麦わらの副船長   作:深山 雅

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リトルガーデン・ドラム王国もアラバスタ編に含まれています。


アラバスタ編
第96話 リトルガーデン


 ひとまず話を理解したウソップとサンジの反応は、実に対照的だった。寝てて良かったと安堵するウソップに、今後の活躍を望むサンジ。

 どっちにしてもビビは微妙に戸惑ってるけど。

 

 

 

 

 2本目の航海は1本目ほど荒れることは稀。だから、のんびりとした航海の間にゆっくりとウィスキーピークでの戦利品を纏めていた。

 1番手間取ったのはやっぱり武器類だった。たくさん盗ったもんな。

 品ごとに分類して目録を作っていく。単調な作業だけど、俺が盗ってきた以上は責任持ってやらなければ。今までは雑すぎた。ローグタウンでの換金でも結構交渉しなきゃならなくなっちゃったし。

 

 途中でデカイルカと遭遇したときは手伝いに出たけど、それ以外には特に問題は無かった。

 ただ、一々出て来るのは面倒だと思って、それ以後は甲板にて整理を行っていた。

 

 

 

 

 そして見えてきました、リトルガーデン……意外と早かったな。まだ整理が終わってないよ。

 

 「グランドライン2つ目の島だァ!」

 

 リトルガーデンが視界に入ってきたことでどこか絶望的な表情を浮かべるのはナミとウソップ。

 

 「リトル……ガーデン……」

 

 「太古の生物……巨人の戦士……」

 

 ……そっとしといてあげよう。元凶は俺かもしれないけど!

 けど、ビビがそこまで気負っていないのはちょっと意外だ。ビビだってバロックワークスでフロンティアエージェントを張ってたんだから決して弱くは無いんだろうけど、それにしたって太古の密林は十分脅威だろうに。警戒はしていても過剰反応はしていない。

 後の3人は……言うまでもないだろう。全く問題無し。ルフィに至っては、どきどきわくわくきらきらって感じだ。ついでに言うなら、サンジはもう弁当を作り終えている。ルフィに急かされた結果である。

 

 「こんな植物……図鑑でも見たことないわ」

 

 船が河口から島に入ると、生い茂るジャングルを見渡してナミが呟いた。

 

 「ややややっぱり、太古の……?」

 

 ウソップは既に膝が笑っている。

 その時、ジャングルから獣(?)の声が聞こえ、上空でも何かが飛んでいった……あれって、始祖鳥ってヤツか? 

 そんなことを考えていたら、ドォンというもの凄い轟音が振動と共に響いてきた。

 

 「ま、まるで火山でも噴火したような音だぜ!?」

 

 ありゃま。

 

 「ウソップ、鋭いな」

 

 「へ?」

 

 「リトルガーデンには活火山があるらしい。多分、今のはその音だ」

 

 例えとして口に出しただけで、実際に火山があるとは思ってなかったんだろう。ウソップはお馴染みの『叫び』状態になっている。久々だ。

 

 にしても火山……火山の噴火、か。マグマ……赤犬。まだ先の話だし今言ってもどうにもならないけど、どうにかならないのかな? 思想的にもヤバすぎるし、エースと相性最悪だってのが何とも……アレ? 『赤』犬?

 マグマって……赤いよね? 白いマグマとか青いマグマとかって無いよね? 炎だと赤よりも白や青になってる方が高熱だって何かで読んだ気がするんだけど……マグマはどうなんだろ? だー、もう! 何で調べておかなかったんだ、前世の俺! ……調べるわけないか。まさかこの世界に転生するなんて、ましてやエースが育ての親になるだなんて予想もしてなかったし。

 このリトルガーデンは無理にしてもドラム島には本ぐらいあるだろうし、調べられないかな……それどころじゃない状態に陥るかもだけど、それは置いといて。

 青い炎を出すのは決して不可能じゃないと思う。ガスバーナーでも青い炎は出るし。いや、俺はメラメラの能力者じゃないから詳しいことは解らないけど。まぁ、その辺はアラバスタでエース本人に確かめるとしてだ……でももしそれが可能で温度の問題が何とかなるなら……ひょっとして赤犬って、攻略可能? それもエースが。

 だってマグマグがメラメラの上位なのは、『マグマは炎すら焼き尽くすから』。逆に言えばそれって、炎の方が高温ならば焼き尽くされるのはマグマの方なんじゃね?

 相手だって海軍本部大将だ、既に能力を攻略されることも視野に入れて何らかの対策を講じている可能性も皆無じゃない。けど原作の様子を見る限り、少なくとも(エース)に対しては絶対の自信を持っていて単純なマグマ攻撃を仕掛けていただけな気がする。その余裕……言い様によっては油断は、最大のチャンスじゃないか? 

 いや、マグマと炎の問題じゃなくてその身に宿る悪魔の力の差の問題だ、とか言われたらどうしようもないけど。

 

 個人的には、黄猿の方が厄介な気もするけど。光人間だからって光速移動って何だよ。レーザーとか、光線だとはいえ光の分野なのかよ。

 

 ……どの道、赤犬に関してはエースが温度変化が可能か否かを確かめないことには何とも言えないか。この話題はひとまず保留にしておこう。

 

 「待てコラァ!!」

 

 ん?

 

 「聞き捨てならねェ……てめェがおれよりデケェ獲物を狩ってこれるだと!?」

 

 サンジが既に上陸しているゾロを見下ろしながらメンチ切っていた。

 って、いつの間に冒険に出てたんだルフィのやつ。どうせ鉄砲玉みたいに飛び出して行ったんだろうけど……ビビもいないや。考えに没頭してて気付かなかった。

 

 「「狩り勝負だ!!」」

 

 そうこうしてる間にもゾロとサンジはいがみ合ってる。サンジもとっくに船を降りてるよ。

 

 「いいか、肉何㎏狩れるか勝負だ!」

 

 「何tかの間違いだろ。望むところだ」

 

 2人は足音も荒くジャングルへと入って行った。

 うん、何㎏でも何tでも好きなだけ狩ってきてくれ。小さくすればまだまだ積めるし……でも待てよ、あんまり生肉があっても腐らせるだけか? いや、ルフィがいるからそんなことにはならないかな。万が一なってもあいつなら腐った肉ぐらいペロッと平らげそうだし……ダメだダメだ、あいつも一応は人間。腹を壊したりしたら流石に可哀そうだよ……ん?

 

 「…………………………」

 

 「…………………………」

 

 え~っと、何でそんなにガン見してくるんでしょーか、お2人さん?

 そう、甲板に座り込んで整理を続けていた俺……考え事してても手は動かしてたんだな、自分でもビックリだ……を振り返り、じ~~~~~っと見詰めてくるナミとウソップが目の前にいます。

 

 「ユアン……お前ェは上陸したりしねェよな……?」

 

 恐る恐る、といった調子で聞いてきたのはウソップだ。

 

 「その内降りるよ。用もあるし」

 

 嘘ではない。用があるのは本当だ……けど、その言葉に2人は過剰な反応をした。

 

 「用!? 初めて来た島に何の用があるっていうの!? いいからあんたはここにいなさい!」

 

 「そうだぞ! お前ェはこんなか弱い2人だけを船に残すつもりか!?」

 

 2人とも言葉と口調は強気というか責めているような感じだけど、実際には涙目で両サイドから腕に縋り付いて懇願してきている状態だ。どんだけ怯えてんだよ。

 こんな風に言われたら、降りたくても降りられないじゃんか。そりゃ、今はまだ降りる気は無いけど。

 

 「落ち着いてよ、そうは言ってもまだ降りないから。これらの整理も終わってないし」

 

 これ、と言って手に持っているものを掲げて見せた。ちなみに、今は酒場から押収した品々に手を付けている。掲げたのは酒瓶だ。安物だけど。……高い酒は軒並み宴会で飲み尽くしたんだろう。恐らくはナミが。ゾロは酒飲みではあるけど、高い安いをそれほど気にしてる風では無いし。

 

 俺の答えに2人はあからさまにホッとしていた。

 気持ちは解らんでもない。こんな危険地帯に狙撃手と戦闘能力が殆ど無い航海士が2人で取り残されればさぞ心細いだろうから。

 それは解る、解るけど。

 

 「でも、この島は次への記録を貯めるのに1年はかかるはずだよ?」

 

 瞬間、2人は理解不能な言語を聞いたような顔になった……面白っ!

 

 「ちょ、ちょっと待って?」

 

 ナミの声が裏返っている。

 

 「1年!? ウソでしょ!? その間にアラバスタは滅んじゃうかもしれないのよ!?」

 

 「そうだね」

 

 俺はコクリと頷いた。

 

 「だから、ビビの前では言わなかった。焦って妙なことされても困るだろ?」

 

 その言葉に次に噛み付いたのはウソップだ。

 

 「言わなくても、その内バレるだろ!?」

 

 まぁ、それはそうだろう。言わなくても記録が貯まらなければいずれバレる……何も起こらなければ。

 

 「その前に何とかなるさ。実際にどれだけかかるかは解らないけど、1年かからずに出航できるはずだ。早ければそれこそ今日にでも」

 

 俺は持っていた酒瓶を甲板に降ろした。

 

 「? どういうこと?」

 

 1年かかると言ったすぐ後に今日にでも出航出来るなんて言う俺の発言が理解できないんだろう、当然ながら問い返された。

 

 「ニコ・ロビン……ミス・オールサンデーって呼んだ方がいいかな? 彼女は、自分が俺たちの前に現れたのは指令を受けたからじゃないって言ったんだろ?」

 

 俺が出て来る前のロビンの言動については、粗方聞き出してある。俺の確認に2人は揃って頷く。

 

 「なら、また誰か別のエージェントが指令を受けて俺たちを始末しに来るはずだ。イガラムっていう囮がもう無い以上、やつらも俺たちが次に行くのはこのリトルガーデンだって見当を付けるはず。そして追ってくる……やつらは島を順番に巡る航海者じゃないんだ、絶対にどこかしらかへの永久指針を持ってる。ひょっとしたら、それこそ計画の地であるアラバスタへの永久指針もあるかもね。まぁ何にせよ、それを奪う」

 

 「でも、もし……持ってなかったら? ううん、ひょっとしたら追手も来ないかもしれないし……」

 

 2人にしてみれば、追手はむしろ来ない方がいいんだろう。顔色が悪い。

 

 「その時はこれを使えばいい」

 

 言って俺はコートのポケットからドラムへの永久指針を取り出した。

 

 「これ! 永久指針じゃない! 何でこんなの持ってるのよ!?」

 

 「永久指針? これが?」

 

 驚くナミとは裏腹、ウソップは物珍しげだ。

 

 「双子岬でクロッカスさんに貰った。グランドラインに入る前に提案しただろ? ドラム王国ってとこで船医を見付けないかって。こんなことになっちゃったから今は言わないけどね。これはそのドラム王国への永久指針」

 

 けれど、その説明では2人とも腑に落ちなかったらしい。

 

 「それなら、初めからそのドラム王国ってとこに行けばいいじゃねェか。こんな危険なところになんて来ずに」

 

 確かに、とにかく安全を最優先するならウソップの言う通りだろう。けど。

 

 「そうしなかった……ってか、提案しなかった理由はいくつかある。まず第1に、記録指針通りに進めば追手が来る可能性が極めて高くて、そいつらならアラバスタへの永久指針を持っているかもしれないから。第2に、リトルガーデンについての話をウィスキーピーク出航直後にしたからか、ルフィが冒険に目を輝かせていてそれを奪うのは嫌だったから。最後に」

 

 「待てィ!」

 

 順に告白していると、何故か途中でウソップに遮られた……ってか、ツッコまれた?

 

 「確かにルフィはわくわくしてたが、それ以上におれたちは憂鬱だっただろォが! お前はルフィさえよければいいのか!?」

 

 「当たり前だ」

 

 何を言ってるんだコイツは。船長の意向に従うのは当然じゃんか。

 

 そうでなくても、ルフィは俺の優先順位第2位だ。扱いが雑だってよく言われるし、普段は結構ボロクソに言ってるけどな!

 ついでに言うと1位はエースである。ちなみに、母さんは既に故人なので優先順位にはカウントしてない。その次はサボで、そのまた次が一味のみんな。んでその次はダダンたちかな、何だかんだ言っても世話になったし……って、祖父ちゃんが中々出て来ない! ゴメン祖父ちゃん!

 

 「サラッと即答すんなァ! お前さては、ブラコンだな!?」

 

 「そうだよ」

 

 「開き直った!?」

 

 ウソップはがーん状態になってるけど、そんなのこっちはとっくに自覚してる。そもそも、優先順位のトップ3があの3人って時点でもう手遅れだろう。

 

 「……で最後に、恐竜の肉を食べてみたかったから。以上」

 

 や、だって本当に食べてみたかったんだよ。恐竜なんて今までに食べたことなかったし。

 あれ? 何で2人はorz状態になってるんだ?

 

 「後半2つの理由は明らかな私情じゃない……」

 

 「肉を食いたかったって……結局あいつはルフィの弟なんだな……むしろ、色々と考えを巡らせてる分より性質が悪ィぞ……」

 

 失敬なやつらだ。

 

 「もう1つ聞かせて。何で移動手段があるのに『記録を貯めるのに1年かかる』なんて言ったの?」

 

 ナミがどこか諦めたような視線で問いかけてきた。

 

 「それを知った時の2人の反応で楽しみたかったから」

 

 嘘偽らざる本心である。からかったんですごめんなさい。

 そして更に脱力する2人。諦めてくれ、俺は性格が悪いんだ。

 

 「こうなったら……せめて、巨人の戦士ってのが穏やかな人たちであることを願うしか……」

 

 穏やかな巨人とか戦士とか、そりゃいるだろうけど……こんな島でそんなのを求めても無駄なんじゃなかろうか。

 よし。

 

 「じゃあ、お詫びに事前情報な。この島にいる巨人の戦士たちってのは、100年ぐらい前に暴れ回っていた巨兵海賊団の2人なんだって。懸賞金は2人とも1億ベリー」

 

 ……あれ? ウソップの『叫び』お馴染みだけど、ナミまで『叫び』状態になった。

 

 「クロコダイルよりも高いじゃないの!!」

 

 あ、そういえばそうだな。

 

 「大丈夫だよ、別にその戦士たちは敵じゃないんだし……って、聞いてないな」

 

 口から魂が出てきてるよ、2人揃って。これは、いらんことを言ったかな……さっき俺自身言ったけど、別にあの2人は敵じゃないんだから懸賞金額を教える必要なんて無かったかもしれない。しかも、億越えへの反応を甘く見てた。

 2人の魂が戻るまでの数分間、ちょっと中断してた整理を再開する……ん? この気配は……。

 

 「す、すぐに行こうぜ! あいつらが戻ってきたらよ!」

 

 「そうね! この際回り道も仕方がないわ! 命が1番よ!」

 

 あ、戻ってきた。でもなぁ……。

 

 「無駄だと思うよ?」

 

 忠告したのに、返ってきたのは鋭い眼差しだった。

 

 「黙んなさい! あんたのブラコンと食欲なんてどうでもいいのよ!」

 

 「いや、そうじゃなくて」

 

 「巨人と出くわす前に早く」

 

 「おれ達がどうかしたか?」

 

 もうすぐそこに件の巨人がいるよー……と言おうとしたけど、その前に本人に声を掛けられた。

 それに対して、ものの見事にビシィッと固まる2人。ギギギ、と揃って錆びついたブリキ人形のようにぎこちなく振り向いて、さっき声のした方に……もっと言うと、俺の視線の先に目を向けて、再び口から魂が出かけていた。ついでに涙目だ。

 

 「お前ら、酒を持ってないか?」

 

 そこには、見上げるような巨体の男……巨人ブロギーがいた。

 


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