転生して主人公の姉になりました。SAO編   作:フリーメア

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 はぁい凡そ3ヶ月お待たせしましたぁ。筆がのらなくてですね…(言い訳)

 それと以前、和葉を書いてくれた友達がまたまた描いてくれましたので載せさせて貰います。いや、ほんとありがとう

【挿絵表示】



過去

 シノンが泣き始めてから、十数分ほど経っただろうか。涙が枯れ、シノンは強い虚脱感と共に体の力を抜き、アレンの体に全身の重みを委ねた。

 

「少し…こうさせて…」

 

 そう言ってシノンは、アレンの膝に頭を乗せる。泣き顔を彼に見せたくなくて洞窟の入り口側に顔を向けるが、そちらにはキリハとコウがいた。すっかり二人の存在を忘れていたことを思い出して、二人にも顔を見られないようにして─結果アレンの腹に顔を埋めるような状態になった。

 

「いやぁ…うん、なんか、外に出てれば良かったね?」

 

 コウが、恐らく苦笑しながらそう言ってくるが、何も言わないで欲しかった。泣いた姿を見られて恥ずかしいやら情けないやらで火を噴きそうだ。アレンが背中をポンポンと優しく叩いてくれるのが救いである。

 少しづつ落ち着いてくると、頭がぼんやりしてくる。思考停止とはまた違う、心が軽くなったような浮遊感があった。

 

「私ね…人を殺したの」

 

 そのせいか、自分から話すことはしないだろうと思っていたことを、いつの間にか口に出していた。一瞬アレンの手が止まり、キリハとコウが外に出ようとしたが、その前に話を続ける。アレンには勿論だが、この二人にも自分を…シノン(詩乃)を知ってほしくなったから。

 ゲームの中では無く、現実世界で人を殺したこと。五年前、小さな町の郵便局で強盗事件が起こったこと。ニュースでは局員が一人撃たれ、仲間割れで全員が死んだことになっていること。だが実際は違うこと。

 

「三人いた強盗のうち、一人は私が撃ち殺したの。強盗の拳銃を奪ってね…」

 

 他の二人に関しては言わない。彼女らだって、自分の知らないところで、殺人をしたことを知られるのは嫌だろう。そう思ったから、口にしなかった。

 シノンの独白を、三人は静かに聞いてくれる。誰の顔も見ていないが、恐らく軽蔑の類の表情はしていないだろう。今まで、そういう視線を受けてきたから、分かる。黙って聞いてくれることに感謝しながら、話を続ける。

 

「当時は十一歳だったんだけど…もしかしたら子供だったからそんなことが出来たのかもしれないわね…。もちろん、無傷じゃなかった。歯は折れたし両手首も捻挫して、背中は打撲して肩は脱臼したわ」

 

 それはそうだろう、とアレンは内心頷く。銃の種類は分からないが、小口径のハンドガンだとしても十一歳の少女が撃つには衝撃が強いはずだ。逆に強盗が目の前にいて、それだけでの怪我で済んで─そこまで思ってハッとする。

 

「…もしかして」

 

「そう、この時の私は…体の傷だけじゃなくて、心にも傷を負った」

 

 シノンが銃をトラウマとなった原因、それがこの事件だったわけだ。アレンは深く納得した。普通の日常を送っていた子供の目の前に人殺しの道具が突如として現れて、更に自分で人を撃ち殺した。そんな経験をして、トラウマにならない方が不思議だ。

 現実では銃を見ると、今でも発作を起こしてしまうことをシノンが話すと、コウとキリハは驚いたように目を見開いた。それもそうだ、コウですら自分達と知り合ったのは、シノンがこの世界で銃を見ても平気になってからだ。この世界ではトラウマは発症せず、それどころかいくつかの銃を…好きになることすら出来た。ヘカートは、その中の一つ…いや、一番好きな銃だ。

 故に思った、思ってしまった。この世界で頂点に立つことが出来れば、現実でも強くなれる、あの記憶を乗り越えることが出来るかもしれないと。だが、その思いは無駄だった。

 

死銃(デス・ガン)に襲われたとき、発作が起きそうになって…いつのまにか《シノン》じゃなくなって…現実の私になってた…」

 

 だから戦わなければならない。否、勝たなければならない。勝たなければ─《氷の狙撃手シノン》はいなくなってしまう。

 死銃(デス・ガン)と、あの記憶と戦わず逃げてしまえば、自分は前よりも弱くなってしまうだろう。それは、それだけは─

 

─パァン─

 

 空気が破裂するような音に、シノンは思考を止める。音の発生源に目を向ければ、キリハが両手を合わせて笑みを浮かべていた。

 

「辛いことを話してくれてありがとうございます、シノンさん。代わりと言っては何ですが、僕と死銃(デス・ガン)に関係することを一つ」

 

 お話しましょうと言って、笑みを消し、続ける。

 

「─僕と死銃(デス・ガン)は、SAO生還者(サバイバー)です」

 

 その言葉に、シノンとアレンは目を見開いた。コウだけが、なんの反応もしなかった。

 SAO、正式名称『ソードアート・オンライン』。それは三年前にサービスを開始し─ゲーム内での死亡は現実での死を意味するデスゲームと化したもの。クリアされたのは去年、死者はおよそ三千人。そして生き残った七千人がSAO生還者(サバイバー)と呼ばれている。

 キリハと死銃(デス・ガン)、そのうちの一人という。

 

死銃(デス・ガン)は《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》というレッドギルドに所属していました。SAO内で犯罪を犯したプレーヤーはカーソルがオレンジになります」

 

 そのことから犯罪PLを《オレンジプレーヤー》、犯罪ギルドを《オレンジギルド》と呼んでいたという。そして、その中でも、積極的に殺人を楽しんだPLを《レッドプレーヤー》と呼んでいた。

 そこまでキリハが説明すると、シノンは「ちょ、ちょっとまって!」と叫んだ。

 

「殺人って…でも、SAOの中で死んだら…」

 

 シノンの言葉にキリハは頷き、「だからこそ、でしょうか」と続ける。

 

「一部のプレーヤーにとって、殺人という行為は最大の快楽でした。そしてラフィン・コフィンはそういう集団でした」

 

 金とアイテムを奪っては、容赦なく殺す集団だと。SAO内で死亡した三千人のうち、少なくとも三百人が殺されたと。

 当然、厳重に警戒はしたという。それでも奴らは次々と新しい手口を生み出しては犠牲者を増やしていった。故に─大規模な討伐パーティーが組まれた。

 

「僕もそこに加わりました。討伐といっても、無力化して牢屋(ジェイル)に送る手筈でした」

 

 今まで必死になって探して、リークされたことによって漸く見つけられた奴らのアジト。戦力的にも高レベルのPLを揃え、夜更けに急襲した。

 

「しかし、情報が漏れていたのか、リークされたことが罠だったのかは知りませんが、奴らは待ち構えていました」

 

 故に混戦になった。幸いだったのは、集まったメンバーらは修羅場に慣れていたことだ。すぐに立て直すことが出来た。キリハが相手取ったのは、ラフコフのリーダーである『PoH』。マルチリンガルで、圧倒的なカリスマを持って、殺人集団をまとめ上げた張本人。

 PoHとの戦闘中、ラフコフのメンバーが三人乱入してきて─

 

「─僕は、その三人を殺しました」

 

 もう、その三人の顔と名前を憶えていない。正確に言えば、名前はそもそも知らない。そのことを、総督府で死銃(デス・ガン)に会うまで忘れていたと。

 そして、その乱入者らのせいで、PoHを取り逃がしてしまった…。キリハはそう締めくくった。

 

「じゃあ死銃(デス・ガン)はその…」

 

「いいえ、PoHではありません。《赤眼のザザ》、SAOではそう言われていました」

 

 その言葉を最後に、沈黙が下りる。コウが静かにキリハを引き寄せ、それに逆らわず頭をコウの肩に置いた。

 シノンは、何も言うことが出来なかった。キリハがSAOのPLだったこと。そこで命を賭けた戦いの日々を二年間もしてきたこと。どれも想像すらしなかったからだ。だが、納得はすることが出来た。強さの理由の一端が判明したから。

 

「キリハ、一つだけ聞かせて…。あなたは、どうやってその記憶を乗り越えたの…?なんで、そんなに強くなれるの…?」

 

 そう考えた故に、配慮のない質問をしてしまった。自分の罪を吐露した相手に、なんてことを訊くのだと自分でも思う。だが、どうしても知りたかった。『忘れていた』と言うが、シノンはそれすらも出来なかったのだから。

 シノンのその問いに、キリハはキョトンとした表情になり、口を開く。

 

「乗り越えてなんかいません」

 

「え…」

 

 シノンは唖然とした。ではどうやって、そこまで強く─。

 

「後悔をしていない、と言ったら噓になりますが、あの時は殺さなければ僕が殺されていましたから」

 

 今考えれば、手足を切り落とすだけでも良かったかもしれませんが。そうキリハは続けた。

 

「過去を消すことは出来ません。ならばせめて、自分のしたことの意味を考え続けます。それが償いと言うつもりはありませんが、そうすることで多少なり自分を許すことは出来ると思います」

 

 誰かに許してもらうのではなく、自分で自分を許す。キリハはそう言うが、自分には出来そうもない。結局は、自分で解決策を考えるしかないということか。それでもキリハの話は、一つだけシノンの迷いを解いたかもしれない。

 そしてコウが手を二回叩き、注目を集めた。

 

「さて、じゃあ死銃(デス・ガン)と、その仲間について考えようか」

 

 と言われても、何を考えればいいのか。シノンがそう思っていると、アレンが口を開く。

 

「…死銃(デス・ガン)に殺された人達…死因、心不全って言った」

 

 えぇ、とアレンの言葉にキリハが頷いたのを確認して、言葉を続ける。

 

「…心不全になった…その理由は?」

 

「それが不明なんですよねぇ」

 

「まぁ今時珍しくないからね。廃人ゲーマーが栄養失調で亡くなるなんて」

 

 ふぅとキリハは憂鬱そうに溜息を吐くと、コウが補足を加えた。

 

「コウの言った通りというのと、死んでから時間が経っていたせいで詳しく解剖されなかったんですよ」

 

 現状キリハが分かっていることは、殺すためのトリガーはあの銃で撃ち抜くこと。ゼクシードも薄塩たらこも(ペイルライダーは分からないが)都内にいて、一人暮らしだったこと。この二点だけで、殺害方法などは不明のまま。

 

「…変なことを聞くけど、何か呪いとか、そういうので殺したってことは…?」

 

 笑われるかもしれないと思いながら、そうシノンが問うと、キリハは笑うことはせずに「それは無いでしょうね」と即答した。

 

「非科学的ですし、何より、そのような力を持っているのなら鉄橋でダインさんを殺していたでしょう。死銃(デス・ガン)には現実でも動いている協力者がいると考えるのが妥当でしょうね」

 

「協力者…?」

 

 シノンの呟きにキリハは頷く。

 

「考えられるのは、ゲーム内で死銃(デス・ガン)が銃を撃ち、それと同時に何らかの手段で現実で殺害…でしょうか」

 

「どうやってプレーヤーの住所を特定したのか、殺害方法は何なのか、結局それらが不明なんだけどね」

 

 コウがそう言うと、キリハはキョトンとした顔になった。

 

「いえ、住所を特定した方は分かっていますよ?」

 

「「え?」」

 

 コウとシノンが思わずそう声をこぼすと、キリハはなぜ気づかなかったのかと言わんばかりの顔をして説明を始める。

 

「総督府で参加登録をするときに、リアルで商品を受け取るために住所を入力する欄があったじゃないですか。それを見たんでしょう」

 

「…それは無理」

 

 アレンの言う通り、それは不可能だ。総督府の端末には遠近エフェクトがかかっており、離れていると見えなくなる仕組みになっている。仮に見える場所まで近づいたとしても、気づかないとおかしい。

 そう指摘するアレンに、キリハは頷く。

 

「えぇ、アレンさんの言う通り。見ることは不可能でしょう…普通に考えるならば」

 

 含みがあるその言い方に全員が首を傾げる。が、すぐにコウは何かを思い出したように「あっ」と声を出す。

 

「コウには話したことありましたね。エフェクトがかかっていても、何か、鏡や双眼鏡を通せば見ることが出来るんですよ」

 

 だがそれでも、そんなものを使っているPLがいたら、誰かしらが追放するだろう。荒い者が多くても、そこら辺のモラルはある程度しっかりしている。

 

「今、僕が話しているには全て仮定です。だから、これももしも、の話です。もし、あの透明になれる能力が街中でも使えるとしたら?そのうえでアイテムを使い、端末を盗み見したのだとしたら?」

 

 その言葉で三人は驚愕に目を見開き、嫌な沈黙が場を支配した─




 ブツ切りしてしまったが、いつものことだな!(白目)


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