Fate/Fairy Tail 錬鉄の英雄【無期限休載中】   作:たい焼き

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この話は実際の話とは関係が存在しない『もしもの話』です。

今後の話には繋がらないため悪しからず。


番外編:王道を歩んだ王

 マグノリアの町

 

 王国東方にある街で、人口は6万人程。古くから魔法も盛んな商業都市であり、賑わいもそれ相応である。

 

 街の中心にはシンボルとも言える『カルディア大聖堂』が建っており、更にかの有名な魔道士ギルド『妖精の尻尾』の本拠地でもある。

 

 特に市場周りは人の往来が激しく、生活用品や食品等大抵の物はこの町から出なくても揃う分、店の数もほぼ飽和状態だ。

 

 商人達にとっては店の競争率の高い場所だが、一度は出店を夢見る目標地点らしい。

 

 そんなマグノリアの町民や商人達に溶け込めていない人影が一つあった。

 

 黒のボディアーマーを着込み紅い外套を身に纏うその姿は、マグノリアにそこそこ縁のある者達から見れば見慣れてしまった姿であった。

 

 「おっエミヤの旦那!!寄ってかねぇか?いい魚が入ってるぞ。」

 

 「エミヤさん。こっちも見てきませんか?新鮮な野菜もありますよ。」

 

 エミヤと呼ばれた男はこの市場の常連客の一人だ。この市場で商いをする商人達の中で知らない者は居ないだろう。

 

 「・・・ああ、すまない・・・先を・・・急いでいる。今日の所は・・・遠慮しておこう・・・」

 

 そう言い残し、彼は真っ直ぐ妖精の尻尾のギルド目掛けて歩いて行った。

 

 だがその足取りは何だか重く体もふらついていた。目も焦点が合っていないようで、時折道端の箱や塀に体を預けながら前に進んでいるという印象もあった。

 

 「珍しいな・・・旦那が脇目も振らずに通り過ぎるなんて。」

 

 いつもの彼ならば一度は足を止め、食材を吟味して買って行くはずなのだ。

 

 「ですね・・・いつもとは様子も違いましたし・・・」

 

 彼らはエミヤの不自然な仕草を気にしたが、それ以上に追求せずにただの思い過ごしと判断した。

 

 故に見逃してしまったのだ。エミヤの体から滴り落ちていた紅い液体の存在に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日もいつも通り日常が妖精の尻尾ギルド内で流れていく。

 

 飯を食い、酒を飲み、喧嘩という名のじゃれ合いを繰り返す。

 

 食器や椅子どころか酒樽や机なども飛び交い、軽い戦争地帯のようになってしまっている。

 

 仲裁役の居ないギルドの酒場はいつもこうなり、それを片付けるのはいつも決まって争いに関係のない者達である。

 

 だが今のオレにそんなお人好しな気持ちは沸いてこない。

 

 「あっエミヤ。おかえりなさい。」

 

 普段から聞き慣れた声が気がした。それは近くで聞こえてきているはずなのにどこか遠い場所から語りかけてくるような、そんな感じがした。

 

 「・・・」

 

 故に返事を返す事を忘れてしまった。同時に襲い掛かって来る虚無感と脱力感に身体中で張っていた力が抜ける。

 

 「えっ、ちょっと!?」

 

 先程声を掛けて来た女性、ミラジェーンにもたれ掛かってしまった。少し顔が赤くなっているが気のせいだろうか?

 

 「・・・済まないミラ、少々疲れてしまってな・・・身体を預けてしまうが、済まない。」

 

 「・・・え?」

 

 振り絞っていた残りの力が枯渇した。皮膚と筋肉が栓の役目を果たせなくなり傷口から紅い血が大量に流れ出す。

 

 朦朧としていた意識を完全に手放し、オレは闇の中に溺れて行った。

 

 絶えず聞こえて来る仲間が叫ぶオレの名も、耳から入っても心まで到達しなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次にオレの意識が覚醒したのは見知った天井の下。

 

 頭が働き出したオレはまずは自分の腕を、その次に全身に目をやる。

 

 不器用だが包帯が全身に巻かれており、血は完全に止まっていた。

 

 浅黒い肌も鉄が混じったような白髪も白い包帯で覆われており、今の状況を知らぬ者が見ればベッドの上にミイラが置かれているようにしか見えないだろう。

 

 遅れて状況を飲み込み始める。

 

 どうやら誰かが治療してくれたらしい。

 

 ベッドの横には赤い染料を入れたようになった水が入った洗面器とタオル。これは血に濡れたオレの体を拭いた証拠だ。

 

 ここで得られる情報は粗方集まった。次は酒場に出よう。

 

 酒場へ続く扉の取手に手を掛けた時、向こう側の声が聞こえてきた。

 

 曰く、山脈地帯の森が山ごと抉られたらしいと

 

 曰く、この世の物とは思えない紅蓮の光の奔流を見た奴がいると

 

 曰く、鮮やかな花がそれを受け止め混ざり合ったと

 

 皮肉にもそれらは全て知っている内容だった。

 

 「というより、当事者側ではないか。」

 

 これは始末書物だなと、オレは深い溜息をついた。実際に書くのは総長だがな。

 

 まあ説明するにもオレが出なければ話が推測の域を出ないだろう。

 

 霊体化し、怪我の状態を一度リセットする。そのまま酒場に向かって壁をすり抜けて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「それで、修復はどうなっておる?」

 

 「自然に任せれば数百年単位。自然の魔法を使っても僅かに早めるのがやっとかと。」

 

 総長であるマカロフとエルザがなにやら話し合っていた。

 

 話題はつい先日起きた森林の大規模破壊について。

 

 突如大爆発が起き、一帯の森林は全滅。山も抉られて平面になったらしい。残ったのは炭となった木々の残骸のみという大災害だ。

 

 周辺の集落からは大分離れていたようで、軽い地震による負傷者が数人といっただけというのが救いだ。

 

 だが森の消滅による生態系の変化と森から取れる山菜や薬草の欠乏は見逃せる物ではない。

 

 実際に周辺住民からの苦情も多く、評議院は対応に忙しいそうだ。

 

 これを起こせるのは評議院が所有する超絶時空破壊魔法の『エーテリオン』だけだ。

 

 だがエーテリオンがそれほどの威力を持っていても、使うことは出来ない。

 

 使用するには条件があり、基本は存在するだけで危機感を与える『抑止力』だからだ。ついでに威力も範囲も及ばないらしい。

 

 だとしたら一体何が起きたのか。情報が足りない評議院は全魔導士ギルドに調査をクエストという形で出した。

 

 特に妖精の尻尾は当時依頼を受けて近くに出向いていたエミヤがいるため、有力な情報が期待されている。

 

 「とにかくエミヤが起きない限りは動けんのぅ。」

 

 「ですがあの怪我です。数日は目を覚ませないと思いますが。」

 

 「エミヤ程の魔導士があんなにボロボロになるなんて信じられないけどね。」

 

 エミヤの治療をしたエルザとミラは怪我の具合を見ているからこそ言動だ。

 

 身体中に刺傷、裂傷、骨は折れていない物の方が少なく、筋肉は神経ごと断裂しており、内臓にも被害がいっているようにも見えた。

 

 むしろ生きていることの方が奇跡であり、命に別状がない彼は一種の人外とも言える。

 

 「それじゃあワシは一息入れるとするかのう。」

 

 目を覚ましたらまた集まってくれぃと言い残し、 マカロフは退出する。

 

 「それより、あれだけ慌てていたエルザを見たのは久々ね。」

 

 「うっ。もう過ぎたことじゃないか。あまり掘り起こさないでくれ。」

 

 「うふふ。もう一回見たいなぁ。」

 

 ナツとグレイが居たら確実にこのネタで一週間は弄られていただろう。

 

 (時期はナツがS級クエストに行って後、エルザが追いかけるまでの間)

 

 そう胸を撫で下ろしてホッと一息付く。

 

 「もうちょっと自分の気持ちに素直になってもいいんじゃない?」

 

 「・・・どういう意味だ?」

 

 確かにエルザはエミヤに仲間以上の想いを抱いていると気づいているがあくまで憧れが強い物であり、異性に向ける愛とは違う・・・と自負している。

 

 「起きたらどんな反応をするか今から気になるんじゃないかしら?」

 

 「別に礼を期待して処置した訳じゃないぞ。大体あんな雑じゃ喜ばれるどころか、文句の一つが飛んできそうじゃないか。」

 

 どんどん顔が赤くなっていくエルザを面白可笑しく見るのが最近のミラの楽しみらしい。

 

「さぁね。彼結構な皮肉屋だけど根は真っ直ぐだから案外素直に喜ぶんじゃないかしら?」

 

 「そうか?」

 

 「そうだな。おかげで幾分か楽になったさ。」

 

 年頃の女性からは決して発せられない低い声。彼女達二人しか居ない筈の部屋からそれが聞こえる。

 

 「きゃ!?エミヤ!驚かせないでくれ。」

 

 「フ。それは済まないな。」

 

 そこにはいつもと変わらない笑みを浮かべた男が皮肉混じりの言動で二人に礼を言いながら近くの椅子に腰を掛けて座っていた。

 

 「おかしいわね。こんな短時間で治る傷じゃなかったはずよ。」

 

 見た限りでは傷は一つ残らず治ってしまっている。ただ治りきっていないというのは事実らしく、笑みで傷みを堪えて隠しているようだ。

 

 「それは殆どのサーヴァントが保有している霊体化、それの利点の一つを利用した結果だ。」

 

 「霊体化?」

 

 「その名の通り体を霊体にすることで透明化して実体するあらゆる事象からの干渉を無効化する。本来は英霊の所持を他人から隠したり、魔力の消費を抑えたりする物だが、再び実体化する時に魔力で体を再構築するから、例え元から所持していた服装が破れていようが、多数の傷を負っていようが、腕をズタズタにされようが、五体満足で実体化できるというわけだ。・・・流石にダメージや減った魔力までは消せないがね。」

 

 暫くは箸すら持てんかもな。と続ける。

 

 「そ、そうか。なら仕方ない。わ、私が看病してやろうじゃないか。」

 

 「いやそもそもサーヴァントには食事も睡眠も不要なのだが。」

 

 (あっ、ちょっとだけ勇気だしたわね。)

 

 噛み噛みだったが必死な様子は伝わって来る。ナツ達がいない分大胆になってきている。

 

 「さて、話せる位には回復してきたからな。総長を呼んだら一部始終を説明しよう。」

 

 「エミヤ、やっぱり貴方が関わってるの?」

 

 「まあ、そうなるな。彼処で起きたのは・・・」

 

 一瞬の間を開け、事の重大性を浮き立たせる。

 

 ーーー古の英霊同士の剣戟と云えば、分かりやすいかね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれは依頼主に挨拶をを兼ねて依頼内容の確認に行った時のことだ。

 

 「既に依頼が達成されている?」

 

 依頼主は街の代表。腕っぷしはさっぱりみたいらしいが、誠実な言動が評価されているのだろう。実際対応もしっかりしていた。

 

 「はい。そちらから受注の報告が入って数十分後に一人の鎧を着込んだ方が現れ、あっという間に討伐対象の魔物を狩り終えました。我々は依頼を受けた魔導士の方だと思い、報酬をお渡ししようしましたが、自分は違うと言ってお受け取りになりませんでした。せめておもてなししようとしましたが、あっという間に去ってしまいましたのでお礼も言いそびれてしまいました。」

 

 仮にもS級クエストとして討伐に出されている魔物だ。あっさり狩れる物でもあるまい。

 

 「そうか。とにかく討伐は完了したんだ。おめでとうと言葉しか掛けられないが、済まないな。」

 

 「いえっ、此方も大変感謝しております。心残りがあるとすれば、報酬を払えていないことです。よろしければ旅費の代わりに受け取って頂けないでしょうか?」

 

 「悪いが受け取れないさ。その方に払うべき報酬だからな。受け取らなかったということはそちらで使えということだろう。受けた被害の復旧の予算に加えておくといい。」

 

 「何から何まで申し訳ありません。」

 

 「礼を受ける程の事ではあるまい。まあ代わりにその人の特徴を教えて貰えないか?感謝の心を伝えておくよ。」

 

 「それはありがたいです。」

 

 それから特徴を聞いたオレだったが、心当たりはなかった。

 

 その戦闘力を聞く限り並大抵の実力者を凌駕しているだろう。

 

 だが現界している間全ての記憶を引き出しても一致する者はいない。

 

 飛龍を模した群蒼色の甲冑を身に纏い、枝分かれした棘のような物がついている黒槍を武器とする騎士の情報はない。

 

 実力者であることは間違いないが、少なくとも現存する騎士や魔導士の中に該当する人物はいない。

 

 声に関しても兜のせいで籠って聞こえていたため、男か女ということも推測が難しく、ハッキリ言ってお手上げ状態だ。

 

 そのため現在はその騎士が去った方へ向けて歩いている。

 

 何故か心に引っ掛かったからだ。

 

 限りなく低い可能性であるが、『現界したサーヴァント』ではないか?という直感で感じたからだ。

 

 どこからそんな妄想に辿り着いたかオレにも分からないが、不思議と間違っている気はしなかった。

 

 暫く歩いている内に大分集落や街から離れていた。

 

 森の中らしく薄暗く、魔力を宿した草やキノコ、薬草等から魔力の微粒子が出て漂っている。

 

 常人が吸い込めば体になんらかの不都合が起きるだろうが、サーヴァントとしての抗魔力のスキルが役立っているようだ。

 

 そして先程から此方を伺っている視線が多数。何れも此れも敵意と殺意に満ちた物であるため、恐らくオレを喰おうとする魔物の物だろう。

 

 仕掛けてこれば追い払うが、害がないなら放っておいてもいいレベルだ。

 

 「流石に引き返したか?」

 

 常に真っ直ぐ進んでいたため何処かで進行方向を変えれば見失ってしまうだろうから仕方ないだろう。

 

 「取り越し苦労か。まあいい帰るとしようか。」

 

 縁があれば会えるだろうと捜索を諦めた瞬間だった。

 

 「ッ!?」

 

 先程の魔物達のそれとは次元が違う圧倒的な威圧感。オレでさえ反射的に獲物を投影し、冷や汗が頬を蔦っていた。

 

 周りの生物は小動物や鳥はおろか、魔物でさえその殺気に驚き本能に従って一瞬で逃げ去ってしまった。

 

 「誰だ!?」

 

 この全ての生物を凌駕する存在感は、間違いなく英霊のそれだ。それも並の英霊ではない。

 

 例えるならクランの猛犬やギリシャの大英雄や征服王のような最高位の英霊クラスの物だ。

 

 オレとは決して釣り合わない格の持ち主の気配にオレは体が硬直しかけていた。

 

 本能的に怯えてしまったオレの体は心と本能で活を入れ無理矢理動かす。

 

 だがその殺気にほんの僅かだが疑惑の念が混ざっていた。それにこの気は以前感じた事がある気がする。

 

 「ほう。私をつけて来る勇敢な者がいると思えば、貴様も英霊か。」

 

 「やはり君も英霊だったか。」

 

 疑問が確信に変わるとはこのことだろう。実際に会って見れば分かるが、やはり人間とは格が違う。言葉に含まれるカリスマも親から受け継いで成っただけの王のそれとは比べ物にならない。

 

 「それで、私に何の用だ?こんな偏狭の奥地まで追って来るとは中々私に御執心と見えるが?」

 

 「いや、そういう疚しい気はないがね。街の者からの感謝の意を伝えに来ただけさ。」

 

 「そういう事か。感謝される程の事ではない。食糧調達のついでに民を救ったまで。王として成さねばならぬ義務だ。」

 

 「人はそういった救世主を崇める物だ。もっと誇りに思うといい。」

 

 「王として誇れる程の事をしていないからこそ、義務として行ったまでだ。かつて滅ぼした民への贖罪としてな。」

 

 数手言葉を交わしてみたが、害意や悪意は見当たらない。つまり泳がしておいても問題ないということだ。

 

 「私は要件が済んだのでな。この辺りで帰らせていただくよ。」

 

 「待て。」

 

 背中を見せようとした時、謎の英霊に呼び止められる。

 

 「英霊が相対した時、やるべき事があるではないか。」

 

 「・・・聖杯戦争はとうの昔に終幕を迎えた。むしろ我々二人は背中合わせで離れるべきだと思うがね。」

 

 「つれない事を言うな。私が興味を抱いたのだ。少々付き合え。」

 

 そうして霊体化させていた槍を実体化させ、構えを取る。

 

 「実はな、私はお前のような男に覚えがある。掠れているが眩しくな。」

 

 「奇遇だが私もだ。君に似た少女をよく知っている。」

 

 無意識に干将と莫耶を剣を投影し構えていた。

 

 「行くぞ・・・」

 

 「お手柔らかに頼むよ。」

 

 鳥が飛び立つ羽ばたきの音が始まりの合図となる。

 

 先手は相手側。黒染めの魔槍で突く。オレはそれをいつも通り受ける。

 

 速く、重く、急所を狙う鋭い一撃。かつて幾度も戦いを繰り返した青い槍兵に次ぐ物がある。

 

 だが小手調べの域を出ていない。この程度捌けねば英霊としてかの者達の横に立てるものか。

 

 だがオレの意思は強硬でも剣の耐久は意思で強力になることはない。

 

 弾かれ、叩き落とされ、砕かれる。

 

 普通はこれで無手だが、オレはこの面だけは普通ではない。イメージさえ失わなければ燃料次第で無限に生み出せる。

 

 「む?」

 

 素手となったオレを守ったのは、両手に握られた二振りの夫婦剣。先程と寸分違わぬものだ。

 

 突然の出来事を考察するためか、一旦距離を取った。

 

 「刀匠の英霊とでも言うのか?鍛治職人がこれ程の剣技を持つとはな。だが才による物ではないな。凡才が努力を積み重ねた果て。だが極地であることは変わらん。」

 

 「ご名答と言うべきか。大した洞察力だ。確かに私に与えられた才能は剣を創ることだけだ。剣そのものは死線をくぐり抜けた報酬とでも言うべきか。尤も、その原点はとある女性との鍛錬だったが。」

 

 「貴様程の凡人を創った要素の一つだ。余程素晴らしい女性なのだろうな。」

 

 「ああ。私如きが手を触れる事すらおごましい。高潔で、勇猛と可憐を合わせ持っていて、そして・・・その在り方は本当に君によく似ている。」

 

 暫く静寂が生まれる。互いに互いの言葉を頭の中で何度も反芻し再生しているからだ。

 

 それを破ったのは、甲冑が地に落ちる金属音。全身を覆っていた鎧から姿を見せたのは・・・

 

 「・・・私はやはり貴方を知っている。その全てを背負った傷だらけの背中を・・・」

 

 「私も君に心当たりがある。君のように王の責務に縛られた少女をな。」

 

 特徴的なのは色褪せた金髪と碧眼。露出が多い分胸の谷間がよく目立つが、スタイルは抜群と言えるだろう。

 

 「お喋りはこの辺りにしておこう。鎧を脱いだ分、速度が上がるが、ついて来れるか?」

 

 「ついて来れなければ、その時が私の死に際だ。」

 

 「そうだな。」

 

 前から聞こえていた声が後ろから聞こえて来る。直感と反射で彼女の一突きを回避する。体からは魔力が硝煙が立ち上るように漏れている。

 

 「魔力放出のスキル・・・それもAランク相当ッ!?」

 

 「分析する前に体を動かせ。」

 

 またもや背後に周り込まれる。振り向いた時に残されているのは放出された魔力と槍が付けた刺傷。

 

 「どうした?まだまだ上げるぞ。」

 

 「があッ!?」

 

 直後にオレの全身から血が噴き出す。それが一瞬で付けられた傷による物だと推察するのに時間はいらない。

 

 元々ランサークラスに選ばれる英霊は最高位の敏捷を持ち合わせている者が多い。それが魔力放出による推進材を使ってるのだ。瞬発力は並のランサーを軽々凌駕する。

 

 勿論オレが追えるような物ではない。先読みに先読みを重ねれば対応できないことはないが、一歩踏み外せば致命傷だ。

 

 「ハッ!!」

 

 オレは体中に剣を投影し、即席の鎧を作る。鎧とはいえ針鼠のような物だから近寄ればダメージを受けるのは敵側だ。代わりにオレの体を切り裂く諸刃の剣でもあるが。

 

 「愚かな。切り返すためだけに自分で自分を傷付けるとはな。」

 

 「生憎だが慣れた物だ。実際結果は出している・・・無駄ではあるまい。それにこの距離は、私の間合いだ。」

 

 瞬時に弓と矢を投影し、つがえる。

 

 「侮っていたのは私か。だが甘いな。もしもこの槍がその間合いを埋めてしまえるものならどうする?」

 

 「・・・」

 

 ハッタリでないといえことは分かりきっている。騎士は自分を有利にするために嘘を吐く人種ではないからだ。

 

 魔力を集中させ、黒槍の真名が解放される。

 

 最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)

 

 それはアーサー王が所有する宝具の一つで、かの聖剣に次ぐ槍。

 

 アーサー王はこの槍を用いて自らの子供であるモードレッドの命を奪っている。

 

 「そうか・・・やっぱり君は・・・」

 

 「受けてみよ。この一撃を!!」

 

 放たれたのは紅蓮の閃光。魔力の奔流がオレを飲み込まんとするべく、荒れ狂い襲い掛かる。

 

 「何故避けようとしない?」

 

 「騎士の必殺を避けるなど、君の誇りが許さないだろうに。それに勝ちを確信するのはいいが、その一撃、私の(アイアス)を貫けるかな?」

 

 ―――I am the bone of my sword.(―――体は剣でできている。)

 

 熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)

 

 現存魔力を限界まで込めて創るのは、仄かに輝く七つの花弁を模した盾。

 

 元はトロイアで使われた英雄アイアスの盾の内の『あらゆる投擲武器の攻撃を防ぐ』という概念のみを抽出したオレの最高の守り。

 

 展開した瞬間、紅蓮の光とぶつかり合い、辺りを閃光で覆い尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後に残ったのは無傷の彼女と満身創痍の傷を負ったオレのみ。

 

 覆い繁っていた自然は全て燃え尽き灰になっていた。

 

 結果だけで言えばアイアスはロンゴミニアドの解放された魔力を受けきった。

 

 だが盾以前にオレ本体の体力がもたなかった。魔力の余波に晒されただけでこの有り様だ。

 

 「一ついいか?」

 

 「・・・」

 

 殺気と警戒心が消えた。オレを脅威と認識しなくなった結果だろう。

 

 「貴様、何故本気でやらない?」

 

 「・・・何のことかね?」

 

 苛立ちが限界を越えたのか、彼女はオレの胸ぐらを掴み引き寄せてロンゴミニアドの切っ先を喉元に突き立てる。

 

 「惚けるな!!今思えば最初からおかしかった。貴様はただの一度も攻勢に転じなかった!!機会などいつでも作れたはずなのにな!!弓を構えた時も威嚇だけ。結局貴様は一度たりとも手を上げなかった!!貴様は私を、騎士王を愚弄する気で受けたのか!?」

 

 「違うな。いいか?既に君が担っていたブリテンは存在しない。遠く離れたこの時代に現れた君は既に故人だ。騎士でも王でもなくただのアルトリアなのだよ。」

 

 「まさか私がただの女というだけで手を上げなかったというつもりか?」

 

 「正義の味方が女性に手を上げたらおしまいだろう?」

 

 「・・・心も論戦でも私の負けか。」

 

 「勝ちも負けも存在しないよ。答えを得た者が勝者だ。」

 

 「そうだな、シロウ。」

 

 彼女の手がオレから離れ、決着が着いた。勝者も敗者も居ないが、少なくともオレは満足している。

 

 物理的な危機から救うだけが正義の味方ではないのではと最近思うところがあった。

 

 こえした頑固者に違う道を諭すのもまた違う正義の在り方ではないのだろうかと。

 

 その証拠に彼女は微かに笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オレは今までの出来事を大まかにだけ説明した。

 

 アルトリアの事は伏せ、ただ宝具同士のぶつかり合いによる被害とだけ伝えた。

 

 アルトリアの事が漏れてしまえば、重要参考人として拘束ないし処刑される可能性も出て来る。

 

 捕まることはないにしても、確実に肩身の狭い思いをするはずだからな。

 

 歩ける程度にまで魔力が回復したオレは、自宅への帰路についていた。

 

 「それにしても、彼女は一体・・・」

 

 少なくとも、私が知っているアルトリアはあそこまで成長していなかったし、あんな胸も大きくなかった。

 

 推測では『こうなっていたらこうなる』というもしもが反映された存在というもの。

 

 「まあ置いてきた今となっては確かめる事もできないが。」

 

 そりゃ流石に『お前を私の婿にするっ!!』なんてどこかの黒兎のような事を言われれば身の危険を感じずにはいられないだろう。

 

 こういう時は逃げた者が勝ちというのは古今東西変わらぬ事実であろう。

 

 町の郊外の一角にオレの家は建っている。

 

 建築屋に無理を言って作って貰った和風の家、というよりオレが衛宮士郎だった頃を過ごした家と瓜二つだ。

 

 オレの記憶が確かな分だが、内部構造は勿論土蔵も再現済みである。

 

 当然電気やガス、水道と言った類の物は当時の物は使えないが、それら全て魔法で補えるため、公害等の自然汚染に気にしないで使えるのはプラスだ。

 

 敷地の中に入ると、暗いはずの部屋に明かりがついていた。

 

 「・・・なんだろう。セイバーではないのに嫌な事が起きると直感が囁いている・・・」

 

 意を決して玄関の引き戸を引いて開ける。

 

 「お帰りシロウ。ご飯にするか?お風呂にするか?それとも・・・」

 

 「いや待て。何故君がここに居る?」

 

 何故か玄関で待機している騎士王ことアルトリア。ご丁寧に正座をしてエプロンを付けることで如何にも良妻だという雰囲気を醸し出している。

 

 「何故も何もない。シロウの気配を辿ってきただけだ。」

 

 「一体どこで選択肢を誤った?」

 

 流石の幸運ステータスを恨むしかなかった。

 

 「そうかそうか。つまり私を選ぶということだな。」

 

 「待て待て。どこをどう解釈すればそうなる?」

 

 よく見れば今の彼女の柔肌を隠しているのは白いエプロンただ一つ。所謂裸エプロンと言われる物だ。

 

 「そうだ今やろう。ここでやろう。すぐやろう。」

 

 明らかに危ない目をした騎士王が、その異様な威圧感に仰け反り壁際まで追い詰められたオレに這い寄って来る。

 

 「な、何をするだァーッ!」

 

 「何とは何だ。愛し合う男と女の夜の営みという物であろう。」

 

 騎士王という責務から解き放たれた結果がこれというわけか。欲望に忠実になり過ぎておられる。

 

 あの高潔で気高き騎士王が、匠の手により御覧の有り様に。誰だよその匠は・・・オレなのか?

 

 「フッフッフ・・・貴様に私の全てを注ぎ込んでやろう。肉体的にも精神的にも・・・性的にもな・・・」

 

 「オイィ!?」

 

 だが盛大に何も始まらない。




そのうち追加されるであろう槍トリア様を登場させました。

完全な勢いで書いたため、文章の前後で辻褄が合わない箇所があるかもしれません。

性格や口調も完全オリジナルなため、違和感を感じる可能性があります。

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