Fate/Fairy Tail 錬鉄の英雄【無期限休載中】   作:たい焼き

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オリジナルの話です。

時系列的には原作70話から73話の間です。


戦い終わって・・・ (2)

 フィオーレ王国を代表する二つの魔導士ギルドが正面からぶつかり合う抗争があったが、それももう過去の話。

 

 多大な被害を出した戦争は妖精の尻尾が幽鬼の支配者を下して勝利を得た。

 

 終了直後に介入した評議員によると、襲撃を受けた妖精の尻尾にはお咎め無し、侵攻した側の幽鬼の支配者はギルドそのものを解体し、マスターであるジョゼの聖十大魔導の称号剥奪の罰が下った。

 

 元はといえば、幽鬼の支配者に一つの依頼が発火原因となった。

 

 それが『ルーシィ・ハートフィリアの拉致』であり、依頼主は彼女の実の父親であった。

 

 元々家出という形で家を離れてギルドに所属していたため、親としてはまあ当然な事だが、幽鬼の支配者はその依頼を利用し、妖精の尻尾へ攻撃を仕掛ける口実を獲得した上で戦争を仕掛けた。

 

 結果は世論の通りに妖精の尻尾が勝利したが、もしもその逆の結果だった場合、妖精の尻尾の崩壊に加え、ルーシィ本人は人質とされてハートフィリア財閥の資金を根こそぎ奪われるという最悪の形になっていた。

 

 だがそれも杞憂に終わり、ギルドの建物はまだ修復出来ていないものの、依頼は山のように飛び込んで来るために忙しく騒がしいのはいつも通りだ。

 

 多少の怪我はあったものの、今回の件の中心となったルーシィ・ハートフィリアだが、早速彼女に災難が降り掛かっていた。

 

 「お金がー・・・」

 

 大企業のお嬢様らしからぬ発言だが、悲しい事に事実である。

 

 直前に受けた依頼も正式な物でなかったために報酬金は貰えず、幽鬼の支配者との騒動のせいで仕事に行く事すら出来なかったため、今月の家賃すら払えない有様であった。

 

 ならばチームを組んでいるナツや他のメンバーよりも交友が深いグレイやエルザと一緒に行けばいいのでは?という疑問も出てくるが、彼女は今回だけは避けている。

 

 何故なら彼らと一緒に仕事を行けば彼らがあちらこちらで騒動を起こすからだ。必要以上に暴れて建物や施設を破壊して報酬金から罰金を払わされるまでが彼らの依頼なのだ。

 

 そのためクエストボードとにらめっこし、可能な限り報酬が良くて可能な限り安全で楽な仕事を探すのだが、当然そんなものは無い。仮にあったとしても、そんなものは脱兎の如き速度で他の者に取られてしまう。

 

 日が沈みかけたので渋々家に戻ったのだが、妙に迫力があって逆らえない大家さんに門前払いされ、家の前で途方に暮れているのが現状である。それでも契約を破棄しないのは大家さんのせめてもの恩情であろう。

 

 「ど、どうしよう・・・」

 

 ギルドに残っていたのは盗賊の捕縛や危険なモンスターの討伐等の血生臭い物ばかりだった。当然彼女一人では達成出来る可能性が低い。

 

 このままでは仲の良い友人の誰かの家にお邪魔するか、最悪野宿するしかない。比較的治安は良い方であるマグノリアだが、若い女性一人での野宿は危険的にもモラル的にも避けた方がいい。

 

 幾ら嘆いていても行動を起こさねば何も始まらないのが普通だが、今回に限ってはきっかけが他所から歩いて来た。

 

 「・・・そこで何をしている?」

 

 ルーシィは俯いた顔をあげると、目の前に見知った男が食材の入った紙袋を持って立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「懐は相変わらずのようだな、ルーシィ」

 

 「す、すみません・・・お邪魔します・・・」

 

 いつも通りギルドで給仕の仕事を終えたエミヤは、取る必要は無い自身の食事の買い物を終えて街を歩いていたが、帰りに寝る場所が無いというルーシィを連れて帰路に帰ることになった。

 

 「今度ナツ達にも注意しておこう。あまり効果は期待出来んがね」

 

 エミヤの家は街の郊外の一角に建っている。道はあまり整備されていないが、そもそも彼の家自体が街の風景から浮いてしまっているため、むしろこちらの方が好都合なのだ。

 

 東洋建築の一つである武家屋敷をモチーフにした一軒家だからだ。

 

 「ここがエミヤさんの家・・・ですか?」

 

 ルーシィは始めて見る形式の家を眺めながら言った。マグノリアに対して東洋建築は珍しいからだ。

 

 「広いだけだがね。私以外に誰も住んでいないから安心してくれたまえ」

 

 それが虚言でないと、玄関を上がれば確かに感じる。明かり一つない上に、人の気配もしないからだ。

 

 エミヤが数ある部屋の一室の障子を開けて部屋に上がったので、ルーシィも後に続いて部屋に上がる。

 

 「適当に腰を掛けておいてくれ。夕食の準備をしよう」

 

 「あっ、手伝いますよ」

 

 「気持ちだけ受け取っておこう。客人に手伝いをさせるわけにもいかないのでね」

 

 壁で分けられていない隣接したキッチンに向かうエミヤに対してルーシィは手伝う意思があることを示すが、彼はそれにそう返した。

 

 申し訳ないの気持ちを抱いたまま机に戻ったルーシィは、改めてエミヤの方を見て彼の動きを観察する。

 

 彼の家事の腕は並の主婦達を遥かに凌駕しており、下手をすれば専門の家政婦をも超えているかもしれない。

 

 それほどまでに洗練されており、同時に女性達から見ればこれ以上とない見本であろう。

 

 以前とある女性が『何故ここまで家事が得意なのか?』と彼に尋ねた事があったのをルーシィはふと思い出した。確かエミヤはあの時こう答えたのだ。

 

 「こんな物はただ趣味と義務の延長だ。昔から自炊しなければならない立場だったのでね」

 

 彼が今を生きる人間ではないという事を知らぬ者はギルド内では居ないが、彼がどんな人生を歩み、どんな伝承を残したのかは誰も知らない。

 

 いつも適当に逸らすように、他ならぬ彼が話したがらないからだ。過去を掘り返す事はあまり良くない事だが、ルーシィはこの機会を利用して聞いてみる事にした。

 

 「別に語れるような武勇伝など持ち合わせていない」

 

 結果はいつもと変わらなかった。ただ・・・

 

 「そうだな・・・たまには良いかもしれん」

 

 その先があった。この機会に聞いておきたいことがある。

 

 「何を成したかか。私はただ、救いを求めていた人々を救おうとしただけだ」

 

 強きを挫いて弱きを救う。それはまるで、正義の味方とも言える存在ではないだろうか?

 

 「正義の味方か・・・そんな上等な物じゃない。私は大しか救えていないのだからな」

 

 一体何の差があるのだろう?人を救う者が正義の味方で無いはずがない。

 

 「その過程に問題があるのだ。何人救うのに何人切り捨てたかがね」

 

 世の中は確かにより多くの人間の救済を要求する。だがどうしても救いきれずに零れ落ちる者も存在する。

 

 それに人間は欲張りだ。一が出来れば次は二を。その次は三を欲しがる。

 

 更に加え救いきれなかった人間に関係する人間は『どうしてあいつを救えなかった』と怨嗟の声をあげる。

 

 それらが積み重なって英雄と呼ばれた人間はやがて同じ人間に殺されていく。

 

 百年戦争で有名なオルレアンの聖処女『ジャンヌ・ダルク』は、フランスを救った聖女であり、同時に貶められて悲劇的な結末を迎えた。

 

 一般の人間には英雄という存在がどうしても同じ人間に見えないのだ。敬意を払いつつも何処かで恐れを抱いている。

 

 エミヤもその中の一人なのだとルーシィは察した。できたての料理も妙に冷たく感じる。

 

 「気分を悪くしてしまったのならすまない。せめてゆっくり休めるように席を外そう。風呂と部屋は適当に使ってくれ」

 

 エミヤはそう言い残して背景に溶けこむように消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後食事を終え、皿洗い等の雑務を終えた後に床についたが、やはりどうしても寝付けない。頭の中で何度も先程の問答が再生されているのだ。

 

 確かに歴史の中では大昔からごく最近まで合わせても、幸福のまま死んだ者より悲劇的な結末を迎えた者の方が圧倒的に多いと言えるだろう。

 

 客観的な立場から見ているからかもしれないが、どうしてもルーシィはそんな英雄達が全ての悪だとは思えない。

 

 むしろ彼らによって救われた命の方が圧倒的に多いのだから。

 

 きっと間違ってなんかいない。上手く言えないけどこれだけは言える。

 

 多分エミヤという英雄もそれに気付いている。

 

 全ては救えない。だからこそ目の前の人だけでも救おうと全力を尽くす。それこそ本当の英雄ではないだろうか。

 

 いや違う。それを言ってしまえば妖精の尻尾のメンバー全員が英雄なのだ。それに家族を大切にする彼らは間違いなくエミヤシロウという男の性質を受け継いでいる。

 

 頭を回すとやはり寝付けない。外の空気を吸おうと表に出たルーシィは、屋根の上で腰を掛けているエミヤを見かけた。

 

 その目は何処か遠くを見つめて離さない。ここから見える街などではなくもっと遠い、決して届かない世界の果てに置いてきてしまった物に向けているようだった。

 

 「ん?どうしたかね?」

 

 「あ、いえ。少し眠れなかったので」

 

 「ふむ、そうか・・・」

 

 一声かけ、一瞥した後、エミヤは再び同じ方角に顔を向けた。ただ人が空を見上げているだけの何ともない光景の一つであるはずなのに、不思議と人を惹きつける魅力があるというか、何故か無性に興味を持たせる。

 

 「そうだ。預かっていた本の翻訳が先程終わった。時間がかかってしまってすまない」

 

 「いえいえそんな・・・」

 

 古かった本は翻訳するにあたって新しい本に書き写されていた。

 

 「錬鉄の英雄・・・英雄は読んで字の如く英雄って意味だけど・・・なら錬鉄は?直訳なら炭素が少ない鉄の事だけど・・・」

 

 思考の海に身体を埋めていき、徐々に意識もそちらに傾ける。

 

 「あー、出来れば部屋で読んでもらいたいのだがね。風邪を引くぞ」

 

 もっとも、人間とは自分に都合のいいように物事を捉える性質があるため、一度何か集中してしまった者を別の対象に興味を持たせるのは難しいだろう。

 

 「もう手遅れ・・・か」

 

 エミヤはせめて邪魔にならないようにと静かに霊体化して消えた。

 

 翌朝、ルーシィはほんの少し体の調子を崩したそうだ。




こんなんでいいのだろうか。書きたい事書いただけなのでここから何処かに繋がるわけでもないです。

本当は劇団の話でエミヤにロム兄さんっぽい口上と共に乱入させたかったけど、どう考えても文字数が足りないッ

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