「何でテメェら降りてきてんだ!?」
「手で降りてきた」
「足で降りてきた」
「理由を聞いてんだよ!」
うん、解ってる。ルフィは天然だろうけど、俺はわざとボケてみました。ツッコんでくれてありがとう。
「何となく降りてきた!」
ルフィがドンと胸を張るけれど、ゾロはそれをスルーした。その代りに俺が、何で止めなかったんだと言わんばかりに睨まれるので、こちらとしては苦笑するしかない。
「だって、暑かったからさ。どうせ休憩するなら、より涼しい方がいいじゃん」
そしてもう1つ。今ゾロの前にあるソレに興味があったから……でもこれは口には出さないでおく。
俺の答えに、ゾロはやれやれと言わんばかりに溜息を吐いていた。
「チョッパーは?」
「落ちかけてたからね……多分、もうすぐ来るんじゃないか?」
言ってる間にも、上の方からズズと砂の音がする。ふと見上げると、丁度チョッパーが幾分かの砂を巻き込んで落ちてくる所だったようだ。
「よ、っと」
流石に、そのまま床に激突というのは可哀そうだと思って受け止めに走る。変形しているチョッパーはデカいからちょっと掴みにくかったけど、それでもまぁ許容範囲内だった。
「あ、ありがとな……」
チョッパーはお礼を言ってくれたけど、微妙にぐったりしていた。ルフィにぶっ飛ばされたせいだろう。ゴメン、俺はそれを止めなかった。
チョッパーは不思議そうに周囲を見回している。
「何だ、ここ」
その当然と言えば当然の疑問に答えたのはゾロだ。
「さァな。取りあえず、ここが地下だってのは間違いないらしい」
こうしている間にも、目はこの暗さに慣れてきたらしい。俺はもう十分この空間を認識出来るまでになっていた。
降りてきた感じでも解ってはいたけど、高さはかなりのものだ。しかも、綺麗なドーム型。これがいつの時代の遺跡かは俺には解らないけれど、何にしてもそれなりに大事な場所だったのは間違いないだろう……にしても、だ。
俺はソレをまじまじと見つめた。
「まさか、こんな所でお目に掛かるとはなぁ……」
見てみたいとは思ってたけど、ここで本当に出会えるかは半信半疑だった。でも、コレは……。
「ユアン、これ何か解るのか?」
俺と同じくソレを覗き込んでいたチョッパーがキョトンとした顔で聞いてきた。
「解ると言えば解るし、解らないと言えば解らないな」
言葉遊びのように聞こえるだろうけど、掛け値なしの本音でもある。
「コレが『何』なのかは知ってる……と言うか、解る。多分だけどね。でも、ここに何が書かれているのかは解らない」
俺にはただの模様のようにしか見えないソレに指を這わせながら呟くと、チョッパーもソレを目で辿った。
「コレって、大昔の文字だよな?」
その疑問を、俺は首を縦に振ることで肯定した。
「何でそんなことが解る?」
俺たちの会話に入ってきたのはゾロだ。ルフィは……全く興味が無いみたいで、ゴロゴロと涼しさを満喫してる。
「前に本か何かで読んだことがあるんだ」
「俺も……似たようなもんだな」
その答えにゾロは納得したらしい。するとまたチョッパーが俺を見た。
「で、これ何なんだ?」
……はて、どのくらいなら言ってもいいのだろうか。
「ポーネグリフって知ってるか?」
俺の問いかけに2人は揃って首を振る。ルフィは……鼾かいてる。もうあいつは放っとこう。
「歴史の本文、とも言う。世界中に点在する歴史を記した石碑で、決して砕けない硬い石に古代文字で記されている。大きく分けると、『情報を持つ石』と『その石の在処を示す石』の2種類らしいけど」
そういえば、結局魚人島のポーネグリフは何なんだろうね。ジョイボーイって何者さ。
俺の視線はポーネグリフの古代文字を追っているけれど、ゾロもチョッパーも割と真剣に話を聞いてくれているらしいのは空気で解る。俺はそれなりに空気が読める人間なんだよ!
「ただ、ポーネグリフの探索及び解読は世界政府によって禁じられているんだ。バレたら死罪になるぐらいの罪になる」
「えー!?」
突然チョッパーの顔色が悪くなる。
「じゃあ、おれたちもヤバいのか!?」
おーい、いきなり飛躍するな。俺は肩を竦めた。
「これは偶々見つけただけで、別に俺たちは探索も解読もしてないだろ? 言わなきゃいいんだよ、政府側の人間には。それに、存在を知るだけなら罪にはならないしね」
byアイスバーグである。
「しかし、何で禁止する必要があるんだ? たかが歴史だろうが」
ホッと一息吐いているチョッパーとは裏腹、ゾロは腑に落ちないらしい。まぁ、そりゃそうだろう。
「『古代兵器復活の可能性を消す』ことだってさ……補足しとくと、古代兵器ってのはこの文字が使われていた頃に存在した兵器だよ。ポーネグリフにはその在処が示されている物もあるんだ」
まぁそんなのは表向きの理由で、実際にはクローバー博士の仮説である『古代王国の思想が世界政府にとって脅威であるため』ってのが正しいんだろうけど。五老星もそれを聞いた途端に腹を決めてたし。
「古代兵器、なァ。」
うわ、何て胡散臭そうな顔! 本当なんだぞ、その為にクロコダイルはアラバスタ乗っ取りを企んで、W7ではCP9が現在進行形で潜入任務中なんだから!
……よくよく原作を思い出すと、恐ろしいことだよね。もしも麦わらの一味が介入していなかったら、クロコダイルと世界政府、両方がプルトンを手に入れていた可能性だってあったのかも……もしそうなってたら、どんな泥沼の事態に陥ってたんだか。
「コレが何なのか、解ると言えば解るし解らないと言えば解らないって言ってたのはそういうことか? ユアンもこの字、読めないんだな?」
平静を取り戻したらしいチョッパーに見下ろされ……何だろう、微妙に悲しかった……俺は頷く。
「ああ、読めない。本音を言えば、読んでみたいとは思うんだけどね。でも現状では、これを解読出来るのは世界に1人と言われてる。ついでに言えばその1人は、世界政府に手配されてるよ」
ロビンだけだよね、これって。けどそれはそれとして、もう死んでるけどロジャーも『読める』の括りに入れていいのかな? そうなるとその内ルフィも読めそうな気がするけど。何かあいつも万物の声聞けそうだ。
それにしても気になるのは、この遺跡が何故地下にあったかだ。元々地中に作ったのか、砂で埋もれてしまったのか或いは……故意に埋められたのか。
個人的には、3つ目の可能性な気がする。シャンドラのポーネグリフがシャンディアによって守られていたように、これも誰かが『何か』から隠そうとしたんじゃなかろうか。
いや、今はそんなことはどうでもいい。それよりもだ。
「じゃ、メシにすっか」
シリアス気味だった空気を変えるためにパンパンと手を打って振り返ると、何だかんだ言ってもそれなりに真剣に話に耳を傾けてくれてたらしい2人はずっこけていた。
「何でいきなりメシなんだ!? それよりあいつらと合流する方が先だろ!」
うーん、ゾロのツッコミ絶好調!
思わず漏れそうになる笑いは噛み締めながら我慢して、俺はゾロを見上げた……物悲しいとか思ってないからな! いくら頭半分以上の差があるからって……ごめんなさい、聞かなかった事にして下さい。
「無理して歩き続けるよりも、適度に休みを挟む方がむしろ効率はいいだろ? 今って丁度1番暑くなる時間帯だし、折角涼しい場所を見つけたんだ。食料だってあるんだから休憩がてら食事しようってことだよ」
実は現在、時刻は午後1時を少し過ぎたあたり。日中はいつだって暑い砂漠だけど、やっぱりこの時間帯が1番暑い。しかも、正午頃には適当な岩場が見付からなくて休憩が取れず、昼食を抜いていた。これに関してはルフィが盛大に文句を言っていたけれど、ニッコリ笑顔で出来るだけ優しく言い聞かせたらちゃんと解ってくれた。
それに、と俺は続ける。
「目的地は解ってるから最悪でもユバで合流出来るわけで、躍起になってみんなを探す必要も無理に砂漠で合流する必要も無い。もしも運よく道中でニアミスすれば、チョッパーの鼻か俺の気配読みで解るしね」
ゾロは少し考え込んでいたけれど、最終的には頷いた。
「………………まァ、一理あるか」
俺たちは遺跡で昼食休憩を取ることになった。出発は3時ごろ。
休み過ぎだと思うかもしれないけど、ここでちゃんと体力を回復して動きやすい夕方に一気に詰めようという作戦(?)に落ち着いたわけだ。つーか落ち着かせた。
何しろ俺はこの遺跡で、食事休憩の他にもやりたいことがあるから。その為には多少の時間が欲しい。
食事の内容は至ってシンプルだ。薪が無くて火は熾せないから調理は無しで、水とパンと干し肉、それにイドの町で手に入れてた果物。これがまだ新鮮で、結構重宝してる。
ゾロが1人黙々と食べているのと少し距離を置いてルフィがまだぐーすか寝てるけど、用意はしておいたのでその内起きてから食べるだろう。
んで、俺はというと。
「なァ、何してるんだ?」
「ん? 書き写してるんだよ」
元のサイズに戻した大福をもふもふで柔らかな背もたれにし、干し肉を齧りながら見付けたポーネグリフを紙面に書き写してます。そしてその様子を、人獣型に戻ったチョッパーが見上げながら聞いてきた。
ちなみにチョッパーは今、デザートとして渡したクッキーを齧ってる。ちゃんと暑くても溶けない菓子を用意しといたのさ! その辺は抜かりなしだ!
おっと、それよりも集中集中。
「本当はコレ、持って行きたかったんだけどさ。こんだけデカいとミニ化してもポケットには入らないし。で、要はこれに何が書かれてるかさえ解ればいいわけだから、書き写そうかなって」
読めなくても、記号や図形だと思えば写すのは簡単だ。
手は止めることなく答えると、チョッパーはおずおずと顔を覗き込んできた。何だこの可愛い生物は。
「だ、大丈夫なのかそれ!」
大丈夫って……そりゃあ……ねぇ?
「バレなきゃいいんだよ、バレなきゃ」
この時の俺の『ニヤリ』は結構悪い顔だったと思う。でも実際、それでよくね? そもそも既に俺たちって無法者じゃん。遵法意識は元より低い人種なんだよ。あれ? やだなぁ、何でそんなに引いてるの?
本気で怯えられるのは心苦しいから、安心させるように笑った。
「大丈夫だよ、何せこれは紙だから。いざとなったら呑み込んで証拠隠滅だ」
そうしてチョッパーの頭を撫でると、あからさまにホッとしてた。うん、和む。
けどそうなんだよね、だからよくよく考えるとこの方が都合がいい。オハラの学者たちだって、ポーネグリフという物証を見付けられたからこそ言い訳のしようが無くなっちまったんだし。
難点は、1度隠滅してしまうと再び手に入れるのが骨だってことだけど……ま、何とかなるだろ。
何故俺がこれを書き写してまで手に入れようとしてるのか。答えは簡単なことなんだけど……上手くいくといいなァ。
その後、俺は何とか時間内に複製を完成させられた。砂に埋まって見えなくなってた部分については、ミニ化させて発掘して書き写した。
いや~、本当に書き写すって選択肢を選んで正解だったと思ったね。だってこの石、俺に出来る限りのミニ化をさせてもまだ相当な重量があったんだよ。持てないほどじゃないけど持ち歩くのは骨だし、戦闘にでもなれば邪魔以外の何物でもない。
ルフィは自分で起きなかったから、口元に食料を持ってったんだけどさ……寝ながら食い付いたよ。あいつは何所に向かってるんだろう。海賊としてはまだまだルーキーだけど、フードファイターになればあっと言う間に世界を駆けあがれるんじゃないか? 俺もあまり人のことを言える胃袋じゃないけど……。
それでも出発の時にはそのルフィも叩き起こし(ってか踏んで起こした)、俺たちはまた砂漠を歩き始める。さっきよりかはペースは上がったけど、もういい加減に終わって欲しいよコレ。
他のみんなとはユバを目前にして合流に成功し、俺たちは漸く、本っ当に漸くユバに到着した。
かつてのオアシス、しかし現在では荒廃してしまった町に。
アニメ沿い終了のお知らせ。次回からは原作沿いに戻ります。