転生して主人公の姉になりました。SAO編   作:フリーメア

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 執筆速度遅すぎてちょっと自分が嫌になる。辞めることはしないけど

 それはそれとして、今回の話ですが、好みがハッキリと分かれそう。ただでさえ普通に投稿してて、お気に入り解除されるのに。今回でどれだけ減るのやら。


決戦

─真正面から予測線が見えたので、即座に右へ。その数舜後、顔のすぐ左を弾丸が通り過ぎていく。スナイパーライフルの弾丸を弾くことは、流石にしない。

 使用しているナイフは、GGO内で取得できる素材の中で最高級の金属で作られている。弾丸にあたっても壊れることは無いだろうが、自分のSTR値で弾けるかどうかが問題だ。故に回避する。

 ザザ()は既に目視出来る範囲にいる。放たれた弾丸を回避し、更に距離を詰めていく。そして残り百Mを切った時、おもむろに奴は《サイレント・アサシン》の銃身から何かを引き抜いた。

 細い金属棒だ。ぱっと見はクリーニング・ロッド、銃のメンテナンスツールに見える。だが、ここまで来て攻撃力の持たない物を、奴が出すだろうか。

 

(…そんなわけがない)

 

 警戒はしつつ足は止めない。そうして後り数歩で接触できる距離まで近づいたとき、奴はその手に持ったモノをこちらに突き出してきた。

 ガツン!と重い金属音が鳴り響いた。突き出された瞬間にアレンは交差させたナイフの腹で受け止めたのだ。だがそれも一瞬だけ、踏ん張っていなかったので後ろに弾き飛ばされる。

 が、すぐに着地した足で砂を踏みしめて、ザザに突貫する。両手に持ったナイフで不規則に斬りつけるが、かすりはするものの、致命傷には至らない。流石は《SAO生還者(サバイバー)》といったところか。

 何度目かの攻め合いの末、鍔迫り合いの状態となった。今度は踏みしめているので、飛ばされることは無い。

 

「…何でシノンを狙う?」

 

 その状態でアレンは気になっていたことを聞く。これだけは実行犯に聞かなければわからないことだからだ。

 それを聞いたザザは、笑みを零す。

 

「それを、聞いて、どうする?」

「お前には、何も、できない」

生還者(サバイバー)ですら、無いお前に、俺を止めることなど、できない」

「お前はここで、あの女が殺されるのを、無様に、見ていろ!」

 

 腹を蹴られ、距離を開けられる。着地して顔を上げれば、すぐそこにザザがその手に持ったモノ─刺剣(エストック)を引き絞っていた。突き出されたエストックを右のナイフで弾き、その勢いで先ほどの仕返しと言わんばかりに左足で後ろ回し蹴りを放つ。が、それは容易く回避されてしまう。

 

(…少し侮っていたか)

 

 こいつが生還者だということも、殺人者だということも、全てキリハから聞いていた。そのうえでなお、アレンは《ザザ》というPLを侮っていたことを自覚した。

 これまでアレンにとっての強者とは、コウしかいなかった。故にと言うべきか、無自覚の内にこの世界で自分と渡りあえる者はいないと思っていたようだ。この癖は直さなければならないなと思っていると、目の前でザザが口を開く。

 

「余計なことを、考えている、場合か」

 

 ノーモーションで突き出されたエストックを半歩体をずらして回避、左足で砂を巻き上げるように蹴り上げた。目つぶしも兼ねたそれは体を仰け反らせて回避され、再び両者の間に距離が開いた。

 

(…ギアを上げるか)

 

 視線を奴に向ければ、ゆらゆらと得物を揺らしている。小さく息を吐いて、軽く両手のナイフを握り直すと─砂を蹴り、真正面から突っ込んだ。

 

--------------

 

 振られた毒ナイフをジョニーの手ごと掴んで防ぎ、そのまま腹に蹴りを入れる。「ぐっ」と声を上げながら体をくの字に曲げて、数Mだけ距離が開いた。

 

「あああうっぜぇなぁ!?さっさと殺されとけよ!」

 

 ジョニーはそう癇癪を起こしながら、毒ナイフを振るってきた。解毒剤を持ち込むことができないBOBでヴェノムを喰らうわけにはいかないので少し身をよじって躱し、グロックを撃つ。それは易々と回避され、彼もまたアサルトを乱射してきたので、それらを光剣で出来うる限り弾く。

 ナイフの扱いは流石、というべきだろう。しかし銃の扱い方がなっていないと、コウは評価を下す。それらを総合的に考えた結果─

 

「思っていたよりも弱いね…」

 

 ポロっと、本音が零れてしまったようにそう発すると、喚いていたジョニーがピタリと動きを止める。

 

「…あ?今なんつった?」

 

 次いで、目を吊り上げ、怒気と殺意が混じった声でそう聞いてきた。それに対しコウは…。

 

「ん?思っていたよりも弱い、と言ったんだけど…。聞こえてしまっていたかい?」

 

 首を傾げ、笑みを浮かべてそう言い放った。ついでに、仕方ない子だなぁ、というような哀れみを視線に込めて。

 天然でなく、勿論わざとだ。挑発の意味を込めている。

 基本、普段から冷静さを身に着けていない者は、挑発を受けると更に調子が狂う傾向にある。故に明らかとわかるほどの挑発をしたのだが。

 

(…静かだな)

 

 先程と同じ、もしくはあれ以上に喚き散らして突貫してくると思っていたのだが…。想定していたことと違い、彼は先程までが嘘のように黙ってしまった。

 

(これは…余計なことをしたかな)

 

 その思考を裏付けるように、ジョニーはいつの間に出したのか、毒ガスグレネードを投げて来た。風下に行かないよう大きく回避する─と、目の前にジョニーの顔があった。

 

「っ」

 

「殺す」

 

 静かに、それでいて確かな殺意を込めて、斬りつけてくる。どうやら《ジョニー・ブラック》というPLは、怒りが最高点に達すると、普段とは逆に静かになるタイプのようだ。攻撃の熾烈さが増している。確実に余計なことをしてしまった。とはいえ─

 

(─()()()()で負ける僕じゃないけどね)

 

--------------

 

「ハハハ!!」

 

「っ!!」

 

 一人の男の笑い声、バチバチっという電撃音、二種類の銃声、砂の舞い散る音、それらが重なり合い、夜の砂漠に響き渡る。絶えず場所が入れ替わり、その度に砂が舞う。

 

「おいおい鈍ったか!?キリハよぉ!!」

 

「黙りなさい…!」

 

 現在、優生なのはPoHだ。キリハはいまいち攻め切れておらず、それこそPoHに鈍ったと思われても仕方ないほどの動きだった。そんなことは、キリハ自身もわかっている。だが、その根本的な原因が分からない。

 

(どうなっているんですか…!?)

 

 思考が鈍る、鼓動が早い、息が荒い、体を思うように動かせない、落ち着かない─否、()()()()()()()()()

 予選でもこうだった。弾丸を放ち、放たれ、それを斬るために光剣を振るう。

 その度に気持ちが高ぶっていき、体に熱がこもっていく。思考が鈍り始め、ナニカを思い出すように頭痛がする。

 今まで戦闘中に、このようなことになったことが無い。闘いならばただ楽しみ、殺し合いならば殺意を込める、そのどちらかだった。これではまるで、()()()のようでは─待て。あいつとは、いったい誰のことを言っている?

 自分でも誰のことを指しているかわからないまま、思考は回る。

 浩一郎、佳奈、明日加、直葉、父、母…。違う、誰もこのような状態にはならない─

 

【─おいおい、そこまで考えられて思い出せねぇのかよ?】

 

 そう声が聞こえると、突如として視界全てが黒く染まった。周囲を見渡しても何も見えない。手には何も持ってなく、先ほどまで戦っていたPoHの気配までもが無い。

 そして気づく。今の自分の手はGGOアバターのものではなく、現実のものだと。いやそれだけではない。現実と同じように、左目が見えていない。

 

(ここは…いったい…)

 

【おっと、それ以上はまだ考えなくていいぜ】

 

(!?)

 

 背後から聞こえた声に振り向いたが、何も見えない。否、声の主のものであろう手で視界を塞がれた。振りほどこうとするも、何故か体が動かない。

 

【奴の繰り返しじゃねぇが、戦闘が雑だぜ?あんなんじゃ勝てねぇだろうよ】

 

 この声は、キリハ(和葉)のものだ。だが、こいつは自分ではない。目の前のこいつは誰だ。そう思うと同時に、懐かしくも感じるのは何故だ。

 そう困惑している和葉をよそに、こいつは言葉を続ける。

 

【まぁいい、()()()()()俺がお前に変わって奴の相手してやるよ。しばらく眠ってな】

 

「待っ」

 

 聞きたいことが山ほどあるのに、思考がどんどんと落ちていく。

 

【おーおー、そうだよな。聞きたいことあるよな?】

 

 だがまぁ、と声の主は続ける。

 

【全部終わってお前が()()()()()教えてやるよ─】

 

─おやすみ。

 その言葉を最後に、今度こそ和葉の思考は闇に落ちた。

 

 

 

 

「くははっ!」

 

「!?」

 

 一瞬キリハが顔を俯かせたと思ったら、楽し気な声を上げて光剣を斬り上げてきた。それにPoHは驚愕しつつ、仰け反って回避する。そして左手に持ったハンドガンを撃とうとして、振り下げられる光剣に気づいた。無理やり体を捻るようにしてその場を離れる。

 

「流石に反応早ぇなぁ」

 

 左手に光剣を持ち、獰猛な笑みを浮かべながらそう言った。「ならこれはどうだ」とそのまま一歩踏み込むと、PoHの視界から砂煙を残して消える。PoHはそれを知っているかのように、右回りで背後に光剣を振るった。

 SAO時代でも、キリハはこの移動法をよく使用していた。故に、その移動法をPoHが知らないわけがなかった。

 

「うおっ!」

 

 バチィっと光剣同士のぶつかりで激しく火花が舞った。動きが止まったその隙を逃さず、PoHは弾丸を放つ。それを回避することは出来ず、腹に二発喰らった。

 

「づっ…─くはっ!」

 

 一瞬だけ顔を歪めたが、すぐさま笑みを浮かべラッシュを仕掛ける。それらを全て捌きながら、PoHもまた嗤った。

 

「アハハハ!!やっとノッテきたなぁ!!?」

 

「くはは!こんなこと、楽しまなきゃあ損だろうよ!」

 

 銃声、電撃音、足音、それらに笑い声が一つ加わった。




 あと二話でGGO篇終わらせます。

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