Fate/Fairy Tail 錬鉄の英雄【無期限休載中】 作:たい焼き
ルーシィがギルドに加入してからしばらく経った。
相変わらずナツに振り回されているようだが、本人もそれなりに楽しんでいるようだ。
彼女の成長のためにもナツは必要だろうし、いい機会であろう。
「聞いてくださいよミラさん、エミヤさん!ナツったら金髪なら誰でもいいって理由で私をチームに引き込んだんですよ!!酷いと思いません!?」
ルーシィが拳に不満やストレスを目一杯込めて机を叩く。
「ルーシィ。あまり机を叩かないでくれ。バカ騒ぎ以外で備品を壊されると経費が幾らあっても足りん。」
「う・・・すみません。」
まあ分からないこともない。オレも昔は唐変木だの朴念仁だの散々言われたからな。客観的に見ると自分がどれだけ間抜けだったかよく分かってしまう。
「そうねぇ。でも、ナツのことだからそれだけでルーシィを誘ったんじゃないと思うわよ。」
「ナツは単純で純粋だから好感をもった人にしか懐かない。ルーシィの事を気に入っているからこその事だろう。」
「うぅ・・・確かにそんなこと言ってましたけど~」
「ナツも悪い奴では無い事は間違いないさ。それより、何か食べるか?」
「じゃあショートケーキを一つ。」
「分かった。少し待っていてくれ。」
「そういえば、エミヤさんってここの魔導師なんですよね?」
ふと気になった疑問をミラさんに尋ねる。
「うん、かなりの古株よ。」
「でも私が見ている限りクエストに行っている所を見たことないんですよね。」
何度かクエストでギルドを離れているけど、一度でもここから離れた痕跡もクエストボードを訪れた事も無いのよね。
「今じゃ妖精の尻尾非公認の料理長をやってるもの。そんな暇が無いのよ。」
「確かにエミヤさんの料理ってそこらの店じゃ食べられないくらい美味しいですけど、魔導師なのにクエストを受けなくてもいいのかなって思いまして。」
非公認って事は正式に雇われているわけでもないから給料とか出ているということも無いはずだし、不自然なのよね。
「そんなことはないぞルーシィ。確かに私も魔導師の端くれだが、クエスト以外にもやることは山ほどある。バカ達の喧嘩の仲裁にその後片付け、この酒場の掃除や備品・消耗品の補充、事務処理だって立派な仕事だ。」
エミヤさんが美味しそうなケーキを持ってカウンターに戻ってくる。
「あ、えっとその・・・何かすみません。」
「皆もう少し君みたいに大人しくてお淑やかになってくれれば私も前線に立てるのだがね。君みたいな娘は久し振りさ。」
遠くでナツとグレイが喧嘩しているのを眺めながらため息をついている。本当に申し訳ありません。あっそういえば・・・
「そういえば、エバルーの屋敷にあった本で一つ気になって持ってきた本があったんですよ。」
「何?君もついに盗みを働いたのか?」
「人聞きの悪いこと言わないでください!!」
「まあまあ。確かに悪いことだけど、ルーシィが気になったってことは本当に何かあるって事よね?」
「えっ?ああそうです。古過ぎるし東洋の方の言葉で書かれてたから読めなかったですけど・・・」
だけど何か不思議と惹かれる物がある。読んでも理解できなかったけど、見ただけで理解できるような、何とも言えない感情がいつの間にか胸に存在していた。
「ちょっと貸して・・・う~ん確かにこれは何というか、不思議な感じがするわね。」
「せめてタイトルだけでも分かれば「『錬鉄の英雄』・・・か」・・・え?」
エミヤさんが見ただけで解読した。というよりこの文字を知っていたみたい。
「エミヤ、貴方これ読めるの?」
「ああ、これは極東の地で使われている文字だ。以前居たことがある。」
「じゃあここ読めます!?多分作者だと思うんですけど。」
「どれ。」
エミヤさんに本を渡す。エミヤさんは無言でしばらく眺めていたが、やがて小さく笑ったように見えた。
「あいつらしい。ルーシィ、しばらくこの本を預かってもいいか?なに、タダで借りようとは思わん。新しい紙に翻訳しておこう。」
「あ、ありがとうございます!!」
やった!!これであの本が読める!!しばらく時間が掛かりそうだけど、読める事に越したことはないしね。でもそれより、エミヤさんが言ってた『あいつ』って誰なんだろう?
そんな疑問もすぐに心の隅に押しやられる。
広間の扉が勢いよく開かれ、ギルドのメンバーのうちの一人であるロキが入ってきからだ。
彼氏にしたい魔導士ランク上位ランカーのくせに女癖が悪くて私の中じゃ一気に最下位行きなのよね。
「ナツ!!グレイ!!マズいぞ!!エルザが帰って来た!!」
ロキの放った言葉は、酒場にいる他のメンバーをも激震させるには十分なものだった。
「ふむ。」
厨房の奥で一人、オレはルーシィが持ち帰った本を眺める。
錬鉄の英雄。そう記された本は始めて見るにも関わらず、見る前から内容は全て理解出来ていた。
何故ならコレは、オレ自身の事が書かれた伝記のような物なのだから。
おそらく世界に一つしか無いだろう。文字は作者の直筆のみだからだ。当時なら本の複製技術もあったからな。
作者は私もよく知るあの紅が良く似合う女性。遠坂凛その人だ。
「全く。この時代で遠坂の名を見るとはな。」
ひと通り読んだが、仕掛けの類は無かった。科学的な物は。だが魔術的な物は別だ。
オレは解析の魔術を本に掛ける。すると本の中に隠された仕掛けの存在を確認した。
それはただの鍵の役目を果たす魔術だったが、鍵穴が見当たらない。つまり鍵を破戒すれば解かれるということだ。
―――
創り出したのはナイフサイズの剣。おおよそ剣と呼びがたいそれは、かつての戦いで目撃した宝具の一つ。
裏切りの魔女と呼ばれ、その肩書を押し付けられた悲しい女。その生き様を概念として宿した剣は、魔力で作られた契約を裏切るように破戒し初期化する。
真名を紡ぐ。宝具の力が始めて十全に発揮され、本にかけられていた鍵は破戒され、中に収められていた物がオレの手の内に収まる。
一つは彼女の父親の形見であり、オレが二度目に死んだ時、一命を取り留めるために使われた紅い宝石のペンダントであり、オレを召喚するために必要な物でもある。
もう一つはオレのかつての相棒の宝具の一つであり、最強の聖剣の鞘。聖杯戦争で最弱のマスターだったオレを守り抜いた彼女の鞘。
真名解放によってあらゆる攻撃・交信を遮断するこの世界最強の守りとなるそれの名は『
オレと彼女を繋ぐ物でもある。
「これは、少しばかり豪華過ぎる土産だな。」
ふと、こんな声が聞こえた気がした。
―――こんだけ手を貸してあげたんだから、絶対に幸せになりなさいよ!!
「ふ、相変わらずだな遠坂は。」
酒場の方に耳を傾ければ、また騒がしい声が聞こえてくる。オレは全て遠き理想郷を体の中に埋め込み、ペンダントをポケットの中にしまう。
「遠坂、オレはもう既に結構幸せだよ。」
厨房の奥に置いた本にそう語りかけながら、オレはまたカウンターの方へ引き返して行った。
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Fate効果ヤベェ
追記:07/23の日間ランキング17位にランクインしました。皆様の閲覧、応援心から感謝致します。