ガンダムビルドファイターズ ドライヴレッド   作:亀川ダイブ

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アカツキ・エイト編
Episode.01 『アカツキ・エイト』


 静寂の宇宙に、一筋の流星が走る。青白い尾を引くその先端にいるのは――モスグリーンの装甲、ピンク色のモノアイ。人型兵器モビルスーツ、その代名詞の一つ、『MS‐06ザク』だ。

両肩がスパイクアーマーに換装され、火を噴くバーニアは通常の量産型機よりも一回り大型。さらにはサイドアーマーにミサイルポッドを装備している。その姿は、エースパイロットだけに許された、特別なカスタム機と見える。

 しかし、動きのほうはそうでもない。

 

「こんの、安定しないな……!」

 

 バーニアの軌跡が流星のように見えたのは、ほんの一瞬だけ。パイロットの苦言と共に、機体はふらふらと蛇行を繰り返す。見れば、パイロットはまだ少年だった。レンズの薄い眼鏡の奥で目をせわしなく左右に走らせるその顔つきは、ハイスクールの生徒と言っても違和感はない。いや事実、彼は――アカツキ・エイトは今年で16才になる、ハイスクールの生徒だった。

 

「こっちがバーニア、こっちがAMBAC(アンバック)、これが火器管制(FCS)。このモニターに……敵襲っ!?」

 

 鳴り響く警報音、正面モニターに敵機の表示。結構な密度で浮遊するスペースデブリの間を縫うように飛び回る、黄色い機影が全部で三つ。

 

「あの機影は……『デスアーミー』か、趣味的だな」

 

 エイトは一人叫び、ザクにマシンガンを構えさせる。同時、あちらもこちらを捉えたらしく、手に持った棍棒型のビームライフルが一斉に火を噴いた。とっさに身をかわしたザクの脇腹を、灼熱のビームが火花を散らして削っていく。しかし、ダメージは少ない。

 

「ロクに当たる距離でもなきゃ、腕でもない……!」

 

 バーニアを吹かし、加速。マシンガンのトリガーを引きっぱなしで突撃した。フルオートでばらまかれた90ミリの砲弾がデスアーミーの動きをけん制し、直撃を嫌ったデスアーミーたちはデブリの陰に身を隠した。

 

「よし、そこっ!」

 

 この距離でマシンガンはかすりもしなかったが、あの大きさの静止目標になら。エイトはFCSからミサイルポッドを選択、デブリに向けて発射した。1、2、3……5発、連続発射。命中したミサイルが巨大な爆炎をあげ、デブリを四散させた。画面上から、敵機の表示が二つ消える。

 

「巻き込み成功! フィールド上のオブジェクトも、有効活用しないとね」

 

 会心の笑みを浮かべるエイトの耳に、再びのアラートが響く。ほぼ同時、ザクの肩をかするビームの光。デブリの誘爆では耐久力を削り切れなかったデスアーミーの一機が、こちらへ突撃してきていた。エイトはバーニアを吹かして身をかわそうとするが、

 

「う、このっ」

 

 痛恨の操作ミスで、ザクはその場でぐるりと宙返りを決めてしまった。振り下ろされるデスアーミーの棍棒で、腰のミサイルポッドを強打される。ポッドはひしゃげ、ザクは複雑に回転しながら吹っ飛んだ。

 

「が、頑張れよ僕のザクっ!」

 

 ぐしゃぐしゃに視界をかきまぜられながら、エイトは何とか姿勢を建て直し、ザクをデブリの一つに着地させた。機体のコンディションチェック――機体のダメージは軽微。右ミサイルポッドは大破、使用不能。叩かれたのが後一発残っている左のポッドだったら、誘爆でアウトだった。

 正面モニターに視線を戻せば、デスアーミーもデブリに着地し、棍棒型ビームライフルを大上段に振り上げていた。どすどすと駆け出したデスアーミーを視界にとらえ、エイトはマシンガンを投げ捨て、ザクの手にヒートホークを構えさせた。スイッチの入った超高発熱体の刃が、赤熱しながら低く唸る。そして、

 

「くれて、やるよっ!」

 

 投げた! 思いっきり!

 すさまじい勢いで回転しながら飛んでいったヒートホークは、見事、デスアーミーの肩口を深く袈裟斬りに抉りとった。一瞬の間をおいて、デスアーミーは爆発。後にはデブリに突き刺さった形のヒートホークだけが残される。

 

「さて。これでひと段落……?」

 

 各種モニターに目を走らせながらヒートホークを引き抜き、マシンガンを回収する。と、その時、周囲のデブリに動きがあった。デスアーミーを倒したことで何らかのフラグが立ったのか、デブリたちが道を開けるように一斉に視界から消え、その先に隠されていたモノがエイトの視界にとびこんできた。

 

「はは……さすがは部長。趣味全開だなぁ」

 

 エイトはあきれ顔で、メガネの位置を軽く直す。

 そこにあったのは、宇宙空間に何の脈絡もなく浮かぶ、日本列島。

 いや正確には、日本列島の形を模したスペースコロニー。『ネオジャパンコロニー』だ。

 

「いくらGガン好きだからって、ここまでやりますか」

 

 つまりは、最後のバトルステージはあそこだということだろう。エイトは部長のこだわりに呆れ半分関心半分になりながらも、ザクのバーニアを吹かし、ネオジャパンコロニーへと降下していった。

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

 さかのぼること三日前――エイトは、ガンプラバトル部の部室にいた。

 

「権利とは!」

 

 ドンッ! 長机の天板が砕け散るのではないかという勢いで叩き付けられたのは、部長の巨大な拳だった。

 

「己の力で勝ち取るものだ」

 

 しかし、その拳が柔らかく開かれると、そこにあったのは『ザク』だった。

 HGUCシリーズ、『ザクⅡF2型』。単純な素組み、スミ入れも合わせ目も消しもしていない。ゲート跡の処理はさすがにガンプラバトル部最強にして最大にして最高の大部長、ギンジョウ・ダイだけあって、ほぼ完璧な出来栄えだが。

 

「今度の地区予選。俺とサチとで出る。が、それでは我が部の勝利ではない。俺とサチの勝利だ。俺は、我が部に、我らが大鳥居高校ガンプラバトル部に、勝利をもたらしたいのだ。記念すべき第十回大会に、我らが大鳥居の名を刻みたいッ!」

 

 轟ッ! 部長の気迫が、圧力となって部員たちを圧倒する。

 第十回ガンプラバトル選手権、その地区予選――伝説の第七回大会、その決勝戦でのアリスタ暴走。一度は失われかけたプラフスキー粒子とガンプラバトルシステムだったが、それらはヤジマ商事の手によって復活し、ガンプラバトルは今も世界中で流行が衰える兆しすらない。いやむしろ、その流行は拡大の一途をたどっていた。

 競技人口の増大は、バトルの形式を一対一の個人戦から三対三のチーム戦へと変化させた。

次々と作り出されるオリジナルのガンプラたちは、ますますビルダーたちを魅了した。

 いまや世は、ガンプラ新世紀――いや、ガンダム的にいえばユニバーサル・ガンプラ・センチュリーといったところか。

 その流れは各種学校の部活動にも当然のごとく押し寄せ、全国各地の中学・高校にガンプラバトル部が乱立した。エイトが通う大鳥居高校ガンプラバトル部も、そんな新設ガンプラバトル部の一つ。部の歴史はまだまだわずか三年目。つまりは、このギンジョウ部長の代が立ち上げた部活ということになる。

 

「ガンプラバトルが三人制になって、すでに選手権は数度。一年目は、初戦敗退、辛酸をなめた。臥薪嘗胆で挑んだ二年目は、惜しくも決勝で敗れた。そして、今年だ。今年こそは、我が大鳥居高校ガンプラバトル部は、全国に行く――そこで、だ」

 

 バンッ! この大男は、なぜこうも大仰な効果音とポーズが似合いすぎるのか。超高校生級の筋骨隆々な体格も相まって、部長ギンジョウ・ダイの腕組みをして立つ姿は、それだけで威圧的だ。そして言葉はいつも演技がかっている。しかし部室に集まった総勢六〇名を超えるガンプラバトル部の面々は、その部長の演技がかった言葉の続きを待っていた。

 

「戦え。証明せよ。このザクで。俺か、サチかに刻み付けてみせろ、貴様らの力を。技を。思いを。その限りを。それが叶った暁には――」

 

 ザンッ! 前を開けた学生服の裾を翻し、部長は皆に背を向けた。開け放たれた部室のドアの向こうがなぜか眩しく輝いて、部長の姿を神々しいシルエットとして描き出す。

 

「ともに戦おう、戦友たちよ」

 

 ギィィ……バタン。

 

「はいはーい、んじゃまー、はーじめーるよー。さっちゃん先輩のー、サクサク行こうよ部長語翻訳コーナー。どんどんぱふぱふー」

 

 気の抜けるような、幼い声色。部室の空気が一気に緩み、何人かはその場にぐんにゃりと座り込んだ。そんな空気などお構いなしにキャスター付きのホワイトボードをからからと引っ張ってきたのが、ガンプラバトル部副部長、カンザキ・サチである。ニコニコと柔和な笑顔を浮かべる小柄なその姿は、外部からは部のマスコットキャラクター的な存在と思われているのだが、

 

「はいはい、ほらほら、ちょっとそこどきなー。どきなって……どけよ?」

 

 下手をすると中学生、いや小学生とすら間違えられかねないこの副部長に、逆らえる部員など存在しない。エイトを含む数名の部員はそそくさと場所を開け、副部長は愛用の踏み台に乗ってホワイトボードに何やら文字を書き始めた。

 

「んじゃまー、いつもどーりやっちゃうよー。ダイちゃんの言いたいことをー、てめーら愚鈍な凡人どもにもわかるように翻訳してやるとー、まぁだいたいこんな感じかなー」

 

 ゆるゆるとした口調と同じ丸っこいくせ字が、しかし猛烈なスピードでホワイトボードに書き連ねられていく。

 

・使用するガンプラはHGUC『ザクⅡF2型』。

・製作期間は、本日より三日間の部活中のみ。自宅での作業は不可。

・他キットのパーツ等の使用は自由。ただし、ザクの原形をとどめないような改造は不可。

・同じ条件で制作した部長、副部長とのガンプラバトルに勝てば地区予選レギュラー候補となる。

・バトルは一対多数。部長か副部長のどちらかと行う。

 

 ざわっ……その条件を読んだ部員たちは、皆一様に浮足立った。

 

「部長と副部長も、同じ条件で制作……!?」

「うんうんそーだよ、アカツキ一年生。あたしとダイちゃんもザクを作るのさ、今からねー」

 

 思わず口に出たエイトの言葉に、サチは満足げに頷いた

 

「あたしとダイちゃんが本気で組んだガンプラじゃあねー、あまりにも勝ち目がないじゃん、てめーら有象無象にはさ。だからまー、ちょっとしたハンデってやつよー。やっさしー!」

 

 口では毒を吐きながら、副部長はケタケタと無邪気に笑う。

 

「だからまー、死ぬ気でかかっておいでよねー? 殺すけど。あっひゃっひゃ♪」

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

 ――時は戻って、現在。エイトの操作するザクは、ネオジャパンコロニー上に建設された特設リングへと降り立っていた。

 

「……はは、こいつはひどい。まだ開始五分ってとこだろうに……」

 

 蛍光ピンクのビームロープに囲まれた白いマットの上には、様々にカスタマイズされたザクが――ザクの残骸が、転がっていた。

 その数、すでに十数機。今回の試合で部長に挑んだ半数以上が、撃破されている計算だ。

 

「つぎは貴様か、アカツキ一年生」

 

 轟ッ……! ガンプラ越しにでも伝わってくる部長の気迫に、エイトは気圧された。十数機分の残骸の中央に傲然と仁王立ちする、ただ一機のザク。同じザクのはずなのに、なぜこうも存在感が違うのか。両肩にシールドもスパイクも載せていないからか? 全身のカラーが、より深いグリーンに塗り替えられているからか? 格闘戦の邪魔になる、両脚の動力パイプが取り払われているからか?

 

「いや……違う。プロポーションが明らかに……変えられて……?」

「フ……いい目をしているな。貴様、いいビルダーになるぞ」

 

 筋肉の鎧をまとったような、武道家を思わせるシルエット。たった三日の製作期間で――実質、九時間程度しかない部活動で、ガンプラのプロポーションをいじるところまで手を出したのか。驚愕するエイトにはお構いなしに、部長のザクはカラテ・スタイルの構えをとった。

 

「だが今、試したいのはファイターとしての力だ。来い、アカツキ一年生」

「……胸を、借りますッ!」

 

 ブースト全開、マシンガンを乱射しながら突撃する。バラバラと降り注ぐ弾丸の雨を、部長はかわす素振りすら見せない。いや、その必要がない。すべての弾丸はザクの装甲表面でむなしく弾かれ、傷の一つも残せない――バトルシステム上でのガンプラの性能は、その完成度によって大きく左右されるのだ。

 

「だったらあっ!」

 

 エイトは、ラスト一発のミサイルを発射。だが、

 

「ぬるいッ」

 

 裏拳一発、爆発する前に弾き飛ばされる。しかし、

 

「これでもかぁっ!」

 

 次の瞬間には、ヒートホークを大上段に振りかぶり、エイトは部長に肉薄する。この距離なら、そしてヒート兵器の直撃なら……!

 

「あまいッ!」

 

 バギンッ! ヒートホークを振り下ろしたはずの右腕に、衝撃と違和感。目の前に、部長のザクの左掌底が突き上げられている。同時、アラート。武器破壊――いや、

 

(腕ごと……吹っ飛んで……っ)

 

 部位破壊!

 

「破ッ!」

 

 続いて、脇腹に衝撃。流れるような後ろ回し蹴りが叩き込まれ、左のミサイルポッドが砕け散った。吹き飛ばされ、がたがたと揺れるモニター上に、何重にも『ERROR』のウィンドウが表示される。絶え間ないアラートが鳴り響く中、エイトはとにかく態勢を立て直そうとするが、ザクの両脚は全く踏ん張りがきかず、崩れ落ちるように膝をついた。

 

「なっ、これ、腰までイって……⁉」

「ほう……我が蹴りを受けて、胴が千切れんか。いいガンプラだ、アカツキ一年生」

 

 部長のザクは、追い打ちをかけるような真似はせず、あくまでも悠然と歩いてこちらへ向かってくる。しかしその足は、武道家としての礼節か、すでに敗退したザクたちの残骸を踏みも蹴りもしない。

 

「はは、どうも……光栄ですよ、部長」

「光栄、か。光栄で満足か、アカツキ一年生。栄光が欲しくはないか。俺と肩を並べ、共に地区予選を戦い抜き、全国で勝利する栄光が」

「そりゃ、欲しいです。じゃなきゃ、小遣い前借りしてまで、ザクを組んでいません。でも、それよりなにより……」

 

 エイトは、崩れ落ちそうになる機体を無理やり引き起こし、片腕一本でマシンガンを構えた。

 

「僕は、あなたに勝ちたいです」

「フ……いいぞ、アカツキ一年生。その心構え、俺は好きだ」

 

 ドンッ! 部長のザクが大地を踏みしめ、震わせた。

 

「だからこそ! あえて、問おう! たかだか腰が砕けた程度で、腕の一・二本を失った程度で、そこで伏して負けを認めるか、それとも! 満身創痍のそのザクで……ッ!」

「もちろん、突撃します!」

 

 ボッ! 背中と両脚のバーニアが火を噴き、エイトのザクは一直線に加速した。右腕をなくし腰が砕け、全身のバランスはガタガタだった。何度も墜落しそうになりながら、左手一本でマシンガンを構え、ろくに狙いもつけずトリガーを引きっぱなしにする。迎え撃つ部長のザクは、やはり一歩たりとも避けはしない。真正面から銃弾の雨を受け止め、弾き返しながら、深く腰を落とした正拳突きの構えをとる。

 

「……来いッ!」

「うっ、らあァァァァァァァァァァァァッ!」

 

 ブースト、ブースト、ブースト! 加速は一切緩めない。トリガーは引きっぱなし、残弾は残り少ない。相対距離、あと二〇〇……一五〇……百、九〇、八〇……二〇、一〇、ゼロ!

 

「らああァッ!」

「破アァァッ!」

 

 部長のザクの正拳が、マシンガンを砕き、左腕を砕き、肩を砕き、胸を砕いて――

 

『BATTLE ENDED!!』

 

 快活な男声のシステム音声が、バトルの終了を高らかに告げた。熱く熱のこもったようなプラフスキー粒子が霧散し、周囲の景色が見慣れたガンプラバトル部の部室に戻る。周囲の喧騒が一気に耳へと飛び込んできて、エイトは夢から現実に引き戻されたような感覚に陥った

 

「……以上でッ!」

 

 ドンッ! 窓ガラスが震えるほどの大音声。喧騒が一瞬で止み、痛いほどの静寂が訪れる。

 

「地区予選代表選考戦、部員対俺戦を終了とする。気を付けーッ、礼ッ!」

「「「「「ありがとうッ、ございましたァーッ!」」」」」

「解散ッ!」

「「「「「はいッ!」」」」」

 

 ザッ……部長が自身のガンプラを手に取り、部室を後にする一瞬、エイトは部長と目が合った気がしたが――

 

「ダああああイちゃああああああん! うええええええええええええん!」

 

 部長とは違う意味での大音声。顔じゅうを涙と鼻水まみれにした副部長が、部長に全身でダイブしていった。

 

「どうしたサチ。珍しいな」

「負ぁぁぁぁげぇぇぇぇだぁぁぁぁ! 囲まれてぇぇ、なぶられてぇぇ、もてあそばれたぁぁぁぁ! えええええええええん! くぅーーやぁーーしぃーーいぃーーっ!」

 

 副部長が指さす先を見れば、苦笑いを浮かべる三人組の男子生徒。確かに、協力を禁じるルールではなかったし、副部長も部長に匹敵する猛者だ、一対一では勝ち目がなかったのだろう。

 

「強者とて、常に勝者ではない。サチもまだまだ修行が足りんな」

「うー! だってぇー……覚えてろよ三バカトリオー! 絶対三対一で勝ってやるからなーっ! いーっだ!」

 

 部長が悠々と、副部長が騒々しく部屋を出て、今度こそ、部室はお開きの流れとなった。

 

「よう、一年! やるじゃねぇか!」「かーっ、最後までバトってたの一年生かよ」「へー、なかなかやるじゃない。すごいわね!」「俺らもすぐ追い抜かれちまうかもなぁ」

 

 同じバトルシステムで戦っていたらしい二・三年生たちが、エイトのそばを通り過ぎざま、口々に思い思いのことを言って部室を後にする。

 どの部員もそれぞれ、腕やら脚やら武器パーツやらが外れたガンプラを持っている。ダメージレベルB設定でのガンプラバトルでは、ガンプラ自体は破壊されない。バトル中は、プラフスキー粒子の作用でダメージを受けたような機能制限は受けるが、現実には関節部のパーツが外れる程度だ。エイトも、両腕と腰関節が外れたザクを拾い上げ、かちりと関節をはめなおした。

 

「ご苦労さん、僕のザク」

 

 時間がない割には、よくできたと思っていたけど……部長のザクにはかなわなかったか。

 

「勝てないなぁ、なかなか……」

 

 いたわるようにザクを撫で、愛用のガンプラケースに仕舞い込む。エイトは軽くため息を一つ、部室を出ようとしたが、

 

「強く、なりたいかい?」

 

 凛と響く、しかしどこか悪戯っぽい声。振り返るとそこには、一人の女子生徒がいた。制服の上に、制作作業用のエプロンをつけている。腕章のラインは三本だから、三年生か。ガンプラバトル部の先輩の誰かだろうが、エイトはその先輩を初めて見るような気がした。

 

「ねえ、強くなりたいかい、って聞いているんだよ後輩君」

 

 バトルシステムのふちに軽く腰掛けたまま、その先輩はエイトのことを悪戯っぽい表情と仕草で見つめていた。エイトはどきっと胸が高鳴るのをごまかすように、慌てて口を開くが、

 

「あの、先輩」

「アカサカ・ナノカだ。わたしのことは、ナノさんと呼んでいい」

 

 先回りされてしまった。

 

「僕は」

「アカツキ・エイト君。キミの活躍は見せてもらったよ。いやはや、あの〝RMF(リアルモビルファイター)〟ギンジョウ・ダイ相手に近接格闘戦を挑むとは、なかなかの馬鹿だな、キミは」

 

 またも先回り、そして高笑い。むっとして言い返そうとするエイトに、彼女はふっと手を伸ばし、人差し指を突きつけた。

 

「だが、好きだよ」

「えっ」

「いいガンプラだ」

「あ、あぁ、はい。ありがとうござ」

「気に入ったよ、キミ。いっしょに来てくれ」

 

 そう言ってナノカは、エイトの手を引いて歩き出した。話が呑み込めず戸惑うエイトにはお構いなしに、ナノカはずんずんと歩いていく。

 

「えっ、先輩っ……?」

「わたしのことは、ナノさんと呼んでいいよ、相棒候補」

「あ、相棒? 候補?」

「これからなるだろうということさ、キミはわたしの相棒に」

「説明が、足りないと思うんですが……」

「わたしは気にしないよ」

「僕は気になります」

「大丈夫だ。キミならできるさ。『男と見込んだ』ってやつだよ」

「見込み違いは」

「ない。わたしにはね……ここだよ」

 

 数十メートル手を引かれ、部室から少し離れた階段を上がってすぐ。パソコン室の扉をがらりと開け、ナノカはエイトをその中へと引き入れた。されるがままにエイトは椅子に座らされ、ナノカの細い指が慣れた手つきでPCを起動する。ディスプレイの周りには、見慣れない球形のデバイスがいくつかと、見慣れた板状のデバイス――GPベースが置かれている。バトルシステムでもないのに、なぜ……?

 

「さあ始めよう、アカツキ・エイト君。キミにはここで強くなってもらう――」

 

そこに映し出されたのは、まずはヤジマ商事のロゴマーク。聞きなれたバトルシステムの起動音につづいて、デザインされたアルファベットが三文字――G・B・O?

 

「――ようこそ、GBO(ガンプラバトルオンライン)へ」

 

 気が付くと、ナノカの顔は吐息を感じるほど近くにあって、エイトは少し顔を赤くした。

 

 

 

 




第二話予告

《次回予告》
「ねーねー、ダイちゃん。そういえば今日の代表選考戦にナノちゃんいなかったねー」
「うむ。アカサカ同級生の言動はよくわからんところがある」
「せっかく強いのに出ねーとか、調子ノってんじゃあねーのかなー。シメる?」
「フ……口が悪いぞ、サチ」
「へへーん。冗談だよー、ジョーダン。まー、ダイちゃんと最後までやり合ってた後輩くんを誘ってー、何か企んでるみたいだしー。ちょーっと様子見ちゃう? あっひゃっひゃ♪」

 ガンダムビルドファイターズDR・第二話『ガンプラバトルオンライン』

「括目して見よッ」
「じゃなきゃヒドイよ? あっひゃっひゃ♪」



◆◆◆◇◆◆◆



初投稿・初作品です。
実際にガンプラを作りながら書きました。
感想等いただければ幸いです。よろしくお願いします。


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