今回のテーマは「MS大運動会Ver.GBFドライヴレッド」です。
過去最長の文章量となってしまいましたが、最後までお付き合いいただければ幸いです!
――西暦20××年 8月15日 12:00。
メモリアル・ウォーゲーム開幕まで、あと三時間――
《ガンプラ大好きっ! ゆかりん☆放送局ぅ♪ すったーとぉう♪》
「……ネットアイドルとしての私を好いてくれている諸兄には、失礼をする。今の私は、GBOJランキング第十位〝
GBOを取り巻く異常事態については、聡明な諸兄のこと、すでに知りおいていると思う。ヘイレベルトーナメントでの、チーム・ジ・アビスによる大会運営への介入。それに続くフィールド崩壊、アバターのガンプラ化。緊急メンテナンスという名の、事実上のサーバーダウン。
そして、現在……ネット上を賑わせる、メモリアル・ウォーゲームなる特別バトル。ある幼い少女に関する、唾棄すべき動画についての噂……。
この非常時において、私たち、一人一人のプレイヤーにできることは少ない。
犯罪的な事象に関しては、ヤジマ商事や警察、法的機関に頼るしかない。せめて、悪意ある流言飛語の類に惑わされないようにすることが、ガンプラバトルを愛する我々としての、最低限の義務というものだろう。
――だが、それでいいのか。
ヤジマ商事・GBO運営本部より、情報の提供を受けた。メモリアル・ウォーゲームは開催される。運営本部の意思とは、無関係に。そして、我々プレイヤー側がこのゲームに敗北した時……件の少女が苦しみ、呻く姿は……全世界に、リアルタイムで配信される。
GBOは、終わる。社会に、世界に、人道に対する、罪を犯したとして。
ガンプラバトルは、終わる。そのような外道を生み出す温床と、非難されて。
少女は、今はまだ、無事だという話だ。ヤジマ商事も警察も、すでに動き始めている。
――あえてここで、もう一度聞こう。それでいいのか。
運営本部からの情報によれば、より多くプレイヤーがこの戦いに加わることで、首謀者の電子戦における動きを遅らせることができるらしい。それは、件の少女を救うことにもつながる……もし我々が負けた時には、件の動画がより多くの人間の目に触れるというリスクとの、諸刃の剣ではあるが。
私は、ガンプラを愛している。ガンプラバトルを愛している。GBOを愛している。
だから私は、私の愛するこの子供じみた趣味を守るため、この戦いに参戦しようと思う。
……一人でも多くの同志諸兄が、戦友となることを願っている」
《ガンプラ大好きっ! ゆかりん☆放送局っ、おっしまぁーい♪ じゃかじゃん♪》
◆◆◆◇◆◆◆
ムラサキ・ユカリによるこのネット配信は、メモリアル・ウォーゲームの開幕までの僅か三時間程度で、数万回もの再生回数を記録した。
ネット上ではGBOやメモリアル・ウォーゲームといった関連用語の検索回数が急激に増え、三日前のGBO緊急メンテナンス突入時を超える勢いで盛り上がりを見せた。必然、今まではGBO関係者や一部の下劣な趣味を持つネットユーザーの間だけでの噂話に過ぎなかった〝幼女人体実験動画〟の存在までもが明るみに出始め、
しかしそれらの盛り上がりは、不自然なほどに、ネット上だけのものだった。まるで、何者かが
――兎も角。GBOをめぐる、ありとあらゆる思惑を、都合を、憶測を、期待を、悲願を、希望を、絶望を、それらすべてを巻き込み・混ぜ合わせ・飲み込んで。
◆◆◆◇◆◆◆
【メモリアル・ウォーゲーム
・多数対多数の、大規模多人数同時参加型バトル。プレイヤー対NPCの非対称戦。
・参加資格は「GBOアカウントを所有していること」のみ。
・プレイヤー勝利条件:ア・バオア・クー最深部に待ち構えるボスの撃破。
・プレイヤー敗北条件:プレイヤーの全滅、もしくは規定作戦時間の経過。
・特殊条件1:ゲームへの途中参加を認める。ただし、撃破された場合の再出撃(リスポーン)は不可。一つのアカウントにつき一回のみの参戦とする。(観戦のみの参加は無制限)
・特殊条件2:プレイヤー側が
・耐久力や損傷・欠損・撃破判定などは、通常のGBO交戦規定に則る。
◆◆◆◇◆◆◆
《BATTLE START!!》
――無機質なシステム音声が、無限に広がる大宇宙に拡散していく。あまりにも圧倒的なそのスケールを前にしてみれば、たかだか設定身長18メートル程度のモビルスーツの存在など、矮小な一個体に過ぎないのかもしれない。
しかし、ドズル・ザビ曰く「戦いは数だよ兄貴」――メモリアル・ウォーゲームの舞台、ア・バオア・クー宙域にずらりとモノアイを並べた公国軍MS部隊の威圧感は、相当なものだった。
新旧様々なザク、ザク、ザク。ドム、ゲルググ、ビグロにザクレロ、ブラウ・ブロ、そしてビグザム。現在前線を張っているのは
総数一万を超えるそれらMSにも、MAにも、全ての艦艇にも、あるマーキングが施されていた。それは
「きゃはは、こりゃまた大勢でお出迎えしてくれたにゃー♪ ぶっ壊したくなるマーキングなんてしちゃって♪」
そんな威圧感をまるで意に介さぬかのように、明るい声色が通信機から響く。それに応える男の声も、どことなく高揚したような声色だ。
「はしゃぐなよ、ヤエ。ま、クソ野郎どものガンプラを食い放題なのは嬉しいがよ。なあ兄貴?」
「ふっ……落ち着け、二人とも。ブルーアストレアよりエルドラド、敵軍を補足している。突撃準備はどうか」
「ふふん、もちろんバッチリにきまってるでしょっ。このアタシを誰だと思ってるのかしら! 黄金郷の宇宙海賊、キャプテン・ミ……」
「おかしら、戦闘宙域に突入したゾ。
「格納庫の馬鹿どもも、さっさと出せって騒いでるぜ。いくぞ、ミッちゃん!」
「んもう、おかしらでもミッちゃんないんだからぁっ! アタシのことはキャプテンって呼び名さいよねっ!」
中世、大海賊時代の帆船を模したかのような、趣味的な内装の艦橋。中央の艦長席にはミッツが座し、舵輪にはテンザンが、羅針盤にはサスケが張り付いている。
不機嫌そうに頬を膨らませながら、ミッツは小さな拳を叩きつけるようにしてSPスロットを解除。何もないかと見えた宇宙空間が、薄布をはがすようにめくれ上がった。そして、ザクたちのモノアイに映ったのは――
「さあ、〝
黄金の一角鯨がビーム製の大角を突き上げ、一息に十機ものザクを轢断し、ドムを撥ね飛ばし、ゲルググを挽き潰し、瞬く間に防衛線を削り取っていく。迎撃のマシンガンもバズーカも、ビーム・ラムと戦艦の装甲の前では豆鉄砲も同然。ゴルディオン・バンガードは、怒涛の勢いで突撃する。
「キャプテン! 前方にチベ級ダ! 進路と交差するゾ!」
「構わないから全速前進っ! どてっぱらにぃっ、ぶちかましちゃええぇぇっ!」
横手から進路に突っ込んできた戦艦級の大型艦を目の前にして、ゴルディオン・バンガードはむしろ加速。メガ粒子砲の砲口がこちらに向くよりも早く、ビーム・ラムの頑強な穂先が、チベの横腹を一直線にブチ抜いた!
凄まじい衝撃に揺れる艦橋、ミッツは艦長席にしがみつきながら、古式ゆかしい伝声管風の通信機に向かって叫んだ。
「だ、第一甲板解放、特別砲台をリフトアップ! さあ仕事よ、トリガーハッピーども!」
ビーム・ラムに貫かれ大破炎上するチベ級だが、まだ主砲が生きていた。ギリギリと火花を散らしながら砲口をこちらに向けようとする。だがその射線を遮るように、ゴルディオン・バンガードの第一甲板が吹き飛び、巨大な影が出現した。
「砲台扱いなんざぁ、むしろ光栄! 撃って撃って撃ちまくるのが、オレらのスタイル!」
「弾倉が空になるまで、もう私たちは止められないわよ!」
重厚な装甲版を積み重ねたようなその巨体はヒト型からは程遠く、まるで戦車ようだった――ただし、
「全日本ガトリングラヴァーズ! G3ガンタンク! 撃ちまくるぜええええええええッ!」
ドガララララララララララララララララララララララララララララララララララララ!!
毎分数千、否、数万発。大小合計七門のガトリング砲が一斉に火を噴き、チベ級を一瞬にしてハチの巣状の鉄屑へと変えた。のみならず、鋼鉄の暴風雨は射程範囲内を無秩序に暴力的に吹き荒れ、ジ・アビスの防衛線をズタズタに引き裂いていく。一発一発がキャノン級の威力を持つ
防衛線の奥深くまで切り込まれてしまったジ・アビス軍は、左右から後方までを包み込むように、数に任せてゴルディオン・バンガードを包囲する。左右と前方に加え、後方からも火線が襲い掛かる。
「ミッちゃ……キャプテン! 挟み撃ちだ、退路を断たれる!」
「気にしない! 後ろは任せたわよ、化け猫娘!」
「きゃはは、化け猫って♪ あとでお仕置きだからねっ、チビっ子ちゃん♪」
悪態を突きつつ、ヤエはしっかりとコントロールスフィアを握りなおした。素早いキータッチで別の相手に通信を繋ぎなおし、ウィンクを投げる。
「カエルさんたち、高校生くんたち! よろしくにゃん♪」
(か、カエルさん、だと……わ、我らは硬派な、軍事の……!)
(こ、高校生じゃねし、高専生だし! べ、別に男ばかりでかわいい女子に慣れていないとか、そ、そんなんじゃねえし……!)
「……こちら〝トノサマ〟、了解した。ミラージュコロイドを解除する」
「こ、こちらジェガンズ! ECMドローンを回収する!」
通信機越しに何やら思いが交錯したようだが、各員の動きは速かった。ゴルディオン・バンガードが深々と抉り取った防衛線の切れ目、敵軍の展開によって塞がれそうになっていたその傷口付近に、ミラージュコロイドとECMドローンの重ね掛けで身を隠していた部隊が出現した。
それは、多種多様なガンプラによる混成部隊。深緑色のずんぐりしたボディに特殊装備を満載した、フロッグメンのズサ・ダイバー。灰白色の追加装甲に機能を特化させた武装を載せた、セイレーンジェガンズのSRGシリーズ。他にも数百ものガンプラが一斉に姿を現したが、その中でもひときわ目を引く、巨大な機影があった。
「我ら、チーム・GPIFビルダーズの! こいつは、こだわりの逸品だ!」
「部屋が狭くなるだけで正直後悔していたけど、作ってよかったぜ!」
「フルスクラッチ
設定全長100メートルを超える、
爆発の花が咲き乱れ、一度は閉じかけた防衛線が、再び真っ二つに分断される。その断面にくさびを打ち込むように、混成ガンプラ部隊は進撃を始めた。ジェガンズはチーム三機の性能差を生かしたフォーメーションを組んでいる。電子戦機・インテグラが撹乱し、重装備のバリオスが撃ちまくり、近接型のスカイウェイブが突っ込んでツインビームスピアを叩きこむ。フロッグメンは、他のチームがとり逃した手負いの機体にとどめを刺したり、交戦中の敵機に後ろから忍び寄り背中を刺したりしている。
乱戦に次ぐ乱戦。混戦に次ぐ混戦。砲火銃雨の飛び交う戦場に、そこだけ別の次元かのように静かにたたずむ黒い影があった。
「フッ、約束の時は来た……世界滅亡の危機に際し、オレの右目に封印された呪われし堕天使の力が解放される……! くらえ、エターナルフォースブリ」
「あっ、ごめーん」
何やら大仰なポーズを決めて魔法陣のようなビームエフェクトを発生させていた黒い翼のウィングゼロカスタムを、全速力で飛行していたヤエのブルーアストレアが蹴っ飛ばしてしまった。
「にゃはは! このGMアームズ
ブルーアストレア専用・GNアームズ
「この戦いのためにカスタムしてくれたんだろ? たった三日でスゲーよ、兄貴!」
ユウは左腕部GNミサイルランチャーを展開、煌く粒子の航跡を曳いて、大量のGNミサイルが次々と敵機を撃墜していく。ブラウ・ブロの有線サイコミュ砲台がユウとヤエをぐるりと取り囲むが、ヨウのGNビームキャノンが火を噴いて、砲台とブラウ・ブロ本体をまとめて吹き飛ばした。
「さっすがヨウ兄ぃ! ナイスフォロー♪」
「ふっ……弟妹を守るのは、長兄の専売特許だ。円陣防御! 同時に攻撃!」
三人は背中合わせに円陣を組み、ゆっくりと旋回しながら全周囲にキャノンとミサイルを撃ち放った。突き刺さるGNミサイルが艦船を火達磨にし、振り回されるビームの光が次々と敵機を打ち抜く。爆発の火球が帯状に連なり、宙域を赤く照らした。
「はっはー! 〝
「作戦通り、ゴルディオン・バンガードへの追撃を断つ。GNアームズ
言いながらヨウは、にやりと口の端を釣り上げた。
ヤエとユウはその顔を見て、自分たちも悪戯っぽく笑う……いつもマジメなヨウ兄ぃが、そーゆー顔をするときは!
「「了解した! トランザムっ!」」
二人は声を合わせて叫び、太陽炉内のGN粒子を開放する。ヨウも無言で頷き、それに続いた。三機のブルーアストレアは機体を圧縮粒子の赤色に染め上げ、慣性を無視したような超加速で防衛線へと切り込んでいった。縦横無尽かつ疾風怒濤、トランザムの出力に任せた超絶機動が嵐のように吹き荒れた。その進路上のモビルスーツは両断され爆散し、ジ・アビス軍の圧倒的な数の優位が瞬く間に覆されていく。
「きゃははははは! ヤエたち三兄妹を、この程度で落とそうなんてさぁーーっ!」
「ふひひ! ふひははははは!」
トランザム状態で飛び回るブルーアストレアに、速度で追いつくモビルスーツがいた。テンションの怪しい笑い声とともに曲芸飛行を繰り返す、飛行形態の三機変態、いや編隊。
「ふひははは! 夏イベ前で入稿締め切り近いってぇのに、こんなことされてちゃあさぁ! 参加するしかないじゃないの、このお祭りにぃぃぃぃ!」
「ペンタブ握って、ひたすら徹夜……三日目の、テンション……なめんじゃないよぉぉぉぉ!」
「うふ、うふふふふ。新刊落としたらどうしてくれるんですのよーーっ!」
Ζアルケイン、Ζキマリス、ガザΖ、可変機ばかりの女性チーム、プロジェクトゼータである。時折、居眠り運転でもしているのかというような不規則な
「後方からの追撃、後詰部隊が抑えている! チャンスだぜ、キャプテン!」
「おっけー、スケさん! カクさんっ、両舷全速ぅーっ!」
「両舷全速、ヨウソローッ!」
後方からの追撃がなくなったゴルディオン・バンガードは、再び敵機の大群をかき分けて前進。しかし当然、ア・バオア・クーに近づくほどに、敵の抵抗は激しくなる。先ほどまで後方からの支援砲撃に終始していた艦艇――原作とは色違いのアークエンジェル級が二隻、
「左右両舷、メガ粒子砲用意! ガトリングラヴァーズの皆さん、モビルスーツは任せるわねっ!」
「了解した、海賊のお嬢ちゃん! タイミングをくれ!」
「遅れちゃダメなんだからね! カウント三秒! 3、2、1……撃ェーーっ!」
防衛線を切り裂く鏃の先端、ゴルディオン・バンガードの左右から、メガ粒子の奔流が何十本も噴出した。
同時、G3ガンタンクはネオジオングから移植した超大型サブアームを展開。その指先から計十門のメガ粒子砲が一斉に放射され、飛び回るMS群を薙ぎ払った。
「よし、すっきりしたわね! 進路前方、宇宙要塞ア・バオア・クー!」
ミッツはばっと右手を振り上げ、正面モニターに大きく迫ったア・バオア・クーを指さした。
「絶対に、
◆◆◆◇◆◆◆
ビーム飛び交う戦場を、遥か遠く、フィールドの端からから見つめる
その小型船の周囲には、銀色の大平原が広がっていた。漆黒の宇宙空間に、突如として広がる超巨大な銀板の群れ。一辺一辺がモビルスーツの身長をはるかに超えるサイズを誇る、数万単位で敷き詰められた鏡の隊列。
――ソーラ・システムである。
原作では宇宙要塞ソロモン攻略の切り札として連邦軍が使用し、ア・バオア・クー決戦前にジオンのソーラ・レイによって焼き払われた、太陽熱による大規模破壊兵器。それが、原作のくびきを外れ、この宙域に展開している。
一分間の照射でコロニーすら蒸発させるというこの兵器は今、その照準をア・バオア・クーに――否。防衛線に深々と切り込んだ、
「……そんなことだと、思っていた」
冷たく、冷静な口調。狙いすました240mmキャノンの一撃が、小型宇宙船を打ち抜いた。爆発の衝撃が波紋のように広がり、コントロール艦を失った鏡の大群がまるで生物のように身震いした。角度のずれた何枚かの鏡に、迫りくるガンプラたちの姿が映る。左肩に紫色のマーキングを統一した、百機を超えるガンプラの大部隊が!
「〝
「と、ゆかりん☆ファンクラブ全員集合ッ! なんだなぁぁっ!」
「ユカリお姉さまを崇拝する会も、参戦させていただくであります!」
「行くぞ、同志諸君。チーム〝
左右に展開するガンプラ部隊の戦闘は、それぞれジャハナム呑龍とジャハナム彗星。紫色のマーキングを施されたMSたちが広く帯状に部隊を展開。手にしたライフルで、キャノンで、マシンガンで、当たるを幸い、次々と鏡を撃ち壊していく。
「ネットアイドルは知りませんけれど、あの放送には心を打たれましたわ!」
「加勢するぜ、ムラサキ・ユカリさんよぉ! この〝黒い六連星〟の力でなぁ!」
同盟軍の中に、六機縦隊で進撃するドムの一団があった。前半三機はドム・トルーパー、
「ふはははは! 三機と三機で九倍の破壊力、ダブルストリームアタックだぜー!」
「
同盟軍は破竹の勢いでソーラ・システムを破壊。それを受けて、防衛部隊のMSが迎撃に飛び出してきた。デスアーミー、ビルゴ、ドーントレス、ゲイツ、ジンクス、レギンレイズ……その他、アナザー系の量産機を中心とした混成部隊だ。自動制御のNPC機だが、AIの戦闘レベルを最大限にまで引き上げられており、
ユカリはガンドック・クロを分離、同盟軍の機体を守りながら、両手両肩のランチャーとキャノンを連射。ソーラ・システムを片っ端から削り落としていく。
「データ上の量産機……無限沸きする敵機か……彗星、後ろだ!」
「は、はいであります!」
弾かれたように反転しつつヒート剣を抜刀、ジャハナム彗星はアックスを振り上げていたレギンレイズを居合抜きに斬り捨てた。しかし、
「う、迂闊でありましたかっ!?」
その影に隠れていた第二、第三のレギンレイズが、すでにアックスを振りかざしていた。回避は不能、どちらかはヒート剣で受けるとしても、もう一方が……!
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさぁぁぁぁい」
通信機に飛び込んできた「ごめんなさい」の連呼、同時に、レギンレイズは紙切れのように引きちぎられ、宇宙の彼方へと吹き飛ばされていった。
呆気にとられる彗星を置き去りにして、赤黒白の三色に塗装された
その機体は、GBO最古参チーム・トライアンドエラーの切り込み隊長、ジム・トライアル三号機〝ピーコックテール〟。右手の大型マチェットと左腕のシールドシザーズで進路上のガンプラを力任せに引き裂き吹き飛ばし、押し込まれつつあった同盟軍の戦線を、あっという間に立て直していく――なぜかずっと、謝りながら。
「ああ、あの、すみません、ち、ち、チーム・トライアンドエラーですぅ。ら、乱入して、すす、すみませんっ」
「なあ、ユカリさんよ。アンタの放送シビれたぜ。GBOの一大事だ、最古参チームの一つとしちゃあ、援護の一つにも行かなきゃあ男が廃るってモンぜ。なあ、モーキンの旦那?」
「……クロウ、射線を開けろ」
飄々とした調子のクロウに、言葉少なに返すモーキン。一号機〝レイヴンクロー〟のビームマシンガンと腕部ガトリングが弾幕を張り、二号機〝ホークアイ〟の正確無比なレールガンが敵を射抜く。しかしその銃弾の雨は、先行するジャックの妨げにならず、むしろ突撃を援護している。古参チームのチームワークは、AI制御の
「古参は参加? だったら!」
「俺たちも参加しねぇとなあ、社長!」
宙域に新たなカタパルトゲートが開き、追加参戦のガンプラがフィールドに飛び込んでくる。
真っ赤な棘達磨、レッドグシオンが敵陣に突っ込み、激しく回転しながら縦横無尽に走り回る。黄色い重装甲のジオ・ジオングが、両腕の有線サイコミュアームを飛ばし、指先の五連メガ粒子砲を乱れ撃つ。そして、
「言うまでもねぇ! 漢一匹、コオリヤマ・マドカ! いざ、必殺のォォ……ッ!」
登場と同時にリミッター解除、肩と膝から凄まじい出力でビームスパイクを噴出しながら、ピンク色の巨躯が、ソーラ・システムにその頑強な拳を叩きつける!
「タイタスゥゥゥゥッ! ハンッ! マァァァァァァァァッ!」
ドッ、ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!
ビームを伴う衝撃波が、半径数千メートルにわたって吹き荒れた。ソーラ・システムは一瞬にして一万枚にもおよぶミラーを喪失。衝撃波に巻き込まれたNPC機は大破撃墜、敵防衛線が一気に揺らぐ。
「……好機!」
ユカリは組み付いてきたゲイツを蹴り落とし、ガンドック・クロのパイルバンカーを叩きこむ。通信をオープン回線につなぎ、この宙域の全プレイヤーに向けて叫んだ。
「全軍、切り込めっ! 本隊を撃たせるな! ソーラ・システムを、徹底的に破壊しろ!」
遥か彼方に見える、重なった傘のようなア・バオア・クーの姿。それを取り囲む無数の黒い粒と、その只中に突っ込んでいく、米粒のような金色の光。
あの光を、撃たせてはならない。敵陣を切り裂くあの金色の切っ先の中に、この戦いを終わらせる、希望の光――いや、
「GBOを終わらせようという野望、稚い少女を辱めようという邪道! そんなものは、私たちGBOプレイヤーの全力で! この〝
ユカリは心の限りに咆哮し、トリガーを引き続けた。
◆◆◆◇◆◆◆
その部屋にはおよそ生活感と呼べるものが一切なく、すべては白と黒とのツートーンで構成されていた。部屋の中央に置かれた細身のパソコンデスクには、煌々と明かりをともすディスプレイだけが五枚も並んでいる。そして、部屋にいるたった一人の人間――細い縁なし眼鏡をかけた痩身の男だけが、歪にゆがんだ薄笑いを浮かべて、そのディスプレイと相対している。
「ククク……精鋭部隊による一点突破、といったところですかねぇ。クラシカルな手です。しかし、有効だ。考えましたねぇ、アカサカ室長。いや、ナノカさんの方ですかねぇ……?」
イブスキ・キョウヤ。
今も圧倒的な情報を洪水のように流し続けるディスプレイに、目にも留まらぬタイピングで指示を送り続けているが、その口元の酷薄な笑みは消えない。
「ムラサキ・ユカリの呼び掛けでプレイヤー数は増加、マシンパワーはフィールドを維持するので精一杯。たったの15%しかサーバーを掌握できなかった、こちらの不利は確実……ククク。この上、私まで戦場に出ることになれば、支配領域を奪い返されるかもしれませんねぇ……?」
口ではそう言うものの、イブスキの表情から余裕は消えない。ヤジマ商事の電脳警備部は今も必死でGBOメインサーバーを取り返そうと攻撃を仕掛けているのだろうが――メモリアル・ウォーゲームは止まらない。イブスキの超人的な電子戦技は、このゲームを維持するために必要な、15%の支配領域を確実に守り切っていた。
「しかし、ヤジマの電脳警備部も質が落ちましたねぇ。私一人の論理防壁も抜けないとは。まったく、情けないモビルスーツとは戦えないと言ったシャア・アズナブルの心境ですよ」
「……ボクには、貴様の心境などは意味がない」
五枚のディスプレイの一つに、目も鼻もない黒い仮面が映し出される。表示されるBFNはネームレス・ワン――アカサカ・トウカである。
「おやおや、〝ボク〟ときましたか。もはや、ネームレス・ワンでいる必要はないと?」
「契約に相違はないだろうな、イブスキ・キョウヤ」
イブスキのおどけた口調を無視して、トウカは無感情に言った。
「貴様はただ、契約を果たしてボクの戦いを演出すればいい。〝かの老人たち〟もそれを期待している」
「ククク……了解していますよ、アカサカ・トウカ。あなたはただ、勇者様御一行を待つ大魔王のように、ダンジョンの奥深くで座していればよろしいのです。その道中に必要な試練の数々は、私めが間違いなくご用意いたしましょう。ええ、それはもう間違いようのないぐらいに」
蛇のような笑みを一層深め、イブスキはあるプログラムを実行した。メモリアル・ウォーゲームの戦域図を表示するディスプレイに、新たに四十四個のアイコンが出現した。それは――
「ククククク……絶望なさい、自称・勇者の皆々様。困難を乗り越え、希望を掴み……それをまた叩き落とすのも、一興というものです」
『……おーばーどーず・しすてむ、起動シマス』
◆◆◆◇◆◆◆
ビグザムを貫いたビーム・ラムが、ついにへし折れた。機能停止したビグザムは、小爆発を繰り返しながらア・バオア・クーの重力に引かれて落下。いくつかの迎撃兵器を圧し潰して落着する。
「くっ……ビームシールドが展開できないと、無理には突っ込めないわね……!」
ミッツは汗のにじむ手で、艦長席のアームレストを握りしめた。
艦の状況を知らせるモニター画面は、かなり、赤い。艦首
しかし、それでも。
「これで第二防衛線を突破だ。次でラストだぜ!」
ついに宇宙要塞ア・バオア・クーの威容が、ゴルディオン・バンガードの眼前へと迫っていた。要塞直掩の部隊はF91以降の宇宙世紀敵勢力機が中心らしく、曲線的なシルエットを持つ独特なガンプラの大軍が
「弱気は損気だゾ、おかしら」
「俺たちもこの艦も、まだまだいけるぜ。ミッちゃん」
「う、うん! そうね! っておかしらとかミッちゃんて言うなーーっ!」
ミッツは鼻息も荒く、腕組みをして艦長席から立ちあがり、伝声管に威勢よく怒鳴った。
「砲座、ガンタンク! もうちょっとよ、ふんばってよね! 弾幕頼んだわよ!」
『弾薬さえあれば、ジオン全軍とだって撃ち合ってやる……なんだ、あの黒い光はっ!?』
「ミッちゃん! 高エネルギー反応っ、来る!」
「取り舵いっぱぁぁぁいっ!」
ドッ……ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ――――!!
宇宙の黒すら塗り込めるような、漆黒の奔流。紫電を纏って突き抜けた怒涛の黒波を、ゴルディオン・バンガードは辛うじて回避した。
「黒い粒子……ガルガンタ・カノン……!」
味方すら巻き込んで撃ち放たれた破壊力の発信源。ミッツは光学カメラを最大望遠、ア・バオア・クーの表面に立つその機体を、メインカメラに捉えた。
ウィングゼロをベースに改造された、毒蛇を思わせる凶悪な面構え。
「ガンダム・セルピエンテ……!」
ミッツが唾をのむのと同時、ア・バオア・クーの表面に、いくつもの四角形が穿たれた。それは、要塞内部からMSをリフトアップするためのエレベータ。一気に数十基ものエレベータが口を開き、そこから次々と、巣穴から首を出す毒蛇のように、大量のセルピエンテが姿を現した。
毒々しい紫色のツイン・アイに、鬼火のような灯が入る。耳障りな金属音を立てて牙を鳴らし鎌首をもたげる、四十四本のセルピエンテ・ハング――量産型ガンダム・セルピエンテ。
「りょ、量産型……ですって……ッ!?」
「許せない……!」
たじろぐミッツの耳に、静かに、だが怒りの籠った声が届く。その声は、ゴルディオン・バンガードの格納庫からの通信だった。
「ラミアを苦しめたあの機体を、量産するだなんて……私、絶対に許せませんわ……っ!」
「んっふっふー……なあ、海賊のお嬢ちゃん。ウチもそろそろ、穴倉で我慢するのは限界や。あのクソ野郎のガンプラ、ぶっとばさな気が済まんわ」
「……そぉねぇ……この子も、暴れたがってるわぁ……ねぇ、ユニコーン……?」
「で、でもまだ、最終防衛線を突破していないわ。あなたたちを無傷でア・バオア・クーまで送り届けるのが、作戦の……ゴルディオン・バンガードは、まだ戦えるんだからっ!」
テンザンの操舵で、回避運動から艦を立て直す。ミッツは素早く両手を振って武装スロットを展開、今にも飛び出そうとしているセルピエンテに、照準を合わせる。
「おいおい焦んなよォ、ちびっ子。テメェらにゃあ後続を断つってェ仕事もあンだぜ。ここで沈まれちゃあ困るんだよ」
「それに、黒色粒子を使うガンプラを相手取るというのなら……私たちの方が、適役だと言わせてもらうよ」
「で、でも……っ。あの凶悪なガンプラに、お姉さまたちだけで!」
なおも食い下がるミッツの目の前に、ポンと通信ウィンドウがポップアップした。そこに映るのは、パイロットスーツ姿の、黒髪の少年。柔らかく微笑むアカツキ・エイト。瞬間、ミッツはびくりと肩を震わせ、頬が少しだけ朱に染まる。
「僕を……僕たちを、信じてほしい」
「あ、アカツキエイト……くん……」
「僕たちが、作戦の要だってことはわかっている。僕が、クロスエイトが、対黒色粒子戦の切り札だってこともわかっている。だから君は、僕たちをここまで送り届けてくれた――だから今度は、僕に君を。僕たちに君たちを、守らせてほしいんだ」
ミッツを見返すエイトの視線はどこまでもまっすぐで、静かな熱意に満ちていた。
「だから……ハッチを開けて、ミッツちゃん。いや、艦長! キャプテン・ミッツ!!」
「……メインカタパルト開けぇっ! MS出すわよ、各砲座気張りなさぁいっ!」
ミッツは右手を振りかぶって号令。それに応えるように、ゴルディオン・バンガードの艦首女神像が左右に展開、原作とは違い艦首に増設されたカタパルトデッキが解放される。ゴルディオン・バンガードに残された対空砲が一際弾幕を厚くし、G3ガンタンクもガトリング砲を一層激しく回転させた。
「と、特別に言うことを聞いてあげるわ、アカツキエイト。負けたら承知しないんだからねっ!」
「ありがとう。必ず勝つよ――ナノさん。ナツキさん。みなさん。行きましょう、これが最後の戦いです!」
カタパルト奥の暗がりから、ガンプラたちが歩み出る。カタパルトのフットロックに足を載せ、腰を落として射出に備える。
ア・バオア・クーに突入する、総勢十機の精鋭部隊。黒色粒子を使う相手と――イブスキ・キョウヤと、アカサカ・トウカと。戦いうる実力を持ち、戦うべき理由を胸に秘める、現状望みうる最高の布陣。
「チバさん、ヤスさん、行きますわよ。レディ・トールギス改フランベルジュ!〝
「んっふっふー。カメちゃん、メイファ、準備はええな? AGE-1シュライク・フルセイバー、〝
「……チーム名、はないけれど……行くわよぉ、ユニコーン。……タマハミ・カスミ、
次々と、カタパルトから飛び立つガンプラたち。
対艦ライフルを構えるチバ専用ザクⅠ。バズーカ二門に、巨大なレドームを備えるヤス専用ザクⅠ。純白と深紅の鎧騎士にして戦乙女、レディ・トールギス改フランベルジュ。
二刀流にさらに一本、三振りの日本刀を腰に帯びるAGE-1シュライク・フルセイバー。ただでさえ重装備の上に、さらに全身爆装状態のガンダム・セカンドプラス
原作での最終決戦よろしく、重火器とシールドを満載した
そして――
「ドムゲルグ・デバステーターっ! 〝
あまりの重量にカタパルトに悲鳴を上げさせつつも、戦場に飛び出す真紅の巨人。
〝
ただでさえ過積載気味だった全身の爆発物に加え、マスター・バズを二門、スパイクシールドを二枚装備。どこから機体を眺めても必ず爆発物か銃口がこちらを向いている、正真正銘の動く弾薬庫と化した重爆撃機。
「レッドイェーガー・フルアームド。〝
女性的な細身の手足に、不釣り合いな
〝
背部のヴェスバービットを四基に増やし、マルチアームガントレットも両腕に装備。そしてなにより、最大の特徴にして愛銃〝Gアンバー〟を、二丁装備している。長期戦に備えた重装備。レッドイェーガーの最終決戦仕様だ。
「クロスエイト・フルブレイズ! 〝
先行した二機を追い抜いて、圧倒的な速度を発揮する真紅の飛鳥。金色の
〝
対黒色粒子の切り札であり、作戦の要。粒子燃焼能力を最大限に高め、現時点でのアカツキ・エイトの全てを詰め込んだガンプラ。
総数一万のGBOプレイヤーと、ガンプラバトルを愛する全ビルダー、ファイターたち――そして囚われの幼き少女の、運命を背負う機体。
クロスエイト・フルブレイズは、漆黒の宇宙に真っ赤な軌跡を曳きながら、
「チーム・ドライヴレッド――戦場を、翔け抜けるっ!」
第四十八話予告
《次回予告》
「これが、私の罪。私の罰。今の私にできる……これが、私の贖罪だ!」
「今だから言うけどよ。アンタのナイフ捌き、悪くなかったぜ」
ガンダムビルドファイターズ ドライヴレッド 第四十八話『メモリアル・ウォーゲームⅡ』
「ようこそいらっしゃい、裏切り者の皆々様! ……って、とこッスかね」
◆◆◆◇◆◆◆
……以上、第47話でしたー!
長い。やりたいことをやりまくっていたらひたすらに長くなってしまいました。長くなる病を抑えるという公約はいったいどこにいってしまったのか(笑)
しかし、作者的には満足しています。「使い捨てキャラ」というのをなるべくなくしたいというのが私のひそかな願いでして、書いていて少しでも気に入ったキャラはできるだけ再登場させたいのです。そのためには大運動会形式が非常に便利。
読んでいただくには少々つらい文字数だったかもしれませんが、どうか所詮は趣味の二次創作だからと笑ってやってください。
最終話が50話というのは動かさずに書こうと思います。どうぞ今後もよろしくお願いします!