ガンダムビルドファイターズ ドライヴレッド   作:亀川ダイブ

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 約二週間ぶりの更新となりました。ガンプラ・執筆・リアル労働と三足のわらじはさすがに時間が足りませんね(泣)
 これからものんびりやっていこうかと思いますので、どうぞよろしくお願いします。


Episode.08 『レギオンズ・ネストⅢ』

「……エイト君。無事でいてくれよ……!」

 

 そう祈りながら、ナノカとビス子がジャブロー地下の縦穴を翔け上がる――その時点から、数分ほどさかのぼる。

 ジャブローの密林に響き渡る、いつ途切れるとも知れないガトリング砲の轟音。全日本ガトリングラヴァーズの一斉射撃が自分たちのHLVを穴だらけにしていく様を、エイトは茶色く濁ったジャブローの水路の中から見守っていた。F108頭頂部のメインカメラと赤いブレードアンテナだけが水面から出ており、さながら潜水艦の潜望鏡のようだ。

 

「なんて偏ったガンプラだよ……ヘビーアームズよりひどいんじゃあないか」

 

 チーム三機が三機とも、全身にガトリング砲を満載しているガンプラたちをそう酷評しながらも、エイトは冷静にタイミングを計っていた。あれだけの掃射だ、数十秒もあれば弾は尽きるはず――エイトがぐっとコントロールスフィアを握り直したちょうどその時、ぱたりと轟音が鳴りやんだ。

 

「……よし、ここが好機!」

 

 掛け声と共にバーニアをフルブースト。水飛沫をまき散らしながら、F108が水路から地上へと躍り出た。警戒していた迎撃すらなく、なぜか呆然と棒立ちになっている全日本ガトリングラヴァーズのガンプラたちに突撃し、両腕のビームブレードを閃かせる。

 

「らあぁぁぁぁっ!」

 

 ダブルゼータの改造機を胴斬りにし、蹴り倒す。その反動で高く跳び上がり、ガンキャノンベースのガンプラに大上段からビームブレードを叩き付けた。縦に両断されたガンキャノンが爆発する前に、F108はさらに跳躍。バーニアの炎の尾を引きながら最後の一機に肉薄した。

 

『た、弾切れを狙ってくるとは!』

「考えなしに撃ちまくって、よく言う!」

 

 ようやく動き出した最後の一機が悪あがきに腕のガトリング砲で殴りかかってくるが、エイトはF108の小柄なボディを生かして攻撃をすり抜けた。同時、敵ガンプラの股間の位置から突き出していたガトリング砲を斬り落とす!

 

『お、オレの、オレの大事なあ……!』

「見栄を張るからぁーっ!」

 

 ザンッ! F108のビームブレードが、背中側からコクピットを貫いた。引き抜き、上空へ離脱――一瞬の間をおいて、爆発。

 

「よし、とりあえずの作戦は成功か……」

 

 鉄くずと化したHLVと、ガンプラ三機分の残骸を見下ろして、エイトはほっと一息つく――が、しかし。

 ビィーッ! ビィーッ!

 

「接近警報!? 上かっ!?」

『はァァッ!』

 

 反射的にF108を動かしたその直後、さっきまでF108がいた位置を、凄まじい速度の何かが駆け抜けていった。その何かはまるで矢のように一直線にジャブローの森へと突き刺さり、その着地の衝撃波で半径数十メートルにわたって密林の木々を薙ぎ倒した。

 

『……弾切れの相手を狙うなんて、ハードボイルドじゃあねえな』

 

 同心円状に木々が薙ぎ倒されたその中心に、ペイルライダーらしいガンプラが、やや演技がかったポージングで立っていた。

 その造形もカラーリングも、かなり独特。顔はガンダム系ともジオン系ともつかない、昆虫の複眼を思わせる巨大な眼が光っている。体はまるでど真ん中で二つのガンプラをくっつけたかのように、色が違う。左半身は黒、右半身は緑……そして、風にたなびく銀色のマフラーを巻いている。

 

「その顔、その色……ペイル……ライダー(・・・・)!? まさか!」

『ペイルライダーWだ……さあ、お前の罪を数えろ』

 

 ペイルライダーWを捉えたレーダー画面に、新たな情報が表示される。チーム・ペイルライダーズ。敵の仲間のあと二機も、すぐ近くに迫っている。

 

『オレの超・必殺技、パート2!』

「ってことは……っ!」

 

 振り下ろされた真っ赤なビームサーベルの一撃を、F108はビームシールドで受け止めた。しかし衝撃を殺し切れず、地面へと叩き落されてしまう。

 

『オレ、参上ッ! 最初っからクライマックスだぜ!』

「四人集合バージョンかよ……っ!」

 

 機体名は間違いなく「ペイルライダー電王」だろう。赤をベースにしつつ、青・黄色・紫を取り入れたカラフルなペイルライダーが、ややガラの悪い感じでポージングを決めていた。

 地面に落ちたF108に追い打ちをかけるように、真っ赤なボディをしたペイルライダーが猛スピードで突っ込んできた。脚部に高速疾走用のタイヤを装備しているらしいその機体は、柄の部分にハンドルのようなものがついた実体剣を構えている。

 

『ペイルライダードライブだ! ひとっ走り付き合えよ!』

「お誘いは光栄ですけど……っ!」

 

 駆け抜けながら繰り出される斬撃をビームブレードで弾きつつ、エイトは体勢を整える。

 

(三対一か……まずは回避を徹底する!)

 

 ビームライフルを乱射しながら、後退。エイトは一度、ペイルライダーズとの距離をとった。

 

『多対一で可哀想だが……攻め切らせてもらうぜ。マキシマムブレイク!』

『行くぜ行くぜ行くぜーっ! オレの! 超・必殺技!』

『フルスロットルだ! ファイア・オール・エンジン!』

 

 一方のペイルライダーズは攻撃を優先し、それぞれが技の構えに入った。

 その判断が、明暗を分けた。

 ド、ド、ドオォォォォォォォォォッ!

 ビュオォォォォォォォォォォォォッ!

 野太いビームの閃光が、視界を埋め尽くすほどの密度でペイルライダーズを飲み込だ。凄まじい光の濁流に押し流されて、ペイルライダーズの姿は一瞬にうちにかき消されてしまった。

 

「また新手……っ。ミノ粉が濃い、索敵がまともにできやしない……っ!」

 

 戦況確認ウィンドウ上でチーム・ペイルライダーズの文字が光を失い、代わりに接近警報の表示と共に二つのチーム名がピックアップされる――「サーティーン・サーペントB」そして「サーティーン・サーペントF」。

 次々と撃ちこまれる太いビームキャノンの砲撃をビームシールドと回避運動でしのぎながら、エイトは敵チームのガンプラを確認した。うっそうと生い茂る密林の木々の間から、太い脚と盛り上がった肩、巨大なビーム砲を構えた重モビルスーツが見え隠れしている。

 サーペント・カスタム――ガンダムWの外伝、EW(エンドレスワルツ)において、マリーメイア軍が使用した高性能量産型重モビルスーツだ。ミリタリーなグレーの配色だった原作とは異なり、ツヤのある白黒のツートーンで塗装されたその姿は、まるで黒服を着込んだ要人警護のSPのようだ。

 それが、全部で六機。2チーム分のガンプラが、両手に一門ずつ腰だめに構えたビームキャノンを絶え間なく撃ち続けながら、F108への包囲をだんだんと狭めてきている。もしここが密林ではなく市街地だったら、EW最終決戦のワンシーンのように見えたことだろう。

 

「機体が統一されている……チーム名から考えても、最初から仲間か……!」

 

 扇形に展開し、着実に獲物を囲い込む連携の仕方から見ても間違いない。このサーペント・カスタムの集団は最初から仲間同士だ。

 レギオンズ・ネストでは、チーム同士の同盟は一切禁じられていないのは確かだ。グループ分けはランダムだが、「B」や「F」というチーム名から考えて、相当な数でチームを組み、エントリーしているのだろう。運次第ではあるが、各グループに複数の「サーティーン・サーペント」がいる計算になっているに違いない。

 ドズル・ザビ曰く、「戦いは数だよ兄貴」だ。そういう戦略をとるチームがあってもおかしくない。大規模多人数同時参加型(MMO)ゲームであるGBOではなおさらだ。

 

「そんなに大きなチームなら、ナノさんやビス子さんなら何か知ってるだろう……なっ!」

 

 直撃コースのビームキャノンをビームシールドで弾き、エイトはF108を再び水路へと飛び込ませた。水中ではビーム兵器の効果は薄い。追ってくるにしろ、少しは――

 

『時間が稼げる、とでも思ったか?』

「――伏兵!」

 

 泡立つ水流を貫くように、鈍く鉄色に光るナイフの刃がエイトの目の前に突き出された。咄嗟に身をかわすが、剣先が肩をかする。ギャリリリリという耳障りな音と、小刻みな振動。すっぱりと切り裂かれた装甲――高周波振動刃(アーマーシュナイダー)の類か!?

 

『貴様にお嬢さまと戦う資格があるか、このサーペント・サーヴァントで見極めさせてもらう!』

 

 通信機から凛とした女声が響く。四角いカメラ・アイを鈍く光らせた黒白ツートーンのサーペント・サーヴァントが、次々とナイフを繰り出してくる。刺突を主とし、関節部や目、首を執拗に狙ってくる絶え間ない連続攻撃は、まるで軍隊式の格闘術のようだ。

 

「七機目の……っ!? 2チームじゃあなかったのかよ!」

 

 エイトはビームブレードの刃を短く絞って展開。流れるようなナイフの連撃を切り払いながら、敵機の情報を確認した。

 サーペント・サーヴァント――BFN:ラミア。チーム・スノウホワイト。

 明らかに違うチーム名のファイターが、なぜ共通した機体を……?

 エイトの意識がその疑問へと逸れた瞬間、ガードをかいくぐったナイフの一突きがF108左腰のサイドアーマーを斬りつけた。鳴り響く損傷報告(アラート)、中に格納していたビームサーベルに、深刻な損傷。爆発の危険アリ。

 

「ちぃっ、迂闊だったか」

 

 回避が遅ければ、股関節を貫かれていた。それよりはマシだ――エイトは被弾したサイドアーマーをパージ、一瞬の間をおいてサイドアーマーは爆発する。ビームサーベルを失ったのは痛いが、その爆発でサーペント・サーヴァントとの距離を開くことができた。

 この機を逃さず、エイトは川底を蹴って水路から飛び出し、上空へと離脱した。

 

「あのナイフ使い、手練れだった。こちらが本命で、追い込みをかけてきたのか……?」

 

 密着するような距離は危険だ。しかし、空へと逃れたF108に、的確に包囲網を狭めていた陸上のサーペント部隊の対空砲撃が襲い掛かる。

 

「くっ、この……単独じゃあ限界かよ!」

 

 バーニアユニットを全力稼働させて機体を左右に振り回し、何とか避けるがそれも長くは続かない。エイトは地上に降り姿勢を低く、密林の木々に機体を隠すようにして走り抜けた。目指すのは、ジャブローの地下空間に通じる縦穴。とにかく、仲間との合流を目指す。

 

「ナノさん、ビス子さん、聞こえますか。囲まれました! 援護をお願いします!」

『ふっ……賢しいぞ、ルーキー! 多少素早い程度ではな!』

 

 ブロロロロロロロロロ――ッ!

 W系統特有の射撃音。ツインビームガトリングの分厚い弾幕が、F108の周囲ごと面で制圧する勢いで迫ってくる。先ほどのナイフ使いのサーペント・サーヴァントが、幅広い水路の水面を水上スキーのようにホバー移動しながら追ってきていた。

 見れば、太もも部分の装甲が展開し、原作設定にはない大型のバーニアユニットが露出している。シールドを背負ったような大型のバックパックにもバーニアスラスターが搭載されているようだ。HG規格のサーペント・カスタムは千円もしない低価格キットだったはずだが、ビルダーの製作技術により完成度はかなり高められているらしい。いくらジャングルに邪魔されて走りにくいとはいえ、小型軽量の高機動型であるF108に追いついてくる機動性とは……!

 後ろから砲撃に追い立てられ、横から弾幕に抑え込まれ、エイトはビームシールドで身を守りながらF108を走らせるので精一杯だった。

 

「くっ……通信は、ダメか……せめて合流地点までは、自力でっ!」

 

 密林が途切れ、エイトの目の前に岩場と泥沼とが複雑に入り混じった湿地が広がった。前方数百メートルほどに、地下空洞とつながる縦穴がぽっかりと口を開けている。エイトはバーニアをより一層吹かして縦穴に駆け込もうとするが、

 

『させんよ!』

 

 ラミアのサーペントの肩部装甲が展開し、ホーミングミサイルを連続発射。エイトは急制動をかけてやり過ごそうとするが、ホーミングミサイルは近接信管を作動させ、エイトの目の前で次々と炸裂。爆圧の壁がF108を猛烈に叩く。

 

「こらえ、られないッ!?」

 

 小型軽量のボディが裏目に出て、F108はまるで木の葉のように吹き飛ばされてしまった。むちゃくちゃな姿勢で宙に浮くF108に、ビームキャノンの、そしてツインビームガトリングの砲口が向けられる。

 

『見込み違いだったか……』

 

 すべてがやけにスローに感じられる中、エイトの耳にその声だけがやけに鮮明に聞こえた。

 スラスター、アポジモーターを総動員、AMBACも使ってとにかく姿勢を――

 

『全機、攻撃を』

「させないよ」

 

 ドゥッ――短く、しかし力強い銃声。ラミアのツインビームガトリングが、サーペント・サーヴァントの左腕ごと貫かれ、爆発した。

 

「待たせたね、エイト君」

「ナノさんっ!」

 

 縦穴のふち、泥沼に膝立ちになってGアンバーを構えるジム・イェーガーR7が、そこにいた。隊長機が腕を吹き飛ばされ、動揺が走るサーペント部隊。その隙にエイトはF108を立て直して着地した。

 

「ありがとうございます、ナノさん!」

「なぁに、礼には及ばないさ。エイト君」

『貴様……ッ! お嬢様から頂戴したこのサーペントを……ッ!』

 

 通信機越しにでも伝わる殺気。画面に顔は表示されないが、ラミアが鬼のような形相をしていることが声だけからでも十二分に感じられる。

 

『サーペント全機! 赤姫(レッド・オブ・ザ・レッド)は私の獲物だ。手を出せば巻き添えにぶち殺すと思え!』

 

 ラミアは吠え、右手のナイフをぞろりと構える。その怒気に中てられ動揺も吹き飛んだのか、サーペント部隊は再びビームキャノンをしっかりと構え、エイトとナノカに照準した――だが、その砲口が細かく振動している。

 いや、違う。サーペント部隊が立つ地面そのものが、地震のように揺れているのだ。

 

「どっせえェェェェいッ!」

 

 ドゴッ、バアァァァァァァァァンッッッ!

 半径数十メートルほどの地面が爆音と共に崩落し、地下空洞に通じる新たな縦穴がぽっかりと口を開けた。サーペント・サーヴァントの一機が崩落に巻き込まれ落下し、必死で壁面にへばりつこうとする――が、その顔面を踏み台にして蹴り落とし、赤く太いシルエットが縦穴から飛び出してきた。

 

「大丈夫かァ、エイトォ!」

「ビス子さん!」

 

 ドムゲルグ・ドレッドノート!

 泥水を蹴散らしながらF108のすぐ隣に滑り込み、弾を撃ち尽くしたジャイアント・バズに新たな弾倉を叩き込む。どうやら、ジャイアント・バズの火力に任せて、地下空洞の天井を吹き飛ばしたようだ。いくらジャブローの地盤が穴だらけとはいえ、なんという力技。なんというゴリ押しだ。

 

「へッ。なんせチームだからなァ、オレサマたちはよ」

「……はいっ!」

 

 ドムゲルグの左拳が、F108の肩を軽く叩く。五機のサーペント部隊が、ビームキャノンを構え、それを取り囲む。少し距離を置いて、Gアンバーのストックを肩にあて膝立姿勢をとるR7。野性的に高周波ナイフの牙をむき、今にも飛び出さんばかりのラミアのサーペント・サーヴァント。

 崩落して新たに空いた縦穴を中心に、全九機のガンプラが睨み合う。

 

『この左腕の礼は、ただ撃破するだけでは物足りん……物足りないぞレッド・オブ・ザ・レッド……ッ!』

「やれやれ、えらく恨みを買ってしまったようだね。あの隊長機は私が抑えよう。増援も警戒しておく、君たちは遠慮なく乱戦に持ち込むといい。ビス子、エイト君を誤爆しちゃあお粗末だよ?」

「はっはァ! てめェこそまとめてブチ撒けてやろうかァ、赤姫ェ? 背中はオレサマに預けな、エイト。てめェが得意のタイマン張ってる間はァ、他の奴らによけいなチャチャは入れさせねェよ」

「お二人とも、頼りにしています……F108は、各個撃破に専念します!」

 

 F108は両手にビームライフルを構え、ドムゲルグのミサイルランチャーがハッチを開いた。R7は狙撃用バイザーを跳ね上げ、中・近距離での銃撃戦に備える。

 

「んじゃまァ、もう一発イっとくかァ! 赤姫ェ、エイトォ!」

「ふふ、いいね。――チーム・ドライブレッド!」

「――戦場を、翔け抜ける!」

 

 地を蹴ったF108の突撃を皮切りに、全てのガンプラが動き出した。

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

「へぇ……生き残ったかよ、エイトのやつ」

 

 エイトたちが乱戦を繰り広げるエリアから、はるか数十キロ。今回の戦闘エリアのほぼ最北端に位置する高台に、伏せ撃ちの姿勢で狙撃銃(スナイパーライフル)を構えるモビルスーツがあった。ジャングルの木々を機体に被せ、即席の森林迷彩装備(ギリースーツ)にしているため、その機影は非常に判別しづらい。

 ただ、何重にも重なった緑の葉の奥で、ブレードアンテナと一体化した一眼の大型カメラ・アイが、狙撃銃のスコープと連動してぐりぐりと動いている。

 

「2チーム全機プラス1で落とせないとは。エイトのやつが予想以上なのか、ご自慢の多すぎる円卓(サーティーン・サーペンツ)とやらがそれほどでもないのか……なぁんて言ったら、あの怖い怖いおねーさんからまーたどやされるんスかね、センパイ?」

「うふふ……わかっていて、おっしゃっているのでしょう。傭兵(ストレイ・バレット)さん?」

 

 わざわざ密林用偽装を被ったタカヤのことなどまるで意に介さぬように、輝く純白の装甲に上品な純金の装飾をほどこされたレディ・トールギスが、ピンと背筋を伸ばした美しい立ち姿を披露している。

 レディ・トールギスのコクピットには、〝ある特別なシステム〟を応用した通信機能により、高濃度のミノフスキー粒子影響下でも、サーペント・サーヴァントたちが補足したすべての情報が表示される。アンジェリカは画面を流れる戦闘の映像を眺めながら、満足げにほほ笑んでいた。

 

「チームメイトの援護が間に合わなければ、ルーキーさんは落ちていましたわ。恐るべきは、赤姫さんの正確無比な狙撃。そして爆弾魔さんの火力――ですけれど」

「……けれど、何ッスか?」

「おわかりでしょう? 装甲を削ってまで機動・運動性能に特化したラミアのサーペントですら、追いすがるのがやっとのスピード。六機ものモビルスーツに包囲され砲撃されても直撃を避けうる回避性能。あの動きにくいジャブローの密林の中で、ですわよ。とても気に入りましたわ……機体も、ファイターも」

「へぇ。じゃあついに、白姫様(ホワイト・アウト)のご出撃ッスか」

「あらあら、気が早いですわね。それとこれとは話は別――わたくしと戦っていいのは、円卓(サーティーン・サーペント)の囲いを突破したものだけですわ」

「へいへい、そーッスかお嬢サマ。じゃあそろそろ、俺もお仕事といきますか。チーム・スノウホワイトの、雇われ狙撃兵(スナイパー)として」

 

 ぼやくようなタカヤの声と共に、伏せていたモビルスーツが立ち上がる。機体に覆い被さっていた木々や葉が落ち、その姿が露わになる。

 目の覚めるような青と銀の、スレンダーなボディ。左右非対称型のGNフルシールド。複数のGNビーム兵器。GNスナイパーライフルを右手一本で保持し、左手はGNフルシールドの中に隠れている。

 

「頼みましたわよ〝傭兵(ストレイ・バレット)〟モナカ・リューナリィさん。私と戦うに値するファイター以外は、あなたの獲物で構いませんわ」

「番犬のおねーさんに怒られそうなことを、よくも押し付けてくれるッスねえ……しかしまあ」

 

 タカヤは唇の端をかるく引きつらせるように笑い、コントロールスフィアを軽く握り直した。太陽炉が唸りをあげてGN粒子を噴き出し、機体がふわりと宙に浮く。

 

「了解はしたッス。モナカ・リューナリィ、デュナメス・ブルー。目標を乱れ撃つ」

 

 まるで慣性を無視するように加速したデュナメス・ブルーは、GN粒子の輝きだけを残してジャブローの空に消えていった。

 そのあとに残る粒子の尾を眺め、アンジェリカはただほほ笑みながらその時を待った。円卓と傭兵の囲いを打ち破った強者が、自身の目の前に現れるのを。

 アンジェリカ・山田――BFN:アンジェ・ベルクデン。

 GBOジャパンランキング十一位、レベル8プレイヤー〝最高位の十一人(ベストイレヴン)〟が一角、〝白姫(ホワイト・アウト)〟にして〝強過ぎた白雪姫(オーバーキルド・プリンセス)〟。

 ジャブローの風に吹かれるレディ・トールギスは、その美しい立ち姿を微動だにさせなかった。

 

 




第九話予告

「ラミアだ。アンジェリカお嬢さまの親衛隊長を務めている。私の愛機、サーペント・サーヴァント(ラミア仕様)は、お嬢さまから頂いた大切なガンプラ。それを傷つけるとは、己の不明を恥じるばかりだ……
「しかしそれ以上に! あの赤姫め、絶対に許さん! この私直々に切り伏せてくれる! 傭兵気取りの野良犬には、ルーキーと爆弾魔の相手でもしていてもらおうか。多すぎる円卓(サーティーン・サーペント)を突破できない者には、お嬢さまの敵になる資格すらないのだからな。
「次回、ガンダムビルドファイターズ ドライヴレッド 第九話『円卓と傭兵』。ああ、お嬢さま……お嬢さまは、ラミアがお守りいたします!」

ガンダムビルドファイターズ ドライヴレッド 第九話『レギオンズ・ネストⅣ』

「……ん? お、お嬢さま! どうしたのですかこのようなところへ……え? じ、次回予告ってこんな感じなのでは……お、お嬢さま、どうしてお笑いになるのですかお嬢さま? お、お嬢さま~!?」



◆◆◆◇◆◆◆



 レギオンズ・ネスト編もいよいよクライマックスです。当初の予定ではⅢで終わりのはずだったのですが、のびちゃいました。
 ついに動き出したタカヤとアンジェ。嫉妬全開のラミアさん。ドライヴレッドの明日はどっちだ!?
 近況報告的なものですが、現在、劇中登場ガンプラを二機ほど製作中です。赤い小さい速いヤツと青い狙い撃つヤツです。近日中に公開したいと思っています。
 感想・批評等お待ちしております。よろしくお願いします。


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