転生して主人公の姉になりました。SAO編   作:フリーメア

89 / 90
 はい。三か月もお待たせしてしまい申し訳ございませんでした!! 単純に書く意欲が無くなっていました。


湖の嬢王

 キリハ達がトンキーを含めた飛行型邪紳に乗らせて貰ったのは、単なる遊びも含めれば、もう何度目にもなる。そしてその度に思っていたことがある。それは─

 

「─ねぇ、これ落ちたらどうなるの?」

 

 不安そうに言ったのはサチだ。同時に、誰もが思っていたことでもある。

 ALOでは優秀な物理エンジンプログラムが組み込まれている。そのため、着地方次第やスキル値次第ではあるが10mほどならばノーダメージでいけなくはない。逆に言えば、どれだけステータスが高くても下手な着地をすれば、同じ高さから落ちたらダメージを受ける。そしてどんなにバフを持ったり衝撃を逃がす着地をしたとしても、40mの高さから落ちれば確実に死ぬ。

 現在の高度は凡そ1千m付近。ここから落ちて地面に激突すれば死ぬことは確実だが、サチが聞きたいのはそういうことでは無いだろう。故にキリハはこう答える。

 

「安心してください。たとえ落ちたとしても、トンキーは助けてくれますから」

 

 それを聞いた面々はホッと安心したように息を吐くと同時に、何故知っているんだ?と疑問に思った。答えは簡単だ。

 

「クラインが足滑らせたんだよ」

 

「おう、肝を冷やしたぜ」

 

笑いながらキリトの言葉を肯定したクラインだったが、肝を冷やしたのは落ちた彼を見ていた面々もだった。他人が目の前で超高度から落ちるのを見るのは怖い。

 

「…あれ?今、トンキー()って言いました?」

 

 レコンがそう問いかけると、キリハはニッコリと笑みを浮かべただけで、何も言わなかった。キリトとリーファは顔を背け、アスカとコウは苦笑い、クラインは下手な口笛を吹いている。そしてユイはといえば。

 

「ハイ!レコンさんの言う通りです!トンキーさんなど一部の方々は助けてくれますが、それ以外の方はそのまま落ちます!」

 

 元気にそんなことを言い、レコンの言葉を肯定した。それを聞いた面々は一人残らず頬を引きつらせ、アレンですら少し顔を青ざめさせる。楽しそうにしているのは先頭に座っている『速度狂(スピード・ホリック)』のリーファと、彼女の頭上に座っているユイ、そしてシリカに抱かれているピナくらいだろう。

 そんなやり取りをしている間にもトンキーと虎は翼をはためかせて、ゆっくりと空中を飛んでいる。向かう先は、空中ダンジョンの上部側面に設けられた入り口のテラス。何事もなければ、このまま安全運転のまま向かってくれるのだが。

 と、そんなことを誰かが考えたのがフラグだったのか。突如として異形型邪紳の2体は翼を折りたたみ、急激なダイブを始めた。

 

「「「うおおおおぉぉぉぉぉおおお!!!???」」」

「「「うわああぁぁぁぁぁぁあああ!!!???」」」

「…」

 

 という男共の絶好(一人だけ無表情無言だが)。

 

「「「「「「きゃあぁぁぁぁぁぁあああ!!!???」」」」」」

 

 と(一部除く)女性陣の甲高い悲鳴。

 

「やっほーーーーーう!!!」

「楽しいですねぇ」

「はは!!これは良いな!!」

 

 と心底楽しそうにしている笑顔で腕を挙げる《スピード・ホリック》のリーファと、同じく《スピード・ホリック》の疑いが掛かっているキリハとキリト。

 広い背に密集している毛を両手で必死に掴み、風圧に耐える。ほとんど垂直と言っていい角度で遥か下にあった地面が急速に近づいてくる。

 それを楽しみながら、しかし突然どうしたのだろうとキリハは考える。今まで何度も乗せてもらったが、木の根の階段から一定コースを緩やかに巡回していただけだったのだが。どうやらトンキーらはボイドの南淵辺りを目財しているらしい。そこは、リーファとアスカがトンキーを守るために、邪紳狩りPTと一戦交えた場所である、と以前に聞いた。

 そんなことを考えているとトンキーらは翼を広げ、急ブレーキをかけた。その結果として急激なGが襲い掛かり、速度狂の姉妹を除いた全員がべたっと背中に張り付く。ここを目指して飛んでいただけであり、キリハ達を落とす気はなかったらしい。

 自分達が無事なことにホッとしている面々を横目に見つつ、キリハは地上を見下ろす。高度は50mを切っているようで、上空からは高縮尺な航空写真のようだった地上がはっきりと見えた。鋭い氷柱をぶら下げた枯れ木、凍り付いた湖や川、そして─邪紳狩りのPT。

 

「「…は?」」

「…え!?」

 

 困惑したように声を発したのは、キリハ達姉妹だ。見つめている先は、象水母のような邪紳を狩っているレイドPT。トンキーが悲しげに啼き、双頭の虎もまた小さく啼く。

 それ自体は特に珍しいことではない。このニブルヘイムにいるPL達の目的のほとんどは邪紳狩りだから。また、トンキーの同族が狩られていることに怒りを抱いているわけでもない。悲しくは思うが、それはトンキーと友達になったキリハ達の都合であり、他のPL達にそんなことは関係がないからだ。では何故、キリハ達は困惑しているのか。

 

「ちょっとちょっと!どうなってんのよあれ!?」

 

 リズがその光景を見て、絶句している全員の声を代弁した。そう叫びたくもなるだろう。何故なら象水母を攻撃しているのは30人のPLだけでなく、()()()()()()()()()一緒()()()って()()()()()()()()()()()()()()P()L()()()()()()()()()

 

「あれは…誰かがあの人型邪紳をテイムしたのかい?」

 

「それはありえません」

 

「そうです!たとえ最大スキル値に専用装備でフルブーストしたとしても、邪紳級モンスターのテイム成功率はゼロパーセントです!」

 

 クリスハイトの呟きをレコンが食い気味に否定し、シリカが理由と共にそう答えた。

 

「…便乗してる?」

 

「あの巨人型邪紳の攻撃に乗っかってるってこと?」

 

「そんな都合よくヘイト管理ができるわけないんだけどなぁ…」

 

 心底不思議そうに首を傾げるアレン。彼の言葉を翻訳するシノン。納得いかなそうに呻くアスカ。

 邪紳級に限らない話ではあるが、通常ならばあれだけの至近距離で攻撃魔法やスキルを放っていれば、例えダメージを与えていなくても、人型邪紳のヘイトがPLに向いてもおかしくはないはずだ。

 誰も状況を理解できずに見ていると、ついに象水母の巨体が地響きを立てて雪原に横たわった。そこに人型邪紳の巨剣とPLの大型魔法が襲い掛かり─

 

「ひゅるるるぅ…」

 

─象水母は断末魔の悲鳴と膨大なポリゴンをまき散らして、その体を四散させた。トンキーらが再び悲し気に啼く。一番トンキーに感情移入しているリーファが肩を震わせ、女性陣も眉を顰めた。

 誰も声をかけられずに眼下を眺めていると、更に驚愕することを目にする。

 四つ腕巨人とPL達はそれぞれが勝利の雄たけびを上げると、両者はそのまま()()()()()()()()()()()()

 

「な…んで戦闘になってないんだ!?」

 

「あっ!皆、あっち!」

 

 掠れ声で呻いたケイタの横で、何かに気づいたサチがある方向を指す。全員がそちらに視線を向けると、大規模スペルとスキルのエフェクトが見えた。先程の光景と同じように、攻撃されているのはトンキーの同胞であろう多脚の鰐のような邪紳であり、攻撃しているのは多数のPLと二体の人型邪紳。

 少し遠くを見れば、似たようなことが起きている。共通しているのは異形型邪紳を、PLと人型邪紳が協力して攻撃していることだ。

 

「これ…一体何が起こってるんだ…」

 

 呆然としたケイタの声に、コウが呟く。

 

「もしかしてだけど、さっき言っていたスローター系のクエストがこれなんじゃないかい?」

 

「人型邪紳と協力して、異形型邪紳を殲滅する…ですか」

 

 表情を顰めて、キリハが小さく続けた。

 その可能性は高い。クエスト中ならば、特定のmobと共闘状態になることはあるからだ。だがそうだとしても、その報酬が《聖剣エクスキャリバー》だという意味が分からない。あれは空中ダンジョンの最奥に封印されており、人型邪紳を倒さなければ手に入れられないもののはずだ。

 誰もがその疑問を浮かべていると、不意にキリハを含む何人かが後方へと振り向いた。全員が何事かと続けば、トンキーの後方に光の粒が集まっている。それは音もなく凝縮していき、やがて人影を形どった。ローブ風の衣装を着込み、背中から足元まで流れる金色の長髪を持つ、女性だった。

 その人物を見た者達は皆、唖然とした。それは、優雅かつ超然とした美貌を持っていることもあるだろう。だが何よりもその反応をした理由は、その女性が()()()()()からだ。女性の身の丈は、少なく見積もっても3mはあるだろう。

 

「私はウルズ。《湖の女王》と言われています」

 

 固まっているキリハ達に気分を害した様子もなく、その女性─ウルズは自身の名を名乗った。その声もまた、PLとは一線を画す、荘重なエフェクトを帯びていた。

 

「我らが眷属と絆を結びし妖精達よ。そなたらに、私と2人の妹から一つの請願があります。どうかこの国を、『霜の巨人族』から救ってほしい」

 

 そして、ウルズはそう続けた。眷属、というのがトンキーと虎を指していることは明白だ。よく見ればウルズと名乗った者が、完全なヒトではないことに気づく。髪の先は触手のようにうねり、僅かに見える素肌には鱗のようなモノが付いている。本来は異形の姿を持つモノが、仮初の姿として人型になっていると考えていいだろう。

 そもそもこのウルズとやらは、システム的に何なのか。カーソルが出ないのでPLではないことは確実だ。しかし無害なイベントNPCなのか、罠に嵌めようとしている敵対NPCなのか、はたまたGMが直k説動かしているアバターなのか、その判断が付かない。

 するとユイがキリトの左肩に乗り、囁くように喋り始める。

 

「ママ、あの人はNPCです。でも少し妙です。通常NPCのように固定応答プログラムではなく、コアプログラムに近い言語エンジン・モジュールに接続されています」

 

 キリトはユイの言葉に、声を出さずに軽く驚愕する。ユイの言葉を簡単に表せば、ウルズはAI化されているということになるからだ。それが何を示すのか、思考する間もなく、ウルズは話を続ける。

 

 《ヨツンヘイム》はかつて、地上と同じく世界樹(イグドラシル)の恩寵を受け、美しい水と緑で覆われており、彼女達《丘の巨人族》と眷属達は、ここで穏やかに暮らしていたのだと。

 しかし、更に下層に存在する氷の国《ニブルヘイム》より、霜の巨人族の王『スリュム』が狼に変装し、この国に忍び込んだ。彼の王は、鍛冶の神『ヴェルンド』が鍛えたエクスキャリバーを《ウルズの泉》に投げ入れ、世界樹の最も大切な根を断ち切った。それにより世界樹の恩寵は失われてしまった。

 そしてスリュムの率いた霜の巨人族は大挙して攻め込み、城や砦を築き、丘の巨人族を幽閉した。スリュムは元々《ウルズの泉》だった巨氷に居城《スリュムヘイム》を築き、この地を支配した。ウルズと妹達は凍り付いた泉の奥へと逃げのびたが、力の大半を失ってしまった。それに飽きたらないスリュムは、この地で生き延びている眷属をも皆殺しにしようとしていると。

 

「眷属がいなくなってしまえば私の力は完全に失われ、スリュムヘイムはアルブヘイムまで浮き上がらせるでしょう」

 

「そ、そんなことをしたらアルンが壊れてしまいます!?」

 

 たまらずレコンが叫ぶ。ウルズは彼の言葉に頷くと、続ける。

 

「彼の王の目的はアルブヘイムまでもを氷雪に閉ざし、世界樹の梢まで攻めあがること。そこに実っている、《黄金の林檎》を手に入れるために」

 

 更にウルズは話を続ける。

 中々滅ぼせないことにいら立ったスリュムは、とうとうPLの手を借りることにした。エクスキャリバーという餌をぶら下げて。

 しかしスリュムがそれを手放すことはない。彼の聖剣が台座から抜かれれば、再び世界樹の恩寵がこの地に戻るからだ。

 報酬として与えるのは《偽剣カリバーン》だろうと。充分に協力ではあるが、聖剣には全く届かない剣を。

 

「しかしスリュムは一つの過ちを犯しました。眷属を滅ぼすことを焦るあまり、配下のほとんどを妖精達に協力させるために地上へ降ろしたのです。スリュムヘイムは今、かつてないほどに護りが薄くなっています」

 

 ここまで来れば、ウルズからの請願を全員が悟った。そしてウルズは空中ダンジョン─スリュムヘイムに腕を差し伸べ、言った。

 

「妖精達よ、スリュムヘイムへと侵入し、エクスキャリバーを《要の台座》より引き抜いてください」

 

 それは彼女達の願いであり、依頼であり、女王からの命令であった。




ここまで見ていただきありがとうございました。誤字脱字・可笑しな表現がありましたらご報告お願いします。
 また質問があったら活動報告にて質問箱を用意してありますので、そちらまでお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。